彼女が食事をよく食べた理由

 

 

 

 日曜日の朝、折原浩平は目覚まし時計の音で目を覚ました。

浩平は寝ぼけ眼のままベッドを這い出すと目覚まし時計の上に着いてるボタンに手を伸ばす。

「ポッチっとな。」

お約束の台詞を言いながら祐一は目覚まし時計のけたたましい音を止めたのである。

そして二度寝することなく寝間着を脱ぐと着替え始める。

 

 

(男の着替えシーンなど詳しく描写したくないので省略)

 

 

 着替え終えた浩平は朝食を食べるため一階へと下りた。

そして台所に入ると珍しいことに叔母さんの小坂由起子がそこにいた。

「おはよ〜っす。」

浩平が朝の挨拶をすると由起子さんはけだるそうな顔を浩平に向けた。

「・・・あら、瑞佳ちゃんに起こされないであんたが起きるなんてめずらしいわね。」

「・・・由起子さん、いきなりそれはないだろ・・・。」

浩平は肩を落とした。

するとそんな浩平の様子を見た由起子さんは声を上げて笑った。

「冗談よ。それより今日は妙に早起きね。彼女とデート?」

「ああ。」

浩平は頷いた。

ちなみに由起子さんにはすでにみさきのことは紹介済みである。

だから話が進むのも早かった。

「それじゃあ今日のお昼はいらないわね。」

「たぶんというか間違いなくそうだ。」

そこまで言ったところで浩平はあることに気が付いた。

「あれ?由起子さん、今日は休みなのか?」

「ええ、そうよ。」

あまりに珍しいことに浩平は驚いた。

「日曜日に休みなんて何年ぶりだ?ちょっと覚えていないぞ。」

浩平の言葉に由起子さんは苦笑いした。

「まあ管理職になってからは無かったわね。でもこの頃仕事も落ち着いてきたしわざわざ休日出勤しなくても平気になったから。」

「それは良かったじゃないか。これでゆっくり休めるようになるだろ。」

「そうね。それより浩平、朝食いいの?」

そこで浩平は朝食を食べに台所に来たのにも関わらず未だに何も食べていなかったことに気が付いた。

「・・・食べる。」

浩平はいそいそと朝食を食べ始めたのであった。

 

 

 朝食を食べ終えた浩平は家を出た。

そしてみさきを迎えに行くため、すでに卒業したはずの高校へと足を向ける。

みさきの家は高校の真ん前であったからである。

 

 

 ピンポ〜ン

 

 いつもように川名家に到着した浩平は呼び鈴を鳴らす。

するとバタバタと足音が響いてきたかと思うとみさきが顔を出した。

「浩平かな?」

「おう、浩平だぞ。」

浩平がそう言うとみさきはニッコリ微笑んだ。

「いらっしゃい、浩平が来るのを今か今かって待っていたんだよ。それじゃあ行こう。」

そう言ってみさきは玄関の片隅に置かれていた靴を履こうとしゃがみ込んだ。

その時、玄関から続く廊下の奥の部屋からみさきの母親が顔を出した。

「あら、浩平君来たのね。今日もみさきをよろしくね♪」

「はい、お任せください。」

浩平がそう言うとみさき母は悪戯っぽい表情を浮かべた。

「浩平君も若いんだから無理ないと思うけど避妊はしっかりとね♪」

その言葉に若い二人は思わず咳き込んだ。

「お、お母さん!!!」

「お、おばさん何を言うんですか!!!」

だがみさき母はそんな二人をにこにこと笑って見つめるだけ。

「行こう浩平!」

恥ずかしくなった二人は急いで玄関を飛び出したのであった。

 

 

 

