断り
この作品には一部非常に不愉快になる表現が用いられています。
よってそう言うのが嫌いな方は読まないとをおすすめします。


























恋の駆け引きは押すだけじゃダメですよ♪





「祐一はわたしのものなんだぉ〜!」

「いいえ、祐一さんは私のものです!」

「お子さまは引っ込んでいなさい。相沢くんはあたしのものよ!」

「……私の」

「あははは〜っ、祐一さんは佐祐理と舞のなんだよね〜」

「うぐぅ、祐一くんはボクのものだよ!」

「あう〜っ、祐一は真琴の〜!!」

「そんな酷なことはないでしょう。祐一さんは私のものです」

 

 

 

 今日も今日とていつものこと。

北国のどこかにあるここ華音学園の三年のある教室で少女たちの怒鳴り声が響いていた。

 

 

 

 

 「お前も大変だよな」

「……そう思うなら代わってくれ」

クラスメイトの北川潤の言葉にそう返す祐一。

しかし北川は首を横に振った。

「始めは羨ましいと思っていたけど最近はお前の置かれている立場が分かったからな、遠慮させてもらう」

「斉藤は?」

やはり北川同様首を横に振る斉藤何某。

「久瀬は?」

「謹んで辞退させてもらうよ」

あっさり断る生徒会会長久瀬何某。

「……みんな冷たいな。昔は羨ましいって散々酷い目にあわせたくせに」

「美坂があんな人間だとは思わなかった」

「水瀬さんがあんな食い意地のはった卑しい人格とは知らなかったんだ」

「倉田さんはもっと慎ましい女性だと思っていたんだ」

酷いことをきっぱり言い切る北川・斉藤・久瀬の三人。

しかしそれは無理もなかった。

今の彼女たちの姿を見れば100年の恋もさめてしまうと言うものである。

現に昨年度まであったさゆりんファンクラブ・さらに今年度初頭にはあったなゆなゆ・かおりん・しおりん・ミッシー・あゆあゆ・まこぴーファンクラブ、すべてが解散されている程だ。

 

 

「あ痛いたたた」

突然胃を押さえる祐一。

「どうしたんだ?」

北川が尋ねると祐一は痛みを堪えて何とか答えた。

「何だか最近胃が痛くて仕方がないんだ」

「……ストレス性の胃潰瘍かもしれないな。僕も昔なりかかったことがある」

久瀬の言葉に思わずまじまじとその顔を見つめる祐一・北川・斉藤。

「じろじろと僕の顔を見つめないでくれ」

「すまん。しかしストレス性胃潰瘍になりかかったことがある高校生というのはずいぶん珍しいな」

「生徒会会長という職務はそれなりに苦労が多いんだよ。

どこの誰とは言わないが学校の窓ガラスを割りまくる問題児もいたしな」

「「「あははは……」」」

乾いた笑い声をあげる三人。

その問題児は学校を卒業した現在でもこの教室で問題を起こしている真っ最中だ。

「まあ僕のことはおいておくとしてこの薬はどうだね。胃痛によく効く、僕のお薦めだ」

「……今はありがたく貰っておこう」

祐一は久瀬から何包みか薬を受け取る。

「食後に一包みを水と一緒に飲むように」

「へいへい」

 

 その時八人の少女たちが一斉に祐一を呼んだ。

どうやら今日の相沢祐一争奪戦争は一時休戦になったらしい。

「祐一〜、百花屋行くよ〜!」

「もちろん相沢くんのおごりね」

「バニラアイス楽しみです〜」

「あんみつ楽しみです」

「帰りにたい焼き忘れないでね」

「真琴の肉まんもよ〜」

「……牛丼」

「あははは〜っ、もちろん舞はねぎだくギョクですよね〜」

 

 「……今月も何も買えないな」

八人の少女たちの遠慮がまるで感じられない言葉に肩を落とす祐一。

「ご愁傷さま」

あっさり言う北川。

「あまりにも哀れだからカンパしてやろう」

そう言いながら1円玉を渡す久瀬。

「行って来る……。それじゃあまた明日……」

まるでこれから死刑が執行される死刑囚のような足取りで祐一は少女たちに連れられ教室を出ていった。

 

 

 

 

 

 それから一週間後。

一週間前と同じような光景が教室で繰り広げられていた。

 

