うららかな日々

 

 

 俺は「川名」という表札がかかった玄関のチャイムを押した。

ピンポーン

チャイムが鳴り響くと扉が開いた。

「遅いよ、浩平くん。十分の遅刻だよ。」

頬を膨らませて言ったみさき先輩の容赦のかけらもないその一言に俺は頭をかきながら謝った。

「ごめんみさき先輩。つい寝坊しちゃってさ。」

俺がそう謝るとみさき先輩はにっこり笑った。

「今回だけは特別に許してあげる。だって浩平君、ちゃんと帰ってきてくれたんだから。」

「先輩・・・」

俺が消えて一年・・・・ずっと待たせっぱなしだったんだよな。

「でもね、次からは駄目だよ。女の子を待たせちゃいけないんだからね♪」

 

 

 俺が永遠の世界から帰還してまだ一週間ちょっと。

今日はあのときのデートのやり直しなのだ。

というわけで俺はみさき先輩とあの時の公園へとやってきていた。

あのときと同じく桜が満開に咲き乱れている。

俺と先輩は公園のベンチに座った。

俺が永遠の世界に旅立ったときのあのベンチだ。

「桜・・・きれいなのかな?」

みさき先輩の言葉に俺は

「おう、すごくきれいだぞ。」

と答えた。

するとみさき先輩はにっこりほほえんだ。

「やっぱりそうだと思っていたよ。良い香りがするもんね。」

そのときパァーと風があたりを吹き抜けていった。

あわててみさき先輩は髪の毛を左手で押さえようとするがその艶やかな黒髪が風になびき、そして同時に

桜吹雪が通り過ぎていく。

 

 しばらくして風がおさまったところで俺は先輩に言った。

「まあ先輩。あのとき食べられなかったアイス・・・食べないか?」

「えっ!?」

みさき先輩は一瞬、ビックとした。

をの反応に俺は申し訳なさを感じながらも力強く言った。

「大丈夫。今度は消えないよ。」

「・・・うん。それじゃあ一緒に行こうよ。」

「ああ。」

というわけで俺は先輩と手をつないで公園の片隅にあったアイス屋へと歩いて行く。

 

 

 「浩平君は何にする?」

みさき先輩の言葉に俺は考え込み、そして言った。

「やはりここはバニラだろう。」

それを聞いたみさき先輩は朗らかな笑顔で笑った。

「そうだよね。今日はあのときのやり直しなんだもの、私もチョコミントにしよっと。」

そういうとみさき先輩は注文すると慣れた手つきでアイスを受け取った。

俺は財布から金を取り出し支払うと先輩と二人、またあのベンチに座ってアイスをなめ始めた。

 

 「やっと浩平君と一緒にアイス食べられたよー。」

みさき先輩の言葉に俺はうなだれた。

「・・・ごめんな先輩。一年も待たせてしまってさ。」

「ううん。いいんだよ。それよりこの後はどうするのかな?」

その言葉に俺はみさき先輩の手に視線をやった。

そこにはもうアイスは影も形も見えなかった。

「・・・俺のをやろうか?」

みさき先輩にそう声をかけると先輩は首を横に振った。

「気持ちはうれしいけど駄目だよ。ちゃんと浩平君が食べてね。次からは遠慮なく貰うから。」

「わかった。次からそうさせて貰うよ。」

そういうと俺は急いでアイスを平らげた。

みさき先輩なら5.6個は食べられる時間だったが。

そして俺は手をパンパンたたきながらベンチを立ち上がるとみさき先輩に声をかけた。

「それじゃあ先輩、行こうか。」

「うん、エスコートよろしくね。」

そう言って差し出されたみさき先輩の手を取ると俺たちは歩き出した。

 

 永遠ではない、ごくありふれた日常を。

 

 

あとがき

「ONE〜輝く季節へ」の川名みさき先輩SSです。

いまさらONEか、とは言わないでくださいね。

なんせ私がクリアしたのはまだ二週間ぐらいなんですから。

 

平成13年1月29日


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