サターンの初陣からはや一週間あまりが経過した。
その間、サターンは何度と無く出動し、その度に周りに損害を与えることなく犯人を取り押さえてきた。
その成果は極めてめざましく、警察上層部ではもはやサターンの採用は確実視されるようになってきた。
なんせ安いうえに現用のレイバーに比べれば性能が上だったからだ。
しかし特車二課、とくに運用している第一小隊の切れ者たちは皆その導入に慎重であった。
「美坂さん、状況はどうかしら?」
由起子さんは電算室の片隅で整備班長美坂香里にそう尋ねた。
すると香里は重々しい口を開いた。
「・・・やつら整備と称してサターンが蓄積したデータを持っていくだけです。
まったく整備なんかしない、サターンを任せている北川君の言葉ですが。」
香里の言葉を聞いた由起子さんと深山雪見巡査部長はお互いに顔を見合わせた後、頷いた。
「やはり嫌な予感はあたったようですね。」
「ええ、そうね。でも一体何でトヨハタオートはそんなに焦っているのかしら?
あそこはつい最近まで自動車メーカーの下請けだったはずなのだけれど。」
「・・・実は気になることがあるんです。」
由起子さんの言葉に雪見は言った。
すると由起子さん・香里の視線が雪見に集まった。
「一体何かしら?」
そこで雪見は話し始めた。
「実は調べたところ分かったんですがトヨハタオート、裏ではシャフトと繋がっているそうなんです。」
雪見の言葉に由起子さんは首を傾げた。
「それのどこが問題有るのかしら?後発のメーカーが大手と提携するのはよくあることだと思うけど。」
すると雪見は首を横に振った。
「・・・繋がっているどころの話ではないんです。
実はサターンの中身、その全てがシャフトで作られたものだという・・・、これは美坂班長もそうおっしゃっていましたね。」
「ええ、確かにそう言ったわ。」
香里は頷いた。
「つまりトヨハタオートはシャフトの隠れ蓑だと?」
「そういうことではないでしょうか?日本ではシャフト製品は全くと言っていいほど普及しませんから。」
「つまり今回の件、これはシャフトが日本市場に食い込むためにやったことだということ?」
由起子さんの言葉に雪見は頷いた。
「はい、一つはそうだと思います。シャフトもレイバー産業では後発ですからね。」
「たしかにそうよね。」
雪見の言葉に香里も頷いた。
「シャフトが日本企業に後れを取ったのはたがだか二三年のことだけどそれだけでシャフトの商品は売れなかったし。
なにより自社独自の規格のOSを一社で使い続けている、というのも影響が大きいそうよ。
おかげで既存のレイバーユーザーにはシャフト製品は売り込めないみたいだしね。」
「深山さん、貴方一つはって言ったわね。」
「はい、言いました。」
由起子さんの問いかけに雪見は力強く頷いた。
「それは一体どういう事なのかしら?」
そこで雪見はもう一つの調査結果を由起子さんに話し始めた。
「実はトヨハタオートの人間が一番多く来るのは射撃を行った後だと言うことです。」
雪見の言葉を聞いた香里はうんうんと頷き、由起子さんは溜息をついた。
「・・・それはもう確実ね。でもまた何で特車二課に?」
そこで雪見は軍事雑誌を買いまくり、読みあさって調査した結果を報告した。
「・・・実は軍用レイバーがもっとも活躍すると踏まれているのが市街地における戦闘なんです。
ジャングルのような視界の悪い密林や砂漠のような逆に視界を遮る物がまったく無いようなところではおそらく役立たずだという・・・。
つまりあらゆる状況下での市街戦をの実戦データを得るためには様々なレイバー犯罪に対応する我々がもっとも有効なモルモットなんです。
ですからシャフトはトヨハタオートを隠れ蓑に我々に有利な条件を持ち出して特車二課の得る実戦データを取ろうとしたのではないでしょうか。」
「それなら作業用レイバーでも活動データぐらいは手に入ると思うのだけれど。」
由起子さんは自分でもあまり信じていない事を言った。
