「400円→280円」

 

 

 

 七月のとある日のこと、相沢祐一は一人孤独に歩いていた。

昼飯を食べるためである。

それくらい水瀬家で食べればいいじゃないか、と思われる方々がいるかも知れない。

しかしそれは無理な相談であった。

なぜならば秋子さんと名雪の二人は今、旅行の真っ最中だったからなのだ。

祐一も一緒に行けば良かったのかも知れない。

だが久しぶりであろう母娘のふれあいというか語らいを邪魔するほど野暮ではなかったからなのである。

 

 

 

 「あっ!祐一さんだ〜!!」

「・・・祐一がいる・・・」

すると祐一は突然背後から声をかけられた。

振り返ってみるとそこには・・・すでに高校を卒業し、大学生をやっている先輩二人、川澄舞と倉田佐祐理さんの二人がいたのである。

 

 

 

 「一体二人は何をしているんだ?」

祐一は尋ねてみた。

すると佐祐理さんが「あははは〜」と笑いながら答えてくれた。

 

 「実はですね、佐祐理と舞はお食事に行くところだったんですよ。祐一さんはどうしたんですか?」

「俺か?俺も実は食事しに行くところだったんだ。」

「そうだったんですか。奇遇ですね。というわけで一緒に行きませんか?」

「・・・私がおごる・・・」

 

 

 佐祐理さんと舞の言葉に祐一は考え込んだ。

一応、秋子さんから食費ということでお金は受け取っている。

しかし奢ってもらえれば食費が浮く。

そうすればこづかいにゆとりが出る。

 

 近頃何かと色々な物を奢っていて財布の中身がピンチな祐一は二人に奢って貰うことにやぶさかではなかった。

そこで祐一は舞と佐祐理さんに連れられ、歩き始めた。

そして行き着いた先は・・・牛丼チェーン店最大手の吉○屋であった。

 

 

 「・・・舞。奢ってくれるというのは牛丼のことか?」

祐一が尋ねると舞はこっくりうなずき、例の返事を返した。

「はちみつくまさん。」

その言葉に祐一は溜息をついた。

祐一はけっして牛丼を嫌いなわけではない。

ただ大学生になり、アルバイトするようになったのだからもう少しましというか、もっと良い物(高い物ともいう)を奢ってもらえると思ったのだ。

佐祐理さんではなく舞が奢ってくれる、という段階で考えるべき事態であったのだろう。

「あははは〜。それじゃあ二人とも入りましょうね。」

「はちみつくまさん。」

こうして三人は吉○屋へと入っていった。

 

 

 

 カウンターに座ると舞はメニューも見ずに注文した。

「牛丼並、つゆだくで六杯お願い。」

舞の注文に店員は一瞬怪訝な表情を浮かべたもののすぐに営業スマイルに戻ると牛丼を手早く作り始めた。

 

 「・・・おい、舞。六杯も誰が食べるんだ?」

祐一が尋ねると舞は言った。

「私が三杯、佐祐理が一杯。」

「・・・つまり俺は二杯ということか?」

「はちみつくまさん。」

 

 

 そうこうしているうちに牛丼六杯が三人の前にどんと置かれた。

すると舞は素早く三人分に分けると紅ショウガをたっぷり載せ、かっ込み始めた。

佐祐理さんも同じように続き見事な手さばきでかっ込み始めた。

そこで祐一もすかさずその後に続いた。

 

 

 やがて六杯の牛丼は完全にきれいさっぱり無くなった。

そのきれいさときたらご飯粒一つ残らない見事さである。

そして舞は財布を取り出すとレジへと歩いていく。

そこで祐一と佐祐理さんは一足先に店から出た。

そして舞が出てくるのを待つ。

しかしいつまで経っても舞は出てこない。

「おかしいな?」と思い、祐一と佐祐理さんが店内をのぞき込んでみると舞が店員と口論しているではないか。

慌てて二人は店内へと舞い戻った。

 

 

舞:「牛丼並は280円に値下がりしたって新聞に載っていた。」

店員:「だからそれは8月1日からなんですよ。今日は7月6日、まだ値下げ前なんです。」

舞:「牛丼並は280円に値下がりしたって新聞に載っていた。」

店員:「だからそれは8月1日からなんですよ。今日は7月6日、まだ値下げ前なんです。」

舞:「牛丼並は280円に値下がりしたって新聞に載っていた。」

店員:「だからそれは8月1日からなんですよ。今日は7月6日、まだ値下げ前なんです。」

舞:「牛丼並は280円に値下がりしたって新聞に載っていた。」

店員:「だからそれは8月1日からなんですよ。今日は7月6日、まだ値下げ前なんです。」

 

 

 どうやら店員は祐一と似た性格の持ち主であったらしい。

えんえんと同じ話を繰り返している。

事情を聞いた佐祐理さんが舞を宥めるが舞は言うことは聞こうともしない。

(舞の奴も結構強情だからな・・・・)

祐一がそう思っていると佐祐理さんが財布を取りだした。

どうやら舞の説得は諦めたらしい。

しかし舞は佐祐理さんの手をつかむと動きを止めた。

「佐祐理には払わせられない。」

「それじゃあ舞、お金払おうよ。」

「いや、一杯280円以上は絶対に出さない。」

舞の言葉に佐祐理さんもすっかり困っている。

そこで祐一は渋々、仕方が無く、いやいや、泣く泣く財布を取りだした。

「・・・俺が払うよ。」

すると舞は頷いた。

「祐一が払うなら別に構わない。」

 

 

 かくして奢って貰うはずの祐一が奢る羽目になってしまったのであった。

これがまさにデフレスパイラルの落とし穴?

 

 

 

あとがき

昨夜、Yahooのニュースで「吉野家 牛丼常時280円に」というのを読んで考えたネタ。

ちなみに制作時間は一時間です。

ただもっとすっきりまとめても良かったかな?とも思うけど。

しかも完全に時事ネタ。

一年後の読んでも意味不明のSSでしょうね。

ちなみに私はす○や派です。

 

 

2001.07.06

 

 

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