#7 埼玉県東松山市葛袋、中新統の岩石穿孔性二枚貝類の穿孔痕・東松山市化石と自然の体験館
Miocene borings created by rock-boring bivalves from Kuzubukuro, Higashimatsuyama City, Saitama Prefecture, and "Fossil and natural experience house"




#7-1 礫岩から産出するサメの歯化石
Fossil shark teeth from the conglomerate of the Miocene Godo Formation



 埼玉県東松山市葛袋の山付近一帯は、昔、セメントの原料として泥岩 mudstoneシルト岩 siltsotne )が盛んに採掘されていました。 以前からサメの歯などの化石産地として知られ、『採集と観察(校外学習ガイドブック) no.2』(1963)や『日曜の地学 新・埼玉の地質をめぐってたずねて』(1975)等でも紹介されてきました。これまでおおぜいの人たちが地層の見学や化石採集に訪れていました。

その葛袋に2016年4月1日に、化石の発掘体験が有料でできる市の施設として 東松山市化石と自然の体験館 がオープンしました(図1)。国内には中生代や新生代の地層を対象にした化石発掘体験施設 experence facility for fossil excavation は多数ありますが、 サメの歯化石を中心とし、新生代の地層(中新統)を対象とした施設 国内初 first of this kind in Japan 、恐らく世界でも初めてでしょう。






図1 東松山市化石と自然の体験館の外観

Fig.1 "Fossil and natural experience house" was open on April 1st, 2016 and is one of the municipal facility for sightseeing, Higashimatuyama City. There are many facilities for the expereince of fossil excavation in Japan, but the facility whose objects are to search mainly shark teeth may be very rare or established at first time in the world, I think.
Over twenty thousands people joined in the program from learning about the geology and the paleontology to sieving and/or cracking, and arranging of specimens.
The wide and flat area aroud this facility is the site of a mudstone mine for a cement plant.

 1回の体験は全体で80分間、内容は次のとおりです。
(2016年4月1日のオープンから2020年3月末まで90分間ですが、2020年4月から80分間に短縮される予定です。コアタイムである、下記のCの時間は変更ありません。)

@施設の説明や諸注意          5分  担当:館の職員  
A地層と化石に関する解説          10分  担当:講師    
B化石の探し方の説明・実技         5分  担当:館の職員
C化石発掘体験 50分  参加者 講師による簡易鑑定、職員やボランティアが巡回、コアタイム(変更なし)
D道具の片付けと標本の整理     10分  館の職員、講師、ボランティア、および参加者

1回あたりの定員は20人1日に4コマ(土、日、祝日)ないし2コマ(平日)実施されます。月曜、年末年始休館。
なお、発掘体験は事前予約(ネットまたは電話)が必要です。

The experience program consists of the following four parts. Total time from Part T to Part W on each experience program is 80 min., four times a day, and each capacity is twenty persons.
Each capacity is twenty persons. A group of visitors will be accepted by request.

Part T: Explanation about the establishment of the facility, the history of this area, and notices for the experience; 5 min., by a staff:MC
Part U: Explanation about the geology and the paleontology, especially conglomerate, fossil shark teeth, and some precious fossils; 10 min., by an official facilitator on the fossil research; Chiyodite is a member of the facilitators.
Part V: Instruction how to find out fossils with sieving or cracking by staffs(5 min.), and Participants' working time; 50 min., with help of a few volunteers
Part W: Clearing the table and Arranging of specimens found out by each participants; 10 min.

Total time from Part T to Part W each experience program is 80 min., four times a day; Saturday, Sunday, and National holiday, two times a day; Weekday. Closed on Mondays, at the beginning and the end of the year.
The reservation of the experience is always required, and there is a charge for the experience, but only visit is free.

 C(Part V)の化石発掘体験は、篩(ふるい)に土砂を入れ、砂 sand レキ gravel を分離しながら探す方法、ふるい掛け screening method with a metal sieve; sieving がメインです(図2、図3)。
決められた作業時間は50分で、最大使用できる土砂はコンテナ2杯(約20L)までですが、時間内に希望すれば石割(いしわり) rock-cracking with point and hammer, wearing goggle for safety で直接探すこともできます(図4)。 体験の土砂(砂とれきの混合物)は、大元は硬く固結した神戸層(ごうどそう) Godo Formation 礫岩(れきがん)conglomerate です。

ふるい掛けは、小学校低学年でも体験可能で、開館以来多くの家族連れが楽しく会話しながら化石等を探しています。
一方、未風化で新鮮な淡青色礫岩塊や、やや風化した黄褐色の礫岩塊を割るのは一苦労で、大人でも大変です。しかし、かなり運が良ければ、サメの歯などの化石がポロッと出てきます(図5)。



図2 室内での発掘体験のようす(室内でのふるい分け作業)

Fig.2 Participants from children to aduls try to find out fossils moving a sieve enthusiastically. The laboratory for sieving is air- conditioned all year around. It is very easy for visitors to find fossils with shieving materials because materials, which consist of mud, sand, and gravel, have been already crashed by rock drill from mostly weathered conglomerate. Several persons wearing blue vest are staffs of this facility. Photo on July 29th, 2018



図3 室内でのふるい分け作業の詳細 コンテナの土砂をシャベルですくい、篩にかけてレキと砂に分離します

Fig.3 Two young ladies facing each other start to move an assigned sieve to find out fossils while the staffs instruct the first-time participants in both the method for finding fossils and the use of the equipments. These ladies visit there repeatidly. The number of both first-time participants and repeaters increse since the opening of this facility. All participants after the first-time can start working without joining in the instruction for the biginners by the staffs . Photo on Aug 26th, 2018