 

 

 「祐一はわたしのものなんだぉ〜!」

「いいえ、祐一さんは私のものです!」

「お子さまは引っ込んでいなさい。相沢くんはあたしのものよ!」

「……私の」

「あははは〜っ、祐一さんは佐祐理と舞のなんだよね〜」

「うぐぅ、祐一くんはボクのものだよ!」

「あう〜っ、祐一は真琴の〜!!」

「そんな酷なことはないでしょう。祐一さんは私のものです」

 

 

 

 「あいつらいい加減にしてくれないものかね」

半ば諦めたように言う祐一。

すると北川はきっぱり言い切った。

「絶対に無理だな。大人しく諦めろ」

「くぅ〜、俺は一生あいつらにつきまとわれる運命なのか!」

祐一の言葉に頷く北川・斉藤・久瀬の三人。

その三人の反応に思わず祐一は席を立ち、そして嘆いた。

「ああっ! 天は我を見放したのか!?って痛てて」

腹を抱えてしゃがみ込む祐一。

「どうした?」

「大丈夫かい、相沢くん」

祐一の顔を覗き込む三人。

するとそこには顔面蒼白で冷や汗を垂らしている祐一の姿があった。

「お、おい。相沢くん大丈夫か?」

「相沢、傷は深いぞがっかりしろ」

 

 しかし少女たちはそんな祐一の様子に気が付かずに争奪戦を繰り広げている。

 

 「祐一くんは七年前からボクのって決まっているんだよ!」

「……私はもっと前から」

「それなら真琴だって同じなんだから!」

「真琴、私を裏切りましたね……」

「祐一との付き合いは私が一番古いんだぉ〜!」

「そんなこと言う人、嫌いです。第一過去よりも未来の方がずっと大切です!」

「珍しくだけど栞が良いこと言ったわね。過去に目を向けるものは、現在にも盲目となるわよ」

「あははは〜っ、ドイツの前大統領ヴァイツゼッカーですね〜。でもちょっと違いますよ〜」

 

 「相沢、病院へ行ったらどうだ?マジで顔色悪いぞ」

「……そんなに酷いか?」

北川の言葉に祐一が尋ねると三人は頷いた。

しかし祐一は素直に病院に行こうとはせずに渋った。

「俺は病院とか医者は嫌いなんだが……」

「相沢くん、そんなことを言っている場合ではないと思う。ここは素直に行くべきだ」

「……そうするか。マジに胃が痛くて仕方がない」

「仕方がない、病院まで送ってやろう」

「そうだな、そうしよう」

すっと席を立つ男四人。

するとその動きに気が付いた八人の少女たちが祐一を取り囲んだ。

 

 「祐一さん! 何処へ行く気ですか!!」

「そうよ、まだ話は終わっていないわ!」

「あう〜っ、逃がしたりしないんだから!」

「そんな酷なことはさせません」

「うぐぅ、祐一くん逃げる気だぁ〜!」

「勝手に逃げたりしたら祐一のご飯だけぜんぶ紅しょうが。

お茶碗山盛りの紅しょうがを、紅ショウガをおかずにして食べるの。おつゆはショウガの絞り汁」

「……祐一、逃がさない」

「あははは〜っ、勝手に逃げたりしたら地獄行きですよ〜♪」

クラスメイトである北川・斉藤・久瀬には祐一の不調がわかっているというのに祐一の虜になっている少女たちは全然全く気が付いていないようだ。

恋は盲目というがこれはあまりに酷すぎる。

というわけで「人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んじまえ」という格言が頭に過ぎりつつも北川と久瀬は八人の少女たちを止めにかかった。

 

 「美坂・水瀬、二人ともいい加減にしろよ。相沢は今調子が悪いんだぞ!」

「倉田さん・川澄さん、お二方とも年輩者なのですから相沢くんの事も少し考えてやってください。

それに天野君・美坂君・月宮君・沢渡君。ここは受験生である三年生の教室だ。騒ぐのなら自分の教室でやってくれたまえ」

きわめて正論である。

しかし正論というのは正論である故にきわめて人に受け入れがたい性質を持つ。

この場合もそうだった。

 

