夕べの止まり木 2009年12月1日号 原稿
                   飯寿司               

                    和田山麻美      

 生前の母は、毎年決まって十一月二十日に鮭の飯寿司を漬け
ていました。
鮭に塩をして、重石をし、水出ししてから切り、
ご飯と麹、野菜は人参、キユーウリ、生姜と大根、みかんの皮
も準備して、一緒に漬け込みます。この忙しい日だけは母を手
伝おうと、仕事を終えた私は実家へと急いだものです。でも、
何事にも手早い母は漬け終わっているのです。母が生きている
ころは、結局手伝いが出来ないままで、出来上がった飯寿司を
いただくだけでした。 

 
 その飯寿司が大好物だった父が亡くなった年、「今年はやめ
ようかな」としょんぼりつぶやいた母に、「ばぁちゃんの飯寿
司が食べたい」と言ったのは3人の孫でした。母の表情に
、み
るみるうちにやる気が甦りました。
孫からのエールが、何もの
にも代えがたい力になったのです。


 漬けてから三十日位で樽を逆さにし、水切りして・・・。十二月
末位に樽から上げる時の母のわくわくした顔と言ったら、まる
で子供のようでした。

 
 母が亡くなる前の年のこと、飯寿司は、今までで一番の、と
びきりすてきな味に仕上がりました。

 「お父さんに食べさせてあげたかったね」。そう言った母の
顔を見たときに、本当に父の事が大好きだったんだなぁと感じ、その二人の子供である私も嬉しくなったことが、昨日のことのように思い出されます。

 喜んで食べてくれる人がいる事が、母にとって何よりの励み
になっていたのです。

 
 今日十二月一日は父の8回目の命日です。