機動警察Kanon 第021話







 

  警視庁警備部特車二課こと通称レイバー隊。

 本来この組織は続発するレイバー犯罪に対処するために新設された。

 しかしレイバーという便利な道具を持つ彼らである。

 何か面倒なことが起こるたびに呼び出され、こき使われていたのであった。

 まるで『高い買い物したんだから使わなきゃ損。』とばかりに……。








  「あうぅ〜、なんで真琴たちがこんなことしなくちゃいけなのよ〜!!」

 真琴は文句をぶつぶつ漏らした。

 しかしまあこれは無理もあるまい。

 なぜならば今第二小隊の面子が来ているのは首都高速道路。

 そこでの多重衝突事故の後始末のためだったのだから。

 面倒な出動に祐一・名雪・栞・あゆも激しく同意する。

 しかし美汐は違っていたようだ。

 『真琴、こういう事故処理はあなたの不器用な二号機の成長にピッタリです。頑張ってやりましょう』

 「あうぅ〜、分かったよ美汐。それじゃああゆあゆ、起動させて」

 「うぐぅ、ボクあゆあゆじゃないよ〜!!」

 何だかんだ文句を言っても美汐には反抗できないマコピーであり、イジメられっ子のあゆなのであった。







  「まったく面倒な事件だぜ、本当。安全運転しろよな」

 祐一は指揮車から降りて目の前の状況を見、そうぼやいた。

 そこでは数十台の車が団子状態に連なっている。

 しかも所々からは焦げた臭いやガソリンの臭いまで漂ってくる。

 一応、死者も出た大事故だったが祐一にはそんなことは関係なかった。

 いちいち毎日どこかで発生している事件事故に感情移入していたら体が保たない。

 というわけで祐一は事務的に処理を進めさせることにした。

 「おい名雪、パッパと片づけるぞ。栞、起動させてくれ」

 『わかったよ〜』

 『は〜い、それでは起動させます』

 というわけで第二小隊は一号機・二号機ともに作業を開始した。








  レイバーによる事故車両の撤去。

 これはごく普通に行われていることであった。

 現に日本道路公団をはじめとする日本の基幹道路を管理している公団等は必ずと言っていいほど

 作業用レイバーを所有しており、またこれを運用しているのだ。

 ではなぜ今ここに第二小隊が来て作業しているのか。

 まあ簡単に状況を説明するなら他の事故現場に出動していて来れなかったからだ。

 単純明快だがどうしようもない事情であった。





  「おい名雪、車の屋根をつかむんじゃないぞ」

 『そんなの言われなくても分かってるよ〜』

 名雪はそう返事するとケロピーを操り半壊した乗用車を抱きかかえる。

 そしてそのまま大型トラックの荷台へと載っける。

 すると交通課の警察官たちがその車をワイヤーで厳重に固定する。

 撤去作業はその繰り返しだった。






  「いつもこんな仕事だと楽で良いですね」

 キャリアから下りて指揮車へとやってきた栞の言葉に祐一は頷いた。

 「全くだ、事故車両は俺らを襲ってはこないからな。だからといって油断しちゃあいけないが」

 「そうですね、油断は禁物です」

 その時、指揮車の無線から名雪の声が流れてきた。

 『祐一、これからこのトラックを退かすからちょっと様子を見て』

 「わかった」

 祐一は指揮車を出ると名雪が示した大型トラックの前に立った。

 すると真琴操る二号機も来ていた。

 (さすがに大型トラックが相手では一台のレイバーでは無理があるからな)

 祐一がそう思っていると天野巡査部長も現れた。

 「私がこっち側を見ますから相沢さんはそちら側を」

 「分かった」

 祐一は頷くと名雪の死角になる場所を見ることができるポジションに立った。

 「お〜い名雪、こっちの準備はOKだぞ」

 祐一が名雪にそう伝えると名雪は返事した。

 『分かった、それじゃあ行くよ。真琴も良いかな?』

 『当たり前よ〜。いつだっていけるんだから』

 「真琴、しっかりやるんですよ」

 美汐がまるで秋子さんのような口調で真琴に話しかけた。

 (…天野っておばさんくさいな)

 祐一が心の中でそう思った瞬間、美汐がきっと祐一をにらみつけた。

 「失礼な…私は物腰が上品なだけです」

 「へっ!?」

 祐一はとまどった。

 (なぜ思ったことが天野に伝わるのだ?)

 それは当然口に出していたからなのだがそんな癖が自分にあるとはつゆとも気付いていない祐一は

 ただ戸惑っているだけであった。






 そしてそうこう作業しているうちにやがて事故現場もきれいになり、第二小隊は埋め立て地へと帰還した。






  「うぅ〜、ケロピー汚れちゃったよ」

 ハンガーに立ち、整備班の人間に整備されているケロピーを見て名雪は嘆いた。

 本来真っ白であるはずのケロピーのボディーには今は煤がこびり付いている。

 事故車を処理したとき、炎上した車も片づけていたからだろう。

 と名雪は雑巾を手にフラフラとケロピーに近付き始めた。

 どうやら整備中にも関わらず、ケロピーを磨き込むつもりらしい。

 あわてて祐一は名雪を止めようとする、と北川や住井を指揮していた班長こと美坂香里が名雪を止めた。

 「名雪駄目でしょ。今は整備中なんだからじゃましないでオフィスに戻っていなさい。

 整備が終わったら磨いても全然構わないから」

 「あ、うん…そうだよね」

 香里に止められ正気に戻ったらしい、というかこの位で復帰するのだから名雪のケロピーに対する気持ちは

 ネコやイチゴサンデーに比べるとそれ程のものでは無いのかもしれない。

 祐一と名雪がオフィスへ戻ろうとタラップに足をかけたとたん、サイレンの音が鳴り響き、赤色灯が点滅した。

 『207発生、207発生。第二小隊出動せよ!!』

 とたんに整備班は忙しくなった。

 「二号機は整備中だから予備の三号機にバックアップデータをぶち込んでキャリアに載せて!!

 一号機はそのままキャリアに載せて!!!」

 切れ者の美坂班長の鋭い決断で数十名の整備班の人間が一斉に動き出す。

 そして準備を終えると帰ってきたばかりの第二小隊が再び出動する。





  こうして特車二課の一日は過ぎていくのだ。





あとがき

あゆの出番が全然取れずどうしようかと悩んでいる今日この頃。

ほんとどうしたら出番がふやせるかな?


2001/03/09


あとがきその2

祐一の独り言をこの当時は使っていたんですね。

削除しようかとも思いましたがとりあえず残しておくことにしました。

2004/10/18改訂


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