#29 博物館と穿孔貝D 木の葉化石園
  Museum and boring shell D Konoha Fossils Museum


【写真】 塩原温泉街・福渡地区を流れる晩秋の箒川(2017年11月13日撮影)

【写真の説明】このあたりの箒川は緩やかな流れとなっています。砂利の堆積する河原は特になく川底は直接岩盤が露出しており、両岸はほぼ絶壁となっています。 また、このあたりは瀬と淵で構成されていますが、これといって深い淵はありません。地質は中新統福渡層で、岩質は緑色凝灰岩です。右奥に見える橋は福渡橋です。
Photo: Hoki River near Fukuwata Spa district in late autumn. The inclination of river floor is small here. So, water runs slowly. Geology here is the Miocene Fukuwata Formation, its Lithology is Green tuff.
Photo on July 27, 2015


「博物館と穿孔貝」シリーズの公開第1弾としてこのページを取り上げました。 以下、簡単な観察・見学記録です。


#29-1 木の葉化石園をたずねて
My visit of Konoha Fossils Museum, Nakashiobara district, Shiobara Onsen, Nasushiobara City, Tochigi Prefcture


図1 木の葉化石園の看板 駐車場の入り口脇にある

Fig.1 A signboard of Konoha Fossils Museum

 木の葉化石園はずいぶん前から知っていましたが、いつでも行けるという感覚、ないし安心感から足を向けることがありませんでした。
ある日、木の葉化石園に穿孔貝化石である芋石 potato stone が展示されていることを知ってから、いてもたってもいられず、急遽見学に出かけました。

建物の脇には、まず更新世の湖成層(数10万年前の湖に堆積した地層)の露頭と解説が我々を迎えてくれます(図2)。 館内に入って直ぐのところには、当所の湖成層から産出したりっぱな木の葉などの化石が多数展示されていて、見応えがあります。しかも、現生の葉と対比させるというように展示は工夫されています(図3)。
昆虫や淡水魚、ネズミまで綺麗に保存されているのがよくわかります。



図2 化石園園内にある湖成層の露頭と解説板

Fig.2 Pleistocene lake deposits contain many fossil leaves, and etc. beside the entrance of the museum facility.



図3 化石園園内に展示されている湖成層産の木の葉化石

Fig.3 Many exhibits of fossil leaves in the museum. These fossil leaves are two kinds of mayple

この化石展示のコーナーの先に、「塩原5銘石」中新世の鹿股沢層(約1000万年前の海底に堆積した地層)から産出した貝化石などが展示されています(図4)。
早速、展示されている芋石に注目しました(図5)。



図4 「塩原5銘石」等の展示コーナー  黄色矢印の先が芋石の標本

Fig.4 The special exhibit of Shiobara-go-meiseki, may be translated to "Shiobara precious five stones" or "Precious five stones in Shiobara ", and etc. in the museum
Two groups of gray rocks on top left(each tip of yellow arrows) are some isolated imoishi or gravel which contains some imoishi.

母岩から取りだした「芋」、言いかえれば単離した「芋」と、母岩に含まれたままの状態の「芋」の両方が展示されています(図5)。
単離した「芋」のサンプルは、イモ以外に例えるならばイチジク状をしています。(図6)。
芋石の大きさは大人の親指程度ですが、形態が芋(サトイモの子?)に似ていることからこの名前がつけられたのでしょう。


図5 芋石の展示(2つある芋石標本群のうち、右側のもの)

Fig.5 One of two main exhibits about "Imo-ishi", i.e. potato stone. "Imo-ishi" is one of Shiobara-go-meiseki; "Shiobara precious five stones".


芋石は、貝石(かいいし)、木葉石(このはいし)、鮫石(さめいし)、 鍾乳石(しょうにゅうせき)とともに「塩原五銘石」の一つとされています。 これらは明治時代の中頃から知られ、当時の紀行文にも紹介されていますが、昨今これを承知している地元の方はかなり少ないと思われます。


図6 展示されている芋石(単離標本)の接写(図5左下の標本)

Fig.6 An enlargement photo of Imoishi; potato stone at below left in photo above. This specimen, which has been isolated from gravel, shows that Imoishi has the charastrestic of fig-like shape. 


