パソコン奮闘記

私がパソコンを購入したのは、95年の夏の終わりです。

最初は、ワープロを買うつもりで出かけました。

電気店で様々な機種の列んでいるのを見て、どれにしようか迷い始めて

いました。パソコンの使用価値も何にも分かっていない私には、値段の

割に、色々なことが出来るらしいテレビに似たコンピューターが妙に

気になっていました。とても魅力的に思えたのです。その頃の私は、

パソコンが何であるかも知りませんでした。店員に聞きました。

「家計簿なんかに使えますか?」

店員は、特上のサービス笑顔で答えてくれました。

「家計簿どころか絵を描いたり、ゲームも出来ますし、当然ワープロも

打てますし、印刷もできます。それに、パソコン通信などを楽しむことも

出来ますからね!」「パソコン通信?」その一言にますます興味の虫が

騒ぎ始めました。もう、その頃にはワープロの事なんかわすれてしまって

いました。何でも出来る魔法の箱みたいに思えたんです。

薦められるままに、一台のパソコンを購入しました。


翌日大きな箱が届きました。

でも、どうしたらいいのか解りません。

配達に来た電器店の人は、購入するときと同じく、「繋げば使えます

から!」とだけ言って帰ってしまいました。私は、テレビのアンテナを

接続するのと変わらないのだと思いました。

とりあえず説明書を見ながら格好だけは整い、さて電源をオン!

嬉しかったですね...ジャジャーンの音とともにウィンドウズのロゴマーク

が出てきた時。そして、WIN3.1のタブウオークが表示されインストール

されているプログラムが一覧されました。

何もかもが生れてはじめて触わる物です。マウスのカーソルのある場所

さえ画面上で探すことも出来ません。肩にも腕にも指にも力が入り、勝手に

クリックされて画面が変わります。

表示されている画面が何を指示しているのか、何のファイルが表示されて

いるのかも解りません。ほんとに何が何だかさっぱりわからないのです。

説明書を読むのですが、書いてある内容の意味がわからないのです。

購入した電器店に電話できくことにしました。

ところが、質問しようにもなんて聞けばいいのかがわからないのです。

とにかく画面を見たままに伝えたのですが、要領を得ないまま「正常に起動

していますから、説明書をよく読んでください、それで解らなければメーカー

のサポートに電話して聞いてください、こちらでは詳しいものがおりません

ので!」「サポート?」...って何?それって何処?

私の頭の中は、クエスチョンマークだらけになってしまいました。

説明書っていわれても、何冊もあってどれがどれを説明しているのやら..

ため息がでました。しばらく説明書を読みましたが、解ったことは

ウィンドウズを開いたまま電源を切ってはいけないという事くらいで、

いまだから笑えるのですがその頃の私には、その「ウィンドウズ」が

何なのかがわからなかったのですから。

何でこんな物買ってしまったのかな..なんて、つい数時間前までの

嬉しさはどこへやら、恨めしいやら情けないやらで、ひどくやっかいな

大きな物を目の前にした気分になってしまいました。

私のパソコン操作の奮闘はその日から始まりました。

電源を入れました。しばらくするとジャジャーンの音と共に

画面にカラーの模様(WINDOWSのロゴマーク)がチラチラ動きます。

マニュアル本には、画面の絵が書いてあり絵の画面には三角の

矢印が見えます。「?なんやろう..これ!」「マウス?カーソル?」

電源の入った画面は、いつのまにかアドレス帳の様な形の画面に変わって

いました。その画面の中に矢印を探しますが見つかりません。

アイコン.クリック.ダブルクリック.ファイルなどの活字が本の

ページには何度も出てきます。

今だから笑えるのですが、初めてパソコンを手にした私はすぐにも使いたい

欲求が優先していたものですから読み急いでしまっていました。

付属されているものの使用方法などのかいてあるページがあった事に

気が付いたのは何日も後のことです。

パソコンに添付されていた(カスタマーサポート)というところに電話を

する事にしました。前日に購入したお店に電話した時に教えてもらった所です。

でも、なかなか繋がりません。少しの時間を置いてかけ直しましたがやっぱり

繋がりません。

私は、マニュアル本を片手にとりあえず、キーボードをたたきました。

どうなるか見てみようと思ったのです。パソコンの内部から機械音が一際高く

なり、画面が変わります。何度かキーボードの左右の矢印キーを叩くうちに

突然に画面に何やらメッセージが現れました。

「***を削除します。」

でも、私は、メッセージを読み取る前にキーを押してしまっていました。

意識して押したわけではなかったので、どのキーを押したのか解らないのですが

とにかく機械音がジリジリと音を発て始め、それまで画面に出ていた画像が

次々と消えていきました。

この時は知る筈も無かった事なのですが、後々私がパソコンを使っていくのに

大変な難儀をする事になるのです。

やっとのおもいでカスタマーサポートにつながり

最初に聞かれたことは「今お使いになっているパソコンのOSと周辺機器を教えてください」

OS?周辺機器?聞かれた事の意味が分りません。

そういえば、マニュアル本にも書いてあったような?

