名雪の声にあわてて水瀬家に飛び込んだ祐一とその母の目の前には驚くべき光景が待っていた。
そこには死んだはずの・・・間違いなく火葬したはずの秋子さんが立っていたからだ。
しかもただ立っているだけでなく台所で料理までしている!
あまりのことに声も出ない祐一とその母を後目に名雪は秋子さんに声をかけた。
「・・・お母さんなの!?」
すると秋子さんはにっこり微笑んでいった。
「あらあら、名雪はお母さんのこと忘れちゃったのかしら?」
その言葉を聞いた名雪は抱えていた白木の箱をガチャっと落とした。
そして秋子さんへと抱きつき、感動的な場面になる・・・はずだったのだがそうはいかなかった。
抱きついた名雪はそのまま秋子さんにふれることなくスカッと通り抜け、そのまま秋子さんの背後の壁に正面からつっこんでしまったのだ。
ドガシャン!!
大きな音を立てて名雪は床の上に崩れ落ちた。
そしていつもの口調でつぶやいた。
「うにゅ〜、なんでこうなるの?きゅう〜」
名雪は完全に気を失っている。
しかもその目は漫画のように大きなぐるぐる目だ(笑)。
その様子を見ていた祐一の母は秋子さんに声をかけた。
「・・・あなた秋子なの?」
すると秋子さんは微笑みながらうなずいた。
「ええそうですよ姉さん。間違いなくあなたの妹、水瀬秋子です。」
「・・・死んだんじゃなかったのかしら?」
その言葉に秋子さんは一瞬寂しそうな表情を浮かべたもののすぐに笑顔に戻った。
「確かにそうですね♪でも今私はここにいる、それで良いではありませんか。」
秋子さんの言葉に祐一の母は苦笑した。
「秋子らしいわね。ところで今のあなたってやっぱり幽霊?」
「はいそうです。どうしてこうなったのか?っていうのは私にもわかりませんけどね。」
さすがに姉妹だった。
何年間ぶりかの再会、しかも片一方は幽霊というのに平気で会話している。
現在の状況に戸惑っている祐一はただ呆然としているしかない。
と突然祐一は母親から声をかけられた。
「ほら祐一、ぼけっとしていないで名雪ちゃんを部屋まで連れて行ってあげなさい!
大事な子をいつまで床に寝転がせておく気なの!?」
その言葉に祐一は愕然したというか驚きを隠せないでいた。
「な・・なっ・・何を・・・」
すると祐一の母はにんまり笑って言った。
「まさかあんた、それで関係をごまかしているつもりだったの?一目見ただけでわかったわよ。」
「うぐぅ〜」
祐一はぐぅの音も出ない(「うぐぅ〜」は出るけど・・・)。
それにさらに秋子さんが追い打ちをかけた。
「実はね、姉さん。私が事故にあった前日に二人ったら結ばれたんですよ♪」
「へぇ〜、祐一ったらずいぶん手が早かったのね。」
「そうですね♪だからあの日、つい浮かれちゃってあんな暴走車一台、避けられなかったんですよ。
いつもならあんな車の一台や二台、どってことないんですが。」
「あらそうだったの?ところで二人の関係の証拠はないかしら、秋子?。」
「実はあの日、祐一さんの部屋のベッドのシーツに名雪の破瓜の血と祐一さんのアレが・・・」
「もう止めてください!!」
祐一は思わず叫んだ。
二人の大切な結びつきがここまで暴露されると正直言ってかなりつらいものがあるのだ。
だが姉妹二人はそんなことはお構いなしだった。
「それって祐一、避妊もしなかったっていうこと?ダメよ祐一、まだ学生なんだからしっかりしなきゃ。」
「でも私、早く孫の顔がみたいですね。」
「私はまだイヤね。あと十年はこのままで良いわ。」
「うぅ〜、俺と名雪の尊厳はいったいどこへ・・・?」
結局名雪は気絶から目が覚めるまでの30分近く、床に放置しっぱなしとなった。
「ところでお母さん、いったい何がどうなっているの?」
気絶から復活した名雪はさっきまでとはうって変わって、しかしいつもの笑顔で秋子さんに尋ねた。
