家無き子あゆ







 「却下」

「うぐぅ、まだ何も言っていないよ…」

いきなり秋子さんに却下と言われてしまったあゆは思わず涙ぐんだ。

しかし秋子さんは冷静だった。

「却下といったら却下です。というわけであゆちゃん、諦めてください」

「うぐぅ…」

しかしこれではこの場に居合わせた祐一・名雪・香里・栞・舞・佐祐理さん・真琴・美汐さっぱり内容がわからない。

そこでこの面子で一番の知性派である香里が尋ねてみた。

「月宮さん、秋子さんに何を頼もうとしたのかしら?」

「うぐぅ、それはだね…」

あゆは話し始めた。秋子さんに頼もうとし、却下されてしまった事情というのを…。








 「うぐぅ? ここは…どこ?」

あゆは目を覚ましたとき、見慣れぬ部屋にいたことに気がつき思わずきょろきょろした。

するとなぜかは知らないがあゆの腕には点滴の針が刺さっているではないか。

さらによくみるとあゆの体からは無数の管が伸びている。

まるでスパゲティーのようだ。

「うぐぅ、ボクに何があったの?」

そのときあゆのいる部屋に一人の女性が入って来た、と目を覚ましたあゆを見て思わず目をむき、そして叫んだ。

「せ、先生!! 月宮さんが、月宮さんが!!!」

「何! とうとう逝ったのか!?」

女性の叫び声とともに白衣を着たおっさんやら女性やらがわらわらと部屋に飛び込んでくる。

そして皆一様に目をむいて驚いたのであった。



 「うぐぅ、一体なんだったの?」

それなりに落ち着いたところであゆは目の前にいいるおっさん…医者だそうだが…に尋ねた。

すると医者は笑った。

「月宮あゆさん、きみは木から落ちて七年間寝たきりだったんだよ」

「ボクが?」

「その通り。今だから言うがはっき言って君がこうして目を覚ますなんて考えられなかった。

本当によかったよ」

「そう言ってもらえるとボクもうれしいよ」

「なんせ君の七年間の治療費を受け取っていないからな」


「うぐぅ!?」

「病院は慈善事業なんかじゃない、ビジネスなんだよ。

そういうわけだから目を覚ましたことだし耳をそろえてきっちり払ってもらおうか」

「うぐぅ〜!!」








 「とまあこういうわけなんだよ」

「あゆちゃん、大変だったんだね」

名雪の言葉にあゆは我が意を得たりといった風に大きくうなずいた。

「でしょ、でしょ!! 