ここで、芋に似ていることから恐らく命名されたであろう芋石の実態を科学的に解明したいと思います。
芋石は、「岩石穿孔性二枚貝類の巣穴化石」、かつ、その「雌型(めがた)化石」になります。 芋石は、地層中に埋没する過程で巣穴内部に砂泥等が入り込み、それらが長い年月の間に固結したものと言えます。

芋石を取りだすには母岩を破壊しないと絶対できません。その際にもともとの巣穴が大きく壊れてしまう訳ですが、破片を集めてていねいに接着していけば元の姿を復元することができます。
これは、堆積直前の太古の巣穴になりますが、 これを雄型(おがた)化石 と呼びます。

すべてではありませんが、雌型化石である芋石の内部に穿孔貝(掘り主)の貝殻・二次的な居住者などが残っていることが十分期待されます。 しかし、よそ様の標本は壊せませんので近いうちに自前の標本をそろえた上で探りたいと思います。

化石は、地層中に保存された太古の生物の記録です。その記録は、冷凍マンモスの血肉ような例外はあるものの生物の軟体部は腐敗してしまうため保存されず、ふつう溶解しにくく対摩耗性の強い硬質部分(貝殻・骨・歯など)が残り、体化石 body fossilと言います。 また、生物のはい跡や足跡など行動・生活の記録が運良く地層中に残る場合があり、それらは生痕化石 trace fossilと呼ばれます。

したがって、芋石は、後者の生痕化石に該当します。また、当然ながら芋石の相手方(カウンターパート;雌型化石)も生痕化石ということになります。

穿孔貝の巣穴化石の地層中における保存を考える場合、「現生穿孔貝の穿孔痕標本 3点セット」(図7)を参考にしてください。 これは、@貝殻(=巣穴の構築者兼居住者)A巣穴の型(雌型:シリコンゴム製、自作)B巣穴(雄型:岩石・基層)の3つからなり、岩石穿孔性ないし材穿孔性の穿孔貝を扱う際の私の標本作成スタイルです。現在このスタイルで多くの穿孔貝・穿孔痕標本を蓄積中です。

この標本からおわかりになるように青色シリコンゴム製の巣穴の型(雌型)が芋石に相当します。 この現生標本は、神奈川県真鶴町の相模湾沿岸において採集した、安山岩レキに穿孔する現生のカモメガイの仲間(幼貝・死貝)です。


図7 現生穿孔貝の穿孔痕標本3点セット カモメガイの仲間 Penitella sp.(R-type) 神奈川県真鶴町相模湾沿岸

セット内容:貝殻(左、上段:右殻、下段:左殻)・シリコンゴム製の巣穴の型(中央)・巣穴(右、安山岩レキ)


Fig.7 A set of samples on modern rock-boring bivalve; Penitella sp.(R-type). Shells(left), Mold made of blue silicone rubber(center, created by me), and Cast ; Boring in andesite gravel(right) From the shore along Sagami Bay, Manazuru, Kanagawa Prefecture.
This style of three kinds of specimens is very important in considering the relationship between shell shape and characteristics of boring(both cast and mold).

芋石については、“#12 栃木県那須塩原市、中新統の岩石穿孔性二枚貝類による穿孔痕”にて詳しく説明する予定です。公開できるまでしばらくお待ちください。

The details of Imoishi, potato stone; fossil boring created by bivalve borer will be described by me in the pages of "#12 Miocene borings created by rock-boring bivalves, Nasushiobara City, Tochigi Prefecture" My sentenses and photos will be released soon.


