機動警察Kanon  第005話












  「あー、おいしかった」

 「うんうん、本当においしかったよねー」

 あゆと真琴は朝食を食べ終えるなりお互いにうなずきあった。

 そこへ名雪と栞も

 「イチゴジャムじゃないのは残念だけどやっぱご飯もおいしいよね」

 「健康は毎食の食事から得られますもんね」

 と言う。

 いつもならそんな少女たちをからかっている祐一も今日ばかりは素直にうなずいている。

 やはり昨夜のことが堪えているのであろう。

 いくら少しだけ(食材が朝食分しか残っていなかった)食べたとはいえやはり人間。

 しっかりご飯を食べないと心身ともにおかしくなってしまうものだからである。








  朝食を食べ終えた五人は秋子さんから今日のお仕事についての説明を聞いていた。

 「残念だけど今日もまだ納入されないそうよ。

 というわけだからお仕事はないんだけどそうも言っていられないからはい、これ。」

 そう言って秋子さんが手渡したのは鎌だった。

 「……これで何をしろと?」

 祐一の言葉に秋子さんは微笑んだ。

 「もちろん草刈りよ。ほかに何をしろって言うのかしら?」

 「えー!! 忍者をやっけるんじゃないの?」

 (おいおい、真琴。お前は『いっき』なんぞを知っているんだ?)

 心の中で思ったことを黙ったまま祐一はうなずいた。

 「わかりました。さっそく始めますね」

 というわけで祐一・名雪・あゆ・栞・真琴の五人はつなぎに着替えると特車二課周辺の草刈りに着手した。








  「それにしてもこれが警察官のお仕事なのかなぁ〜」

 草を鎌で刈りながら名雪がポヤァーンとした声で言った。

 それに対して栞もうんうんとうなずいた。

 「本当ですよね。お姉ちゃんからはこんな話聞いてないです」

 ちなみに栞の姉は特車二課整備班長美坂香里その人である。

 ちなみに今、真琴は草むらで見つけたネズミを追いかけて遊んでおり、あゆはそれを止めようと必死だ。

 そんな二人を何気なしに眺めていた祐一はふと周囲に視線を向け、そしてつぶやいた。

 「…それにしてもここは一体何なんだ?」

 そこには一面の荒野と、季節とりどりの野菜が植わった畑・ビニールハウス、そして鶏小屋が見える。

 ちなみに沖合には特車二課の備品であるはずの巡視艇を使って整備班の人間が漁をしている真っ最中。

 これらはみな特車二課隊員の貴重な食料源なのである。

 自然と解け合ったすばらしい風景と言えば聞こえが良いがとても警察らしくない。

 「たしかにおもしろいよね〜」

 名雪はそう言ったがそういう問題ではあるまい。

 しかしたかが一介の巡査に何が出来ようと言うのだ。

 問題があるならば上司が指示してくるはず。

 祐一はそのまま黙り込むと黙々と草刈りし続けた。







  しかし一日中腰をかがめて草刈りするのは大変な苦痛である。

 一番さぼっていたくせにとうとう真琴がキレた。

 「一体これのどこが仕事なのよー!! 早く真琴にレイバー寄こしなさいよー!!」

 「真琴ちゃん、明日になればきっと状況も変わるよ。だから今日ぐらい我慢して」

 必死になってあゆは真琴をなだめている。

 言葉だけ聞いていれば姉が妹をなだめているほほえましい光景のようだが姿を見るととてもそうは思えない。

 まるで双子の姉妹がふざけあっているようだ。

 「うぐぅー、ボク祐一くんと同い年……」







 こうして特車二課での生活二日目は過ぎ、三日目に突入した。







  「何が今日になれば状況が変わるよー!!」

 昨日に引き続いての草刈りに真琴はあゆの胸ぐらをつかみながら叫んだ。

 まあ誰もがそう思っているには違いないだろうがこうあからさまに言えるのは真琴ぐらいであろう。

 「うぐぅー、ボクに言われたって知らないよー!!」

 あゆは必死になって抗弁するがキレたまことにかなうはずもない。

 グラングランふん回されている。

 「わたしのパトちゃん、いつくるんだろう?」

 名雪はしゃがみ込んでそうつぶやけば栞も

 「約束通りに納入しないなんてKeyの人、嫌いです(他意はありません。物語の都合上です)」

 と言う。

 もちろん祐一も口にこそ出さないものの心の奥底というかすぐ底ではそう思っていた。








  そして夕方。

 草刈り二日目を終えた五人が二課構内に戻りと秋子さんが出迎えてくれた。

 「みんなご苦労様。ところで急用が出来たから今日は夜勤ね」

 秋子さんのその言葉に五人はブーイングした。

 「えー、夜勤なんかやだよ〜。わたし起きていられないよー」

 「うぐぅ、徹夜は体によくないよ」

 「あうぅー、真琴疲れたからやだよー」

 「夜勤しろなんて言う人嫌いです…って撤回します(秋子さんが謎ジャムを取り出したので)」

 情けないことを言っている少女たちを後目に祐一は秋子さんに尋ねてみた。

 「秋子さん、夜勤って一体何をするんです?」

 すると秋子さんは微笑み、そして言った。

 「実はねぇ、念願の新型が今晩届くの。だからそのセットアップをしようと……」

 それを聞いた五人は秋子さんの話を聞いていなかった。

 「「「「「はい!! 夜勤やります!!」」」」」

 そう元気よく叫び、秋子さんの命令を承諾したのであった。










あとがき

ようやく導入編おしまいです。

次回でやっと第二小隊用レイバーがお目見えします……というかその予定です。

ちなみにタイトルの『草刈り十字軍』ってたしかボランティアグループの名前だったかな?

適当につけたし……なんか良いタイトル思い浮かばないかな?





2001/02/13

改訂に伴いタイトルはすべて削除してます。

まあ極初期の数話ぶんにしかタイトル付けてないからなんですけどね。

2004/10/09


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