 「もう、お母さんたら〜。」

みさきは家を出てからしばらくずっとそんな言葉を漏らしていた。

やはり恥ずかしかったのであろう。

そこで浩平はちょこっと意地悪を言ってみた。

「でも本当のことだしな。」

するとみさきは頬をプクーとふくらませた。

「浩平、意地悪だよ〜。私すっごく恥ずかしかったんだからね。」

そう言うと頬をふくらませたままプイと横を向いてしまう。

そこで浩平はみさきにぺこぺこ謝った。

「ごめん、みさき。みさきがそんなに恥ずかしがっていたなんて分からなかったからさ。」

「・・・・・・」

みさきは無言のまま浩平の隣を歩き続ける。

そこで浩平はとっておきの切り札を出した。

「先輩、もし許してくれるなら何でも奢るぞ。」

するとみさきは浩平に顔を向け、そして言った。

「浩平、それ本当?」

「ああ、本当だとも。」

浩平がそう言って頷くとみさきはようやく笑顔を見せてくれた。

「それなら許してあげるけど・・・私、もう先輩じゃないんだからね。」

「悪い悪い。ついこういう場面では何となく。」

「・・・まあいいけどね。それより今日は何処へ連れて行ってくれるのかな?」

みさきの言葉に浩平は張り切った。

「任せて置いてくれ!!」

浩平はみさきの手を取ると歩き始めた。

 

 

 

 

 「とっても良かったよ。」

音楽のコンサート会場から出てきたみさきは嬉しそうに言った。

そんなみさきの様子に浩平はうれしさを溢れさせつつ、ちょっと残念そうな表情を浮かべた。

「でも場所が市民文化会館だからな・・・。もっと良いコンサートへ連れて行ってやりたかったんだが。」

「でも良かったよ。私こういうコンサート、初めて来たからね。」

「それなら良いんだけどな。それよりみさき、食事にしようぜ。どこがいい?」

すでにお昼過ぎ、ということもあってみさきもお腹をすかせているだろうと浩平はそう言った。

するとみさきはニッコリ微笑んだ。

「浩平に奢ってもらえて嬉しいよ。実は一度行ってみたいところがあったんだ。そこへ行こう♪」

そこで浩平はみさきに聞いた住所と店名を頼りにその店を探し始めた。

 

 

 「ここか・・・」

浩平はみさきの言った店の前で立ち尽くしていた。

「どうしたの、浩平?」

それに対してみさきは不思議そうな顔をしている。

まあ目が見えないのだからこのお店がどんな所なのか分かっていないのであろう。

そこで浩平はみさきに尋ねてみることにした。

「・・・なあみさき、この店どうして知ったんだ?」

するとみさきは小首を傾げながら浩平に言った。

「あれ?なんか変だったかな、雪ちゃんに聞いたんだけどね。恋人同士が来るのにはピッタリなお店だって。」

(深山先輩・・・何か俺に恨みでもあるのか?)

浩平はみさきの親友にそう思わざるを得なかった。

たしかに目の前にあるお店は恋人同士で来るにはピッタリなお店であった。

みさきがごく普通の食欲の持ち主ならば文句も言わずに奢っていたであろう。

しかし浩平は躊躇した。

なぜならばはっきり言って無茶苦茶高そうであったからである。

しかし浩平はすぐに折れた。

なぜならば楽しみにしているみさきの顔を見てしまっては今更「他の店にしよう」などとは言えなかったからであった。

(・・・今月は苦しいな・・・)

財布の中身を考え、多少というか思いっきり落ち込みつつ二人は高そうなお店へと入っていった。

 

 

 

 テーブルに着いた浩平はみさきの為にメニューを読み上げる。

これは二人で食事に行ったときの定番というかいつもすることであった。

そこで浩平はメニューを一通り読んだ後、言った。

「どうする?メニューの最初から最後まで一品ずつ頼むか?」

全メニュー制覇するかどうか浩平が尋ねるとみさきは首を横に振った。

「うんん、別にいいよ。それよりも浩平は何にする?」

珍しいこともあるもんだと思いつつ浩平は自分が注文しようとした名前を言った。

するとみさきは浩平が驚愕するようなことを言った。

「私、浩平と一緒ので良いよ。」

 

 みさきの言葉を聞いた浩平は完全に固まった。

何も言うことが出来ない。

「ねえ、浩平。どうしたの?」

「・・・はっ!悪い、ちょっと永遠の世界に行きかけていた。

・・・それよりもみさき、俺が頼もうと思っているのはそれほど量はないんだが。」

するとみさきはうんとばかりに頷いた。

「分かっているよ。でも私そんなに今は食欲無いし。」

「何!?一体どうしたんだ!!!!」

今度こそ浩平は心底驚愕した。

あの、あの『学食の帝王』の称号を持ち、数々の伝説を作ったみさきが食欲がない・・・?