○木の葉化石園のホームページ → 
こちら


#29-2 源三窟をたずねて
My visit of Gen-zan-kutsu, Nakashiobara, Shiobara Spa, Nasushiobara City, Tochigi Prefcture

 源三窟(げんざんくつ)は源氏の隠れ岩屋の伝説がある史跡・鍾乳洞で、塩原温泉中塩原の国道400号線および塩原バレーライン沿いにあります。木の葉化石園から直線距離で1kmも離れていません。
この施設の存在はずいぶん昔から承知していたのですが職員旅行・スキー旅行・地質調査で塩原を訪れていながら、見学はついつい後回しになってしまい、最近やっと訪問しました。 その前を何度も車で走っていました。しかし、後述のように訪問して大正解でした。
駐車場は上と下の2箇所にあり、下からは階段を上がって入り口に向かいます。
この段差は河岸段丘によるもので、階段の段数は111段あります。図8の右側写真において"t1"が源三窟の建物の載る高い面で、"t2"がそれよりも一段低い面になります。




図8 源三窟の看板(左)、入り口と建物(右)

Fig.8  A signboard of Gen-zan-kutsu(left photo), Genzankutsu facilities on the upper terrace; "t1 "and parking lot on the lower terrace; "t2"(right photo)

この施設は小さな鍾乳洞と武具資料館、神社で構成されています。
これまで私は次の国内外の鍾乳洞を訪問したことがあります。
国内では、龍泉同(岩手県)、入水鍾乳洞・あぶくま洞(福島県)、小平鍾乳洞(群馬県)、橋立鍾乳洞(埼玉県)、飛騨鍾乳洞(岐阜県)、井倉洞(岡山県)、秋芳洞(山口県)の9洞で、海外ではジェノランケイブ(オーストラリア)の1洞のみです。

源三窟は私の訪問した洞の中でもかなり小さく(公開されているエリアで見た場合)、日本国内で公開されている洞の中でも最小クラスと言えるでしょう。後述するように、この洞には他にない「ある特徴」があります。




図9 源三窟に向かう坂の途中に見られる石灰岩露頭

Fig.9 Outcrop of limestone on the way of stairs to the facility. This is a cliff among river terraces.

日本(北海道〜九州)では、鍾乳洞(石灰洞)のほとんどは古生代〜中生代の石灰岩地帯にあります。その石灰岩は堆積作用や続成作用等によって緻密ですが、大小の割れ目を持っています。割れ目を伝わった雨水・地下水(ともに二酸化炭素を含んで弱酸性になっている)によって石灰岩が溶かされてできた地下空間が鍾乳洞ですが、 その内部には地下水による溶食の痕跡や鍾乳石などの洞窟生成物が確認できます。

しかし、ここの石灰岩は大小の空洞や割れ目が多く、また黒っぽい汚れもあって上記の古い年代の石灰岩と大分異なります。露頭を見ると石灰岩はガサガサ感があり、沖縄の琉球石灰岩にどことなく似ています(図9)。
ここの石灰岩の新鮮な部分は、薄い茶色を呈しています。

温泉水に鉄分や硫黄分、炭酸ガスなどが溶けていることは知られていますが、石灰分も温泉成分の要素です。
沈殿した石灰分、つまり石灰華 calcareous sinter の薄層が形成され続け、長期間では大きな塊ができます。北海道の二股温泉や岩手県の夏油温泉のように石灰華でできた岩塔もあります。

源三窟を構成する石灰岩は温泉水中の石灰分が湖に堆積したものと解釈されています。また、源三窟の石灰岩から木の葉や淡水性陸貝(カワニナ)の化石が見つかっていますから湖底堆積物という見方は間違いないでしょう。

ここでは、源三窟を構成する石灰岩を仮に“石灰華石灰岩 calcareous sinter limestone”と呼ぶことにしましょう。
夏油温泉の噴泉塔は直接見たことはありませんが、それにしても源三窟一帯の石灰岩は大量です。現在、源三窟の北側(下の駐車場側)は崖となっていますので石灰華の総量を推定するには昔の箒川による侵食量も考慮しなければなりません。

【疑問】源三窟の石灰岩を作ったであろう温泉水の石灰分はどこからきたのでしょうか?
 一つの答としては、もともと地下にあったであろう古い時代の石灰岩ではないかと思われます。つまり、溶岩の熱や温泉水の熱で地下の石灰岩が徐々に溶かされたのかもしれません(あくまでも、私見です)。
または、マグマ由来の成分かもしれません。