図4 室外での石割体験のようす ゴーグルを着け、ハンマーとタガネで硬い石を割って化石を探します。

Fig.4 All participants are able to select screening or sieving within a limited time; 50 miniute. Over half of them try to crack the hard rock, unweathered or a little weathered conglomerate, with hammer to get rarer and better-preserved fossils outdoors. It is very difficult for biginers to crack the rock with hammer. A girl in this photo is good at cracking the rock because of her repeated visits and has yet discovered many fossils from the rock. Photo on July 29th, 2018



 体験に使用する土砂は、「れき混じり、粘土質の土砂」"clayey sand with pebble"と表現できます。柔らかくて、ふるうには好都合なのですが、雨の日などは粘りけが強まるため、ふるいの 目詰まり the net clogged with wet muddy sand が起こり、やりにくくなります。.
また泥がサメの歯等の表面にまとわりつき、探しにくくなります。したがって、乾燥した土砂の方が好ましいと言えます。しかし、湿っているとできないわけではありません。

土砂&篩でとてもシンプルに発掘体験できるのは「特別な理由 a kind of reason for the convenient fossil-hunting」があります。

土砂は、重機で地下から礫岩層を破砕して取りだしたものですが、体験する「土砂」は大小の礫岩片の集まりではありません。前述のとおり、砂、泥、小石の混合物です。たぶん、礫岩層が地表付近に長らく存在したため、地層全体がかなり 風化してして軟らかくなった部分 Underground mass weathered by underground water, and etc. がありました。 つまり、レキや鉱物の表面が酸化するとともに粘土分(粘土岩)が地下水を含んで膨潤し、長い間にレキとマトリクス matrices(レキの周囲の砂や泥、貝殻片など)が分離しました。その証拠に体験用の土砂はかなり粘土質で、十分乾いていない土砂は篩で目詰まりを起こし、小型化石が発見しにくくなります。 以上のような理由から、軟弱化した礫岩層は、大型の削岩機で容易に掘れるようになったと私は考えています。
一方、運び込まれた土砂の中にはメーターサイズの岩塊もときおり含まれており、石割体験に供されます。

土砂や風化した礫岩の表面は黄褐色をしていて、逆に、未風化で頑健な礫岩は灰色ないし緑灰色をしています。

未風化の礫岩岩塊を含んだ土砂は、体験館の直ぐ南に大量に保管されており、過去2年間の実績からみて今後20年以上は行える分量がまだあるようです。

 サメの歯の他に、パレオパラドキシア Paleoparadoxia やデスモスチルス Desmostylus の歯クジラ類の歯や耳骨硬骨魚類の歯深海性の二枚貝類や巻き貝ウニの棘(とげ)など多種多様な化石が産出しています。
2019年以降、パレオパラドキシアの臼歯がやっと産出するようになりました。破片の場合もありますが、完全品(右上顎第2大臼歯)も産出しています。



図5 レキ岩から発見されたアオザメの仲間の歯(体験者による発見) 体験館ロビーに現在展示中

Fig.5 Fossil shark tooth, Isurus hastalis, discovered by an adult participant from "fresh congolmerate". This specimen is so very nice that it is always exhibited at the entrance hall in this facility. So, everybody is able to touch it and take photos and imagine the geological time when the shark swam. A female stuff says that the colour of this rock gradate from fresh blue to pale blue. This gradation or the phenominon means the oxidation in the air after digging out of the reductive underground.
And many fossils from marine mammales to plants discovered here and at an adjacent area are exhibited in the special room for visitors. Anytime visitors can look at hundreds and thousands of the excellent specimens during facility open.
The Japanese coin;\50 is 2cm in diameter. Photo on July 29th, 2018

開館時間中いつでも体験風景や館内の展示を見学できます(入館は無料)。立派な標本展示室 the exhibition room of valuable collections もありますのでぜひ出かけてみてください。詳しくはホームページをご覧ください。

○東松山市化石と自然の体験館のホームペ−ジ → 
こちら
"Fossil and natural experience house" →  click here


**全国にある発掘体験施設の実情について********************** 【New】

 化石発掘体験の可能な常設の施設は国内に多数ありますが、
その発掘体験は(すべての体験施設に出かけて調査した訳ではありませんがネット等の情報から)

@体験館の敷地内にある露頭から、または近所にある露頭に出かけて直接化石を探すスタイル
Aごく近くの露頭から岩石・地層を崩して移動・保管し、野外または室内でその運搬搬入された岩塊・土砂から探すスタイル

2とおりに分けられます。
東松山市化石と自然の体験館は後者になります。

都会にある博物館等が一時的に開催する発掘体験(企画もの)では、博物館の設置場所とロカリティー(岩塊の産出地)が地質的につながらないというような、とんでもなく遠くの採石地から運搬・提供された岩塊を使用するケースがあります。(これはこれで、企画のものですから構いませんが、上記のAには含みません。)

 なお、国内の体験施設によっては、一般の方の体験対象となる岩塊がすでに専門家や補助員によって貴重な化石やりっぱな化石、めぼしい化石が採取された「点検済岩塊」に触る体験だけであって大発見はほとんどないというところもありますので、体験内容や岩塊の事前調査や事前了解が必要です。
(しかし、化石が全く出ないという訳ではありません。貝化石や植物化石のかけらぐらいは出ますので・・・。普段体験のない人や事前知識のない人がいきなりやると見落としがない訳ではありませんので、学術的に行う発掘は専門家自身が、ないし専門家の指導のもとに補助員が行う必要があります。)

