プルルルーン プルルルーン
「はい、こちら特車二課」
宿直に入ったばかりの第一小隊隊長小坂由起子は突然の呼び出し音に何ら躊躇することなく受話器を取った。
するとそれは出動を要請する連絡であった。
由起子隊長はすぐにデスクに付いているボタンを押した。
するとたちまち二課構内にサイレンが鳴り響いた。
「みんな!! レイバーをキャリアに載せなさい!!
グズグズしている奴は東京湾に叩き込むわよ!!」
整備班長美坂香里の言葉に整備員たちは一斉に積み込み作業にかかった。
キャリアにレイバーを搭載すると今度はキャリア・指揮車の点検に入る。
そして点検が終わる頃、ブリーフィングを終えた隊員たちがハンガーやって来るという塩梅だ。
「みさき!! しっかり決めるわよ!!」
「わかったよ雪ちゃん!」
『頑張るの』
「乙女らしく華麗に決めるわよ!!」
「よっ!! カレイとは渋いね。刺身にするのか?」
「そっちのカレイじゃな〜い!!」
「駄目だよ浩平、七瀬さんをからかっちゃ」
「それじゃあ行こうね〜」
「…詩子、もう少し緊張感を持ってください」
「みゅ〜♪」
まあおおむね第一小隊の隊員たちはみんな元気だった。
「それでは行って来ますね先輩。」
由起子隊長は装備品を装着しながら帰り支度を整えていた秋子さんに声を掛けた。
すると秋子さんはにっこり微笑んだ。
「行ってらっしゃい。それにしても一体どういう事件なの?」
秋子さんの言葉に由起子隊長は表情をキッと引きしめた。
「実は東京テレポートと連絡が全く取れないんだそうです。それも電波障害によって無線や電話まで。
しかも車両や人間もだとか。」
その言葉を聞いた秋子さんも表情を引き締めた。
「…それだけではないんでしょ。」
「はい。実はパトカーとも連絡が取れないんだそうです。しかも電波障害はECMのものらしいとか。」
「…それはただごとではないわね。」
「私もそう思います。ですから第二小隊、いつでも出動できるようにお願いします」
由起子隊長の言葉を聞いた秋子さんは頷いた。
「わかったわ、いつでも出られるように準備万端整えておきますね」
「そうしてください。とりあえず二時間後に連絡しますからそれがなかったときは……」
「了承です。それでは行ってらっしゃい」
「行って来ます、先輩」
こうして特車二課第一小隊の隊員たちは出撃した。
そして第一小隊の隊員たちと入れ替わりに第二小隊の隊員たちが特車二課に戻ってきた。
しかし帰る寸前というか帰り道の途中だったということもあり美汐を除いてはみな不機嫌だ。
だが秋子さんはそんな隊員たちに対してきっぱりと言った。
「これより第二小隊は第一小隊の支援に向かいます。みんな、早く準備してちょうだい」
秋子さんのその一言に事の重大さを認識した名雪・祐一・栞・真琴・あゆの五人は慌てて隊長室を飛び出し、
出動の準備をし始めた。
その五人の後に続いて美汐が隊長室を出ようとすると背後から秋子さんが声を掛けた。
「美汐ちゃん、この件に関して出来るだけ多くの情報を集めておいてちょうだい」
秋子さんの言葉を聞いた美汐はコクと頷き、一人電算室へと向かった。
隊員が一人もいなくなった隊長室で秋子さんは溜息をついた。
そして部屋の片隅に置かれていた金庫に手を伸ばした。
秋子さんはダイヤルを回し、そして鍵を使って金庫をあける。
カチャ
かすかな音とともに金庫は開いた。
すると秋子さんはその中に手を差し入れ、小さな電磁キーを二個取り出した。
そしてそのままハンガーへと歩いていく。
そして忙しそうに部下の整備班班員たちを指示している美坂班長に声を掛けた。
「香里ちゃん、ちょっといいかしら?」
「はい? 何でしょうか?」
忙しいのにもかかわらず嫌そうな顔一つ見せずに香里班長は振り向いた。
そこで秋子さんはさっき金庫から取り出した電磁キー二個を香里班長に手渡した。
「…今回ちょっとやばそうですからこれを使います。ですから準備をお願いします」
電磁キーを受け取った香里班長は顔色を変えた。
「秋子さん!! 本当にこれを使うつもりですか?」
「はい。それと三号機…使えますか?」
その言葉に香里班長は首を横に振った。
「いいえ、三号機はパーツ取りに使ってしまっているので不可動状態です」
「なら仕方がありませんね。とにかく例のブツ…お願いします」
「分かりました。ところで課長の許可は?」
香里班長の言葉に秋子さんは何も答えずただ微笑むだけであった。
あとがき
ようやくファントム編らしくなってきました。
しかしこのペースでは引っ越し前にファントム編、終わりそうにないな。
2001.03.22