すると今度は香里が言った。
「射撃を市街地でほとんど制約無く実施できるのは世界広しといえども特車二課だけです。
アメリカでもまだレイバー犯罪が多発するほどレイバーは普及していませんから。」
「・・・たしかにそうね・・・」
三人は黙り込んでしまった。
「・・・サターンの採用は止めた方が良いわね・・・」
由起子さんの言葉に雪見と香里は頷いた。
だがそんなことは可能なのだろうか?性能もまあ良くって安いサターンを不採用にすることなど。
雪見は由起子さんに尋ねてみた。
「そんなことは可能なのですか?」
すると由起子さんは力無く頭を振った。
「難しいわね。でも必ず何らかの手段はあるはずだから諦めずに頑張ってみるわ。」
「そうですね、私も頑張ってみます。」
雪見がそう言うと香里も頷いた。
今、ハンガーに立っている雪見の前には一台のレイバーが立っていた。
そのレイバーの名前はサターン。
特車二課のモラルを問う、そんな瀬戸際に追い込んだ張本人というか張レイバーなのであった。
「別にあんたが悪いんじゃないんだけどね・・・」
雪見は独り言をつぶやくと手すりに肘をもたれかけた。
そして「はぁ〜」と溜息をつく。
すると突然背後から声を掛けられた。
「あれ?雪ちゃん、溜息をついてどうしたの?」
親友の言葉に雪見は振り返った。
「ちょっと考え事をしていたのよ、みさき。」
「ふ〜ん。雪ちゃんも考え事することがあるんだね。」
みさきの言葉に雪見は額辺りに血管が浮き出たような感じがした。
「ふ〜ん、みさきは私が考え事しているのが変だと?」
するとみさきは慌てて手を横に振った。
「ち、違うよ。雪ちゃんていつも迷ったりしないような感じがするから・・・」
「・・・そう、ありがとう。」
雪見はそうつぶやくとまた溜息をついた。
二回続けての雪見の溜息にみさきは本当に心配といった口調で尋ねた。
「雪ちゃん、本当に大丈夫?何か凄い悩み事があるみたいだけど・・・」
「そうね・・・」
考えても考えても結論がまとまらない雪見はとりあえずみさきに話してみることにした。
「ねえみさき、あなたはこのレイバー、どう思っているの?」
雪見の言葉にみさきは首を傾げた。
「随分突然の話だね。え〜っと私はこの子、あまり好きじゃないな。なんだか刺々しいというかその・・・、上手く言えないんだけどね。」
「そう・・・、みさきは好きじゃないんだ・・・。」
何も知らないはずの親友が本質を着いた意見を言ったので雪見はちょっと驚き、そうつぶやいた。
するとみさきはあわてて今の言葉をうち消した。
「で、でもね雪ちゃん。雪ちゃんがこの子に乗れって言うんなら私は乗り続けるよ。
だって雪ちゃんのやることに間違いは無いし、私は信頼しているんだから。」
みさきの言葉を聞いて雪見は決意した。
自分のやるべき事を理解したからである。
「みさき、ありがとう。」
突然の雪見の言葉にみさきはキョトンとした。
「突然何なの?」
「良いのよ。ただお礼が言いたかっただけなんだから。」
雪見はニッコリ微笑むと隊長室へと向かったのであった。
あとがき
なんだか「機動警察Kanon」というタイトルがふさわしくない話ですね・・・。
まさかこれほどみさき&雪見が書きやすいとは思ってもいなかったです。
早く本編にもどれるよう頑張ろう。
P.S
ドリームキャスト版「Kanon」、プレイしました。
とりあえず名雪・栞・真琴をクリアしたんですが・・・・。
世間で言われているようにあの声はちょっと・・・。
今のところイメージピッタリなのは秋子さんだけですね。
2001.05.19
いつ頃からかは不明ですがこの049話、途中までしか文章がありませんでした。
幸い2002.06時のバックアップがあったので復旧できましたが… まことにすいませんでしたm( )m
2004.01.19
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