機動警察Kanon第041話
 
 





 
 一機のレイバーと一台の指揮車、そして二台のキャリアが夜の東京ヘリポートを突き進む。

しかし意外なことに犯人レイバーとはまったく会敵しない。
 





 「おかしいな? そろそろ現れても不思議でもなんでもないんだが」

指揮車のハンドルを握りつつ祐一はつぶやいた。

すると助手席の美汐もコクコクとうなずいた。

「そうですね、そろそろ現れてもいいかげんおかしくないのですが」

そして美汐は考え込む。

やがて考えもまとまったのか無線のマイクを取ると秋子さんを呼びだした。
 






 「秋子さん、よろしいでしょうか?」

『はい、何でしょう?』

「…すいませんが別行動してもよろしいでしょうか?」

突然の美汐の言葉に秋子さんは動揺する素振りも見せず即座に

『了承(一秒)』

とうなずいた。

「訳は聞かないのでしょうか?」

美汐がおばさんくさい(物腰が上品ともいう)口調で訪ねると秋子さんは笑った。

『美汐ちゃんの言うことなら大丈夫ですからね』

「…ありがとうございます」

少し照れたように美汐は秋子さんにお礼を言うと無線のマイクを元に戻し、祐一に言った。

「お聞きの通りですのでよろしくお願いします」

美汐の言葉に祐一はうなずき、そして行き先を尋ねた。

「一体どこへ行くんだ?」

「二号機の元へ」

そういうと美汐は黙り込んでしまう。

暗い雰囲気が好きではない祐一はちょこっとふざけてみた。

「二号機に何の用があるんだ? 真琴の安否の確認か? 

それならわざわざ確認しなくてもたぶんあいつはぺしゃんこにされているぞ」

「…そんな酷なことはないでしょう」

どうやら美汐は祐一の言葉が気に入らなかったらしい、お決まり文句で即座に反応してきた。

「…相変わらず堅苦しいやつだな」

「そういう問題ではありません」

「まあいいか。それより本当二号機に何のようなんだ?」

重ねて祐一が尋ねると美汐はポケットから二号機の機動ディスクを取り出し言った。

「…戦力をほったらかしにするのはもったいないですから」

「成る程」




美汐のやりたいことを理解した祐一はおとなしくうなずくとハンドルを操作して他の隊員たちとは別行動に入った。




 
 
 
 「あかん。重火器使用禁止制限がこんなに面倒なもんだとは思ってもいなかったわ」

そのころ隠密裏に東京ヘリポートに突入していた自衛隊の神尾一尉はホトホト困り果てていた。

何せ相手は正体不明だが無茶苦茶強力なレイバー、それに一世代前とはいえ今も現用で稼働中の軍用レイバー。

そんな相手をたった二機で、しかも重火器使用制限まで出ているのだ。

これは非常に困難で、そして大変なことであった。
 
 
 「一尉!! ヘリコプターです!!」

「何やて!?」

神尾一尉は部下の報告に慌て、そしてビルの陰に隠れた。

もちろんヘリを早急に発見した部下もすばやく身を隠したのはいうまでもない。
 
 


 ちなみに今回のこの現場には自衛隊はヘリを派遣していない。

それはつまりこのヘリコプターが民間の、それも報道用である可能性が高いことを示している。

なんせ今回の出動、政府筋からの命令を受けているとはいえ議会の承認を得たわけではない。

この事が世間に漏れたらとんでもない政争論争のネタになることはほとんど間違いようもないからであった。
 




  「あかん、これ以上この場にとどまる訳にはいかんわ」

さすがに強気の神尾一尉も弱音を吐くしかなかった。

「一尉!! どうしましょう?」

部下の問いかけにとうとう神尾一尉は苦渋の決断を下した。


「…この場にとどまるわけにはいかへん。少しずつ後退するでぇ!!」
 
 というわけで二機のヘルダイバーは退却し始め、そしてそれに対する四機のレイバーは追撃を開始したのであった・・・。



 
 
