機動警察Kanon第025話

 

 

 

 「今年は空梅雨か?」

祐一は洗濯物を抱えつつ空を見上げ、そうつぶやいた。

6月だというのに雲一つない晴天だったからである。

「そういえばそんなこと天気予報で言ってましたね」

洗濯物を干しながら栞はそう答えた。

「本当か。だとすると今年の夏は水不足になるんじゃないのか」

祐一は栞に抱えた洗濯物を手渡しながらそう言った。

すると栞はクスリと笑い、そして言った。

「その方がレイバーにとってはいいみたいですよ祐一さん。

お姉ちゃんが喜んでいましたからね、天気予報を見て」

「レイバーはれっきとした精密機械だからな」

そうつぶやいた祐一は何気なくハンガーの前を見下ろした。

するとそこではなぜかケロピーが起動しておりその周りには人だかりが出来ていた。

「一体なんだ?」

「何でしょうね?」

祐一と栞は訳が分からずただ顔を見合わせるだけであった。

 

 

 

 祐一と栞が洗濯物を干している頃、名雪は必死になって頭を使っていた。

「えーっとこれでいいのかな?」

そうつぶやくその手にはモーショントレーサー(*)が装着されていた。

そしてその名雪の視線は解放されたコクピットハッチの外、ケロピーのマニュピュレーターがあった。

そのマニュピュレーターには黄色と黒のだんだら模様のロープが掛けられていた。

 

 

 

*モーショントレーサー:

Kanonに装着されている特殊な機材のことで装着者(この場合はパイロット)の指の動きを正確に再現し、

精密な作業もバッチリこなせるという代物である。


極めて高価な物で一般の作業用レイバーには装備されておらず一部の高級機種にのみ装着されている。

 

 

 

 「失敗だぉ〜!!」

名雪はモーショントレーサーを外してコクピットの外に出た。

そして大きく深呼吸する。

するとコクピットには入り込んでこない涼しげな風が名雪を包み込む。

一呼吸置いたところで名雪は制服のポケットから細いひもを取り出した。

そしてそのひもを名雪はこねくり返す。

「うーんと、確かこうだよね?」

自信なさげにひもをいじくっていた名雪ではあったがそのひもが自分の思ったとおりに姿に変わったのを見てもう一度決心した。

「もう一回やるね〜」

名雪のその言葉を聞いた周りのギャラリーたち(整備班の者や二課の職員など)は一斉に沸いた。

「よっしゃ!!頑張れよ」

「いいぞー。その心意気が大事だ〜!!」

「あとちょっとだぞ〜!!」

名雪は声援を聞いてニコニコしつつコクピットへと入った。

そして再びモーショントレーサーを装着すると再挑戦を開始した。

 

 

 コクピットに座った名雪は目を閉じて深呼吸した。

そしてそのまま頭の中にやりたいこと、これからやるべきことをイメージする。

いつもならここで「クーッ」と寝てしまうのだろうがさすがに今の状況では名雪は眠らなかった。

上手くイメージ出来た名雪はモーショントレーサーを確認するかのようにワキュワキュと指を動かし、

そして指先に全神経を集中し作業を開始した。

 

 

 名雪が指を動かすびにモーショントレーサーがその動きを拾い、ケロピーは寸分違わぬ精度でその動きを再現する。

その指先を見つめる名雪は真剣そのもの。

いつものポワーンとした幸せそうな表情はまったく見いだすことはできない。

だがやがて名雪はまるでイチゴサンデーを多量に奢ってもらったかのようににんまり笑った。

「出来たよ〜!!」

そう言って操作したケロピーの両マニュピュレーターには見事なカメを作り上げられていた。

むろんカメといっても生きている動物ではなくあやとりではあったが。

しかしこれはものすごく凄いことであった。

レイバーのマニュピュレーターであやとりをするなど前代未聞だ。

当然そんなことは百も承知のギャラリーたちはコクピットから出てきた名雪に割れんばかりの拍手喝采を浴びせた。

 

 

 

 「名雪!! ケロピーはどうかしら?」

割れんばかりの拍手の中を整備班長美坂香里がケロピーの足下にやってきた。

そんな香里を見た名雪はにこにこ笑いながら答えた。

「最高だよ〜。本当、この子って賢いよね〜」

レイバーをペットと勘違いでもしているかのような名雪の答えに香里は苦笑しつつも言うべきことは忘れなかった。

「データーディスクをよこしてちょうだい。バックアップを取ってあげるから」

「あ、うん。分かった、ちょっと待っていてね」

そう言うと名雪は再びコクピットに潜り込み、ちゃんとデーターディスクを香里に手渡した。

 

 

 「しかし名雪、あなたのケロピーは手先ばかり器用になるわね」

電算室でキーボードをカシャカシャたたきながら香里は言った。

するとそれを聞いた名雪は自分の両手の指を見つめながら言った。

「だって十本もある指がもったいないでしょ」

「それはそうなんだけどね、ちゃんと殴り合いのコツとかは覚えさせた?」

それを聞いた名雪はアハハハーと乾いた笑い声をあげた。

「…そういうのは真琴に任せてるし」

 

 (…何とも先行きが不安な部隊よね。)

特車二課の数少ない良心派に属する美坂香里はさすがに不安の色を隠さずにはいられず、

人知れずため息をつくのだった。










 

 

 

 

 

おまけ

ケロピーのあやとりの様子をちょと離れた所で見ていた真琴とあゆ




あゆ:「名雪さん、すごいよね〜」

真琴:「ふん、あんなの大したことないんだから。だって真琴だってできるんだからね!!」

??:「あら、じゃあ真琴も名雪さんと同じことをやりましょうね」

その声に振り返る二人

あゆ・真琴:「「み、美汐…(ちゃん)」」

美汐:「出来るんですよね(そう言ってにっこり微笑む)」

真琴:「あうぅ〜。なんだか美汐、秋子さんみたい…」

あゆ:(頑張ってね真琴ちゃん。骨は拾ってあげるよ)

 

 

あとがき

あと2.3話入れてからファントム編に突入したいな・・・とか言いつつ次から突入していたりして。

でも突入前にアニメ見直したいから大丈夫かな?



 

2001.03.14   ホワイトデーの日に(私には関係ないけどね)

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