図10 女性スタッフによる、絵図を用いた説明風景(左)、鍾乳洞の入り口(右)


Fig.10 One scene of the explanation with some pictures by a woman stuff; owner's wife(left photo), the entrance of the calcareous cave(right photo)

チケットを購入すると法被を着た案内担当の女性に入洞前に別棟に案内されました。何でだろうと不思議に思っていると、お手製の数枚の絵で洞の歴史を説明してくれるとのこと。 つまり、紙芝居ですが、分かりやすいストーリーでした(図10)。これは、混雑緩和のための時間調整の意味もあるようです(なお、私の場合は一人でした)。
洞内にはこの洞窟のでき方の説明板(図11)があり、理解を助けてくれます。つらら石 stalactite (図13)や石筍(せきじゅん) stalagmite (図14)といった鍾乳石 speleothem がたくさん見られます。
また、石灰岩の断面と思われる研磨面もありました。





図11 “石灰華鍾乳洞”のでき方の説明板(洞内)


Fig.11 Four small figures explain the process of volcanic activity, lake deposit, limestone, and cave in progress.





図12 石灰岩中の木の葉の化石(印象化石、洞窟内)


Fig.12 A fossil leaf; mold of leaf, in the limestone, which means the formation in the lake deposits.





図13 洞内にみられる鍾乳石(つらら石)


Fig.13 One of speleothem; stalactite in the cave.




図14 石筍の切断研磨面(洞窟内)

 
Fig.14 Crosscutting, polished stalagmite with my left index finger in the cave. This looks like the annual ring of wood. This surface tell us that these kind of rocks were constructed with the circular growth of minerals; impure calcite.




図15 石灰華石灰岩と思われる研磨面(洞窟内). 運動靴がスケール代わりとは行儀が悪いですね!


Fig.15 cross-sectioned, polished stone in the cave rock, may be limestone, calcareous sinter because of complicated growth. I made my shoes have a role of a kind of scale. sorry, bad manners!



武具史料館や土産物コーナーの見学後に、スタッフの女性(実は、当館オーナーの奥方であることが後日わかりました)に私の塩原地域の地質調査の目的や芋石の話しを持ちかけたところ、 その昔この地では芋石を販売していたという事実を教えていただきました。 確かに「塩原5銘石の展示販売所」という看板を掲げた小屋が映った、大正時代の白黒写真が残っていることからもわかります。

さらに、当館に代々伝わり大切に保管されているお宝の一つと言える「芋石」もいくつか見せていただきました(図16)。
このような事実に、芋石の文化史的、地質学古生物学的な探査に新たな意欲が湧いてきたのは言うまでもありません。 結局、この芋石情報が源三窟を訪問した最大の収穫でした。今後、塩原温泉地域を中心に那須塩原市民のみなさまと交流させていただく中でさらに芋石等に関する情報が得られることに期待しましょう。

この御厚意に対して私はお礼として芋石の解説プレートを提供いたしました(図17)。芋石は当館の宝として今後も大切に保管・展示され続けることでしょう。





図16 「5銘石」の販売終了後も、当館にながらく大切に保存されている芋石(すみません、準備中です。

Fig.16 Many of Imoishi, which were preserved here carefully for long time after the end of the sale on "Shiobara precious five stones" .(sorry, under preparation




図17 当館に提供させていただいた芋石の自作解説板(すみません、準備中です。

Fig.17 The explanation plate about Imoishi; one of the Shiobara precious five stones, which was created by chiyodite, has been presented to Genzankutsu.(sorry, under preparation


最後に、ひととおり源三窟を見学した私の意見です。
“源三窟の鍾乳洞は、海成の石灰岩ではなく淡水成の石灰華石灰岩内部に形成されている点”で日本国内ならず世界的に見ても貴重だと思います。 木の葉石を産する湖成層とともに大切な地域の自然遺産と言えます。

