機動警察Kanon 第015話
『…何でわたしたちこんなところにいるんだろうね？』
突然マイクから流れてきた声に驚いたもののすぐにその声の主に思い当たった相沢祐一巡査はつぶやいた。
「何でって名雪、そりゃあお仕事だからだろ」
『私が言いたいのはそういうことじゃないんだよ〜』
「じゃあ何が言いたいんだ？」
祐一の問いかけに水瀬名雪巡査は口をとがらて言った。
『ここに私たちがいる必要性があるの？っていうこと』
今、祐一たち第二小隊の面々がいるのはとあるぼろマンションの前であった。
そのマンションの周りを機動隊をはじめとする警察官たちが十重二十重に取り囲んでいる。
そしてその包囲網の中心には一人の犯罪者がいた。
女に振られ、やけっぱちになった馬鹿な男が人質を取って立て籠もっているところであったのだ。
「まあ確かにレイバーは必要ないだろうな」
この状態ではどう考えてもレイバーは必要ない、必要なのは機動隊の方だろう。
名雪の言葉に祐一が同意すると名雪はうんうんとうなずいた。
『そうでしょ〜。なのになぜ私たちがこんなところにいなくちゃいけないのかな？』
『それはですね、名雪さん』
そこへキャリア担当の美坂栞巡査が入り込んだ。
『私たちにポイントを稼がせたいんですよ、上層部の人たちがね』
『そうなの？ 栞ちゃん』
栞の言葉を実感できない名雪は聞き返したので祐一も同意した。
「たぶん栞の言うとおりだな。俺たちの評価、今は散々だし」
この一ヶ月ほどのテレビ・新聞雑誌・ネットそのすべての評価を思い出しながら祐一は頷く。
『このままだと責任問題になっちゃいますからね。そうするとキャリアの方々の出世、止ちゃいます』
『…つまり私たちに少しでも手柄を立てて欲しいんだ？』
「『きっとそうだと思う（思いますよ）。』」
「マリ子を呼んでこーい！！」
女に振られてやけっぱちになって立て籠もり事件を起こした馬鹿な男は人質に包丁をつきてけながら叫んだ。
それに対して包囲している警察側から説得の声が挙がった。
『馬鹿なまねは止めるんだー！！ そんなことをしても彼女は戻ってこないぞ！！』
「やかましい！！ マリ子はだまされているだけなんだ！！
あいつが…あいつが俺を見捨てるわけがないんだよー！！」
典型的な捨てられた男の台詞だ。
そのあまりの悲哀さに包囲している警察官たちの中から同情の声が挙がった。
案外、この籠城男と同じ悲劇を味わっているのかもしれない（笑）。
「あうぅー、退屈だよー、退屈だよ、退屈だよ〜！！」」
だがそんな男の悲哀などまたく考慮しない、といか出来ない沢渡真琴巡査はわめいた。
もともと根気が無いので長丁場になるような現場には向いていないのだ。
ましてや犯人がレイバーにすら乗っておらず女に振られやけになっているだけ、という状況下では
緊張することすら難しかったのだ。
『駄目だよ、真琴ちゃん。今は勤務中なんだからおとなしくしてなくちゃ』
そこへ無線で声をかけてきたのは月宮あゆ巡査である。
周りの人間から指揮者失格だの能力不足とか言われつつもがんばってお仕事に励んでいるうぐぅ娘だ。
（ボク、うぐぅ娘じゃないよ〜）
「あゆあゆ、退屈だよ〜。さっさと犯人撃ち殺して二課に帰ろ〜」
『だ、駄目だよ真琴ちゃん！！』
真琴の暴論にあゆは絶叫する。
だが真琴にはなぜあゆが絶叫したのか皆目検討がつかなかった。
「なんでよあゆあゆ。あんな馬鹿刑務所に放り込むのも税金の無駄遣いよ」
『犯人を撃ち殺すだなんて……人権屋にばれたら大変だよ！！
彼らは被害者より犯罪者の人権を守れって主張する気違いなんだから！！』
「そんな連中も一緒に射殺しちゃえばいいのよ！ そんなこと主張する連中は犯罪者予備軍でしょ」
『そんなこと出来たら苦労しないよ〜』
真琴には神経磨り減られまくるあゆなのであった。
そのころ現場では事態が急変しつつあった。
「おい！！ マリ子はまだなのか！！」
振られ男はいらだったように叫んだ。
すでに籠城を開始してから数時間、女とは連絡がいい加減付いているはずだったからである。
すると警察官の一人が申し訳なさそうに拡声器を使って叫んだ。
『そのー、言いにくいことなんですがあなたのおっしゃるマリ子さん…いらっしゃらないんですよ』
「なら帰ってくるまで待ってろ！！」
『いえいえ。実は住んでいるといわれた所を訪れてみたんですがそこは工場で……。
工場の方に聞いてみたんですがそんな人は知らないって……。
そこで戸籍も当たってみたんですが該当する人物もおらず……』
「ど、どういうことだ！！俺はマリ子のために有り金500万はたいたんだぞ！！」
悲痛な犯人の叫び声が警察官の言葉を遮った。
『言いにくいことですがあなたがそのマリ子さんに騙されたのではないかと……』
ガァ〜ン
そんな擬音がバックに似合うぐらい犯人は衝撃を受けたようであった。完全に呆然自失状態だ。
その間に機動隊を突入、犯人を逮捕すればよさそうなものだが失敗の際の責任を恐れてだろうか？
警察上層部は何ら突入命令を下そうはしない。
やがて気を取り直した犯人はやけっぱちになって叫んだ。
「くそ〜、こうなったらこいつを道連れに死んでやる〜！！」
『ま、待て！！話せば分かる！！』
「問答無用！！」
そういって犯人は人質に包丁を向けた。
この光景を見たものは皆、次に起こるであろう惨状を頭に浮かべた。
何人かの警察官が頭に浮かべたのは自らの出世コースの道が閉ざされたことだったが。
しかしこの犯人、根性が欠片もなかった。
「や、やめてくれー！！」
人質の叫び声にビックと止まってしまったのだ。
しかしすぐに気を取り直すと包丁の刃を人質に近づけていく。…一分に１ｍｍずつの割合で。
しかし人質の身を案じている警察官たちは突入することが出来ない。
１０分、そして２０分……。
緊迫した時間だけが刻々と流れていく。
包丁の刃はまだ人質まで30-40cmはあったが……。
「あう〜っ！！」
とうとう真琴が切れた。
そのまま二号機を駆り一気に振られ男と人質がいるマンションへと接近する。
『な、何するんだよ真琴ちゃん！？』
あゆの制止を無視した真琴はKanonの右足に装着した37mmリボルバーカノンを引き抜くと
立て籠もり犯がいる部屋へとその銃口を向けた。
「往生しなさい〜！！」
『だ、駄目だよ真琴ちゃん〜！！』
ガァーン！！
必死のあゆの制止の声もむなしく辺りには３７ｍｍリボルバーカノンの銃声（砲声？）が鳴り響いた！！
あとがき
今回はOVA第一期をベースに書いてみました。
確か第4話だったと思うけどどうだったでしょう？
本当は1話でまとめようと思っていたんですが長くなりそうなので止めました。
それでは続きをお楽しみに〜♪
2001/03/01
2004/10/16改訂