 「……北川くん、良くもあたしにそんな口がきけるわね」

メリケンサックを両手にはめながらすごみをきかす香里。

「滅殺なんだぉ〜」

鞄の中からオレンジ色の悪夢がびっちり詰まった瓶を取り出す名雪。

「あははは〜っ(怒)、よくもまあ佐祐理を年寄り扱いしてくれましたね〜!!」

どこからか取りだしたステッキを構えつつ笑顔のまま、しかし怒り心頭の佐祐理さん。

「……私は年輩者を敬わないモノを斬るものだから……」

佐祐理さんと同じくどこからか取りだした龍斬刀を振りかぶる舞。

「そんな酷なことはないでしょう」

表情一つ変えずにわら人形と五寸釘を取り出す美汐。

「そんなこと言う人、嫌いです!」

四次元ポケットから「ニトログリセリン」やら「青酸ソーダ」やら「某ヒ素化合物」を取り出す栞。

「うぐぅ、背中の羽はダテじゃないんだよ!!」

どこからともなく現れたフィンファンネルがあゆの背後にずらっっと並ぶ。

「許さないんだから!」

数え切れないほどの狐火を出現させる真琴。

 

 「「「「「「「「これもまだそんな無礼な口がきける!?」」」」」」」」

 

 あまりの恐怖に失神者続出の教室。

今やかろうじて意識を保っているのは祐一・北川・斉藤・久瀬ぐらいであろう。

しかしその北川・斉藤・久瀬にしてもかろうじて意識があるだけ。

今にも失禁してしまいそうな恐怖に襲われている。

とそれまで蒼白な顔で黙ったままの祐一が立ち上がり、そして少女たちを怒鳴りつけた。

 

 「いいかげんにしろ! 俺はお前らのモノでも何でもないんだぞ!!」

 

 あまりに事に思わず沈黙する教室。

祐一がこうやって怒りをあらわにすることなど未だかってなかったのだ。

それがこうして怒りを爆発させる。

今までの自分がいかに調子にのっていたのかということに気が付いた少女たちの顔は一瞬にして青ざめた。

しかし祐一はそんな少女たちの変化も気にせずに貯まりに貯まっていた不満をぶちまけた。

「名雪!何で毎朝俺が高校生にもなった奴を起こさなければいけないんだよ!

毎朝毎朝早朝マラソンだし……、お前は自分で何一つ出来ないのか!」

「ひ、酷いよ……」

思わず涙ぐむ名雪、しかし祐一の怒りは収まらなかった。

「何が酷いだ、このイチゴジャンキーめ!」

「ちょ、ちょっと相沢くん、それは言い過ぎ……」

思わず止めに入る香里。

しかし祐一の矛先は他の少女たちにも向けられた。

 

 「香里!お前もだよ!何かとあればそのメリケンサックで脅しやがって。

なにが『あたしに妹なんていないわよ』だよ!この冷酷暴力女め!!」

「ヒィィ〜!」

 

 「栞!何が『ドラマみたいで素敵ですね』だ、この貧乳アイスジャンキーめ!!

そんなにドラマガ好きならドラマみたいに華々しく散れ!

それに毎日人の限界を無視した量の弁当を持ってきやがって!!お前は俺を殺す気か!!」

「そんなこと言う人、嫌いです……」

「おう、ありがとよ! なら俺の前にもうそのガキじみた顔を出すな!!」

「えうぅ〜」

 

 「それからうぐぅ、お前はいつもいつも食い逃げしてんじゃねえよ!

何故俺がお前の尻ぬぐいなんかしなけりゃならん。いっそのこと七年前に死ねば良かったんだよ!!」

「うぐぅ。祐一くん、酷いよ……」

 

 「それにあう〜っ! 毎日毎日悪戯仕掛けてきやがって……。俺がどんなに迷惑しているのか知っているのか!

お前なんぞずっとものみの丘で食っちゃあ寝の生活でもしていれば良かったんだよ!」

「あう〜っ……」

 

 「天野! 何が『物腰が上品と言ってください」だよ。お前な、オバサンくさいじゃない、婆そのものなんだよ!

過去に縛られていつもいつもうざいぐらい暗いし……。お前なんか老人ホームがお似合いだよ!!」

「そんな酷なことはないでしょう……」

 

 「舞! お前は何が『はちみつくまさん』『ぽんぽこたぬきさん』だよ!!

そりゃあまあ俺がそう勧めたのは事実だけどよ、いい年扱いてうざいんだよはっきり言って!

