アヤコ15歳・番外編

15歳。中学を出てから直ぐに就職。世の中のこと何も知らずに大人社会に入った。
少しばかり背伸びして、初めて履いたハイヒール。ぎゅうぎゅう詰めのバスに乗ったのも初めての経験。
長かった髪の先っぽが、男の人のジャケットのボタンにまとわりついた。
バスが止まって男の人が動いた。
「ブチッブチッ!!」 髪の千切れる音が、痛みと一緒になって頭に響く。
ようやく男の人は気がついた。
「気色悪いな~!」 振り返って睨み付けたその人は、本当に気味悪そうにボタンに絡まった髪をとって、投げ捨てた。
周りに居た人の目が刺さるように私に向けられる。哀しかった、恥ずかしかった、悔しかった。
入社一日目。まだ、会社に着いてなかったけど、年上ばかりの職場に不安を感じる。
「ガチャン!」初めてのタイムカード、AM7:20。
真新しい工員服の袖も丈も長すぎて、まるで幼稚園児のスモックみたい。
「製造部、一班○○○」胸元につけられた丸形の名前札も予想外の経験。
社会人も幼稚園児も同じようなもの。
黄色い肩掛けバッグを下げないだけの違いよね、ああ、それと黄色い帽子もね。
でも、帽子の代わりに工員服と同じ色の三角布被るんだから・・・悪夢みたい。

少し背伸びした年頃 入社したての私には、会社勤めというのが、まだ、良くわかて居ない。
仕事も、上司に言われるまま与えられた事を、一日中、退社時間までやってるだけで、
最初の2ヶ月ほどは、トイレに行きたくても、コンベアーに乗って流れてくる部品がとどめもなく目に前に積み上がり、
それを消化することで精一杯。昼休みになったら、ベル音と同時にトイレに駆け込んでいた。
ぱんぱんに溜まった小水は、まるで、牛か馬の尿のように、ほとばしり止まらない気持ち悪くなる一歩手前・・・って感じ。
十代の乙女にはトイレ行って良いですか?なんて聞けやしないし。
正直と真面目だけが取り柄で、まだ、何ら要領さえ しってなかったから。
ある日、先輩さんに洗面所で会って、そういう気遣いは 不要なんだとおしえられる。
適当に気晴らしで洗面所にさぼりに来ることもあるのだと・・。
何て事ない日常にがむしゃらに頑張っても、つかれちゃうからね・・。
が、先輩から教えられた教訓・・って言えるかな。仲良しの友達も出来た。
先輩達とのコミュニュケーションの取り方にも慣れて来、10代の遊び心いっぱいの娘にの慣れてきた。
初恋もした。失恋も。かっこいい先輩に憧れた日々も。仕事に慣れて日々が楽しくて仕方ない月日を送り始めた。
中庭でするバレーボール、バトミントン。 屋上に上がって馬鹿話に夢中になったのもこのころかな?
そして、ひょんな出会いから、一人の男性を異性として初めて見るようになる。

期待とは違う事ばっかりだったけど、生年月日が同じ友達が出来た。
退社するまで、そう長くはなかったけれど、仕事場も遊びもいつも一緒。
お揃いのワンピース着て、バックバンドのサンダル履いて、お揃いの ハンドバックで...まだ、15歳。
子供の枠から抜けきってない純な乙女。 自分でいうのも何だけど、ほんとに純情乙女な蒼い若葉みたいな私たち。
そんな私が、恋された..。恋したんじゃなくて、恋された。
恋なんて言葉がふつりあいな年頃だったけど、胸はときめいた。
急に大人に成った気分で初めた薄化粧も、たぶん、似合わなかっただろうと思うけど
少し年上の、背高ノッポさんの隣にならんで歩いた時は、妙に女の子を意識しちゃう。
通りすがりの素敵なお姉さんを見る度に、自己嫌悪感じたりして。
駅の階段上るとき、スカートの裾の広がりが気になって、決して彼より先に上がらなかった。
でもね!一度だけ、これ以上広がらないってくらいに風に あおられて、下着丸見えになっちゃって、
泣き出しそうになりながら嘘笑いで 誤魔化したことがあったっけ...。
パンタロンが流行るちょっと前の頃かな。

高卒しか雇ってない職場 仕事辞めたからといって、のんきに失恋に浸ってる暇も無かった。
3日も日を置かず、ふぬけみたいになってた私に母が勤め先を勝手に決めてきた。
下町の駅前の商店街の玩具やさん。小さな街の一番の繁華街。いつも人でごったがえしてた。
デートしたのもこの界隈。想い出いっぱいの 哀しい場所。
勝手に勤め先を決めてきた母が少し憎らしかった。
面接、店頭でゼンマイ仕掛けのクマさんがドラムを叩いていた。
紺のミニスカートのスーツを着た店員さんに名前を告げる。
先に勤めていた会社とは、全然違う雰囲気・・当たり前だけど。
そこは、細長い奥まった店で、可愛らしい玩具で埋まっていた。
色鮮やかに蛍光灯に照らされて、店の中は眩しいくらいに明るい。
案内されて、店の2階へと上がると店長さんがにこやかな表情で迎えてくれた。
「**です。」私は、とても緊張していた。何を話せばいいのか解らない。
「初めに言っておくことがあります」ドキン!胸の鼓動がひとつ大きく耳に 響いて聞こえた。
「うちの店は高卒が条件やけど・・頼まれたし、断られへんさかい、まあ、 ちゃんと接客出来るんやったら
考えても良いと思うたんやけど、どないでっか?」どない?って聞かれても何て答えたもんやら・・。
「接客?」ですか?「商売してんのやから・・マンツーマンてわかりまっか?」 そんなん知るわけない。
「頼まれた、断られへん」って言葉に、ムッとした感情だって湧いてくるし、嫌に見下したような話し方が気にいらん。
まだ、私はこの店で働くって決めてないのに・・。
その後が、まだ腹の立つ質問ばかり。
「そろばんくらい」「もっとあかぬけて」「暗算は?」「男関係は・・。」
何言うてんねん、この、おっさん!あほちゃうか!・・なんて生意気な事は 言えなかったが、
母の持ってきた仕事じゃなかったら絶対勤める事にはならなかっただろうと後々何度思ったことやら。

母は、同じ商店街の老舗の高級家具店で働いていた。
ずいぶんと信用があったらしく、店内だけでなく奥むきの仕事も任されていた。
その家具店の社長の口利きで、私の勤め先が決められたかんじだった。
面接の日の夜、とりあえず母に逆らってはみたが、親の顔をつぶす気かと 泣かれてはどうしようもない。
翌日から、勤める事になった。

 
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