いずれにしてもこのような「間接的な露頭(崖)体験」や「地層観察の模擬体験」ではなく、本当に大切なのは直接体験、つまり野外における本物の露頭観察(行動)やそれ基づく地史の解明体験(思考)だと思います。 とにかく、教室で教科書や映像教材のみで地層や化石の学習が終わるよりも発掘体験は有意義であることには変わりありません。

東松山市化石と自然の体験館で使用する岩塊は地下から掘り崩して数100m先の保管場所に移動しただけで、専門家等による事前チェックは一切施されておらず(土砂・岩塊の量は“半端ない”)、「正真正銘、崩したままの(言わば生の)状態」であることから、体験者のみなさんが前述するような貴重な化石を発見する確率は高いと言えます。ただし、館の職員が貴重な標本と判断される場合には預からせていただくことを発掘体験前に周知しています。
しかし、逆に自然状態からですが1回の体験ではサメの歯等が出てこないことは十分あります。

露頭は自然の一部ですから、冬場は低温や降雪によって山間部での発掘体験が不可能になることがあります。
しかし、東松山市化石と自然の体験館の発掘体験はエアコンの効いた室内でできますから1年中快適に行え、暑さ・寒さ知らずです。 ただし、エアフィルターは作動しているものの、ややホコリっぽくなってしまうのはやむを得ません。また、冬場の石割り体験は当然寒風に耐えながらの作業になりますが、幸いにも体験場は建物の南側にあるので晴天時は暖かいですね。
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#7-2 礫岩のレキから産出する穿孔痕
Fossil borings in cobble from the conglomerate of Godo Formation

礫岩中のレキに、棒状の構造物 clavate boring が確認できます(図6)。これらは、穿孔動物による穿孔痕、正確には巣穴の雌型 the mold of hole (一方、穴自体は雄型 cast といいます)ですが、現在わかっている穿孔動物は、岩石穿孔性二枚貝だけです。 まだ、その貝殻は直接見つかっていませんが、これまでの国内各地からの化石情報や現在の海岸にみられる穿孔痕から考えて岩石穿孔性二枚貝 rock-boring bivalves穿孔主 borer とみて間違いありません。
このような化石は生痕化石の部類に入ります。学名ではGastrochaenolites になります(千代田・原田、2015)。

まれに曲がりくねったひも状の穿孔痕 string-like boring も見つかりますが、こちらは多毛類 polychaeteが穿孔したトンネルと考えられます(千代田・原田、2015)。そのトンネルを埋めている物質は砂泥でレキの岩質(凝灰岩ないし泥岩)と明らかに異なります。

そして、スクラッチ scratch(引っかき傷)を有する、板状の穿孔痕 platy boring も見つかります(千代田・原田、2015)。現在、掘り主はどんな生物なのか調査・研究中です。

以上の穿孔痕の充填物には、一部珪化した部分 partially silicified filling of boring がみられることがあります。この点については、#8で触れたいと思います。

一部の人たちは、どうしてもサメの歯のみに注目しがちですが、ウニの棘や二枚貝・巻き貝、穿孔痕も約1500万年前、15Maの立派な化石ですから大事に扱って欲しいものです。
そこで、体験館では、サメの歯や哺乳動物などの骨ばかりではなく他の化石にも注目していただくよう体験者には体験直前の講義において説明しています。 また、どんなタクサ taxa(生物の分類単位)であっても貴重な化石の発見はお預かりし、保存に努めています。

   

図6 緑色凝灰岩レキに残された化石穿孔痕(白矢印)


Fig. 6 Boring created by rock-boring bivalves in green tuff cobble from Godo Formation. White arrow shows boring, which is the mold of the excavation. This may be Gastrochaenolites. Right photo shows the opposite face of this stone. Each yellow arrow in the right photo shows borings, which is the cast of the excavation respectively. Both the inner wall of the excavation, i.e. surface of cast, and the outside of boring, i.e. the surface of the mold, were coloured greenish gray while buried in sediments.
The Godo formation contains not only the shark teeth but also the deep sea mollusks, for example, Perotrochus? sp. and Halicardia sp., and etc. (Kurihara,2015). It is thought that cobbles may have been derived from the shore to the deep seafloor. These fossil borings must be expensive as well as shark teeth in Paleontology and Geology.
Abbreviation: gt:green tuff, ss:sandstone

岩石穿孔性二枚貝類の穿孔痕をもつレキが礫岩層に多数含まれるということは、どのような意味があるでしょうか?
神戸層にはニッポンオトヒメゴコロガイの仲間オキナエビスの仲間などの深海性の貝類 deep-sea mollusks の化石が含まれています(栗原、2015)。私の解釈では、そのレキが潮間帯 intertidal zone 付近で穿孔を受けた後(つまり、少なくとも穴が開く間、レキが海岸に停滞していた後に)、 古生物学的かつ堆積学的に総合して考えられる堆積場まで運ばれたことになります。このような堆積物を運んだ流れ(海底土石流 subaqueous debris flow )は、沿岸から深海まで長距離をストレートに1回ですんだのでしょうか? このような点の解明が待たれます。


#7-3 とても面白いレキ・「饅頭石(まんじゅういし)」
Very interesting stone, "Manju-ishi" from the conglomerate of Miocene Godo Formation, Kuzubukuro


 市教育委員会の調査の結果(東松山市教育委員会、2015、荒井 豊・原田吉樹、 2015)、レキの岩質は多種多様であることがわかっていますが、緑色をした凝灰岩(ぎょうかいがん) tuff のレキが最も多いことがわかっています。 レキの大きさは、中礫 pebbleサイズ:3cm程度 から 巨礫 boulderサイズ:30cm弱 です。多く産出することも一つの特徴と言えますが、レキ自体がおもしろい特徴を持っています。
試しにそのレキを割ってみると、外側の白い部分(皮殻ないし外層)と緑の内部(核ないし内層)という2層構造 two-layer construction が現れます(図7)。

