機動警察kanon第042話










 
 
 
 「うぅ〜、一人だと大変だよ〜」

名雪はファントムとエイブラハムを同時に二機相手にしていて苦戦中だった。

最初にやり合った時に比べれば相手は半減しているのだがこちらの目も減っている。

というかそもそも二機を相手にしているのが間違いなのだろう。

この場に指揮者である祐一がいたとしても警告を発する事ぐらいしかできないからだ。

それでも名雪は祐一が早く合流するのを望んでいた。

なんせどちらか片方とやり合っっている時にはもう一機の動きをつかむことが出来ないのだ。

これでは思うように戦うことなど不可能。

そのため名雪は防戦一方でなんとかしのぐしかなかったのだ。

「祐一、早く来てよ〜!!」





 
 そのころ秋子さんと栞の二人は暗闇と静寂に包まれた東京へリポートをうろつき回っていた。

今回の事件を裏で操っている犯人を捜すためである。

その為、キャリアのライトを消し、ソロソロと静かに走らせる。

としばらく走っていると秋子さんは停車を命じたので栞はその場にキャリアを止めた。
 
 「どうしたんですか秋子さん?」

栞がそう尋ねると秋子さんはニッコリ微笑んで言った。

「あそこに犯人らしき車が停まっているのよ」

秋子さんも言葉に栞が視線をやるとそこには一台んも平凡なワゴン車が停まっていた。

そのワゴン車からは光が漏れており中に人影も確認出来る。

ここ東京ヘリポートでは今までに人っ子一人見ることが出来なかったというのにだ。

「…露骨に怪しいですね」

「ええ。まあとにかくあのワゴン車を捕らえましょう」

秋子さんの指示に従って栞はキャリアを運転し、回り込んだ。







 
 
 「川澄さん!!」

「・・・何?」

ずっと出番のないままファントム以下合計5機のレイバーを指揮していた川澄舞は部下のあわてふためいた叫び声に

閉じていた瞳を開いた。

そして慌てている部下の言葉に耳を傾けた。

「警察車両が!!」

その一言を聞いた舞は慌ててモニターに目をやった。

するとそこには確かに舞たちの乗るワゴン車に接近しつつある警察車両があることを示していた。

そこで舞は素早く決断した。

「…ファントム撤収」

「ファントム撤収ですか?」

「そう。そろそろ陽動も潮時……」

「分かりました、早速そうさせます!!」

そう復唱すると部下は慌ててコンピューターに指示を打ち込む。

「川澄さん、撤収します!!」

「はちみつくまさん」

運転席の部下の言葉に舞はそう頷くと舞は再び瞳を閉じた。






 
 
 そのころあゆと北川は東京ヘリポート内で迷子になっていた……。

「うぐぅ、今ボクたちどこにいるんだろう?」

「ナビをしていない俺が知るわけない」

北川のその一言にあゆはいじけた。

「うぐぅ、北川くん冷たいよ」

「『すべてボクに任せておいてよ。』と言ったのは誰だって」

その一言はあゆをさらにいじけさせた。

「・・・北川くんイジワルだよ〜」

「俺は相沢じゃないぞ」

「北川くんも祐一くんと同じだよ〜」

「俺を相沢と一緒にしないでくれ。俺はフェミニストなんだからな」

「祐一くんも同じ事言ってたよ〜」

よそ見をしてそんな事を言い合っていたのがそもそもの間違いだった。

迷子になってどこを走っていたのか分からなくなっていたキャリアはとんでもない現場に出くわしてしまったのだ。
 
 「お、おい!! ま、前!!!」

ふと視線を前にやって気がついた北川の言葉にあゆは前を見た。

「うぐぅ!?」

そのあまりの状態にあゆは一瞬硬直した、がすぐに気を取り直してブレーキを思いっきり踏み込んだ。

キィィィー

甲高いブレーキ制動音が辺りに鳴り響き、そして恐怖の余りあゆは目を固く閉じたのであった。










 
 
 
 あゆと北川の出来事からほんの数分前にさかのぼる。

そのころ相変わらず名雪は独りケロピーに乗り込みファントムとエイブラハムを相手に戦っていた。

というか逃げ回っていた。

もう一機の存在が気になってなかなか思い切って踏み込むことが出来ないのだ。

一応、間隙をぬってはファントムめがけて37mmリボルバーカノンを撃ち込んでいたのだがそのすべてを

ことごとく装甲ではじき飛ばされてしまっていた。

そんなわけでホトホト困り込んでいた名雪の元へようやく祐一が到着した。

「待たせたな、名雪!!」

「祐一!! 遅いよ!!」

名雪はそう喜びを表現した、そしてすぐに祐一の指示というか言葉が名雪に飛ぶ。

「名雪!! エイブラハムが背後から接近するぞ!! 注意しろ」

「わかったよ」
 
 





