夕べの止まり木 2011年11月1日号

思い出の味
 
 私は、美味しいものを食べることに人一倍喜びを感じる子供でした。秋が深まるこの時期になると、いつもおばぁちゃんがお漬物を漬けていました。おばぁちゃんの鰊漬けはひと味違い、とても美味しかった。十一月の声を聞くと、寒さに向かう不安で気分が優れなくなることがあります。そんな時でも、いつもおばぁちゃんの漬けた鰊漬けを食べると、自然と元気になれて、冬でもなんでも来いと思えるのでした。
 
 おばぁちゃんの漬ける鰊漬けには、ほかには入っていない野菜がたくさん入っています。九州出身だからなのか、魚の臭みをとるのに入れたのか、家がお店屋だからちょうど新鮮なものが目に付いたから入れたのかは分りませんが、とにかく長ねぎがたくさん入っていたのです。


 長ねぎは、おばぁちゃんと私をつなぐ野菜と言っても過言じゃありません。『長ねぎをたくさん食べると美人になるんだよ』といつも口ぐせのように言って、納豆に入れたり、鍋に入れたり、ラーメンを食べる時にも、意識してたくさん入れていました。信じる者は救われる。風邪をひかなかったのも、今思えば、長ねぎをたくさん食べたからなのかもしれません。

 口から入る食べ物で病気を予防する。昔の人は、生姜は身体を温める。人参は血を作る。食事をしながら、自然と食育をしていたのです。自分で工夫して作らなければ食事にならない時代の方が健康にも自然と気を使っていたのではないでしょうか。私もお店で、これからは不特定多数の人のために作る食事というのではなく、『あなたの為にと作った食事』を心掛けたいと思うのです。

 私は山崎のおばあちゃんの孫として生まれてきたおかげで、料理を生業とする人生を送ってきたような気がします。人はどこで、だれと巡り逢うかによって、その人の人生が決るような気がするのです。代々受け継がれていく味を大切にしていきたいものです。