お前なんか銃刀法違反で警察にしょっ引かれて少年院にでも入ってろ!!」

「……祐一酷い……」

 

 「佐祐理! お前も自分のこと佐祐理佐祐理ってうざったいんだよ!!

いい年扱いてそれで可愛いつもりか?過去に酔って何も出来ないくせに! はっきり言ってバカかお前は!!」

「あははは〜っ、佐祐理はちょっと頭の悪い女の子ですから……」

「それがうざいんだよ!!お前はそれで謙遜しているつもりか!! はっきり言って嫌みなんだよ。

それとも本当にわからなかったのか? だったらおめでたいな、お前の頭の中身は!!」

「ひ、酷すぎます、祐一さん……」

 

 あまりな言葉にその場にいる人間は言葉も出ない。

それでも祐一は少女たちへの怒りをあらわにする。

しかしいつまでも惚けてはいない、我に返った北川・斉藤・久瀬の三人がやっと止めに入った。

「おい、相沢。それくらいにしておけよ。いくら何でも言いすぎだぞ」

「そうだよ、相沢くん。確かに彼女たちの悪事は認めるが何もそこまで言わなくても……」

「………(コクン)」

しかしまだ祐一の怒りは収まらない。

さらに少女たちへの怒りをぶちまけようとするが祐一の言葉もそこまでであった。

 

 グボォウ〜

 

 突然真っ赤な血を吐いてその場に倒れたのだ。

 

 「相沢!?」

「相沢くん!」

「ゆ、祐一〜!?」

「ちょっと相沢くん、どうしたのよ!?」

「うぐぅ、祐一くんが、祐一くんが……」

「祐一さん!! 祐一さん!! 私をおいて逝かないでください!!」

「あう〜っ、祐一が!」

「相沢さん、お気を確かに!」

「あははは〜っ、119番です、119番!」

「…祐一……」

 

 

 

 それから数時間後。

少女たちは水瀬家のリビングで沈んでいた。

本当は病院で祐一の安否を確かめたかったのだが八人は多すぎると言うことで祐一の保護者である秋子さんに追いだされたのだ。

しかし容態はきわめて気になる。

そこで秋子さんからの情報が一番キャッチできる水瀬家に全員集合状態だったのだ。

 

 「祐一大丈夫かな……」

心配そうに呟く名雪。

すると真琴よ栞が口をそろえて叫んだ。

「大丈夫に決まっているでしょ!!不吉なこと言わないでよ!」

「そうですよ。祐一さんが本当に逝ってしまうわけありません!」

「そ、そうだよね…」

それでも不安そうな名雪、そこで香里が慰めた。

「憎まれっ子世にはばかると言うし絶対に大丈夫よ」

「うん……」

水瀬家のリビングに沈黙がはしる。

やはり先ほどの祐一の言葉が気になるのだろう。

しかしこれはまあ無理もあるまい。

普通の人にだってあそこまで言われればかなりの衝撃だ。

ましてやそれが恋する人の口から発せられたとしたら……、かなり絶望的だ。

 

 「うぐぅ、祐一くんボクたちのこと嫌いになっちゃったのかな」

「そんな酷なことはないでしょう」

「……祐一……」

ますますその場は暗くなる一方だ。

だからその場の雰囲気を一掃するために香里はきっぱり言い切った。

「確かにあれは相沢くんの本心の一部かもしれない、でもあれは怒りで増幅された言葉にすぎないわ。

それよりも問題は私たちにあるのよ、とくに名雪だけど」

「うぅ〜、わたしそんなに祐一を怒らせるようなことをしたのかな〜」

「自覚が足りませんよ、名雪さん。高校生である相沢さんに880円のイチゴサンデーを奢らせるのは酷すぎます」

「うぅ〜、だってわたしイチゴ好きなんだもん」

「嫌われてもかまわないのならばご自由に」

「だぉ〜!」

「真琴も肉まんたかりすぎたのかな……?」

「ボクも祐一くんにたい焼きたかりすぎたのかな?」

「えぅ〜、私のバニラアイスもですか?」

「…牛丼も?」

とにかく思い当たる節はあった。ありすぎるぐらいあった。

 

