(注)このSSは長森ED3.4日後ということになっています。
チュンチュン チュンチュン
「ううーん・・・。」
俺は窓の外から聞こえてくる雀の声に気がついた。
カーテンの隙間からは朝日が射し込んでくるのがわかる。
しかし俺は決して起きようとはしなかった。
この朝のまどろみ。
起きなくてはいけない時に寝ている快感。
俺の眠りを妨げるやつは何人たりとも許さねえ、である。
ガチャン
何か玄関が開いたような音が聞こえた。
しかし俺は相変わらず惰眠をむさぼっている。
タンタンタンタンタン
何者かが階段を駆け上がってきているらしい。
それでも俺は決して起きようとはしない。
そうこうしているうちに俺の部屋の扉が勢いよく開いた。
そして
カシャーッという音ともにカーテンが勢いよく開かれ、朝日が布団の中でまどろんでいた俺の目の奥を貫く。
「浩平っ!!朝だよ!ご飯食べて学校に行くんだもん!!」
薄目でちらっと見るとそこには幼なじみ兼世話係の長森瑞佳がいた。
「うーん、あと一時間・・・。」
俺は少しでも多く眠ろうと悪あがきをしようとしたが通用しなかった。
「起きるんだよー!!」
そう言うと思いっきり布団を引っ剥がしたのだ。
あっという間にぬくもりは消え、俺の体は冷気に包まれた。
「さ、寒いじゃないか瑞佳!」
俺は起きあがるとそう抗議したが瑞佳は
「浩平がちゃんと起きないからいけないんだもん。ほらほら早く着替えて・・・。」
そう言うと俺に着替えを押しつけた。
「わかったよ、着替えりゃいいんだろ・・・。」
俺はぶつくさ言いながらぱっとパジャマを脱ぎ捨てた。
「きゃー!!」
悲鳴をあげると瑞佳のやつはあわてて両手で目をふさいだ。
「な、何をするんだよ〜。」
「まあいいじゃないか。お互いに知らない仲でもないし。」
俺はにやにや笑いながらそう言うと瑞佳のやつは顔を真っ赤にして叫んだ。
「ば、馬鹿〜!!」
そしてあわてて俺の部屋を飛び出るとバタバタと廊下を走っていく。
そして「ドカドカドカー」というすごい音と
「あたたたた。」
という瑞佳のやつの情けのない声が聞こえてきた。
「階段から落ちたな。」
俺はそうつぶやくとさっさと制服を着込み、鞄を手にすると階段をゆっくりと降りていった。
俺は一階のリビングのソファに腰をかけるといつものごとく朝の連続ドラマ(ここ一年近く見ていなかったが)
を見ようとテレビのスイッチを入れ、チャンネルを合わせた。
しかしいつまでたってもドラマは始まらず、たたニュースキャスターがぺらぺらしゃべっているだけ。
おかしいと思ってテレビの時報を見てみるとまだ時間はたっぷとあった。
「おい、瑞佳!!」
俺が台所に向かってそう叫ぶと由起子さんが作っておいてくれた朝食を温めた瑞佳がはこんできたところで
あった。
「はい浩平、おまたせ。」
「おう、ありがとう・・・じゃなくってなんでこんなに早く俺を起こしたんだよ!!」
俺が食ってかかると瑞佳のやつはいきなりしゃくり上げ始めた。
「だ、だって・・・このままだと浩平留年しちゃうんだもん。一緒に卒業したいよ・・・。」
「瑞佳・・・・。」
俺はなにも言えなかった。
俺が永遠の世界に行っていた時間。
不思議なことにその間の俺は病気で療養していたことになっていたのだ。
当然出席日数は全然ゆとりがない。
だから遅刻・早退・欠席は絶対に厳禁なのだ。
「悪かったな瑞佳・・・。」
俺はそうつぶやくと瑞佳を力強く抱きしめた。
「こ、浩平!?」
驚いたようにあわてふためいている瑞佳の耳元に俺はささやいた。
「俺に抱きしめられるのはいやか?」
それを聞いた瑞佳は首を横に振った。
「そんなことあるわけないもん。私はずっと浩平が帰ってくるのを待っていたんだよ・・・。」
瑞佳は俺の胸に顔を押しつけるとそうつぶやいた。
「瑞佳・・・。」
俺と瑞佳の二人はそのまま時が流れるのも忘れて抱き合い続けた。
しばらく経って・・・俺はある音に気がついた。
同時に瑞佳のやつも気がついたらしい。
その音の発生源は俺がつけっぱなしのままにしておいたテレビから流れていた。
それは朝の連続テレビ小説・・・午前8時15分を告げるものであった。
「た、大変だよ浩平!!急がないと遅刻しちゃうよ!!!」
「わかっている!!」
俺は素早くさめてしまった朝食を口に放り込むと30秒で歯を磨いた。
慣れたことなので瑞佳は玄関に先に出て待っている。
俺は鞄をひっかむと玄関を飛び出し、そして鍵をかけた。
「行くぞ瑞佳!!」
俺は瑞佳の手をつかむと走り出した。
一瞬びっくりしたらしい瑞佳も
「うん!!」
そう叫んで俺と一緒に走る。
それが永遠よりも俺が望んだ何気ない、しかし揺るぎのない真実なのだから・・・。
あとがき
おねSS第二弾は完璧な幼なじみ長森瑞佳嬢の出番です。
いやー、実に書きやすいキャラでした。
というわけでそのうちまた書くかも。
平成13年1月30日