機動警察Kanon第053話

 

 

 

 祐一たちが帰るのを見送った真琴は美汐と共にそのままレイバーにシートをかぶせる。

実はちょっと雲行きが怪しいので雨が降るかもしれないからである。

 

 その時、真琴は背後に妙な気配を感じた。

とは言っても別に美汐とかあゆとか秋子さんというわけではない。

美汐は目の前にいるしあゆは夜食の買い出しに、秋子さんはビルの一室で書類をまとめているはずなのだ。

真琴は一気に振り返ると叫んだ。

「誰!? そこにいるのは!!」

しかし振り返った真琴の視線には何人たちとの姿も無かった。

ただむき出しのコンクリートの殺風景な光景が広がっているだけである。

そしてそんな真琴に不審がったのか美汐が尋ねてきた。

「一体どうしたのです? 突然大声を張り上げたりして」

「あうぅ〜。何か背後で気配を感じたから……」

真琴の言葉に美汐は微笑んだ。

「別に誰もいませんでしたよ。それよりも早くやってしまいましょう」

美汐に促されて真琴は再びシートかぶせを再開した。

無言のままとてつもなく大きなシートを必死になって被している。





 

 

 それはあと少しでシートが被し終わる、といった状況であった。

「…真琴ちゃん……」

背後から聞こえてきた突然の声に真琴は飛び上がった。

そして慌てて背後に振り返るとそこには…ビニール袋を手にしたあゆが立っていた。

 

 「真琴ちゃん!!

トンカツ弁当三個で売り切れだったから一個はフライの盛り合わせ弁当にしたけどどっちがいい?」

あゆの言葉に真琴は一瞬顔を赤らめ、そして叫んだ。

「肉まんはなかったの!?」

するとあゆは申し訳なさそうな顔をして言った。

「うぐぅ。ボクもたい焼き食べたかったから一緒に捜したけど夏だからお店に置いていないんだよ」

「ならトンカツ!!」

「私もトンカツにさせて貰いますね」

そこに美汐も入り込んできたので真琴の照れ隠しはここで終わった。

「うぐぅ。じゃあボクは……?」

「あゆはフライの盛り合わせ!! トンカツは秋子さんの!!」

「…うぐぅ、わかったよ……」

とりあえず誰がどれを食べるのか決まったので美汐は二人に提案した。

「それじゃあそろそろご飯にしましょう。隊長もお腹空かしていると思うし」

「「賛成!!」」

そこで三人はキャリア・指揮車を廃ビル一階のロビーに入れると階段を登り始めた。

 




 

 

 そのころ秋子さんは比較的状態の良い部屋を臨時に徴収しノート型パソコンで報告書をまとめていた。

その素早いキータッチは動いているはずの手が見えないくらいである。

とその素早いキータッチの手が止まった。

突然パソコンの液晶の画面がブラックアウトしたからである。

秋子さんは不思議そうに液晶ディスプレイをのぞき込んだ。

「あら? おかしいわね。バッテリーが切れたのかしら?」

だがすぐに画面は明るくなった。

とみるやたちまち『助けて!!』と血で染まったかのような真っ赤な字が画面いっぱいに広がる。

まるで猟奇映画の恐怖のワンシーンである。

だが秋子さんはやはり秋子さんだった。

まったく怯えた様子も動揺した素振りも見せないで強制終了させるべくパソコンのスイッチに手を伸ばした。

そして数秒間、押しっぱなしにする。

しかし画面は相変わらず『助けて!!』のエンドロールである。

「一体どうしたのかしら? 切るに切れないし困ったわね」

だがやっぱり秋子さんは困っているようには見えなかった。

しかしやがて画面は再び真っ暗になった。





 

 

 「今のは一体何だったのかしら?」

秋子さんは収まった怪現象に小首を傾げて考え込んだ。

さすがに何事に動じない秋子さんも今の怪現象には興味を持ったのであろう。

しかし詮索しているゆとりはなかった。

突然部屋の扉がキィーと音を立てて開いたのだ。

しかも廊下からはザッザッという足音まで響いてくる。

気になった秋子さんは廊下に出てみた。

するとそこには一人の男が立っていた。

 

 

 「どちらさまですか?」

秋子さんの問いかけに男は一切答えずに、手にしていた日本刀の鯉口を切ると音も立てずに引き抜いた。

そして鞘を床へと放り投げる。

だが鞘と床の間に一切音は発生しなかった……。

そしてそれと当時に旧帝国陸軍の将校の格好をした男は秋子さんに斬りかかって来る。

 

 しかし秋子さんは慌てなかった。

落ち着き払った様子で男の一撃目を見事な足裁きで避けた。

そして斬り返してきた第二撃目を秋子さんは見事に受け止めた。

伝説の真剣白刃取りだ!! すごいぞ、秋子さん!!

ていうのは置いておいて秋子さんは見事に日本刀を両手の平で押さえつけている。

男は必死になって刀の自由を取り戻そうとするがびくともしない。

それどころか秋子さんは手首をひねると見事に日本刀をへし折った。

その状況に慌てたのか男は折れた日本刀を構えたまま後ろに下がる。

そこで秋子さんは折れた刃を床に放り捨てると格闘戦の構えを見せた。

それは柔道や空手といったスポーツではない、相手を破壊することを前提とした体術の構えであった。

その気迫に完全に押されたのか男は何も出来ない、というか動けない。

 

 

 その時背後から複数の気配が近づいてくるのを秋子さんは察知した。

そして目の前の男を警戒しつつ、背後に視線をやった。

その時、背後から近づいてきた気配の者が口を開いた。

「あれ? 秋子さん、何やっているの?」

それは弁当の入ったビニール袋をぶら下げたあゆであった。

その後には真琴と美汐も続いている。

「…何をやっているの? って私が何しているのか見て分からない?」

秋子さんの言葉に三人は首を横に振った。

「うぐぅ、ボクには分からないよ〜」

「あう〜っ、真琴にも分からないよ〜!!」

「安心してください。私にも分かりません」

三人の言葉に秋子さんは視線を目の前にいるはずの男に向けた。

しかしそこには誰一人としていなかった。

それだけではなく秋子さんがへし折った刀の刃もそこには残されていなかった。

 

 

 「…やっぱり分からないかしら?」

緊張を解いた秋子さんは三人に言った。

すると三人はうんうんと頷いたので秋子さんはとりあえずごまかすことにした。

「実はね。この頃あまり体動かさなかったからちょっと運動しようと思って♪

夕食前にお腹をすかせておくのも良いかなと思ってね」

「あの…その夕食なんだけど……」

 

 というわけで四人は仲良く夕食のお弁当を平らげたのであった。

 

 

 

 

あとがき

 後一話で終わるかな?

このままだと後2話っていったところでしょうか?

まあ別に予定オーバーしていないし、したって別に構わないんだけどね。

 

 それとフレッツISDNの導入が6月26日に決まりました。

一応、水戸にもASDLだって有るんですが今は凄い間待たされるそうだし。

半年後か一年後を目処に切り替えたいですね♪

 

 

2001.06.17

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