廻りに散乱したものを見渡すとMicrosoft Windowsの活字が目に付きましたから

「本にMicrosoft Windowsって書いてあるのと...それから周辺にはオーディオとか

テレビとかを置いていますがそれに繋ぐのでしょうか?」

「え....と..?あのう購入されました時にお店の方が3.1とか95というような事を

言っておられませんでしたでしょうか?」 サポートのお姉さんの困惑したような、少し

笑いを堪えたような問いに、そういえば店員さんが、95になってもWindowsは使えます

とかなんとか言ってたような......。

その旨伝えると、今度は、「あの..大変失礼ですが、お客様はこういう機械は初めて

ご使用でしょうか?」「はい!触るのも今回が初めてなんです!」

「そうですか.....。」しばらく会話が途切れてしまいました。

私がパソコンを購入した時期は、Windows95の導入が騒がれていた真っ最中だったので

店先の展示品はWINDOWS3.1がほとんどでした。

「では、お客様は初めてご使用という事なので、最初からおたずね致しますので

順番に指示どおりに触っていただけますか?」そういってから電源を入れる前に戻り、

あらためて電源ON!そして、先ほどまでの行程まで来て又、私の質問。

「画面に三角の矢印が見えないのですけど?」

「マウスを動かせて見てください。隠れている場合がありますから。」

「動かす?????」

「マウスは手元にありますか?」

「はい!ここにあります。」私は、四角い箱型のものを受話器の側で少し振って見ました。

「それを平らな面で動かせて下さい...如何ですか?」

画面にはなにも出てきません..。前後左右にくるくると動かせてはみるのですが..。

「見つからないです!」「変ですね...本体に接続されてる筈ですが..!」

あ..さっき抜いたあれかな?マウスから伸びてる線を確認..接続してなかった!!

私のうっかりボケもあってなかなか先へ進まない..電話してからもうすぐ一時間に

なろうとしていました。マウスを動かせているうちに身体の位置まで移動していきます。

でも、相変わらず画面に三角の矢印を見つける事が出来ません..って言うより

時々は見えるのですが、少し触ると直ぐに何処かへいってしまうのです。

でもまあ、何とか画面の真ん中で矢印を止める事が出来ました。

「小さな絵の上で左側のボタンを二回カチカチッと押してください!」

指示に従ってカチカチとやってみますが、手をちょっと動かすと矢印も動きます。

左手で、右手が動かないように支えます。それでもなかなか矢印は静止していては

くれません。だんだんと肩に力が入ってきて背中までが痛くなってきます。

「すみません!マウスが机の端っこに来たんですけど、手元に戻そうとすると

矢印が何処かへ行ってしまうんです。どうしたらいいですか?」

サポートのお姉さんの笑う声が聞こえて「そっと持ち上げて元の位置まで持ってきて

下さい。」なるほど!!マウスの動きに合わせて画面から遠くなった身体の位置を

戻します。此処までやっても、まだ、幾らも操作が進みません。

受話器を片手に持ってマウスと格闘して、どのくらい時間を過ごしたでしょう。

その間、サポートのお姉さんは、無言で私が次の段階に進んでいくのをまっていて

くれていました。そうこうしてとりあえず、クリックで画面が変えられる事は学んだのです。

で、時間も長くなり、今日の所はマウスの動きを学習するという事で電話を切る事に

成ったのですが、私は一つ聞きたかった事を思い出しました。

「あのう!本にファイルって書いてあるんですけど、私のパソコンにはファイルは

一枚も添付されてないようなのですが...。」

サポートのお姉さんの絶句したのが受話器を通して伝わりました。

ファイル..ふぁいる..ファイル..

