「何かここって変だよね」
廃ビルで実験および訓練を開始して三日目。
機体のチェックをしていた名雪はすぐ側にいた祐一にそう声を掛けた。
すると祐一は聞き返した。
「変って一体何が?」
すると名雪はちょっと考え込み、そして言った。
「う〜んとね、何かすんでいるみたい」
「まさか。まあ確かに前までは浮浪者当たりが住み着いていたらしいが……」
「 違うよ。そっちの住んでいるじゃなくてナニかが棲んでいるだよ」
「確かにここの由来を聞けばそう言う気分にもなるわよ。」
真琴の言葉に名雪は首を傾げた。
「あれ? 何かそういう由来話があったの?」
「何だ、知らないで言っていたんだ。それじゃあ私が教えてあげるわよ」
真琴は偉そうにそう言ったがそこへ栞が口を挟んできた。
「真琴さん。それって私がさっき教えてあげた話じゃないですか!!」
「あう〜っ、ばれちゃった〜」
そこで栞が名雪とそばで黙って聞いていた祐一とあゆ・そして秋子さんにも説明し始めた。
「実はですね」
栞は低い声で説明し始めた。
ちなみに怖い話が苦手なあゆは早くも不安そうな表情を浮かべているが誰も気にとめていない。
「実はですね、買い出しの時近所の人に聞いたんですがここ、昔から出るって有名だったらしいですよ」
栞の言葉に祐一・名雪は興味津々、すでに一度話を聞いた真琴もそれなりに目を輝かせている。
「ここのフェンスが立つ前の話なんですがパトロール中の警察官が深夜中庭で多数の人影を見たそうです。
それで映画の撮影じゃないか、って目を凝らしてみてみたら……足がない」
「…それ私の見たのとは違うわね。」
秋子さんがぽろっと漏らしたその一言にあゆを除く四人は秋子さんに詰め寄った。
「何か見たんですか!? 見たんですね!!」」
「お母さんだけずるいよ〜」
「あう〜っ、真琴も見てみたい……」
「私も話だけでなくて実物を見てみたいです」
「…ここのビルは調べてみると昔から酷い目にけっこうあっているんですよ。
最近ですと東京湾中部沖大地震でも死傷者が多数出ていまして。
そして第二次世界大戦中には空襲の際に爆弾の直撃を受けて……。
今、中庭みたいになっているあそこにあった分館が吹き飛んでいるんです。さらには関東大震災でも…」
「うぐぅ〜!! こ、こわいよ〜!!」
あゆは話が聞こえないように耳をしっかり押さえるとしゃがみ込んだ。
思いっきり怯えている。
しかし祐一と名雪、そして二度目の真琴は何でもなかった。
「話し続けてよ」
名雪に促された栞は頷くと話を続けた。
「それでさらにさかのぼって江戸時代の話なんですがここは昔、樋上藩の江戸屋敷があったそうなんです。
が…そこで藩主の某いたるが突然乱心、家臣たちを次々と手討ちにする事件が……」
「呪われているんじゃないか、この場所は?」
祐一の言葉に名雪・真琴・栞はうんうんと頷いた。
その時、美汐が六人に近づいてきた。
美汐はちょっと怒っているらしい。
そして祐一たちの元へと来ると美汐は叫んだ。
「あなた達!! くだらない怪談話はやめて仕事をしなさい!!」
それに対して祐一は反論した。
「別に良いじゃないか。だいたいここに来てからKanonの調子がおかしいのは確かなんだし」
実際、ここ廃ビルで訓練していると妙に故障が続発していたのだ。
だが美汐はそんな事はどうでもいい、とばかりに首を横に振ると嘆いた。
「お願いですからそんな与太話は辞めてちょうだい」
「で、でも美汐。真夏にこういう話をするのはお約束だし……」
「聞く耳持たないわ!!」
美汐はいつもの上品な仕草は何処へ行ったのやら、乱暴にずかずかと部屋を出ていった。
「相変わらずおもしろみのないやつだな」
祐一の言葉に名雪は反論した。
「確かにそうだけど怪談の現場で普通百物語はしないと思うけどね」
「別に良いじゃないか。こっちの方がおもしろい」
「それもそうですよね、祐一さん」
「うぐぅ、ボクはおもしろくなんかないよ〜!!」
「あのね!! 真琴他におもしろい話、知っているんだけど!!」
こうして百物語をしばらくの間、みんなで楽しんだのであった。
「うぐぅ!! ボク、楽しんでなんかいないよ!!」
あとがき
やっぱり後一話になりました。
というわけで次回で「幽霊話編」は終了、再びメインストーリーを展開させたいです。
2001.06.18