緑の部分は、ガラス質 glassy で、比較的硬くなっています。中には、とても硬いものがあります。このことに気が付いて、昔の人は装飾品を作りました。近くの古墳 tumulus から出土した勾玉(まがたま)管玉(くだだま)です。
つまり、この緑色凝灰岩は古代の人にとって、ヒスイではないものの、まさに「玉(ぎょく)gem 」であったとみてよいでしょう。

一方、体験館の講師や職員の皆さんは、外層を 皮 Crust、内層を核 Core 、餡(あん)とそれぞれ見立ててこの石を「饅頭石(まんじゅういし)」と呼んでいますが、古代人は饅頭には見立てられなかったでしょう。たぶん当時は饅頭自体がなかったでしょうから・・・

日本国内には、饅頭石とか饅頭岩と呼ばれている岩石や小石、ないし鉱物の集合体があるようです。産状や成因はさまざまですが、それだけ地球は不思議な構造物を作ってきたことを物語っている訳ですし、今も地下で作られていることでしょう。
神戸層の凝灰岩レキはその不思議な「お饅頭」の仲間入りです。

私が実際に見たことのある石(岩)で興味深いのは、新潟県村上市の瀬波温泉・汐美荘の「まんじゅう岩」です。まんじゅうと言うよりも、平べったくて、黄色っぽい巨大なビスケットのようです。温泉に浸かりながら一見する価値はあります(触ることも可)。

○瀬波温泉汐見荘のまんじゅう岩
"Manju-iwa": Miocene siliceous nodule is located at the garden in front of an open-air bath in Sunset Inn Shiomiso, Senami Hot Spring, Niigata Prefecture → こちら;click here

リンク先のまんじゅう岩は、男性の露天風呂の前庭にあるものですが、確かホテルの玄関先にもあったと記憶しています。残念ながら両方とも写真は撮っていません。
このまんじゅう岩は、珪質ノジュール siliceous nodule とされていて、たぶん葛袋のまんじゅう石のような「餡(あん)」はないと思われます。ノジュールの形成に関する最近の理論 the modern theory on the formation of nodules or concretions について別項で紹介します。


図7 まんじゅう石(緑色凝灰岩レキ)の断面 白い風化層がまんじゅうの皮に例えられる


Fig. 7 Cross cut of "Manjyu-ishi" from Kuzubukuro. This stone looks like "manju", which is a kind of Japanese style confectionery; a steamed bun usually stuffed with sweet red-bean paste. The paste, "Co" in this photo, is called "an" in Japanese. The crust, "Cr" in the same, is called "Kawa" in Japanese. But in this case the paste, i.e. "an" is not red but green.
Let's consider When, Why, and How the crust of cobble changed the colour from green to white.
On the other hand, the deep green and more siliceous parts were treated as the gem, and worked into the jewelry, i.e. Magatama and Kudadama (both in Japanese) in the Tumulus period at Higashimatsuyama area.
Abbreviation: Cr:Crust, Co:Core

 白い部分は、風化作用 weathering 、言いかえれば大気、雨水や地下水との化学反応 chemical reaction で色が抜けた、つまり酸化作用 oxidation と解釈できますが、白くなったのはいつでしょうか。掘り出してからですか、それともそれ以前ですか?
新鮮な礫岩に含まれたレキでも、土砂の山のレキでも同様に見られることから、答は、間違いなく「掘り出す以前」と言えます。
「掘り出す以前」とは、ある地質時代にレキが山地か海岸付近で作られてから運ばれる途中で小さく、丸くなり、最終的に約1500万年前の海底にたまり、地層の一部として保存され続けるという長い期間を指します。

さらに突き詰めると、それはいつのことでしょうか?
どのようにすればこの白い皮殻ができた時代をもう少し絞り込むことはできるでしょうか?
この問題は皆さんへの宿題としますので、さまざまな標本を観察して考えてみてください。

【考える際のヒント】
#7-2の穿孔痕は、主にこのまんじゅう石に見られます。
どのように(位置や状態)みられますか?
穿孔痕とまんじゅう石の関係性も、穿孔痕や層構造の形成時期を考える手立てとなることでしょう。

この他、神戸層のレキや穿孔痕で注目していただきたいのは、化石穿孔痕内部にみられる「ジオペタル構造 geopetal structure 」です。#8をご覧ください。
#8では、上記の設問に対する解答(暫定版)を用意したいと思います。


【chiyoditeの提案】chiyodite's suggestion******************** 【New】

  ここで、神戸層産の化石穿孔痕について呼び名(愛称、ニックネーム)を提案したいと思います。
栃木県の塩原温泉は、栃木県の有名な温泉地ですが、周辺から産出する化石や鉱物に名前をつけています。たとえば、小さな水晶が群生した石を「鮫石」、穿孔痕化石を「芋石」(いもいし)と呼んでいます。

これにならって東松山市の神戸層産の穿孔痕(ただし、棒状の雌型のみ)を「東松山の芋石 Higashimatsuyama Potato-stone 」と呼ぶことを考えました。
塩原の「芋石」の実物を見たことがありますが、私が見るところ、神戸層産の化石穿孔痕は、塩原の芋石と比較してまったく遜色(そんしょく)ありません。 風化皮殻を持つ緑色凝灰岩レキを「東松山のまんじゅう石」と呼ぶのに合わせて、この提案はみなさん、いかがでしょうか?
なお、chiyoditeは、塩原の芋石について文化史的ならびに地質学的、古生物学的に現在調査中です。十分な結果が出るまで少々お待ちください。