当たり前の事を聞いてるように思われるでしょうが、度素人の私には

ファイルって言われてもバインダーで留めた紙のファイルしか頭に浮かんでこないのですから。

しら〜っとしらけた声になってしまったサポートのお姉さんに、スミマセンを

連発しながらファイルのあれこれを教えて貰ったんです。

そしてまたまた、マニュアル本を抱え込む事になってしまいました。

翌日、どうにかカーソルも手の動きと同じ方に動いてくれるようになっていました。

肩が凝ってガチガチになっていましたが、何としてもパソコンを使いたい私は

前日のサポートの内容を復唱しながら、実行していきます。

そして、ファイルマネージャーと言うのを出してみました。

箱の枠の左上に「A」「C」「D」とあります。

本には、ドライブと書いてあります。

「A」は、フロッピー、「C」は、ハードディスク、「ディスク??」「D」は

CDディスクドライブ...等々。「C」のハードディスクって意味がよくわからないまま

先を読み進みます。そして、「C」をクリック!

少しだけ画面が動いて画面いっぱいに黄色のマークの入ったファイル名?が

列んでいます。マークの上にカーソルを合わせ、ダブルクリック!

今度はカタカナ混じりのファイル名がずらりと出てきました。

そのうちの幾つかをクリックして開いてみました。

ゲームが出てきたり、開いたファイルの説明文らしいのが出てきたりして

とにかく「ファイル....閉じる」を繰り返しながら内容の確認をしてみました。

そうして、ライトというワープロの役割をするファイルを見つけました。

私は、何か文章を書き込みしてみることにしました。

キーボードのアルファベット文字を一文字づつ探しながらの作業です。

たった一行書き込むのにも、やたらと時間がかかります。

間違ってキーを叩いて出てきた文字を取り消すためにバックスペースキーを

押したら、長く押しすぎて取り消す必要のない文字まで消してしまったり

変換キーを押したつもりが隣のキーだったりなどで、慌てたり焦ったりしながら

やっと数行の文章を書き込めました。

さて、それからが困りました。どうやって書き上げた文章を残したらいいのか

解からないのです。

「名前を付けて保存」「上書き保存」「保存」....どれにしたら良いのかな?

「保存」したいのだから「保存」かな?

マニュアル本を見ていても迷いました。

でも、取りあえずクリック!すると、「ジャン!」という音...ビックリしました。

まるで機械に叱られた気がしました。

少し慣れた気分が吹っ飛んでしまいました。

「ジャン!」と叱られた意味が分かりませんから、焦ってしまいました。

「このファイルを、無題で保存してもいいですか?」

画面の真ん中にメッセージが開きました。「ああ、そうなんや!初めてやから

名前がいるんや!」

初めてのファイル名を「試作文一号」なんて名前にしまして O .Kをクリック!

あっという間に保存されました。今度は、今保存したファイルを開いてみることに

しました。「開く」をクリック。

あった!あった!...ライト試作文一号!カーソルを持っていって一回クリックで

黒く反転します。そして、O.Kをクリック!

さっき苦労して入力して書いた文章が、画面いっぱいに出ています。

パソコンを触リ始めて、初めての経験です。嬉しくって、片手のガッツポーズが

出てしまいました。何か急にやる気万々になっていきます。

先ほどの文章に続けて書き足すことにして、指二本のキータッチが始まります。

相変わらず、トチッてばっかりのたどたどしさですが、楽しくて..。

カ..チャ、カ..チャの音が嬉しくて夢中になりました。

新しく開いた真っ白い画面に、一字一字まるで一人言のような文章が出来上がります。

画面の端から端まで、びっしり書き込みます。そして、端へ行ったらEnterキーを押す事で

一行下がった所から活字が並んでいきます。

そうこうして、とりあえず画面一杯分の文章を書き終えました。

さて、又保存です。今度は、先に書いた文に書き足したのだから上書き保存..。

クリック!O.K!......保存された筈でした。

再びファイルを開いてみたのです。どんなふうに画面に出ているか見てみたかったから。

あれれ.....?最初に書いた文章が無い?ちゃんとファイル名は合ってるのに..。

またまた解らないことが出てきました。

保存する時、「ライト試作文一号」に上書きしますか?って聞いてきたからO.Kしたのに。

え〜!!どうして〜え〜!!なんでやのーん!化かされた気分です。

試しに同じ動作を繰り返してみました。でも、やっぱり先に保存した筈の文章が無いのです。

何度繰り返しても同じ結果になってしまいます。

それで今度は「名前を付けて保存」にしてみました。

でも、今度は、「同じ名前のファイルが在ります、上書きしますか?」なんて聞いてきます。

O.Kを押したら、前回と同じなのです。じゃあ、名前を変えて...。

今度は、何も聞いてこずに保存したみたいです。開いてみました。

当たり前なのですが、私が付けた二つの名前のファイルが別々に出来ていました。

私は、一つの文章を続けて書き込みたかったんです。

またまた、マニュアル本を読み返すことになりました。

 ああ..そうか!

