『ちょ、ちょっとこれ何よ〜』
無線のマイクから聞こえてきた真琴の言葉に祐一・名雪は振り返った。
するとそこにはまるで髑髏のような頭部を持つ異形のレイバーが立っていた。
その圧倒的なまでのおどろおどろしさ。
その場に居合わせた四人の特車二課隊員たちはみな動揺を隠せないで居た。
『ねえ美汐……、こいつの正体何なの?』
真琴の問いかけに美汐は首を横に振った。
「分かりません。少なくともまともな素性のレイバーではないようですが……」
その時突然謎のレイバーの謎のレイバーの背中に取り付けられたフィンが跳ね上がった。
そして頭部についた二つのくぼみから禍々しい光があふれ出す。
「な、何なのよ……」
訳の分からない現象に怯えたように真琴はつぶやいた。
その時美汐が叫んだ。
『真琴!! すぐに逃げなさい!!』
その言葉に瞬時に真琴は反応した
素早くフットレバーをけり込み、機体を回避させたのだ。
しかしほんの一呼吸遅かった。
謎のレイバーが禍々しい光を解き放ったのだ!!
そしてその光は真琴の駆る二号機の右肩に直撃した。
すると二号機の右腕は大きな音を立てて地面に転がった。
「いっ、一体何なのよ!?」
あまりの出来事に取り乱し掛けた真琴に美汐が無線で叱咤した。
『真琴!! 落ち着きなさい!!』
その一言で真琴は落ち着きを取り戻した。
さすが第二小隊一おばさんくさい天野巡査部長である。
そこへ祐一と名雪も声を掛けてきた。
『おい真琴!! 大丈夫か!?』
『真琴、大丈夫〜?』
祐一のちょっと焦っている声は別にして名雪のいつも通りののんびりした声に真琴は感心しつつ胸を張って頷いた。
「当たり前よ!! この沢渡真琴さまがあんな訳の分からない攻撃なんかにやられるわけないでしょ!!」
とはいったものの戦況は刻々と悪化しつつあった。
軍用レイバーとは思えない軽い足取りでつかず離れずの攻撃を見せるエイブラハム。
動きは鈍いものの強力な装甲に身を包み、協力無比なビーム砲を装備する謎のレイバー。
この4機が見せる見事なコンビネーションは二機のKanonでもそうそう破れそうにもなかった。
『このままじゃジリ貧だぉ〜』
エイブラハムの攻撃をかわしながら思わず名雪は泣き言を漏らした。
それに対して祐一は必死にハンドル操作しながらも激励の声をあげた。
「名雪!! 泣き言言う前に手を動かせ!!」
そんな事を言う祐一ではあったが口には出さないものの名雪と同じ事を考えていた。
なんせ37mmリボルバーカノンはすでに弾切れ。
機体のあちこちが破損していて、しかもバッテリー残量も残り少なくなっていた。
このままでは目標を取り押さえる前にこちらの方が動けなくなるのは明らかだからだ。
(このまま一時撤退するか?)
そう考えなければならないほど第二小隊は追いつめられつつあったのである。
その時、また謎のレイバーがビーム砲を発射するために放熱フィンを広げた。
そしてまた頭部に 禍々しい光が集まっていく。
「気をつけろ!! 奴がまたビームを撃つぞ!!」
祐一が注意を呼びかけた時、真琴はエイブラハムの攻撃をかいくぐり、スタンスティクを構えて謎のレイバーに突貫をかけた!!