I suggest that the borings from the Godo formation should be called "Higashimatsuyama Imo-ishi(potato stone)" acoording to the Miocene borings which are named the Imo-ishi(potato stone) at Shiobara Hot Spring(Spa), Tochigi Prefecture.
" Potato-stone" from Shiobara is now under my investigation from the point of view of Miocene boring created by rock-boring bivalves.
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#7-4 ハリセンボンの歯の化石   【New】
Fossil tooth plates of Diodon sp., Kuzuhukuro, Higashimatuyama City



 葛袋の神戸層からはハリセンボンの歯・歯板(しばん)tooth plateの化石が稀ながら産出します(図8)。体験館がオープンして以来いくつか産出しており、市のホームページでも紹介されています。 私の講師担当日にも産出したことがありました。



図8 ハリセンボンの歯板化石 原田氏提供


Fig. 8 Fossil tooth plate of Diodon sp. from Kuzuhukuro, Higashimatuyama City. Scale is 1 mm. Photo by courtesy of Mr. Harada.

ハリセンボンは、フグの仲間ですが、身体の周囲には鱗から変化した鋭く長い棘 spine を多数持っています。防御姿勢をとって丸く膨らんだ、イガグリ bur of chestnutのような姿がちょっとユーモラスです。
私は、写真では見たことがあるものの、海岸での打ち上げ死体としてももちろん生体でも、実物をきちんと観察したことがありませんでしたが、最近、実物を取り扱う機会が持てました。

三重県の漁師さんから送っていただいた冷凍のハリセンボンを解凍後、腹側から解剖し、次の2種類の標本を作製しました。

@剥製(はくせい)標本、しかし身体内部に詰め物してある剥製ではなく、いわゆる「フグ提灯(ちょうちん)」です。・・・図9
A歯板(しばん)を含めた顎(あご)の骨格標本・・・図10

ちょっと面倒なので自分はカウントしていませんが、針の数は実際には「千本」はなく、300本くらいだそうです。
@は、来館者にも見ていただけるように生態標本として試しに作成しました。 Aは、化石のでき方を考える上で参考にするためです。
私は化石を解説する立場にあって「現生を知らずして、化石を語るな」という精神を再認識し(もちろん、地質時代に絶滅した動物は対象外です)、現生魚類の実物を知る必要性を感じました。 この精神は地質学で言う“Present is a key to past.”(現在は過去を解く鍵である)にも一部つながります。



図9 自作のハリセンボンのフグ提灯・ハリセン1号


Fig. 9 A specimen of inflated Diodon holocanthus (Long-spined porcupinefish), but no stuffed, only with fish skin and scale, so empty inside. In Japan, this kind of fish specimen as created by me is called "Fugu-Chochin"(lantern), which is a kind of souvenir or ornament. Made of a frozen fish by courtesy of a fisherman in Mie Prefecture. The body is about 13 cm long from mouth to tail fin. Of course, wearing an artificial eye.


図10 ハリセンボンの上顎と下顎 黄色矢印の先が歯板


Fig. 10 A specimen of the upper and lower jaw from the same fish as Fig.9. Each yellow arrow show the tooth plate of the upper and lower jaw respectively.


葛袋からは丸くなった片側の歯板(上あごか下あごのどちらか一方で、左右に割れた片方)が稀に見つかりますが、さらに稀ですが両側がそろった歯板も産出しています。
化石の産出記録(統計)を確認していただいたところ、開館以来比較的保存状態の良い歯板がすでに33標本も見つかっているそうです(2018年7月末現在)。 ネットで調べてみると、顎の骨とともに産出する事例もあるようです。

国内では、不思議なことに、顎の骨を伴わずに上下の歯板のみがそろって産出した事例もあります。
私が所属する「生痕ゼミ」で三浦半島の剣崎から毘沙門にかけて生痕化石の調査に出かけた際に大森昌衛先生が偶然発見したそれは、大変りっぱなものでした。その保存の良さに一同皆驚きました。 三浦層群三崎層(中期中新世)から得られた歯板化石は魚類やその歯の専門家によって研究されました(後藤・上野、2002)。

私自身が行った簡単な解剖からわかることは、上下の顎の内側に歯板が位置するということです。
したがって、発見された歯化石の形成過程のうち埋没までのプロセスがサメとハリセンボンでは異なると言えます。
つまり、サメの歯化石の場合には、1本の歯が単独であごから離脱して、海底に達するというプロセスがイメージできますが、葛袋から産出するハリセンボンの歯板はハリセンボンの死後、あごの骨が摩耗によって失われて最後に残ったものと言えるでしょう。 (ただし、歯板と顎骨の融合状態を詳細に検討していませんので、歯板自体の死後離脱の可能性も考えられます。)

福井県の越前海岸でビーチコーミングをしている人の情報では、膨らんだハリセンボンの死体が多数打ち上げられることもあれば、顎のみが大量に打ち上げられることもあるといいます。 化石(体化石)を扱う場合、それは身体のどの部分か復元することやどのように機能したかなどの検討が大切ですが、その化石は生物の死後どのような経過を経て(全部か一部か、離断や破断、運搬や摩耗の有無など)堆積物中に取り込まれ、その後地層中に保存されてきたものかを知ることも大切です。
このように化石化の過程を研究する学問をタフォノミー Taphonomy と呼びます。


***** chiyoditeのひとりごと(閑話休題)***************************
 私の子どもの頃、互いに小指をからめながら「指切り げんまん ウソついたら 針千本 飲ます」という、とても恐ろしいわらべ歌 a traditional children's song がありました。現代でも歌われているかどうか知りません。