意外な言葉に浩平はみさきに慌てて尋ねた。

「どうしたんだ?具合でも良くないのか!!それともさっきおばさんが注意したようにご懐妊したのか!!!」

 

シーン

 

それまで賑やかだった店内は一瞬にして静まりかえった。

そして多くの客の視線が集まる中、みさきは顔を真っ赤に染めつつ首を横に振った。

「違うよ。だいたい妊娠したら普通食欲って増すもんなんだよ。」

「そうなのか・・・」

浩平は新たな知識を手に入れた。

「そうだよ。だって二人分の栄養をとらなくっちゃいけないんだからね。」

言われてみればその通りだ。

そこで浩平はみさきに言った。

「じゃあみさきって今まではお腹の中に8.9人抱えていたのか?」

浩平のアホな言葉を聞いたみさきは頬をふくらませた。

「浩平、ひどいよ〜。」

「じゃあ一体どうしたんだ?」

浩平が心底心配そうに尋ねるとみさきは微笑んだ。

「・・・実はね、浩平が帰ってきてくれてから少しずつ食欲は無くなっていたんだよ。気が付かなかった?」

「いいや。」

浩平が即答するとみさきはちょっとガッカリしたようであったがすぐに気を取り直した。

「浩平と今まで足を踏みれられなかった場所に行って、楽しく過ごして・・・・。

気が付かなかったけれど私、自分だけの世界に閉じこもってストレスを感じていたみたいなんだよ。

だから過食症みたいのになっていたんじゃないのかな。」

「そうだったのか?」

全く予想だにしていなかった言葉に浩平は驚いた。

するとみさきはコクンと頷いた。

「うん、そうみたい。

考えてみればいつも家と学校を往復するだけ、学校内では色々なお友達と楽しくやっていたけど家に遊びに来てくれるのは雪ちゃんだけだったしね。」

 

 なるほど、たしかにそう言われてみればそうかもしれない。

だが一つ疑問があったので浩平はみさきに尋ねてみた。

「普通過食症っていうのは食べ過ぎてよく戻したりする、っていうけどそうじゃないのか?」

その言葉にみさきは頭をかいた。

「実はもともと大食いの素質があったみたい・・・・」

 

 「プッ!!」

みさきの言葉に浩平は吹き出した。

するとみさきがまた頬をふくらませた。

「浩平、今日はいつにも増して意地悪だよ〜。」

「悪い悪い、でもみさきもいけないんだぜ。」

浩平の言葉にみさきは不思議そうな表情を浮かべた。

「なんで私が悪いの?」

そこで浩平はみさきに言った。

「そりゃあ過食症とか一人だったからとか深刻な話をしておいて最後は大食いの素質があっただぜ。

笑いを堪えられるわけ無いじゃないか。」

「それはそうかも知れないけど・・・。」

「だろ。まあでもみさきを傷つけたんなら謝るよ。」

そう言って浩平は頭を下げた。

するとみさきは「しょうがないな〜」といった感じのほほえみを浮かべた。

「浩平、仕方がないから今日は特別に許してあげるよ。その代わりまたここに連れて来てね♪」

みさきの言葉に浩平は力強く頷いた。

「任せておけ。みさきの食事の摂取量が減ったんならそれほど財源を圧迫しないからな。何度だって奢ってやるぜ。」

「・・・許すの止めようかな・・・」

 

 

 

 そんなことを言いつつも結局はやはり浩平を許してしまう見た目はお嬢様、川名みさき嬢なのでした。

お終い、チャンチャン。

 

 

 

あとがき

ひさしぶりのONESSはまたみさき先輩です。

これで三作目だよ、他のキャラはまだ一回しか書いていないのにな。

実はパロネタで一作、構想があるんですが忙しくて書く暇がないですよね。

やはり社会人は大変です。

 

2001.05.16

 

 

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