やっとわかりました。

ようやく、ファイルの保存..という意味が分かりました。

以前に書き込んだファイルを呼び出して開き、続けて書き込んで

「上書き保存」..。

これで途切れ途切れに書き込んでも、長い文章にすることができるようになりました。

そして、後日には、ファイルの挿入、貼り付け或いはペースト..などというような方法を使えば、

別の文章や絵、写真なども取り入れられることも知る事になったのです。

ひとつの操作の理解が出来てくると、面白いほど次々と紐が解けるように頭が冴えてくるもので

私の興味は、マニュアル本におまけでついていたパソコン通信に向けられていきました。

電話に接続するだけで、知らない土地の顔も知らない人と数秒でメールの

やりとりが出来る。

郵便と比較にならない速さでメールの交換が出来るパソコン通信...

わくわくするような好奇心は、まったく知らない別世界を体験できるような期待と

予感に膨れ上がっていきました。

早速、マニュアル本を片手に、設定というものに挑戦です。

またまた、新しい用語が並び立てられていました。

モジュラージャック?ホスト局?通信環境?ID?コマンド?通信モデム?

シリアルポート?COM1、COM2?フロー制御?...うぐぐ..頭が頭痛起こしそうな用語ばっかり。

一人でぶつぶつおしゃべりしながら一つずつクリアさせていきます。

設定が合っているのか合っていないのか、とりあえず完了!接続!

オンラインサインアップ..っていうのをやってみました。

ピポピポパポパ..みたいな音がパソコンの内部から聞こえ、続いて、ピーガー...ガーそして、

すぐにリズミカルな音が聞こえたかとおもったら、急にパソコンの

画面に文字が出始め、一行づつ勝手に文字が流れていきます。

私は、マニュアル本に書いてあるのと同じ記述があるのかパソコンと交互に目で追いますが、

合ってると安心したのもつかのまで?????あれ?なーんにいわない!画面が止まっちゃった。

最初に数行の文字が画面に出てきてそのまま点滅したまま止まってしまっいます。

「ユーザーIDを入力してください」...IDってどこに書いてあるんやろ?

ぱらぱらとマニュアル本をめくってみると...あったあった!!

末尾のページに、シリアルナンバー、アグリーメントナンバー、有効期限..なんて

書いてあるのが目に付きました。

とりあえず、指示の通りにアルファベット交じりの数字を入力していきます。

「クレジットカードの種類を選択し、...入力してください..。」

カードなんて、私持ってないんです。

そこからさきの入力ができなくなりました。

それに、接続したままの状態らしいのですが、切断をどうしたらいいのか解りません。

とりあえずカーソルを画面の上部にあるメニューバーに合わせ、ひとつひとつ

クリックしていくと、接続、切断がありましたから、切断にカーソルをあわせて

クリック!プッ..という音がして、どうやら切れたらしいのですが、ここで、

びっくりするような音「ジャン!!」何回聞いてもこの音は、慣れないですね。

ドッキーン!心臓が飛び出しそうなほどびっくりしました。

マニュアル本の中に添えつけの一枚の紙があって、それには「オンライン

サインアップが巧くいかないときは、この用紙に必要事項を記入し郵送で

サインアップをしていただけます」と書いてありました。

生まれて初めてカードというものを作りました。

十数日後にはめでたく正規の会員になり、私のパソコン通信の始まりです。

最初の頃は、ただただマニュアルに忠実に項目に沿って見るだけの通信の

世界を時間を忘れて楽しんでいました。

開く画面開く画面を次々に追いかけて行きクリックします。

物珍しいのと「どらえもん」のポケットみたいに、いろんなものが画面に

飛出してくるのがただ面白くて夢中になってしまいます。

そうこうしているうちに「オンラインショッピング」の掲示が目に止まりました。

書籍、etc...そうだこの通信ソフトのマニュアルをまだ読んでなかった。

オンラインで購入のための必要事項を書き込みます。

数日後、通信ソフトのガイドが届きました。

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