機動警察Kanon第046話





 
 
 
 正面玄関前には多くの特車二課隊員達が待ちかまえていた。

第一小隊・第二小隊・整備班、そして内勤の事務系の警察官たちまでが総動員されている。

彼らはみな、この度第一小隊が試験運用するSRX−70サターンの姿を少しでも早く見ようと集まったのである。

これは新型機が特車二課にやってくるたびに見られる光景なのであった。




 
 
 「いよいよサターンのお出ましか」

祐一は第二小隊のオフィスの窓から外を見下ろしながらつぶやいた。

眼下ではトヨハタオートの社章の入った大型キャリアが三台、ハンガーの前に横付けしているところである。

あと十分もすればハンガー内でデッキアップ、立ち上げに着手することであろう。

祐一が一人で渋めにきめているとそこに偶然あゆが通りかかった。

「うぐぅ、祐一くんこんなところで何をしているの?」

「…何だあゆあゆか。何でもない、ただハードボイルドにきめていただけだ」

「ボクあゆあゆじゃないよ〜。それよりハードボイルドって何?」

「お子さまには分からないことだ。それより行くぞ」

祐一はそう言うとハンガーへ歩き始めた。

その後をあゆが叫びながらパタパタと追いかけてくる。

「祐一くんひどいよ〜。ボクお子さまなんかじゃないのに〜!!」




 
 


 祐一とあゆの二人が第一小隊用ハンガーに入るとそこではもうすでに立ち上げが始まっていた。

三機のサターンには整備員たち、そしてトヨハタオートの社員たちがとりつき、機体の各種点検に追われている。

祐一はその様子が一番良く見えそうな所に移動しようとした。

すると川名みさき巡査部長・七瀬留美巡査・柚木詩子巡査の三名に出会った。

「おっす。こんな所にいて良いのかい、お三方」

祐一がそう声を掛けると三人は振り返った。

「あっ!! 相沢君だ〜!!」

「祐一ちゃん、元気にしてた?」

「何だ、相沢じゃない」

三者三様の返事の返り方に祐一は苦笑しながら言った。

「パイロットの三人がこんなところで油を売っていていいのか? 立ち上げしないといけないんだろ」

するとこの場では一番階級の高いみさきがニコニコ笑いながら言った。

「平気だよ。メーカーの人が立ち上げやってくれているんだもん」

みさきの言葉を聞いた祐一は感心したような声を上げた。

「何だ、今回は至れり尽くせりだな。俺たちの時は出動も迫っていたから焦って大変だったんだぜ」

「やっぱ日頃のおこないだよね〜、こういうのは♪」

「そうそう、やはりエリート部隊は扱いがちがうのよ」

第一小隊のどこがエリート部隊なのかは分からなかったが祐一は黙っておくことにした。

余計なことを言って自爆するのはしょっちゅうだったからである。

そこへ三人のパイロットたちを呼ぶ声が聞こえた。
 


 「あっ!呼ばれているよ。それじゃあね、祐一ちゃん♪」

三人は軽やかな足取りで立ち上げ作業しているサターンへと駆けていった。

そんな三人を見送った祐一は再びサターンに目をやった。

日本的ではない独特のフォルム、まるで西洋甲冑のようでかなりりりしい見た目である。

祐一はそんなサターンをじっくりと観察していた。

そこへ突然声が掛けられた。

「祐一〜、こんな所にいたんだ。探したよ」

祐一が振り返るとそこにはいつものようにのほほーんとした表情の名雪が立っていた。

「おう、名雪じゃないか。お前も見物か?」

「うん、そうだよ。」

名雪は朗らかな笑顔でそう頷いた。
 
 

 「ところで名雪、サターンの感想はどうだ。うらやましいか?」

祐一は熱心にサターンを見物している名雪に尋ねてみた。

すると名雪は頭を横に振った。

「うんん、私うらやましくなんかないなぁ〜」

意外な答えに祐一は思わず聞き返した。

「うらやましくない!? おろしたての新品、しかもあんなに格好良いのにか?」

すると名雪はつまらない物でも見るかのような表情を浮かべて頷いた。

「私なんかあの子好きになれないんだよ〜。なんか冷たいような感じがしてさ」

「ふ〜ん、真琴なんか思いっきりうらやましがっているだろうにな」

すると名雪は笑った。

「真琴、さっき秋子さんと由起子さんに交渉していたんだよ、私に銃を撃たせろ〜ってね♪」

「あの馬鹿……」

祐一は思わず頭を抱えた。

この間あれほど言ったのにこのざまだ。あとで美汐のお仕置き間違いあるまい。
 
 「それでどうなったんだ?」

祐一は真琴の交渉の結果を尋ねてみた。

すると名雪は苦笑した。

「お母さんに一秒で『却下』って言われてたよ。由起子さんにも丁重に断られていたしね」

「良かった……」

祐一はほっと胸をなで下ろした。

真琴に42mmオートカノンや20mmバルカン砲など『気違いに刃物』状態だからである。

「それより祐一、そろそろお仕事に戻ろうよ〜。書類もたまっているんだしね」

「そうだな……」

面倒な書類処理の事を考え憂鬱な気分になりつつ祐一は第二小隊のオフィスに向かって歩き始めたのであった。





 
 
 
P.S
「うぐぅ、ボクのこと忘れないでください……」

途中からまったく出番の無くなってしまった月宮あゆ巡査なのであった。
 
 
 
あとがき

まあおおむね原作通りに進んでいます。

他の話もそうなんだけど。

それはそうと今回はなんとか七瀬・詩子さんに台詞をあげられました。

でもどちらもたいして無いんだけどね(笑)。
 
 
2001.05.05 佐祐理さんの誕生日に(でも佐祐理さんの出番ないの。)
 
 

感想のメールはこちらから


「機動警察Kanon」TOPへ戻る  読み物部屋へ戻る   TOPへ