「無茶です!! 真琴、止めなさい!!」
真琴の暴挙といえる行動に思わず美汐は叫んだ。
だが真琴は無謀とは皆目思ってもいなかったようであった。
『同じ手が通じるほど真琴は甘くないんだから!!』
その声に反応してか謎のレイバーはビーム砲を解き放った。
しかしその一撃を真琴はかわした。
まるで来るタイミングを読んでいたかのように。
そしてそのまま謎のレイバーの胴体にスタンスティクを突き立てようとした。
しかしそうは問屋が下ろさなかった。
謎のレイバーの胴体から何か奇妙な物が突き出たかと思うとまた怪しい光を放ったのだ。
「あうぅ!!」
真琴は思わず手で目を覆った。
そしてその光が収まったとき、二号機は地面に転がっていた。
「よくもやってくれたわね!!」
真琴は地面に転がっている二号機を立ち上げようと試みた。
しかしいくらフットレバーを蹴ろうと操縦桿を動かそうとしようとしても二号機は動こうとはしない。
「な、何で動かないのよ!!」
焦る真琴の目の前のディスプレイには今や砂嵐どころろか何も表示されていない。
「あうぅ〜、真琴こんな状況、対処できないよ〜!!」
その時無線ではない、美汐の肉声が真琴の耳元に届いた。
「真琴!!そこは危険ですから起動ディスクを持って脱出して!!」
「へっ!?」
そう言われた真琴は視線を上に向けた。
すると謎のレイバーと一機のエイブラハムが真琴の乗る二号機に襲いかかろうとしてしているところであった。
それを見るや真琴は二号機の起動ディスクを取り出し、コクピットを飛び出した。
動けないレイバーなどこの状況では単なる高価な棺桶にすぎないからだ。
そしてそのまま美汐の乗る指揮車へ駆け寄ろうとする。
その真琴を捕らえようと襲いかかる二機のレイバー。
真琴は懸命に逃げ切ろうと走った。
しかしずっと戦い続け、疲労がたまったその体は言うことを聞いてはくれず、コテンと転んでしまった。
そこへエイブラハムのマニュピュレーターが真琴の体をつかみ取る。
「真琴!!」
指揮車から降りて美汐がエイブラハムの足下に駆け寄った真琴。
だがその身は完全にエイブラハムにその運命を握られてしまっていた。
「あうぅ〜、こんなやつに捕まるなんて悔しい〜!!」
真琴はエイブラハムのマニュピュレーターの中で悔し涙を流した。
悪人に正義の鉄槌を下すために警察官になったのにこの体たらく、これほどの屈辱はなかったからだ。
その時真琴の名前を呼ぶ声が悔し涙を流す真琴の耳元に届いた。
あわてて視線を7.8m下の地面に向けるとそこには心配そうに駆け寄った美汐と、その美汐を必死に押さえようとする祐一の姿があった。
「美汐!! 危ないから逃げて!!」
真琴は思わず美汐に向かって叫んだ。
美汐まで犯罪者どもに捕まってしまうと思ったからだ。
しかし真琴の言葉に美汐は首を横に振った。
「いいえ、真琴を一人置いて逃げるわけには行きません!!」
「私のことはいいから早く逃げて!!」
その時、もう一機のレイバーが二人を捕まえようと襲いかかった。
「美汐!! これを!!」
真琴は手にしていた起動ディスクを美汐に放り投げた。
そして祐一に叫んだ。
「祐一!! お願い!!」
その言葉を聞いた祐一は即座に頷いた。
「分かった!! お前の骨は俺が後で拾ってやるからな、成仏しろよ」
「違う!!」
「わははははは、冗談だ。天野のことは任せておけ!!」
祐一はそう叫ぶと暴れる美汐を強引に担ぎ上げ、一号指揮車に放り込んだ。
そして祐一自身も指揮車に乗り込むと未だ一機で奮闘中だった名雪に叫んだ。
「名雪!! この場を撤収しろ!!」
「で、でも…真琴を置いて逃げるのは…それに祐一や美汐ちゃんも……」
「これは俺の命令だ!! お前は速やかにこの場を離脱、秋子さんにここでの状況を説明しろ!!」
「うぅ〜」
名雪はうなった。
命令だし理性はこのまま言うことを聞けと伝えていた。
しかし感情的にはこの場をしっぽを巻いて逃げるのを良しとはしなかったのだ。
だが状況はそう甘い物ではなかった。
名雪がうなっているうちにケロピーを四機のレイバーが取り囲んだのだ。
「わっ、囲まれちゃったよ」
緊張感の欠片も感じられない名雪の言葉に祐一はいらだったように叫んだ。
「のんびりしていないでとっとと逃げろ!! 俺らも何とかする!!」
「わかったぉ〜!!」
そう頷くと名雪は一番ボロボロになっていたエイブラムスに体当たりした。
そのあまりの乱暴な攻撃にエイブラムスは思いっきり地面に吹っ飛ばされた。
そして名雪のかるケロピーはそのエイブラムスをずかずか踏みつけながら包囲網を突破した。
「祐一!! 約束だからね。何とかするんだよ!!」
「任せとけ!!」
祐一の言葉を聞いた名雪は満足げに頷き、そしてその場を走り去った。
そしてそれを司会の一部で目撃した祐一も、助手席に美汐を乗せたまま名雪が走り去った方向とは逆に逃げ去ったのであった。
あとがき
久しぶりの「機動警察Kanon」をお届けいたしました。
本当はもっと書き溜めて置いてファントム編、完結させたかったんですが体の調子が悪かったのでこれ一話だけの更新です。
今回はマコピーの出番が多かったですね。
2001.04.02