木々の囁き

フレーム
形あるものは全て、呼吸していると思う。
生きていると表現しても良い。

大きな木があった。
いつも遊びに行く小さな森.
宝探しゲームは、木々の割れ目や枝の重なり、
草地の中に小さく折った
色つきの紙を忍ばせる。
二手に分かれ早く見つけだした方が勝ち。
商品はない。
次の遊びの順番決めをするみたいなものだが、
結構広い高木の多い森の中は、遊びの天才の子供に
とって飽きさせない魅力が溢れていた。

ある時、ゲームの親になった私は
隠す場所を探していた。
無くて困るのではなく有りすぎて目移り
したのだったが、もたもたしていると
大戦相手に見つかってしまう。
私は、ふと思いついた。
ポケットに小さな枝切りナイフをもっていた。

ちょうどナイフの存在に気が付いた頃
私は身体が完全に隠れてしまう大木の側にいた。
両手を伸ばしても到底届きっこない大きさだ。
見ると木の皮がでこぼこしていて隙間が目に留まった。
小さく折りたたんだ紙片を差し込んでみる。
思ったより浅いのか
紙片が隠れてしまうほどの深さは無く直ぐに目立ってしまう。
そこで私は木の皮を小刀で傷つけ浮かしてみた。
皮の下は淡いベージュに近い色になって
その表面から濃い木の香りが漏れだした。

確実にかくれてしまうように深く切れ目を入れようと
木を抱きかかえる格好でこん身の力をいれて小刀を突き立てた。
そのときだった。
まるで、木々の枝が語りかけるような
ざわめきの音を鳴らし始めたのだった。
木のてっぺん付近の枝は葉を揺らし、ハラハラと落としだした。
そして、少し離れた高木も同じように
ざわざわとなり、口笛を吹いているような
音が重なって耳に届きはじめた。
気のせいかも知れなかったが、傷つけた大木の幹が
足元を這って伸びていった根っこに信号を送ったように感じた。

木に耳を当ててみる。
ぞお~んを~んと木の中に人がいて
泣いているような音がする。
足に踏みつけられた木の根っこが
ゆらりと動いたような気がした。
離れたところに植わってる木も同じように
音を出し始めたようだった。

傷つけた傷から少し黄色かかった樹液が流れはじめ、
皮の隙間にしみ込まれていた。
まるで涙が溢れているときのように
盛り上がっては、すーっと流れ落ちる。
泣いている、痛がっている!
そんな思いが私の心を覆い始めた。
木から耳を話しても音は止まらない。
廻りの木々を見渡したが、風で揺れてるふうで無いことが不思議だった
小刀でめくりあげられた皮が痛々しく見え始め
胸がキュンと締め付けられる。

一緒に居た友人達にたったいま感じた事を話した。
怪訝そうな表情で代わる代わる木に
耳をあて音を聞き始めた。
反対側の木の側に居た友達が大声でいう。
「こっちの木も音だして動いてるよ」
「風の音じゃないね!」「うん!」
そんな会話を交わし、傷つけた木の皮を元に戻し、
絡まっていたつるでクルクルとまく。
元にもどされた木の傷からの樹液はゆっくりと止まっていった。

もう一度、木に耳をあて音を聞いてみた。
さっきとは違う音、
何かを吸い上げるようなじゅわじゅわ・・といった音に
かわっている。
友達の誰かが言った。
「木だって切られたら痛いのかな?」
「可哀想なことしちゃったね・。」
大木の空に伸びてる枝の先を見上げてみた。
さっきまで、少し離れた場所の木の先が
互いに絡まったようになっていたのに
今度は、風に吹かれてまるでタッチを
しているふうに見えた。

私の年の何倍も此処で生き続けてきた大木達、
その廻りを囲っているように添い伸びてる木々の数々、
よくよく見渡せば
どの木も皆、私たちを見下ろしているような気がしていた。

人と同じく水を吸い上げ、酸素を出し
木肌で温度を感じ、風を感じて
話をしているのだろうか。

終わり