おかげでお父さんとお母さんの残した家やら保険金やら全部処分して何とかお金は工面できたんだけど…。

おかげでボクいまやすっかり無一文なんだよ〜!!」

それを聞いた名雪はすっかりあゆに同情してしまった。

母親である秋子さんに却下を取り消そうと交渉し始めた。

「お母さん、あゆちゃん可愛そうだよ」

「そうしてあげたいのは山々なんだけど…」

「そうしてあげようよ〜」

「でも無理なのよ」

「何で?」

「…SS世界ではデーモンだの28歳処女だのなんだのすごいこと言われているけど私だってただの女なんですよ。

まして夫を無くし母子家庭の私にもう一人養えと言うの?」

「うぐぅ、それは…」

「そんな酷なことは無いでしょう」

「そうね、秋子さんだって普通の人間ですものね」

美汐と香里も同意する。

このメンバーの中で一二を争う常識派の言葉は説得力があった。

あゆはがっくり首をうなだれる。

しかし名雪はまだあきらめなかった。

「じゃあじゃあ祐一は? それに真琴は?」

同居している二人の名前を挙げる名雪、しかし秋子さんはあっさり首を横に振った。

「祐一さんの場合は姉さん…祐一さんのお母さんから生活費貰っているから。

で真琴のほうは保育園で働いて稼いだお金納めているのよ」

「だぉ〜!!」

「うぐぅ…」

正直言って常識の無い今のあゆにはとても働くことなどできようはずが無い。

よってあゆがもし水瀬家に居候してもお金を納めることなど出来ない。

というわけであゆが水瀬家に居候するという話は完全にぽしゃった。



 だが寝床が無いあゆは必死だった。すぐにその矛先を変えた。


あゆ:「香里さんに栞ちゃん…」

香里:「あたしには、ずうずうしく居候させてくれなんていう知り合いは居ないわ」

栞:「そんなこと言う人、嫌いです」



あゆ:「佐祐理さん…」

佐祐理さん:「あはは〜っ、おととい来やがれですよ〜♪」




あゆ:「舞さん…」

舞:「ぽんぽこたぬきさん」



あゆ:「美汐ちゃん…」

美汐:「私の家にあゆさんを住まわせろと? そんな酷なことはないでしょう」




 全員に断られがっくりするあゆ。

さすがに可哀想だと思ったのであろう、口々にあゆを励ます。


真琴:「今は春だし、これからどんどん暖かくなるから野宿しても凍死しないわよ」

栞:「そうですね。ダンボールに包まれば十分暖かいですよ」

あゆ:「うぐぅ、ボクに浮浪者になれと?」

香里:「言葉どおりよ」



美汐:「食べ物もスーパーやらデパートの食料品売り場に行けば試食品がありますよ」

祐一:「さすが天野だな。おばさんくさい」

美汐:「物腰が上品と言ってください」

あゆ:「うぐぅ、天野さんも祐一君もボクを浮浪者にするの?」



舞:「女の武器をフル活用すれば良い…」

あゆ:「うぐぅ、ボクにはできないよ……」

佐祐理さん:「あはは〜っ、そんなことありませんよ。世の中には貧乳やらロリ好みの殿方はいくらでも居ますよ〜♪」




 結局誰一人として助けになる人は居なかった。

仕方が無く水瀬家を出たあゆは一人ダンボールを抱えて公園の片隅にもぐり込もうとする。

とそんなあゆの背後から声をかけてきた人物が居た。

「おや、あゆちゃんじゃないか。こんなところで何をしているんだい?」

「うぐぅ? っておじさん!?」

そこにいたのはたい焼きやのおじさんだったのだ。




 「ふんふん、それは大変だったろうね」

おじさんの言葉にあゆはうんうんうなずいた。

「そうだったんだよ、すっごく大変だったんだよ」

「だから今日は公園に野宿するつもりだったと?」

「うぐぅ、仕方が無かったんだよ…」

あゆが肩を落としてうつむくとおじさんは笑って言った。

「それならうちで働かないかい?」

「うぐぅ、本当!?」

「ああ本当だとも。ついでだから宿も提供するよ。もっともぼろ屋だけどね」

「雨露しのげるならどこでも良いよ!!」

「ちなみに給料も安いよ」

「喜んでやらせてもらうよ!」





 だが数日後……。


「ごめん、あゆちゃん。やっぱり君を雇うのは無理だよ」

「うぐぅ、どうして?」

「だってねえ……」

そういうおじさんの視線の先には炭化した元はたい焼きかな? と思しき物体が山のように積み上げられていたのであった。



 家無き子あゆの流浪の生活はまだ終わらない。





あとがき

え〜っと51515HITを踏んだHIMAさんのリクエストで書いてみた作品です。

お題目は「秋子さんの一言に振り回される少女たち」…意訳してしまえばこんなものですかね?

内容としては…あゆしか振り回されていませんね。

しかも秋子さんの出番が無茶苦茶少ない…。

リクエスト内容とだいぶかけ離れているんですが…すいません。


いつもは思いついたことを書き綴っていただけにリクエストを貰って書くのは難しかったです。

まだまだ精進が足りないようですのでこれからもがんばっていきたいと思います。


2002.06.09


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