機動警察Kanon 第002話
「実はまだうちの小隊のレイバー、工場から届いていないのよね」
秋子さんの言葉に五人の隊員はがっかりしたような表情を浮かべた。
皆、自分たちの手足となってくれる相棒の姿を見たかったからだ。
しかし続く秋子さんの言葉に目を輝かせた。
「まあ新型なんだし少しぐらい待ったって構わないわよね」
それを聞いた五人は一斉に手をあげた。そしててんでにばらばらに言葉を投げかける。
「お母さん!! じゃなくって隊長!! 新型って本当!?」
「あうっ〜、新型早く見たいよー」
「うぐぅ、新型うれしいよー」
「新型なんて大好きです」
「秋子さん、じゃなくって秋子隊長!! 新型のスペックってどうなんです?」
そんな五人を女神のごとき笑顔で見つめていた秋子さんは問いかけには一切答えずに窓の外を眺めた。
そこには汚い東京湾と野犬すら出没する荒野が広がっているだけだった。
「というわけでレイバーはまだ無いから皆、職場環境の改善に努めてね」
これが特車二課第二小隊初仕事となるのであった。
「全くまだオフィスも出来ていないなんて〜」
ぼやく祐一にうぐぅこと月宮あゆはたしなめた。
「祐一くん、そんなこと言っちゃだめだよ。みんな忙しいんだから」
「うぐぅめ、気安く言うんじゃない。これはほとんど俺の仕事じゃないか」
「ボク、うぐぅじゃないよー」
そんなやりとりはさておき実際のところ、オフィス作成に祐一以外はほとんど役に立たないのは確実だった。
なんせあゆも真琴も栞もその体格のなさは保障付きだったからだ。
「祐一〜。遊んでいないでこれ一緒に持とうよ〜」
こう言ったのは祐一の従兄妹にして一号機パイロットの水瀬名雪である。
名雪は元陸上部ということもあって体力だけはほかの三人より少しだけマシだった。
「うっ〜、祐一なんか失礼なこと考えてる〜?」
「気にするな。……しかしお前、俺が水瀬家に居候するときはろくに荷物も持てなかったのに成長したな」
一時的に水瀬家に居候したとき、全く役に立たなかった名雪がここまで使えるようになるとは……。
そうしみじみ思った祐一の言葉に名雪はにっこり笑うとガッツポーズを決めた。
「えへへ〜、すごいでしょ」
「すごい、すごい。それよりそっちは大丈夫か?」
祐一の言葉に名雪はうなずいた。
「大丈夫だよー。それじゃあいっせいのせでね」
というわけで祐一と名雪が机やら何やら重たい物を運んでいる間にあうぐぅ+栞は軽い物をオフィスへと
運び込んでいたのであった。
「「あうぐぅじゃないもん!!」」
「なんとか出来上がりましたね」
そういって袖で汗をぬぐったのは美坂栞。病弱さでは特車二課随一と名高い隊員だ。
「そんなこという人、嫌いです!」
「あう〜っ、疲れたからおやつにしようよ」
「それはいいね真琴ちゃん。おやつにしようよ」
妙にあうぐぅの二人は息が合っている。
さすがコンビを組むだけのことはあると言いたいが任務もこの調子でうまく行くのだろうか?
というわけでおやつの時間。
五人の隊員と秋子さんはハンガー(レイバーの保管所兼整備所)の屋根に座ってのんびりしていた。
「うぐぅ、たい焼きどこ?」
「あうぅー、祐一が真琴の肉まん取った!!」
「やっぱりアイスクリームはバニラです♪」
「イチゴ♪ イチゴ♪」
…あんまりのんびりではないかもしれない。
「ところで秋子さ……いえ、隊長。新型はいつ納入されるんですか?」
食べ物にばかり目をやっている女性隊員を無視して肉まんをかじりつつ祐一は秋子隊長に尋ねた。
すると秋子隊長は微笑みながら言った。
「それがよくわからないのよ。
とりあえず香里ちゃんが検査しに行っているんだけど……こればかりは私にもね」
「そうなんですか……」
秋子さんがわからない以上、他の隊員たちはもっとわからない。
「まあ二三日中には納品されると思うからそれまではゆっくり待ちましょうね」
そしておやつを終えた第二小隊の面々を待ち構えていたのは自分たちの宿直室の準備であった。
「とりあえずこことこことここ、計三室が第二小隊用宿直室に割り当てられてりるの。
祐一さんは男の子だから一部屋で……名雪と真琴・あゆちゃん・栞ちゃんの四人で二部屋使ってね。」
「えー!祐一だけ一人なんてずるいー」
真琴は秋子さんに文句を言ったが秋子さんに勝てるわけもなくあっさり部屋割りは決した。
さっそく祐一と名雪の二人はハンガーの片隅に積み上げられていた布団・毛布ら6組を宿直室へと運び入れる。
真琴・あゆ・栞の三人は部屋に積もった埃を掃除機で吸い取り、雑巾がけをして部屋をきれいにしていく。
さすがに五人がかりということもあって宿直室はあっという間に見違えるようになった。
「ところで祐一。この布団どうしようか?」
名雪の言葉に祐一は廊下に置かれたままになっている一組の布団に目をやった。
「うーん、どうしたらいいんだろう?
まだ来ていないもう一人のためのものなんだろうけど男か女か分からないしなぁ」
「そうだよね〜どうしようか?」
「…とりあえず男用宿直室に放り込んでおこう。そうすれば一部屋二組ずつ布団があることになるからな」
「そうしようか」
というわけで祐一はもう一つの布団を男用宿直室の押入れに放り込んだ。
その時、突然廊下のサイレンがうなった。
「何事だ!?」
そしてスピーカーから雑音交じりの男の声が聞こえてきた。
「これより夕食時間に入る。当直の者以外は全員直ちにハンガーに集合せよ」
一日中働きづめで昼食も食べていなかった(おやつは食べていたが)ことに今更ながら気づいた
第二小隊の面々は全員そろってハンガーへと向かったのであった。
あとがき
自分のパソコンが使えないので妹のパソコンで打ち込んだSSです。
やっぱ機種が違うと結構違うところがあって違和感だらけでした。
なんせCPU、自分のはAthlon700MHzなのに妹のはDuron650MHzですからね。
おなじソフトを使っていると早さの違いを実感します、はい。
2001/02/09
改訂しながら読み直すとあちこちに寒い表現が……。
やはり3年半の月日の流れを実感してしまいましたね。
2004/10/09改訂