ザァー
俺は雨が降る音で目を覚ました。
「なんだ、今日は雨か・・・」
俺はそうつぶやくと寝ぼけ眼のまま茜に貰った目覚まし時計、おれが永遠の世界に行ってしまったあのときに誕生日プレゼントとして貰ったやつに目をやった。
「なぁ!?」
俺はあわてて飛び起きた。
なんと時計の針は午前10時を指していたのだ。
「まさか時計が狂っているのか?」
俺はあわてて一階のリビングに飛び込むとテレビをつけた。
しかしそこに映し出された時報は紛れもなく午前10時であった。
「やばい!!遅刻だ!!!」
俺はあわてて二階に駆け上がるとパジャマを脱ぎ捨て、私服に着替えた。
そして
「行って来ます!!」
誰もいない家にそう叫ぶと傘をさして急いで俺は玄関を飛び出した。
俺が待ち合わせの場所に着いたとき、茜は俺をジト目でにらみつけていた。
「・・・浩平、何か言い訳は?」
「うーん、目覚まし時計が壊れていた・・・じゃ駄目か?」
「駄目です。大体私があげたプレゼントのせいにするなんて酷すぎます。」
「すまん。寝坊したんだ。」
やもなく俺は素直に謝った。
それを聞いた茜は俯きながら大きくため息をつき、そして顔を上げた。
そこにはもう怒っている様子は見えなかった。
「・・・仕方がないですね。それでは行きましょう。」
そう言って歩き出した茜の後を俺は追いかけた。
二人は雨の降りしきる仲、傘を差して歩いていく。
「・・・雨は嫌だな。」
俺が空を見上げながらそう言うと茜も頷いた。
「・・・そうですね。雨は・・・嫌です。」
茜の反応に俺は申し訳なさを感じた。
俺の場合の雨が嫌なのは濡れるのが嫌だとか憂鬱になる、ぐらいだが茜の場合は違う。
俺と・・・消えた幼なじみ。
いずれも雨の日にあの空き地で消えたからな・・・てこの道は・・・。
「気がつきましたか?」
茜が俺の様子に気がついたのであろう、そう声をかけてきた。
「・・・ああ。あの空き地への道だな。」
俺の言葉に茜は頷いた。
そしてそのまま二人は無言で雨が降りしきる中を歩いていく。
「ここです。」
立ち止まった茜が指し示した場所には何軒もの新築家屋が建ち並んでいた。
「・・・家が建ったんだな。」
俺の言葉に茜は頷いた。
「・・・ここで工事が始まった時・・・私は待ち続ける場所を奪われたんです。」
俺は茜の背中見ながらその独白を黙って聞き続けた。
「そんな私に出来たこと・・・それは静かにあなたの帰りを待ち続けるだけでした。あなたの言葉をただ信じて・・・。」
「茜・・・」
俺は傘を落とすと茜を背中から抱きしめた。
たちまち俺は雨で濡れてしまうがそんなことはお構いなしだった。
それからどれくらい経っただろうか。
気がつくと雨は止み、雲の切れ目からは青空をのぞくことが出来る。
「浩平・・・」
俺の腕から離れると茜は俺の方を向き微笑んだ。
そして言った。
「お帰りなさい」
と。
「なんであそこに俺を連れていったんだ?」
元空き地から離れた俺は茜に聞いてみた。すると茜は微笑みながら言った。
「・・・あそこで浩平を出迎えたかったんです。」
「そうか、ありがとう。」
俺はぶっきらぼうにそう言った。
正直言えば素直に感謝の言葉を述べるのが照れくさかったのだ。
そんな俺の心中を察しているのか茜は黙ったままであった。
「ところで一体どこへ行くんだ?」
俺は照れ隠しのために隣を歩いている茜にそう声をかけた。
すると茜は微笑みながら言った。
「お返しをくれるんでしたよね。」
「お返し?」
すると茜は俺を攻めるような視線を向けてきた。
「・・・まさか忘れたんですか?」
そのあまりの剣幕に俺はあわてて言った。
「覚えているよ。誕生日のプレゼントだろ、って今日なのか?」
俺が聞き返すと茜は頷いた。
「はい、そうです。」
「嘘ついていないか?」
俺が聞き返すと茜は言った。
「私は浩平ではありませんよ。」
グサッ!!
「茜の一言は俺に会心の一撃を与えた。」
「・・・何を言っているんですか、浩平。」
茜があきれたような視線を向けてきたので俺は笑った。
「冗談だよ。それにしても俺、何にも準備していないぞ。」
「大丈夫です。これから二人で買いに行くんですから。」
「何がほしいんだ?」
「浩平も知っているはずですが?」
「ま、まさかあれなのか?」
俺は恐怖のあまり恐れおののいた・・・って冗談だが。
「そうです、あれです。」
「勘弁してくれよ〜。」
俺は茜に泣きついた。
いくら1年間ほったらかしにしていたとはいえさすがに50万円はしがない学生の身には高すぎる。
俺の泣き言を聞いた茜はクスリと笑った。
「大丈夫ですよ。浩平が言ったとおりしっかり売れ残って、今なら十分手が届く値段になっていますから。」
「それなら平気だが・・・」
俺は安堵のため息をもらした。
「安心したところで早くいきませんか?」
茜がそう言ったので俺は頷き、手を差し出した。
「・・・この手はなんですか?」
「もちろん茜と手をつなぐんだ。」
「・・・嫌です。」
「何でだ?」
俺が聞き返すと茜は頬を赤らめながら小さな声でつぶやいた。
「・・・恥ずかしいですから」
か、可愛すぎる・・・、俺は心の中でそう思った。
だがここは心を鬼にしなくてはならない、というわけで俺は茜手をつかんだ。
「あっ・・・。」
「よし、行くぞ。」
「・・・はい。」
俺は茜とともに商店街へと、向かった。
一年越しの約束を守るために・・・・。
あとがき
ONESS第三弾は里村茜です。
前二編よりもちょっと長めになってしまいました。
やっぱゲームに深く関わっているだけのことはありますよね。
次回作は七瀬留美の予定です。
お楽しみに。
平成13年2月1日