 「とにかく相沢くんに謝りましょう。すべてはそこからよ」

「そうですね。私たち、祐一さんに甘えすぎていたかもしれません」

「うぐぅ、そうだね」

「祐一、許してくれるかな……」

「心から謝ればきっと許してくれますよ。相沢さんは優しい人ですから」

「はちみつくまさん」

「あははは〜っ、それじゃあもう喧嘩はお終いですね〜」

「そうだぉ〜。祐一にたかるのももうお終いなんだぉ〜!」

 

 しかし世の中そう甘くはなかった。

 

 

 「ただいま」

玄関で秋子さんの声がした。

秋子さんのご帰還だ。

一斉に玄関へと走る八人の少女たち。

「お母さん! 祐一は!?」

「祐一さんの容態はどうですか?」

「祐一くんはどうなの!?」

「秋子さん、相沢くんはどうなんですか?」

「……祐一は?」

「あう〜っ、祐一はどうしたの?」

「相沢さんはもう大丈夫なのですか?」

「祐一さんは大丈夫なんですか!?」

「はい、もう意識は取り戻されましたよ」

笑顔で少女たちに答える秋子さん。

その答えを聞いた少女たちは安堵のため息をついた。

しかしそれでは済まされなかった。

「みなさんにお話があります」

秋子さんが真剣なまなざしで少女たちを見つめる。

「何なの? お母さん」

みんなを代表して名雪が尋ねるが秋子さんは首を振った。

「まじめな話ですので皆さん、リビングへ」

「わかったよ」

「はい、わかりました」

「うぐぅ、秋子さんがいつもと違う……」

「あう〜っ、何だか嫌な感じがするよ〜」

しかし秋子さんの言葉は絶対である。

不安を隠しきれぬまま少女たちはリビングへと移動した。

 

 「それでは始めに言っておきます。祐一さんはもうここには帰ってきません」

いきなりの秋子さんの言葉に八人は思わず耳を疑った。

しかしそれが間違いのない事実と分かると一斉に非難の声を上げた。

「な、なんでなんだぉ〜!」

「うぐぅ、秋子さんどうして!?」

「あう〜っ、祐一どうしたの?」

「そんなこと言う人、嫌いです」

「そんな酷なことはないでしょう」

「あっははは……。な、何でなんですか……?」

「…祐一はどうしたの?」

「理由を、理由を話してください!!」

「分かりました」

頷く秋子さん。

そしてきっと少女達を一瞥するときっぱり言い切った。

「祐一さんが血を吐いて倒れたのは神経性胃潰瘍によるものだそうです」

その言葉に思わずほっとする少女たち。

胃潰瘍ならばそんなには重い病気ではないからだろう。

しかし秋子さんは続けた。

「ところで北川さんや斉藤さん、久瀬さんからお話を聞いたのですけれど祐一さんが倒れた原因はあなたたちの我が儘のようね」

「「「「「「「「うっ!」」」」」」」」

思わずうめく八人。

自分たちでも我が儘し放題だったというのは理解しているのでそこを突かれると痛いのだ。

しかし秋子さんは容赦なく続けた。

「前から多少気にはしていたんですけれどここに至っては仕方がありません、なんせ祐一さんの健康がかかっていますから。

姉さん……祐一さんのお母さんとですけど相談の上すでに転校手続きは済ませてきました」

「ど、どこに転校するんだぉ〜!」

「そ、そうです。祐一さんは私と将来を誓った身で……」

「栞は黙っていなさい! 秋子さん、本当に相沢くんは何処へ?」

しかし秋子さんは首を横に振った。

「何があろうともお教えすることはできません。聞くだけ無駄です」

秋子さんの意志は強いようだ。決して口を割ろうとはしない。

(あははは〜っ、こうなったら倉田家の力で……)

(うぐぅ、奇跡の力はダテではないんだよ〜)

(こうなったらハッキングでもして……)

(……一度は切り捨てた私の力、今こそ役立たせる……)

(妖狐の力で絶対に祐一を見つけてやるんだから〜)

そんな事を考える不届きな輩。

自分一人だけ祐一を見つけて一歩リードしようと言う魂胆なのだろう。

しかしそうは問屋が下ろさなかった。

 

 

 「あははは〜っ、祐一さんが見つからないですって!? それでも栄えある倉田に仕える身ですか〜! クビです、クビ」

 