約束は守ろうという姿勢を身につける一つのきっかけにはなったと思いますが、仮に友達と遊ぶ約束を破っても翌日学校で嫌な顔をされることはあっても、もちろん指切りも、針千本も飲まされることは絶対になかったのは事実です。

しかし、世の中には約束(契約)を破ったことで傷害事件や殺人事件にまで発展したケースがたくさんあるのではないでしょうか。現実はわらべ歌よりも恐ろしいですね (小説よりも奇なり)。

音が同じなので「針千本」を「ハリセンボン」(魚)と置き換えても飲まされるのは恐ろしいことですが、そもそも私たちは丸ごとハリセンボン(普通サイズ)が口の中に入りません。
(世界を見渡すと、ハリセンボンをくわえたままのレモンザメが死んでいるケースが見られるそうです。広い海の中には「ウソつきのサメさん liar shark 」がいたのでしょうね・・・笑い)。

実際には、誤ってハリセンボンに噛みついたところその魚体が膨らんで針が口内に刺さって抜けず、摂食ができずに、ハリセンボンもろとも死亡したという「ハリセンボンによる殺魚事件」と推認できます。

A Japanese traditional children song contains a terrible phrase, that is, "If you will break your promise(or tell a lie), I will let you swallow one thousand of needles." Japanese word of "Hari sen-bon" can be translated "one thousand of needles" into English. As Long-spined porcupinefish; Diodon holocanthus has a great many spines(prickles), it is named "Hari sen bon " in Japan. Therefore, the Japanese word "Hari sen-bon" has two different meanings.
A dead lemon shark holding Diodon holocanthus in her mouth may be a "liar shark", I can imagine. This is my joke, sorry.
But, that accident may be a shark killing byDiodon holocanthus. The weapon is a great many spines.
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なお、体験館には、りっぱなメジロザメの顎標本があります。


次にハリセンボンの解剖をしていた際の「ある体験」を紹介します。
煮た頭部を内臓側から解剖していった時(と言ってもていねいに観察しながら筋肉系や脳などの神経系を取り除いていたわけではなく、至って雑に)、口腔にさしかかるとダンゴムシ wood louse を白くしたような、へんてこな生き物が1匹出てきました。
さらに、2匹目の解剖(煮ずに解凍状態)では大小計2匹(図11、雌雄)が出てきました。
ハリセンボンの口はほぼ閉じていましたから、外部からはほとんど覗けず解剖前の点検では全く気づきませんでした。



図11 口腔内から発見されたフグノエ  右がオスで、左がメス


Fig. 11 A pair of “ Fugu-no-e” were discovered by me from the oral cavity of Diodon holocanthus at the time of the dissection. The femal(left) is bigger than the male(right). I was not able to find these animals inside the mouth before the dissection because of almost closed mouth of thsese frozen fishes .

この動物は、フグノエ Cymothoa pulchraという甲殻類(等脚類 Isopod )で、魚の寄生動物 parasite です。
広くとらえるとオオグソクムシ Bathynomus doederleinii の仲間になります。深海から採取された生きているオオグソクムシやダイオウグソクムシは水族館の人気者になっていますが、いくつかの水族館で私もガラス越しに見たことがあります。 しかし、照明の暗い水族館のガラス越しとは違って口腔内にいる状態のフグノエを間近にみると、映画のエイリアンを想像し、ちょっとぞっとしました。
と同時に、生物界における寄生の実体がのぞけて生物界の多様性には驚きを覚えました。
寄生動物のしつこさや頑丈さを物語るように、脚の鋭いツメが口腔壁にしっかりと食い込んでいて、脚の取り外しに難儀しました。

小さい方のフグノエの腹部内側を双眼実体顕微鏡で観察すると正中線に交尾針が確認できましたが、大きい方には見当たりませんでした。このことから、小さい方はオス、大きい方はメス、したがって、つがいと思われます。
最初は雄で寄生後、二匹目が寄生すると最初の一匹目が雌に性転換 sex change すると言われます。

(この性転換システムに関するchiyoditeの理解)
最初の寄生者は次の同種の寄生者がやってくるまでに身体が大きくなっているでしょうし、大きい方がメスになる方が生殖上有利であり、オスは小さくても構わないと考えるとこの性転換は「理にかなっている」ようです・・・雄性先熟やら雌性先熟などいろいろあって、生物学はちょっと難しい)

ウオノエの仲間は、いろいろな魚の口腔内や体表に寄生する種類があって、ウオノエ類・等脚目ウオノエ科 Cymothoidaeとしてまとめられています。

フグノエは自身が寄生している魚、つまり宿主 host の栄養分を摂取しながら成体、生殖可能個体となるわけですが、口腔内で巨大化するとハリセンボンは餌を取れずに衰弱し、最悪死に至るのではないでしょうか?
ハリセンボンがわざわざ口を開けて、フグノエの幼生に対して「はいどうぞ、お入りください」とはしないはずなので、餌と騙(だま)してくわえさせたら最後、消化管に送り込まれることなく口内にしがみつき、体液を盗み取りながら宿主が死ぬまでしがみつくとは 恐ろしい生存競争 a struggle for existence と言えましょう。 (ハリセンボンをくわえて死んだサメ同様、フグノエによる「殺魚事件」が十分想像できます。)
なお、ホストの魚が死ぬとウオノエは脱出(離脱)し、次の相手(魚)を探すそうです。

○おすすめサイト“歌魚風月” Recomended site → こちら;click here
  このブログでは、フグノエやウオノエをはじめとするさまざまな寄生生物が紹介されています。ブログ主さんは三重県の漁師さんですから、魚も寄生生物もどちらも獲り立て・新鮮です。
The auther of this site is a fisherman who lives in Mie Prefecture and he introcudes many photos and sentences about all kinds of the parasite on nearshore or offshore fishes.

