それは六月のとある暇な日の出来事であった。
いつものように報告書を提出し、第二小隊オフィスへ帰る途中の祐一に声が掛けられたのである。
「おい、相沢!!」
その声に祐一は振り返った。
しかし声の主は見当たらない。
勘違いかと思い、再びオフィスへ戻ろうとした祐一の耳元に再び声が響いてきた。
「おい、相沢!! こっちだ、給湯室」
その言葉でようやくと声の主の居場所が判明したので祐一は何事かと思い給湯室をのぞき込んだ。
するとそこには整備班のNO.2北川潤整備士がいた。
「何だ、北川か。オレに何の用だ?」
すると北川は祐一に声を潜めるようジェスチャーし、周囲を見渡した。
まるで聞かれては困ることを相談するかのように。
そんな北川の様子に気づいた祐一は声を潜めてもう一度尋ねた。
「…一体何なんだ?」
すると北川は懐から一枚の紙を取り出した。
「相沢、まずは黙ってこれを見てくれ」
そこで言われた通り祐一はその紙をのぞき込んだ。
そして驚愕した。
「お、おい北川。こ、これは……」
「どうだ相沢、驚いたか?」
「ああ、驚いたとも」
祐一は北川の言葉に素直に同意した。
それを見た北川は満足げに頷き、そして言った。
「どうだ、相沢。お前も同志に加わらないか?」
「オレが加わっていいのか?」
「もちろんだとも。だからこそお前に声を掛けたんだからな」
「おお、友よ!!」
「そうとも!! 俺たちは友なんだ!!」
二人はがっしりと抱き合った。
それから数日後。
特車二課構内にある埋め立て地温泉(単なる風呂)で第二小隊の女性たちがお風呂に浸かりながら話し合っていた。
「このごろ祐一の様子がおかしいんだよ〜」
髪の毛をアップにして湯船に浸かっている名雪の言葉に湯船の外で体を洗っていた栞も頷いた。
「名雪さんもそう思いますか?私もそう感じていたんですよ」
「うぐぅ、ボクは気がつかなかったよ〜」
あゆの言葉に真琴は勢いよく立ち上がって叫んだ。
「真琴だって気がついていたもんね!! あゆあゆだけ分からなかったんだ〜」
「うぐぅ、真琴ちゃん意地悪〜」
あゆがいじけると美汐が真琴を注意した。
「真琴、あゆさんをいじめてはいけません。一応年上なんですからね」
「は〜い」
真琴は元気よく空返事したが、美汐の言葉を聞いたあゆはよけいにいじけた。
「一応ボクの方が年上って……」
「まあ冗談はおいておくにしても確かに相沢さん、このところ様子が変ですね」
美汐は手にしたタオルで汗を拭いながらそう言った。
それを聞いた名雪と栞はうんうんと頷いた。
「やっぱりそうだよね、美汐ちゃんがそういうなら勘違いじゃないよね」
「そうですね、でもそれなら何を祐一さんはしているんでしょうか?」
そして五人は黙り込み、そして考え始めた。
「…この頃おかしいのは相沢さんだけではありません。」
美汐の言葉に名雪は驚いた。
「あれ? そうだったかな?」
「間違い有りません。整備班の方々もちょっとこの頃おかしいです」
「それは元々じゃないんですか?」
栞がそう言うとあゆも美汐の意見に賛同した。
「えっ!? でも香里さんも整備班の人たちが何か企んでいるんじゃないか?って言ってたよ」
「お姉ちゃんがそういうなら間違いないですね」
「あうぅ〜、話が難しくなって真琴には分からないよ〜」
話についていけない真琴はうめき声を上げた。
だが他の四人はそんな真琴を無視した。
「それじゃあ祐一を今度尾行してみようよ」
名雪の言葉にあゆと栞は頷いた。
「良い考えだと思うよ、ボクは」
「私もそれで良いと思いますよ」
そしてちょっと考えた後、美汐も同意した。
「今は物的証拠がないですからね、私もそれで良いと思います」
こうして一人寂しくのけ者にされた真琴を除いて四人の意見は決定したのであった。
あとがき
今回は真琴が出番が少なかったです。
やはりフルメンバーを完全に書くのは難しいですね。
2001.03.15