 「うぐぅ、そういえば願い事はもう3つとも叶えて貰っていたんだ……」

 

 「…何で祐一さんの戸籍が見つからないんですか!?」

 

 「……寂しいから私と離れられない?クッスン、ごめんね、まい……」

 

 「ものみの丘しか分からない!? なんで妖狐のくせにそんなに行動範囲が狭いのよ〜!!!」

 

 

 というわけで祐一の消息がつかめないまま数年の月日が流れた。

そして冬のとある日のこと、水瀬家の電話が鳴り響いた。

「あらあら、一体誰かしらね?」

受話器を取る秋子さん。そしてビックリしたような声を上げた。

「あら、祐一さん。お久しぶりですね」

「祐一!? お母さん私に代わって!!」

しかし秋子さんは娘の言葉を無視して続ける。

「あら、そうですか。いつ頃です?はい、構いません了承ですよ」

そしてあっさり電話をきる秋子さん。

「うぅ〜、お母さん極悪人だよ〜。わたし祐一の声聞きたかったのに〜」

しかし秋子さんはさっさり受け流した。

「別に名雪に代わってくれとは祐一さん一言も言っていなかったものですから」

「だぉ〜!! お母さん酷いよ〜!!!」

むくれる名雪。

しかしその後の秋子さんの言葉に名雪は狂喜乱舞した。

「祐一さん、今度の連休に遊びに来るそうですよ」

 

 

 祐一がまたこの北国にやって来る。

その情報は瞬く間に八人の女性たち(もはや少女ではない)に伝わった。

そして祐一が遊びに来る日、八人は雪が降る中朝から駅前で待ちかまえていた。

 

 「えぅ〜、祐一さん遅いです」

「仕方がないわよ。あたしたち相沢くんが来る時間分からないだもの。

いち早く顔を見たいと思ったらここで待ち受けるのが一番よ。それとも栞、あなた家で待ってる?」

「そんなこという人、嫌いです」

 

 「あははは〜っ。舞、祐一さんに会えるの楽しみだね〜」

「はちみつくまさん」

 

 「うぅ〜、祐一まだかな〜♪」

「うぐぅ、ボク早く祐一くんに会いたいよ」

「あう〜っ、祐一はまだなの!?」

「果報は寝て待てと言います。ずいぶん長いこと待ったんです、いまさら一時間や十時間ぐらいどうという事はないでしょう」

 

 

 やがて八人と祐一の再会の時はやって来た。

 

 「おっ!?名雪じゃないか。それにあゆに真琴に栞・香里、それに舞に佐祐理さんに天野も」

改札口から出て来るなり八人の姿をみつけた祐一。

久しぶりの姿に懐かしそうにそう言うと八人は思わず涙ぐみ、そして言った。。

「祐一、ごめんね。わたしが悪かったよ」

「相沢くん、ごめんなさい」

「祐一さん、我が儘言ってごめんなさい」

「あう〜ぅ、祐一。悪戯してごめんね」

「うぐぅ、祐一くん、ごめんね」

「…祐一、許して」

「相沢さん、すいませんでした」

「ごめんなさい、佐祐理が悪かったです」

 

 「みんな……」

どうやら自分のが発した最後の言葉を相当気にしていたようだ。

祐一は責任を感じると同時に申し訳なくなった。

「みんな、謝るのは俺の方だよ。あの時は悪かったな」

「祐一、許してくれるの…?」

名雪の言葉に頷く祐一。

「当たり前だろ。友達じゃないか」

((((((((友達なんだ……))))))))

八人の胸中には同じ思いが走った、がすぐに気を取りなおした。

(((((((考えてみたらこれって誰一人リードしていないんだしチャンス!!)))))))

