夕べの止まり木 2013年4月12日号
 

煙の匂い

 小さい頃から、煙の色と匂いとは切っても切れないものがありました。
家業であった炭焼きの煙の匂いは、時として柔らかなときもあれば、目に
刺さるようなきつい時もありました。父はその時の匂いや色によって炭釜
の中の様子が見えなくてもわかると言っていて、私にとって、それはすご
く不思議なことでした。

父は、自分の仕事以外にも公職を持っていて、会議などでいない時には、
自宅から二キロほど離れた仕事場に母と妹と弟と暗い夜道を歩いて釜に点
火用の木をくべにいきました。

冬の夜道は暗く、寒く、途中立ち止まっては、しりとりをしたり、歌を唄
ったりと逆に楽しい思い出でもありました。

釜に行くまでの国道は、今は道路の巾も広くなり、歩道や街灯もつき、
家や大きな店舗や事務所もあるけれど、当時は民家もなく、空を見上げれ
ば満天の星。北斗七星やオリオン座。自然を身近に感じながら、寒さ厳し
い冬には、澄んだ空気にすいこまれそうなくらい清々しい気持ちになりま
した。歩いていると、林の中に北キツネの目が光り、それを見て怖くて母
に飛びつき、それに母が驚き転んだことなど、なんだか急に懐かしく思い
出されます。

今も炭焼き釜に近づいて行くと、急に炭焼きの煙の匂いがしてきます。
亡き父や母から しっかりバトンを受け継ぎ、近郊から運ばれた楢の原木
を焼き、硬く火持ちの良いものを 主人と弟が丹精込めて製造しています。

 木炭も農産物といっしょで生産者の顔が見えるのです。丹頂鶴の絵が描
いてある木炭を見かけたら、愛情がたっぷり込められた木炭です。新鮮な
肉や魚を焼いてみてください。 伝わる味の違いがわかるはずですよ。