 祐一が加わった所で名雪の負担は大幅に軽減された。

たちまち有利な戦闘展開に持ち込み、二機のレイバーに次々とダメージを与えていく。

そこへ突然乱入者というか乱入車が飛び込んできた。

あゆと北川が搭乗する二号キャリアだ。

しかもその進路には協力無比なレイバー「ファントム」がいる。

「うぐぅ〜、そこのレイバーどいてよ〜!!」

あゆはそう叫ぶがキャリアのスピード出し過ぎと、ファントムの俊敏性の欠如がそれを許さなかった。

そのまま二号キャリアはファントムにぶちかましを決行する。

「うぐぅ〜!!」

「おわぁあああ!!」

あゆと北川の叫び声とともに衝突、ファントムは地面になぎ倒された。

「今だ、名雪!!」

「わかったぉ〜!!」

名雪は素早くスタンスティックを引き抜くと目の前のエイブラハムに突き立てた。

たちまち最後の一機のエイブラハムは動きを停止する。

「残りはあと一機だぉ〜!!」

名雪はそのまま返す刀(スタンスティックともいう…)でファントムに襲いかかった。

ところがファントムはその重い機体に似合わぬスピードで跳ね起きるとケロピーを捕らえた。

機体に取り付けられたフラッシュライトが光り、名雪の視力を一瞬消し去ったのだ。

「わっ!? 一体何なんだよ〜!!」

戸惑うというか目眩ましの効いているうちにファントムはケロピーの腰辺りを抱きかかえると

そのままものすごい力で締め付ける。

そのあまりの衝撃にケロピーはスタンスティックを取り落としてしまう。

これでケロピーは寸鉄一つ身につけない有様となった。

といきなりファントムはビーム砲の発射準備を整える。

頭部のビーム発射口からまがまがしい光があふれ出てきたのだ。

「名雪!! ケロピーを捨てて脱出しろ!!」

「ケロピーを捨てて脱出なんか出来ないよ〜!!」

名雪はそう叫んだが回復した目でファントムのビーム砲が発射準備が整ったのを目にすると怯えてしまい、

思わず目を閉じて心の中で叫んだ。

(お母さん!! 祐一!!)


 
 
 ズキューン!!!!





 突然銃声が鳴り響いた。

その銃声に名雪が目を開くとそこには頭部を銃弾で撃ち抜かれたファントムが立っていた。

そのせいでどうやらビーム兵器が使い物にならなくなったらしい。

「一体なんなの?」

名雪は慌てて周囲を見渡した。

するとそこには白煙をたなびかせる37mmリボルバーカノンを手にした二号機が立っていた。

どうやら美汐の提案は無駄にはならなかったようだ。

と美汐の駆る二号機はリボルバーカノンを放り捨てるとファントムに襲いかかる。

すると慌ててファントムはケロピーを放すと二号機に向かい合った。

だが美汐はそんなファントムを気にするでもなく一気にその懐に潜り込んだ。

そして片腕のkanonでファントムを取り押さえる。

そしてコクピットの美汐は叫んだ。

「名雪さん!! スタンスティックを!!」

美汐の言葉に名雪は即座に反応した。

そのまま二号機の左腕に装備されたままのスタンスティックに手を伸ばし、そして引き抜いた。

そしてファントムの背骨部分にスタンスティックを突き立てる。

「やったよ〜!!」

だが強力なECMを放つことが出来るファントムは対電子戦等にはめっぽう強かった。

スタンスティックを背中に刺さらせたまま二号機を強引にふりほどく。

そして再びケロピーをものすごい勢いで捕まえようとする。

その時吹き飛ばされたはずの二号機がファントムにものすごい勢いで体当たりした。

ちょうどファントムは足を一歩踏み出した所だったのでひとたまりもなかった。

そのまま二号機もろとも護岸を乗り越え、海に転落する。
 
 「危ない!! 美汐ちゃん!!」

名雪は一気にケロピーを走らせると海めがけて飛び出してしまった二号機の左腕をつかむ。

そしてつかんだのを確認するや二号機を陸地に引きずり込んだ。

そのまま二号機はケロピーもろとも大地にひっくり返り、そしてファントムは水中へ沈んだ。
 
 

 「やったのか!?」

指揮車を飛び出した祐一は護岸の上に立った。

そして海の中をのぞき見る、といきなり海中で爆発した。

「おわっ!!」

慌ててその場に伏せた祐一の身体には多量の水飛沫が飛びかかった。

「冷たいぜ……」

そう情けない声を上げた祐一はそれでも立派な職業根性でまた海をのぞき込んだ。

するとそこには多量の潤滑油とおぼしき油と気泡がぶくぶくと浮いていた。

「どうです? やりましたか?」

秋子さんの問いかけに祐一は頷いた。

「はい、やったみたいです」








 
 この後、ホテルの一室に監禁されていた人質達は無事救助された。

その中にはたらふくご飯を食べまくり、動けなくなった特車二課隊員たちの姿があったのはいうまでもない。

無論川名みさき巡査はもの足りずにホテルに残された食事を包んでもらい、二課へと持ち帰ったのだが。









 


  こうして東京テレポートを襲った謎のレイバー事件は無事解決したかのようにみえたのであった。
 
 
 
あとがき
ようやく第一回ファントム編終了です。

しかしこのペースでやっていくともう一回のファントム編に二回のグリフォン編・廃棄物13号編まで終わるのはいつになるんだろう?
 
 
2001.04.22

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