しかし数年間の年月は残酷だった。

 

 「祐一さ〜ん!」

 

「「「「「「「「ん?祐一さん!?」」」」」」」

 

思わず振り返る八人。

するとそこには彼女たちと同年齢ぐらいであろうか、赤ん坊を抱いた女性がテトテトと駆け寄ってくるところであった。

「おう。美由希、お前にしては早かったな」

「待っていてくれても良いじゃないですか。私とこの子を置いていくなんて酷いです」

「だってお前のトイレって長いじゃないか」

「こんなところで言わないでください!」

顔を真っ赤にして祐一の胸を叩く美由希という女性。って八人にとってはそれどころではなかった。

 

 「相沢くん!! その人一体誰なのよ!!!」

「そうだよ、香里の言うとおりなんだよ!!」

「あははは〜っ、まさかその人祐一さんの?」

「そんなこと言う人、嫌いです〜ぅ!」

「まさか相沢さんのお、お、お、おく……いえ、私の勘違いですよね?」

「うぐぅ、その赤ちゃんもしかして……」

「…もしかして祐一の…?」

「あう〜っ!? 何なのよこの女は!!」

「ん?俺の奥さんと子供だけど」

 

「「「「「「「「……えっ!?」」」」」」」」

 

思わず自分の耳を疑う八人。すぐに聞き返した。

 

「「「「「「「「今なんて言ったの?」」」」」」」」

 

「妻と子供って言ったんだよ。My Wife&cBabyってわけ。分かったか?」

 

「「「「「「「「えっ〜!!」」」」」」」」

 

「みなさん、はじめまして。祐一さんの妻美由希と言います。みなさんのことは祐一さんから何回も聞いています……」

 

 祐一の妻美由希が自己紹介を始めていたが彼女たちの頭には何一つ届いていなかった。

 

 (祐一が結婚、祐一が結婚……)

(何で相沢くん妻の席が私の場所じゃないのよ!!)

(えう〜っ、これもドラマみたいな展開ですけどこんな話、嫌いですぅ〜)

(あははは〜っ、倉田の家の跡継ぎは祐一さん、祐一さん、祐一さん……)

(グシュグシュ、祐一が結婚、しかも子供までいる……)

(うぐぅ、ヒロインのボクの立場はどうなるの!?)

(あう〜っ、何がどうなっているのよ〜)

(こんな酷なことはないでしょう)

 

自業自得かもしれないがあわれな八人であった。

 

 

お終い。

 

 

 

 

*おまけ「秋子さんの恋愛講座」

「恋の駆け引きは押すだけじゃダメですよ♪

ちゃんと相手の気持ちも考えなければダメですからね♪

わたしもそうやってあの人のハァートをゲット……っていやんいやん、恥ずかしいです♪」









あとがき
かのんSS-Links主催のSSコンペに出展した作品です。
もっともこれは出展したままでなくて容量オーバーしてしまい削る前の作品です。
内容は対して変わりませんけど。
ちなみに結果は153位、下から数えた方が早いです。
全採点が5点 : 15、4点 : 34、3点 : 56、2点 : 66、1点 : 60。
5〜4点をおもしろい、3点は普通、2〜1点をつまらないとして……半数の人はつまらないと。
精進しないといけないな。



オリキャラについて
オリキャラの相沢美由希についてですが…とくに設定ないです。
というかオリキャラというのもおこがましい…。
そもそもはじめの段階では名前の台詞もなかったんです。
ただ書いてみると「台詞がないのが不自然だな」、台詞を入れたら入れたで「台詞があるのに名前なしは不自然だな」
まあこんな感じで追加されただけですので気にしないでください。



コメントしてくださった方への一行レス
>神代 悠さんへ
 野郎だけでもまともにしないと祐一が哀れでしたので

>六界さんへ
 私もそう思います。

>空明美さんへ
祐一の本音はやりすぎかなと思ったんですが気に入ってもらえたようでうれしいです。

>ヘキサさんへ
 おもしろかったですか? ありがとうございます。

>Aliceさんへ
 やはりオチ読めちゃいました? やっぱりありきたりでしたかね?

>神月祐さんへ
 ありがとうございます

>藍翔さんへ
 あゆだけ良い武器が思いつかなかったんでこなったんですが賛否両論のようです

>はまのじさんへ
 同感です。収拾がつかなくなりました。いっそのことヒロイン五人に絞った方が良かったかもしれません

>takaさんへ
 すいません、あゆの攻撃手段だけ良いの思いつかなかったです

>ASKAさんへ
 これはある意味自分の体験を元に書いていますので…(もてるではないです)

>竹仙人さんへ
まだ物足りないですか? 私はやり過ぎと思っていました…

>プリン=アラモードさんへ
 すいません、許されないのは私です…

>かずきさん
 不快にしてしまって申し訳ありません

>Tomyさんへ
 良かったですか? これも賛否両論でして

>いしすさんへ
 そこはすごく悩んだんですが…やはり無かった方が良いですかね?

