特車二課ではいつでも出動可能なように常に準備を整えている。
常に必ず一組の編成部隊が宿直室に待機しているのだ。
そして出動を知らせるサイレンが鳴り響けば一番乗りで現場に直行、簡単ならばすぐに片づけて
難しければ応援が来るまで食い止める。
それが特車二課のレイバー乗りたちの基本なのであった。
「はぁ〜、今日は暇だよな」
一号機指揮者の相沢祐一は宿直室でテレビを暇そうに見ながらそうつぶやいた。
すると一号機キャリア担当の美坂栞はうんうんと頷いた。
「たしかに今日は暇でしたね。出動も書類整理も草刈りもなかったですから」
「く〜、私もう眠いよ〜」
一号機パイロットの水瀬名雪の言葉に祐一と栞は溜息をついた。
すでに時間は午後9時をとっくに回っている。
たしかにいつもの名雪ならばすでにすてきな夢を見ている時間である。
しかし昼間に仮眠をたっぷり取っているのだ。
だから今日は大丈夫と思っていたのにこの体たらくである。
なぜ名雪が警察官に、それも激務で知られる特車二課に配属されたのか?
名雪のレイバーの腕前を知っていてもちょっとそうそう納得できない二人なのであった。
だがそんな宿直室でののんびりとした会話は長くは続かなかった。
二課構内のあちこちに据えられているスピーカーからサイレンの音が鳴り響いたのだ。
その音に祐一と栞は飛び起きた。
無論名雪も飛び上がった。
しかし名雪はさっきまでのように非常に眠そうな目つきのまま。
立ったまま寝ているとしか思えない状態である。。それでも名雪は必死に第二小隊オフィスへと駆け込む。
するとその道中では整備員たちが一号機が出動できるように準備しているところなのであった。
「おまたせしました!!」
オフィスへ飛び込むとそこにはすでに第二小隊隊長の秋子さんが待っていた。
その手には現場から送られてきたばかりの写真があった。
どうやらこの写真で目標であるレイバーの機種を特定しようとしていたらしい。
しかし極めて不鮮明な写真なので一体どんなレイバーなのか分からない。
そして秋子さんは写真を祐一に手渡すと尋ねてきた。
「このレイバー、見たことがないんだけど知らないかしら?」
だがあいにくと祐一にもその機体を判別することは出来なかった。
なんせ画像が極めて荒いため、どっちが上でどっちが下なのか皆目見当も付かないのだから。
そんな祐一の様子を見た秋子さんは微笑むと三人に命じた。
「それでは当直中の三人は即座に出動、目標を取り押さえなさい!!」
深夜の道路を指揮車とキャリアが突き進む。
やがて事件現場へと到着した。
そこでは一台の所属不明レイバーが家屋や公共施設を破壊して回っていたのである。
「どうやら目標は地球防衛軍らしいぞ」
祐一は現場を封鎖していた警察官から目撃者情報を聞き出したのでコクピットの中にいる名雪にそう言った。
するとコクピットの中から安らかな寝息が聞こえてきた。
『ク〜 ク〜』
「おい名雪!!任務中に寝るな!!」
祐一がそう叫ぶとコクピットから返事が返ってきた。
『冗談だよ〜。いくら何でも出動中に寝たりなんかしないよ〜』
「…どうだか」
祐一はぼそりとつぶやくと栞に命じた。
「ケロピーを起動させてくれ。犯人を制圧するぞ」
すると栞はニッコリ微笑んで頷いた。
「分かりました祐一さん。それでは起動しますね。」
そんなやりとりから一時間ほど前にさかのぼる。
夜の公園で舞からレイバーの起動ディスクを受け取ったテロリストAは早速レイバーを起動させた。
そしてそのまま立ち上がらせる、とまもなく即座に転んだ。
その際、その巨体の下敷きになって公園のトイレが崩壊してしまった。
これが今回のテロ行為の最初の戦果だ(笑)。
『おい!! 何をやっているんだ。転けているぞ!!』
相棒のテロリストBの言葉にAは反論した。
「やかましい!! レイバー歴三年八ヶ月の俺が転ぶ分けないだろ!!
ボディプレスの調子を確認していたんだ!!」
その言葉を聞いたBは手をパタパタと振ると心の中で大きな溜息をついた。
(何ごまかしているんだ、あいつは。だれがどう見ても転んでいるのに……)
無論テロリストAにも言い分があった。
確かに彼はレイバー歴三年八ヶ月であった。
しかしそれはあくまでもKey規格(日本規格であると同時に世界的規格でもある)の事。
今回用意された機体は独自の企画で市場に進出してきたシャフトエンタープライズ社製なのだ。
だから勝手が違いすぎてよく分からないのである。
しかも今回の件で使用しているレイバーは海外から直接持ち込まれた物であるために表示も日本語ではない。
それゆえに慣れない機体ということもあって美味く操作することが出来ないのであった。
「え〜っとこれがフットペダルでこれが…姿勢制御か……」
テロリストAは公園を出ると実地で練習しながら何とかレイバーの操縦の仕方を身につけていった。
それと同時にコクピット内のシステム把握もだ。
そのうちに彼はあるとんでもない表示をディスプレイの中に見つけた。
「Fire Contorol…火器管制ってこいつ軍用か!?」
今まで彼と縁があったレイバーには100%ありえない表示に彼は心底たまげた。
そしてその驚きのあまりレイバーの操作を誤り、再び転んでしまった。
そしてそのままでかくて立派な民家を壊してしまう。
その頼りない様子にテロリストBは思わず叫んだ。
「おい、これで二度目だぞ!! 本当に大丈夫なのか?」
すると負けず嫌いで強情なテロリストAは叫んだ。
「大丈夫に決まっているだろ!! 俺はただブルジョア階級の奴の家をぶっ壊してやっただけだ!!」
(…そういう言い訳をするのか……)
テロリストBはそうは思ったものの口には出さずに大声で叫んだ。
「これからどうするつもりなんだ!? それほどたいそうな目標はないぞ」
するとテロリストAはちょっとだけ考え込んだ後、大きな声で叫んだ。
「とりあえず一番近い警察署を襲うぞ!! そして我らの正義の鉄槌を天に代わって下してやるのだ!!」
そういうわけで彼らは何処にあるのか全然分からない警察署を目指して進撃を開始。
道中にあった公共施設を片っ端から破壊していった。
やがて彼ら二人の目の前に、白と黒のツートンカラーの趣味的なレイバーが姿を現した。
警視庁特車二課が誇る警察用レイバー「Kanon」だ。
と彼らに向かって何とも気の抜けた勧告が響いてきた。
『そこのレイバー、機体を停止してパイロットは速やかに投降するんだよ〜。さもないと酷いよ〜』
むろんこんなポワ〜ンとした声による勧告で諦めるような彼らではない。
その時、コックピット内にいたテロリストAから携帯電話で連絡が入った。
『…警察のお出ましだから頑張って』
それに対してテロリストAは半分びびりつつ、しかし虚勢を張って電話に向かって叫んだ。
「何だ、お前か。ところでこいつでKanonと渡り合えるんだろうな? 俺らは捕まる気はないぞ!!」
『…ブロッケンの方がパワーと装甲は上。だからパイロットの腕前次第』
こうまで言われてしまっては自信がないとかはとても言えない。
テロリストAはブロッケンをKanonに相対させた。
そして二機はお互いににらみ合いを始めたのであった。
あとがき
いよいよブロッケン編完全突入です。
後どれくらいかかるかな?
そんなに長くするつもりはないけど・・・。
2001.07.01