 
 同じ頃、祐一と美汐の乗った指揮車と別れたケロピーとキャリア二台は順調に進んでいた。

ところがある交差点にさしかかった所で秋子さんは全車に停止を命じた。

そして隊員たちにてきぱきと指示を与える。

「あゆちゃん、あゆちゃんはこの交差点を左によろしくね」

秋子さんの言葉にあゆはコクコクと頷いた。

「わかったよ。左側の道を行けばいいんだね」

拡声器から聞こえてくるあゆの元気のいい声に秋子さんは満足げに頷くと今度はけろぴーに搭乗中の名雪に指示を出した。

「名雪はこのまままっすぐ突っ込んでね。私と栞ちゃんは右側から行くから」

「えっ〜、私一人なの!?」

名雪は不満げだが秋子さんは全く気にしていないようだ。

「ええ、そうですよ。でもすぐに祐一さんと美汐ちゃんが合流するはずですから」

「ならいいよね」

現金なもので秋子さんの一言を聞いた名雪はすぐに命令を承諾した。
 
 
「それじゃみんな、任務開始です。もらっているお給料に見合った仕事をしましょうね」

その秋子さんの号令一つで三台の特殊車両は各自各々に割り当てられたルートを突き進み始めたのであった。







 
 
 秋子さん達と別れた名雪は独りケロピーに乗り、夜の東京ヘリポートを突き進む。

と退却してくる二機のヘルダイバーに名雪は再び出会った。

その背後には二機のエイブラムスが続いている。

どうやらビーム兵器とECMを装備したレイバーは足が遅いらしい。

「あ!自衛隊の人だよ〜」

さすがに二度目なので名雪も驚かない。

そしていつもののんびりした口調で声をかけた。

「神尾さ〜ん、大丈夫?」

するとすごく不機嫌そうな口調で神尾一尉が返事した。

「何や、またあんたかいな。…大丈夫には違いないが今はごっつう機嫌悪いで」

「一体どうしたんだよ〜」

「・・・一機もやらんうちに帰るはめになったんや」

その言葉を聞いた名雪は一瞬ビクついた。

「それじゃあ四機まるごと残っているの〜!?」

「そうや…しかしあんはん、ごっつう大変そうやな」

「大変だぉ〜!!」

名雪の泣き言を聞いた神尾一尉は一瞬考えた後、うんうんと頷いた。

「よっしゃ!! とりあえず半分に減らしておいてやるわ!!」

神尾一尉はそう安請け合いすると部下に命じた。

「あの化け物レイバーが現れんうちに速攻で仕留めるで〜!!」
 
 二機のヘルダイバーは腰に装着したコンバットナイフを引き抜くや一気にエイブラハムに襲いかかった。

今まで後退し続けていたヘルダイバー二機の突然の逆襲にエイブラハム二機は全く反応できない。


たちまち二機は動きを止めてしまった。
 
 「半分に減らしてやったで〜。残りはあんさんにまかせたで〜」

神尾一尉は名雪にそう言葉を残すと素早くその場を去った。


まるでその痕跡を何一つ残していないかのように。


しかしその存在を間違いなく残す物も後に残った。


それはコンバットナイフで貫かれ、動きを止めた二機のエイブラハムであった……。



 
 
 
 そのころ別行動中であった祐一と美汐は無事、二号機の元へとたどり着いていた。
 
 「どうやら動きそうだな」

二号機の状態を見て祐一はつぶやいた。

そしてその言葉を聞いた美汐も「はい」とばかりに頷いた。

二号機は片腕をビーム砲で破壊されてしまっていた。

しかしそれ以外の外傷はいずれも行動に際して支障になるような物ではなかったのだ。

「…とりあえず試してみます」

美汐は祐一にそう告げると二号機のコクピットに乗り込んだ。

そして機動ディスクをコンピューターに差し込む。

すると動作は不安定であったものの99式「kanon」のOSは無事起動に成功した。
 
 「どうだ? いけそうか」

祐一の言葉に美汐は頷いた。

「…部分的には動作が不安定ですが大丈夫、何とかします。」

自分で壊れているプログラムを修復できる美汐の言葉に祐一は満足げに頷いた。

名雪や真琴は違い、ソフトウェアに造詣の深い美汐の言葉である。間違いはあるまい。
 
 「これでこちらの戦力は倍とまではいかないがましになったな」

祐一の言葉に美汐はまた頷いた。

「そうですね。ところで相沢さん、この場はもう良いですから名雪さんの元へ」

「いいのか?」


祐一が聞き返すと美汐は頷いた。

「はい。私は後五分ぐらいかかりそうですし」

「それではケロピーの指揮を取りに行くとしますか。」
 

 
祐一はアクセルを踏み込むと急いで名雪の元へと向かったのであった。
 
 
 
あとがき
今回はペース配分をミスってしまいいつもより長くなってしまいました。

半分に切ろうか?とも思ったんですがいつも短いし。

というわけで第一回ファントム編は次回で終了させます。

どんなに長くなってもね。
 
2001.04.21

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