>十七夜さんへ
 それは純粋に私の技量不足のせいです

>かれーまんさんへ
 素敵でした? ありがとうございます

>雨音さんへ
 やっぱりあゆへの台詞は拙かったですね

>ugenさんへ
 ありがち…すいません、作者の腕前がへぼなんで

>天桜祐輝さんへ
 ひとひねりですか? …難しいです

>烏賊悪魔さんへ
 誤字か勘違いか…誤字なら訂正できるんですが勘違いは自分では気がつけないです…

>殺陣倉Xpさんへ
 オチが読めたという方もいらっしゃったので意外と感じてもらえるとうれしいです

>naokiさんへ
 オチ読めました? 読めなかったと言う方もいらっしゃいますし難しいです

>ぬべをさんへ
 私も痛いのは苦手なのでシリアスでこのオチはしません。あくまでもギャグだからです

>akiraさんへ
 おもしろかったですか? すっごくうれしいです

>Kanadeさんへ
 私だったら怒ります、というか高校生の時に祐一の立場になったら一回でも奢れなかったで

>Lv2さんへ
 やっぱりあっさりしてました? うまい表現が思いつかなかったんで…

>Rebyuさんへ
 良い感じでした? この辺はその人次第なのでさじ加減が非常に難しいです

>seinさんへ
私もそう思って書きました

>アーリマンさんへ
 微妙ですか。どう受け止めたら良いのやら?

>きこ〜もと☆ゆにさんへ
 イチゴジャンキーはどこかのSSで読んで私も耳について離れなくなりました

>研究員D2さんへ
 秋子さんは冷静な方が好きなものですから

>コーダイさんへ
 ここも本当賛否両論です。やはり全ての人に受け入れられるというのは難しいです

>橘征五郎さんへ
 ダメなSSの見本…かなりへこみます。ですが前半のご指摘部分は私もそう思いますのでこれから精進したいと思います

>TempFighterZさんへ
 マジギレ部分おもしろかったですか? …やはり人によって違うのでこの辺はすごく難しいです

>qawsedさんへ
 やはりオチ弱かったですかね

>B・Cさんへ
 そうですね、今となってはそう思います。八人は多すぎですね。

>Visさんへ
 救いのないオチは正直言ってヒロインがかわいそう…と思いつつ書いた私です。

>しゅう兵衛さんへ
 はい、壊れています

>グEさんへ
 たしかに佐祐理さん・香里・美汐は無理矢理だと思います

>zeroさんへ
 脇役トリオ評判良いですね。ちなみに斉藤君には台詞が全くありません

>kuryuさんへ
 私も同感です

>神崎隆一さんへ
 結果的に壊れになっただけで壊れとして書いた訳ではないんです。本当は祐一が胃潰瘍になるだけの話だったんですよ。

>ぷぢ2〜さんへ
 他にも台詞はありますが…確かにこの台詞が目立ちますね。私にとって美汐とこの台詞は切っても切れない関係なので…

>おーふなさんへ
 確かにそうですね、ヒロイン八人は多すぎました。

>舞耶さんへ
 ヒロインへの文句は考えつくのがかなりつらかったです。だって好きな作品なんですよ…

>十六夜 睦月さんへ
 良いですか? 

>コータさんへ
 私もそう思います。書いていヒロインが実にかわいそうでした

>NG翁さんへ
 書いてみたらどうです? 私学生時代作文苦手でしたよ

>クローズさんへ
 ありがとうございます

>みちやづきさんへ
 アレって藁人形ですかね?

>Garaさんへ
不快にしてしまいましてすいません。初めに断り入れた方が良かったですかね?

>浮動明王さんへ
 そんなに大層な理由で書いたのではないのですが…。ところで「しか」の続きなんでしょう?

>Timeさんへ
 オリキャラものが好きな私には珍しくないオチなのですが…

>ひゅうさんへ
 可も不可もなく…ってどれくらいですかね?

>Silly Talkさんへ
 ありがとうございます

>はぐさんへ
 壊れは非常に難しいと実感しました。精進します

>シューマンさんへ
 脇役三人は妙に評判良いですね




コメントくださった58名の方、ならびに点数を付けてくださった173名の方、ありがとうございました。


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