〇ウオノエの進化に関する最新の研究成果について
愛媛大学准教授畑啓生先生のグループによる、ウオノエのDNA解析を行った最近の研究では深海から浅海に進出してきたことがわかったそうです。海水から汽水・淡水に棲息するさまざまな魚類に寄生する多様なフグノエに種分化 Speciation が起こったようです。
以下のプレスリリース:“淡水・汽水・海水 どこでも魚に寄り添う生き物「ウオノエ」の起源は深海だった”をご覧ください、内容は同じです。

@総合地球環境学研究所の成果発信リリース(2017年4月19日) → こちら;click here

  A北海道大学のプレスリリース(PDF) → こちら;click here
 
『Marine Biology』誌に掲載されている論文は有料閲覧ですし、専門外なのでもちろん読んでおらず(いや、読めない)、プレスリリースのみを読んだだけです。
そこでchiyoditeの疑問です。
深海→浅海への進出のプロセスは今回の研究でわかったとして、それでは深海のオオグソクムシの祖先はどこからきたのでしょうか? 浅海→深海への進出のプロセスがあったはずです。

世界を見渡して、魚の化石とともにフグノエのような寄生生物の化石、言いかえれば寄生状態を示す寄生−宿主の生痕化石 Trace fossil indicating the host-parasite relationship がすでに見つかっているでしょうか?
寄生状態は無理としても、ハリセンボンの歯板化石に続いて葛袋からフグノエの化石がいつか見つかることでしょうか? 
このように現生の生態から将来の化石の発見を期待してみるのもちょっと面白いですね。(いや、ちょっと想像しすぎ?)

なお、オオグソクムシの仲間の化石(脱皮殻)は、葛袋からやや離れた場所ですが、嵐山町根岸の根岸層の砂岩から産出しています(Kato, H., Kurihara, Y. and T. Tokita, 2016)。 体験館で発掘体験の対象としている岩塊や土砂は神戸層の礫岩層ですので、甲殻類の脱皮殻としてもレキとレキの隙間ではほとんど期待できませんが、ゼロとは断言できません。
なぜなら深海性のオキナオビス(巻き貝)やオトヒメゴゴロガイ(二枚貝)の殻、深海性のサメの歯などが産出していますから、ほかにも何らかの深海性生物が棲息していたと思われ、その化石発見の可能性は十分あります。


以上、ハリセンボンの解剖体験から始まってフグノエの観察まで、長々と文章が続いてしまいましたが、御容赦いただきたいと思います。


【ハリセンボンに関する追加情報】(Mar.3 & 17, 2019)
 このハリセンボンの記事を読まれた方から、アカウミガメ loggerhead turtleがハリセンボンを餌として食べているとの情報をいただきましたので、調べてみたところ次の3件が得られました。

@「アカウミガメの最後の晩餐」(安曽・内藤)
『福井市自然史博物館ニュースレター』 Apr.2009 No.341、p3
http://www.nature.museum.city.fukui.fukui.jp/shuppan/tayori/newsletterNo.341.pdf

内容:福井市鷹巣海水浴場に漂着した1m以上のオスのアカウミガメの遺骸を解剖したところ、消化器官からイカの顎板やタコブネの殻片とともにハリセンボンが11個体以上出てきた。


A「繁殖期のアカウミガメ(Caretta caretta)によるハリセンボン科魚類の捕食例」
Confirmation of loggerhead turtles (Caretta caretta) ingesting porcupine fish (Diodon sp.) 
宮里俊輔・梅本巴菜・福川優希・宮本圭・河津勲、『うみがめニュースレター』 No.101 2015、p2-3
https://onedrive.live.com/?authkey=JTZSYhWenoU%24&cid=F4F1F62342E3DEDD&id=F4F1F62342E3DEDD%21220&parId=F4F1F62342E3DEDD%21105&o=OneUp

内容:沖縄県糸満市名城のアカウミガメ漂着死体(約90cm、オス)の消化器官から全長10〜15cmのハリセンボンが15個体出てきた。

B「スクープ!!」(2008.9.10)
『ウミガメと愉快な仲間たち(奄美海洋展示館の日常)』 → こちら

内容:このブログには、ハリセンボンをがっちり咥えたアカウミガメの飼育水槽中の写真が紹介されています(図12)。咥えられたハリセンボンは腹側(白い)が上になっています。 この写真は、奄美海洋展示館より転載の許可を得てここに掲載いたします。



図12 ハリセンボンをくわえたアカウミガメ 奄美海洋博物館提供


Fig. 12  Loggerhead turtle holding a porcupine fish in its mouth tightly in the pool of the ocean-exhibition-hall. September.10,2007. Reproduction with permission of Amami Marine Museum,"Amami kaiyou tenjikan" in Japanese.


〇奄美海洋展示館のホームページ → 
こちら
   https://www.ohama.marutani-amami.com/ocean-exhibition-hall
 上記のアカウミガメの他に、多くの亜熱帯の海に棲息する魚などが紹介されていますので、ぜひご覧ください。
〇奄美海洋展示館のブログ → 
こちら
 イベント情報などが載っています。
なお、左下の『ウミガメと愉快な仲間たち(過去ログ)』から入っても、上記B「スクープ!!」(2008.9.10)の記事に行き着けます。

これらの報告からアカウミガメがハリセンボンを積極的に捕食していた(小型のものはたぶん丸呑み)とみて間違いないでしょう。
Two papers above @ & A report that adult male Loggerhead turtles may prey on, perhaps swallow many Long-spined porcupinefishes because of the discovery of them in their digestive tract.