しかし秋子さんにも明確な答えは無かった。
「さっきも言ったんだけどよくわからないのよね。でも日常生活で困ることはないわね。
むしろお仕事の関係ではプラスになりそうだし。」
「そうなんですか?ところで仕事の関係っていったい?」」
祐一が尋ねると秋子さんはうなずいた。
「ええ、そうね。私の体に触れることは出来ないけれど私は何かをすることが出来る。
さっき料理していたのを見たでしょ?」
「そういえばそうですね、何がどうしてそうなるのか疑問なんですが。ところで仕事・・・」
「何のことですか祐一さん。」
「うぅ〜、わたしばかだからよくわからないよ〜。」
そこへ祐一の母がポンポンと手をたたきながら言った。
「はいはい、わからないことは気にしない気にしない。それより他に考えなければいけないことがあるでしょ。」
「何だ?」
「うにゅ〜、何なんだろう?」
子供二人はわからなかった。
しかし秋子さんはわかったらしい、姉の言葉にうなずいた。
「そうですね、今後の祐一さんと名雪をどうするか、ですね。」
「そういうこと。」
「えっえっえっ!?」
母親と叔母の会話に名雪は顔を真っ赤にして照れた。
どういうことを考えているのか・・・祐一にはそれが手に取るようにわかった。
そしてその後の展開も・・・。
「あら、名雪ちゃんたら勘違いして・・・。でもそれも悪くないかもね。」
祐一の母がそう言えば秋子さんも
「そうですね。そうしてくれると私も安心できるんですが。」
と言う。
そして姉妹二人は顔を見合わせ笑った。
「たしかに悪くないんだけど祐一はまだ18歳になっていないからダメよね。」
「そうですね。名雪は17歳ですから結婚はOKなんですけど祐一さんがね。」
「わっ!何てこというんだよ〜。」
結局祐一の考えたとおり、名雪は母親と叔母に遊ばれた。
「まあ名雪ちゃんで遊ぶのも後回しにして本当にどうするの?
私はこの家を処分して二人を連れて行くつもりだったんだけど。」
祐一の母の言葉に秋子さんは悲しそうな顔をした。
「そうですね。確かに保護者もなしに二人だけで生活させるわけには行きませんからね。
仕方がないと思います・・・。」
だが祐一の母はそんな秋子さんの様子にお構いなしで続けた。
「なんか勘違いしているみたいね、秋子。
これはあくまでもここに来るまでの私の考え、今は状況が変わったのだから考えも変わるわ。」
「・・・それはどういうことですか?」
すると祐一の母はニンマリ笑った。
「このままあなたに任せても平気ってことよ。あなただったら消されちゃった戸籍、何とか出来るでしょ。」
物騒な話に秋子さんはうなずいた。
「・・・確かに職場の方に頼めば戸籍ぐらいは何とかしてくれると思いますが・・・。」
「なら良いじゃない。
私としてもせっっかくのオジャマ虫がいないでいていてくれるんですもの、わざわざ引き取りたくないし。
あ、これは名雪ちゃんのことじゃないからね♪」
「オジャマ虫で悪かったな・・・」
祐一の言葉にその場にいたみんなが笑った。
こうして水瀬家は幽霊にはなってしまったものの秋子さんと、そして名雪と祐一で再び暮らせることとなったのであった。
あとがき
やっと本題に突入できました。
以後、幽霊秋子さんによるギャグに突入したい、というのが私のプロットです。
ちなみにどうやって終わらせるのか、ということは全く考えていません(爆)。
ネタが浮かんだら書いて・・・・、まあ不定期連載物だと思ってください。
個人的にはHなネタがいくつか在るつもりですが18禁にするのはまずいかな?と思うし。
この辺は何とも言えないですね。
なおこのSSのタイトルは上田秋成の「雨月物語」からとっています。
幽霊つながり、そして雨を雪に変えてですけどね。
2001.07.29