機動警察Kanon 第010話











  「あぅ〜っ、あそこにコンビニがあるー!」

 秋子さんに指示された場所でKanonを起動させた真琴は目の前の光景に喜んだ。

 そこには深夜にも関わらずさんさんと光が照らしつけてくる都会のオアシス。

 深夜族(死語)御用達のコンビニエンスストアーがあったのだ。

 ここではおにぎりに始まってパンやお弁当・おでん、生活雑貨などなど。

 そして真琴の大好物肉まんも売られていたのである)。







  特車二課に配属された初日に肉まんを食べてからすでに二日。

 毎日肉まんを食べる真琴にとっては例え一日であろうと肉まんを食べなければ禁断症状が発生する。

 しかし特車二課周囲にはコンビニはなく、真琴は二日間、全く肉まんを食べない状態だった。

 そのため目の前のコンビニで売られている肉まんに真琴は心を奪われた。

 勤務中、しかも犯人を捕まえようとしている最中にも関わらずレイバーから下りてコンビニに入ろうとする。

 そんな真琴に指揮車に乗っていたあゆは慌て、マイクに向かって叫んだ。

 『ちょ、ちょっと真琴ちゃん!! 一体どういうつもりなんだよー!!』

 それに対して真琴は至極当然といった感じで応えた。

 「そんなの決まっているでしょ。肉まんを買いに行くのよ」

 『駄目だよ真琴ちゃん!! 今は任務中なんだよ!!』

 「うぐぅは黙っていてよ!! 私は肉まんが食べたいの!!」

 『ボク、うぐぅじゃないよ……』

 祐一のみならず年下? の真琴にまでうぐぅと呼ばれ、あゆは落ち込んだ。

 「いいから黙っていてよ! ってあれは……」

 真琴はモニターの向こうに何かを発見した。

 さっそくメインカメラをそっちの方向に向けるとズームした。

 するとそこにはこの現状を打破できる素晴らしいものが見えた。






  「…あゆあゆ」

 『ボク、あゆあゆじゃないよ・……』

 真琴の言葉に再びいじけたあゆがそう応えると真琴はにやりと笑い、そして言った。

 「あそこにたい焼き屋があるんだけどあゆあゆはどうするのかな♪」

 『えっ!?』

 あゆはあわてて指揮車の屋根から頭をつきだし、周囲を見渡した。

 『本当だ…、あそこにたい焼き屋があるよ♪』

 あゆの上々の反応を聞いた真琴は思わずほくそ笑んだ。

 「どうする? これでもあゆあゆは真琴が肉まんを買いに行くの反対するのかな?」

 『うぐぅ〜』

 どうやら心底心が揺れているようだ。その口調に厳しさは全く感じられない。

 「ほれほれどうする〜? たい焼き食べたくないの〜?」

 『うぐぅ…、ボクどうしたらいいんだよ〜!?』






  だがその心の葛藤は長くは続かなかった。

 あゆはたい焼きという甘い誘惑には勝てなかったのだ。

 『真琴ちゃん…買いに行こうか?』

 「もちろん♪」

 そう言った真琴は早速Kanonから降り、あゆと合流した。

 「それじゃあコンビニれっつごー♪」

 「うん、たい焼き屋さんに出発だよ!!」

 「あら、楽しそうね」

 突然背後から聞こえた声にあうぐぅは驚愕のあまり振り向いた。

 なぜならば聞こえるべきはずのない声だったからである。

 しかし間違いなくそこにはたおやかな笑みを浮かべた秋子さんが立っていた。





 

  「あ、秋子さん…どうしてここへ?」

 驚いて口も開けない真琴の代わりにあゆが尋ねると秋子さんはまじめな顔で二人を怒った。

 「駄目でしょ、あゆちゃんに真琴!勤務中に買い食いするなんて……」

 「あうぅ〜、ごめんなさい……」

 「うぐぅ〜、秋子さんごめん……」

 すっかりしょげ返った二人を見た秋子さんは再び微笑むと言った。

 「二人とも反省しているみたいだから今回は見逃してあげるわ。

 でも同じことをもう一度やったら……わかるわね。」

 「「はい!!」」

 二人は恐怖のあまりそう叫んだ。

 秋子さんは絶対にやる、やるといったら間違いなくやるのだ。

 自分たちに襲いかかってくるであろう姿を想像した二人は恐ろしさのあまり身震いした。

 そんな素直な二人を見た秋子さんは止めてあったミニパトに乗り込んだ。

 そしてギアを入れ、クラッチを放そうとしたその時、ふと思い出したように言った。

 「二人とも、この事件が片づいたら帰りに肉まんとたい焼き買っても良いですよ」

 「「本当!? 秋子さん」」

 真琴とあゆ、二人の声が見事に重なった。

 そんな二人を秋子さんは穏やかな微笑みで見つめ、うなずいた。

 「ええ、本当ですよ。ですからお仕事、真面目にね」

 「分かったよ、秋子さん。ボク、がんばる!!」

 「あう〜、真琴もがんばる〜」

 「それじゃあがんばってね」

 秋子さんはそう言い残すと二人がいる現場を去った。








  あとには自らの食欲を満たさんと燃えている二人の警察官を残して……。





あとがき

名雪を野明役にしたために出番が減ってしまった二人がメインのお話。

次回も続いて二人がメインですが。

はやく香貫花もしくは熊上さん役を出さないといけないな。





2001/02/18

2004/10/13改訂


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