機動警察Kanon第027話

 

 

 

 それは第二小隊の女性たちが祐一の行動を不審がる前のこと。

 

 コンコンコン


 祐一は周囲を警戒しつつも二課構内のとある一軒の小屋の扉をノックした。

すると中からほんのかすかに耳に届くほどの小さな声で呼びかけがあった。

「…合い言葉を言え。雪だるま」

「雪ウサギ」

祐一は定められた合い言葉を扉の向こう側にいる男に投げかけた。

すると扉は音も立てずに開いた。

祐一はもう一度周囲を見渡し、誰もいないことを確認すると扉の中へスッと飛び込んだ。




 

 

 そこでは5.6人の男たちが薄暗い室内にもかかわらず一心不乱になって作業していた。

祐一は男たちを一別すると指揮を執っていた北川に声をかけた。

「おい北川、頼まれていた物、持ってきたぞ」

「おう相沢、助かったぞ」

北川は祐一が持ってきた物を受け取った。

「ところで調子はどうだ?」

祐一は目の前で繰り広げられている状況を見ながら北川に尋ねた。

すると北川は笑いながら言った。

「良い素材だからな、なかなか強情だがこれを上手くやるのがまた一献というものだ。

それよりも音は外に漏れていなかったか?」

北川の言葉に祐一はこの小屋に来たときの様子を思い浮かべてみた。

「…完全には音は遮断しきれていなかったな。この小屋の側まで来ると音が聞こえたからな」

それを聞いた北川は腕を組んで考え込んだ。

「それは拙いな。香里にばれてしまう」

「大丈夫じゃないのか? 相当近づかないと分からないぞ」

「それなら良いんだが……」





 

 

 

 そしてそれから数日が経った。

すでに第二小隊の女性陣は祐一を始めとする一部整備員たちの行動に不審の目を向けていた。

そんな中、祐一は当直終了後、再び例の小屋へと向かおうとしていた。

しかしそこへ制服から私服へ着替えた名雪が声を掛けてきた。

「ねえ祐一、せっかくだから一緒に帰らない?」

「えっ!? じ、実は用事があるんだ。だからすまないが一人で帰ってくれ」

祐一はあわてつつも名雪の申し出を断った。

すると名雪は頷いた。

「用事があるなら仕方がないよね。それじゃあね、祐一♪」

(妙に簡単に引いたな?)

祐一は名雪の態度を不審のに思いつつも上手くいったと思いこみ胸をほっとなで下ろした。

物陰からその行動を刻々と監視している者がいるとも気がつかずに……。

 

 

 「目標は動き出しました」

栞は壁の陰から祐一を監視しつつ無線に向かってそう報告した。

ちなみに使いやすい携帯電話やPHSは電波が届かないので特車二課構内では全く使えない。

 

 「了解しました。栞さんは引き続いて目標の監視をお願いします」

栞からの報告を受け取った美汐は別働隊に指示を与えた。

「真琴・あゆさん、目標の予想進路です。見つからないように先回りしてください」

『わかった、先回りするよ』

『美汐〜、泥船に乗った気分でいてね〜♪(おいおい、それは大船だって)』

 



 美汐からの指示を受け取った二人は目標が来ると予想した進路上を監視できる物陰へと潜んだ。

そしてそのまま目立たないように目標を待ち受ける。

本来ならば監視という行動をしている最中ならば静かに大人しくしていなければならない。

しかし監視をしているのがあゆと真琴だったためにそれは望めなかった。





 

 「あうぅ〜、祐一まだ来ないの?」

まだこの物陰に隠れて一分も経っていないというのに真琴は値を上げた。

そしてその真琴をあゆは必死になってなだめようとする。

「駄目だよ真琴ちゃん、みんなで協力して祐一君の素行を暴くんだからね」

「でも退屈、退屈、退屈〜!!」

その時人の気配を感じたあゆは真琴の口を手で塞いだ。

「モガァモガァモガァモガァモガァ(何するのよ〜)」

「しっ!!真琴ちゃん、大人しくしてよ」

あゆの様子に気がついた真琴は大人しく喋るのを止めた。

なにより真琴も何者かの気配が近づいてくるのに気がついたのだ。

 

 近づいてきた人間の気配、それは紛れもなく目標・相沢祐一であった。

辺りをきょろきょろ見回しながら歩いている。

そして周囲に人間がいないことを確認すると小汚い小屋の扉をノックした。

すると扉が音もなく開けられた。それを確認するや祐一は素早く扉の向こうに消えた。

 

 

 「こんなところに入り浸っていたんですね、相沢さんは」

名雪・あゆ・栞・真琴から報告を受けた美汐は小屋から少し離れた所でそうつぶやいた。

すると真琴が興奮して叫んだ。

「美汐!!さっさと踏み込んで祐一をふん縛っちゃおうよ〜」

しかし美汐はその提案に首を横に振った。

「いいえ、まだ踏み込みません。踏み込むのはまた今度です」

それを聞いた四人の少女たちは驚きの声をあげた。

「えっ〜!? な、何でなんですか?」

「そうだよ〜、さっさと祐一を捕まえようよ〜」

「うぐぅ、何で今すぐ捕まえないの?」

「何で捕まえないんだろう?」

それに対して美汐は冷静だった。

そしていつもの指揮する時であるように落ち着いた口調で言った。

「まだ物的証拠が乏しすぎます。ですから白を切られたらそこでお終いです。

ですからここでしばらく監視し続け、それで始めて踏み込みましょう。

ちなみにその時は秋子さん・香里さんにも同行して貰います」

「お母さんも?」

「お姉ちゃんもですか?」

「はい、そうです。この組み合わせで踏み込めば言い逃れ出来ないでしょうからね」

美汐の言葉に四人は頷くしかなかった。

 

 

 こうして相沢祐一素行調査隊は次の行動に入った。

 

 

 

 

あとがき

本当は前後二編の予定でしたが長引きそうなので前中後の三編にしました。

次回でこの????編は完結です。

その後は予告通りファントム編に突入します(TV版もチェックしたのだ)。

 

2001.03.16

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