そこで・・・
ハリセンボンの歯板が化石になるプロセスが一つ、私の脳裏をよぎりました。

@の報告に添えられた写真の中には消化管内容物として棘のついた皮や鰭、背骨とともにハリセンボンの上顎と下顎が示されていること、
Aの図2a(写真)にあるように多数のハリセンボンを丸ごと捕食しているらしい、

この2点から、
(ア)ハリセンボンの死後、軟体部は腐敗し、骨格のみとなる。顎が摩耗して、歯板だけとなり地層中に保存されるという経路以外に、
(イ)ハリセンボンがウミガメなどの捕食動物に食べられた後に、未消化の骨格がとして海洋に排出される(以下同じ)という経路が追加できるのではないかと閃きました。この場合には、捕食できないような大きなハリセンボンは対象外です(現在よりもずっと大型のアカウミガメがいたのならば別です)。

ただし、(イ)の経路を前提としても全数からすればその数少ない経路を経たであろう化石について検証作業は不可能でしょう。
それでも、私の弱い頭で想像してみると、アカウミガメの消化管を経ることによって魚の骨格にどのようなダメージがあるのか、実際に糞を採取して化学的に検討する必要(現生に関する作業)と、 葛袋のハリセンボン歯板化石の外面や内質部に同様のダメージ(変化)の痕跡が確認できるということ(化石に関する作業)があって太古の出来事が証明されること(照合・検討作業)になるでしょう。

この部分も長々と書き連ねてしまいました。
ただそこに化石があった、化石が発見されたという事実のみで満足して終わるのではなく、化石の持つ背景を考えるべきだというのが私の持論です。 化石の持つ背景とは、古生物の生態 Paleo-ecology太古の地球環境 Ancient environmentのことであり、抽象的な言いかえになりますが化石のもつロマンとも言えましょう。
皆さんとともに化石の語る話しに耳を傾ける努力をしていきたいと思います。

このような点を体験館の来訪者の皆さんにもいつまでもお伝えしていきたいと思います。

I understand that fossils are precious records and valuable infomation of ancient life, therefore, I am going to state my fundamental view about fossils;
" We are not only satisfied with fossil discoveries by us from the outcrop but also should be imagining both their significance and the process of their fossilization."

I am now going to get across my view to all visitors finding out any kind of fossil at the Fossil and natural experience house with other teaching staffs.



【参考資料 References】

埼玉県校外教育協会編 、1963、『採集と観察(校外学習ガイドブック) no.2』埼玉の動物・植物・鉱物、146p、埼玉新聞社出版部

堀口萬吉編、1975、『日曜の地学 新・埼玉の地質をめぐってたずねて』、築地書館

東松山市教育委員会、2013、『東松山の化石図鑑』、東松山市教育委員会、22p

東松山市教育委員会、2015、『埼玉県東松山市葛袋地区化石調査報告書』、東松山市教育委員会、129p
Reports on the Geology and Paleontology of the Kuzubukuro District, Higashimatsuyama City, Saitama Prefecture, Central Japan

荒井 豊・原田吉樹, 2015. 葛袋における都幾川層群の基底礫岩と不整合, 埼玉県東松山市葛袋化石調査報告書, 17-32.
Basal conglomerate and unconformity of the Tokigawa Group at kuzubukuro, Higashimatsuyama City, Saitama Prefecture, central Japan.

千代田厚史・原田吉樹, 2015a. 葛袋の神戸層から産出した中新世生痕化石, 埼玉県東松山市葛袋化石調査報告書, 119-125.
Miocene Trace fossils from the Godo Formation at kuzubukuro, Higashimatsuyama City, Saitama Prefecture, central Japan.

千代田厚史・原田吉樹, 2015b, 岩石穿孔性二枚貝類による,中新統の穿孔痕にみられるジオペタル構造,日本地質学会第122回学術大会講演要旨, 135.
Geopetal structures in Miocene borings created by rock boring bivalves from three localities in Japan (R15 O 6)

千代田厚史、原田吉樹、2016、岩殿丘陵北部の中新統層序と古生物−サメの歯から穿孔貝まで−、地学団体研究会総会講演要旨集 巻:70th ページ:145‐158
Stratigraphy and Paleontology of the Middle Miocene in northern Iwadono Hill, Saitama Pref., Japan: fossil shark teeth and borings created by rock boring bivalves, and etc.

千代田厚史・荒井 豊・原田吉樹,2016、サメの歯化石の発掘を主体とした地質体験学習とその展望 埼玉県東松山市葛袋・中新統神戸層 (R20 P 2)
Geological activity and its progress, mainly composed of Fossil shark teeth excavation from the Miocene Godo Formation at Kuzubukuro, Higashimatsuyama City, Saitama Pref., Japan (R20 P 2)

栗原行人、2015、葛袋地区化石調査で神戸層・根岸層から得られた中新世貝類化石, 埼玉県東松山市葛袋化石調査報告書, 98-102.
Miocene Molluscan fossils collected from the Godo and Negishi Formations by The Kuzubukuro Fossil Suevey

後藤仁敏・上野輝彌,三浦層群三崎層(中期中新世)から産出したハリセンボン属(条鰭魚類・フグ目)の歯板化石,化石研究会誌,第35巻,第1号,p10−14.

Kato, H., Kurihara, Y. and T. Tokita (2016) New fossil record of the genus Bathynomus(Crustacea: Isopoda: Cirolanidae) from the middle and upper Miocene of central Japan, with description of a new supergiant species. Paleontological Research 20(2): 145-156.






Since: August.8, 2018
Update: August.29, 2018
Update: February.20, 2019
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