機動警察Kanon 第007話













  レイバーの初期設定。

 それはパソコンの立ち上げと基本的には全く同じである。

 OSをコンピューターにぶち込み、アプリケーションの代わりにレイバーの基本動作をぶち込む。

 たったそれだけなのであるがレイバーの基本動作は非常に多い。

 なんせ人間が出来るほとんどの行動を取ることが出来るのだからそのデータ量は半端ではない。

 生まれたばかりの赤ん坊に即座に自分と同じ行動をとらせるようなものだからだ。

 ましてやこの新型レイバーAV-99「Kanon」。

 こいつは警察用として開発されただけのことはあってその動作パターンは半端な量ではなかった。

 一般に市販されている作業用レイバーならばこういった作業の大半は自動的に機械がやってくれるのだが

 特注品のKanonは基本的なことを除いてはすべてマニュアルで設定するのであった。





  「わぁ!新品の匂いだよ〜」

 けろぴーと勝手に名付けた221号機のコクピットに潜り込んだ名雪は嬉しそうにつぶやいた。

 そしてそのままシートにかかったビニールをはがす。

 そしてすみやかにシートに座り込むとそれはもう嬉しそうに笑った。

 「うぅ…、嬉しいよ〜」





  そんな221号機のコクピット内の様子を無線で聞いていた祐一はため息をついた。

 そして一通り名雪が落ち着いたのを見計らって声をかけた。

 「おい名雪、セットアップ始めるが良いか?」

 『わかったよ〜、それじゃあ始めよ〜」

そこで小さい指揮車の運転席で祐一はマニュアルを開くと名雪に指示を与えた。

「それじゃあまず99式のOSをぶち込むぞ。」

 『了解したよ〜。でも祐一、ぶち込むなんて品がないよ〜』

 「…いいからさっさと始めろ」

 『…わかったよ〜』

 ようやくと名雪は初期設定を始めたらしい。カチャカチャとキーボードをたたく音が鳴り始めた。

 (まったく名雪のやつ……、そう言えば栞はどうしているかな?)

 そう思った祐一はキャリアー担当の栞を無線で呼びだした。

 「栞、そっちはどうなっている?」

 すると無線を通して栞のか細い声が届いてきた。

 『祐一さんですか ?こっちはいまのところ順調ですよ。

 なんせ運ぶのに必要ですからほとんど設定済みですし』

「そうか、わからないことがあったら聞いてくれよ。」

『は〜い、わかりました。もしそうなったらよろしくお願いしますね〜』

こうして栞との交信も終えた祐一は自分担当の指揮車の立ち上げに血道を上げ始めた。







 

  そのころ222号機では……

 「あうぅ〜、設定のやり方がよくわからないよ〜」

 と真琴が頭をパンク寸前であった。

 もともと野生の身、勉強が苦手なのに何で特車二課に配属されたのか…、それは大きな謎である。

 「真琴ちゃん〜、一体何がわからないの?」

 あゆも必死のようだ。

 まあ10歳から7年間も寝たきり、その間勉強なんて全くしてこなかった訳だし無理もあるまい。

 だがそれは免罪符にはならない。

 警察官として、そして特車二課の一員となった以上は任務を遂行する責任があるのだ。

 「え〜っとP324の……次は……」

 マニュアルを見ながら必死にセットアップを続けるのであった。








 というわけで第二小隊の面々が立ち上げ作業に苦戦していたころ、夜の東京ではある犯罪が発生していた。









  「こらー!! そこの不審レイバー止まりなさい!!」

 パトカーはぐんぐん近づいてくるレイバーに必死でそう呼びかける。

 しかしそのレイバーは歩みを止めようとはしない。

 不審レイバーはそのままジャンプするとバリケード代わりに止めてあったパトカーを乗り越えると

 そのまま暗闇の中に消えた。

 「くそっ、突破されたぞ!!」

 「こんなパトカーじゃ足止めにもなりゃしない!!」

 「こちら警邏2092号車、不振なレイバーが指示を無視して逃走した!! 応援頼む!!」







  その通報を受けた特車二課のメンバーは一斉に動き始めた。

 まず最初に宿直中だった212号機、七瀬・折原・長森巡査が出動。

 それと入れ違いざまに 隊長である小坂由起子警部補をはじめとする第一小隊のメンバーが集結。

 ただちに出動準備に取りかかった。









  「あら、出動なのね。」

 秋子さんは夜にも関わらず呼び出された由起子さんにそう声をかける。

 するとと由起子さんはため息をついた。

 「寝付いたところを叩き起こされたんですよ、先輩」

 「あら、かわいそうね。でもお仕事だし仕方がないんじゃないかしら」

 「わかってますよ、それくらい……。それよりも先輩、こいつらいつ使えるようになります?」

 そう言って由起子隊長はAV-99を指さした。

 それに対して秋子さんは小首を傾げながら考え込むように言った。

 「そうね…だいぶ進んでいるんだけど最低後一時間はかかるんじゃないかしら」

 秋子さんの言葉に由起子隊長は再びため息をついた。

 「…どうやら第二小隊は間に合いそうもないわね。仕方がないわ、第一小隊だけでなんとかします」

 そういうと由起子隊長はミニパトに向かって歩き始めた。

 すると秋子さんはその背に向かって言った。

 「立ち上げ次第、応援にいきますから。」

 「あまり期待しないで待ってますね。」

 由起子隊長は手をパタパタ振るとミニパトに乗り込み、211号機・213号機を引き連れて現場へと向かった。







 

あとがき

今回からタイトル抜きでやらせてもらいます。

理由は思いつかないから……。




2001/02/15

2004/10/09改訂


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