以上が、源三窟の自然史的(地質学的)な意義の解説です。このほか、源氏一行が隠れた洞窟という歴史的な意義もありますが、ここでは省略させていただきます。
詳しくは源三窟のホームページをご覧ください。


この紹介記事を読んで関心をお持ちの方は、温泉堪能と合わせて木の葉化石園と源三窟の2館をぜひ訪問してください。


○源三窟のホームページ → こちら

「塩原五銘石」を含む標本セットについて
【 2020. 3.21 新規追加情報。New information added on March 21, 2020 】

 この章では、その昔源三窟の地において「塩原五銘石」が販売されていたことを書きました。
実は、木の葉化石園が戦前、芋石を含む化石や鉱物の標本セットを販売していたという事実があるブログの記事から一昨年わかりました。
そのブログは確かYahooブログと記憶していますが、Yahooブログは昨年12月中旬に閉鎖されてしまい閲覧できなくなっていました。 最近、ブログ自体が他のプロバイダーに移行して全く同じ内容で再開されましたのでここに紹介します。

茨城県を中心とした化石について紹介しているブログ「茨城県化石工房」です。

標本箱のややくすんだラベルには、「化石標本」と「木の葉化石園」という文字が確認できます。
完全型の芋石、つまり図6のようなイチジク型の穿孔痕とはいきませんが、私が見ても確かに芋石の破片です。 標本箱の全体写真と、3分の1程度の芋石ですがクローズアップ写真が紹介されていますので、ぜひご覧ください。

この標本セットは地質学・古生物学的な価値の他に文化誌的な価値もあり、かなりの貴重品と言えます。

A set of specimens;"Precious five stones in Shiobara" and other minerals had been sold at Genzankutsu and Konoha fossil museum as a kind of souvenir in Shobara Onsen before 1945. Perfect specimen of Imoishi has a fig-like shape as fig. 6, but most specimens of souvenir do not have that shape. Instead, ordinary specimens in old souvenior box have a half or a third part of boring. Please look at the pages about Imoishi in the following blog; "Ibarakiken- kasekikoubou".

○ブログ 「茨城県化石工房」 → 
こちら
Blog "Ibarakiken- kasekikoubou" which introduces Imoishi → 
here



#29-3 七ツ岩をたずねて
My visit of Nanatsu-iwa, Fukuwata Spa district,Shiobara Onsen, Nasushiobara City, Tochigi Prefcture

福渡温泉の上流にある七ツ岩は、塩原温泉エリアの観光スポットのひとつですが、ここだけを目指す観光客は多くありません。 上流にある七つ岩吊り橋は多くの観光客が足湯 foot spa と併せて訪れますが、観光客のほとんどはその名にある七つ岩は吊り橋の下流にあることを承知していないでしょう。 吊り橋の中央からは七ツ岩はよく見えませんし、岩の状況もつかめません。



図18 緑色凝灰岩からなる、晩秋の七ツ岩 

写真手前の細い流れは箒川の小分流で、中央の溝は箒川の幅流路。右岸寄りの箒川河床にて撮影


Fig.18 Nanatsu-iwa consited of Miocene Green Tuff, in late autumn. The wide furrow with many fallen leaves seen center in this photo is a vice-route of Hoki river at the time of flood. This photo was taken on the right side of riverbed by me.

そこで、ある年の晩秋、箒川の右岸側の河床に降りてみました。この写真(図18)はその時に撮影したものです(降りること自体は左岸ほど難しくありません)。

写真中央の溝状の部分は、台風等での増水がない限り流れのない、大小のプ−ルの続く右岸寄りの凹地帯で、本流に対して副流路と呼べます。 水面が落ち葉に被われいて大きさや深さが正確につかめないものの、実はけっこう深い淵(一部はポットホールの拡大版か?)になっています。

この凹地帯の左側には上部が丸くなった緑色凝灰岩の岩塔が上流から下流に向かって並んでいます。これらが七ツ岩です。岩塔がちょうど七つあるのか、それ以上かこの撮影位置からはわかりません。
したがって、本流と副流によって岩塔が形成されたとみることができます。

岩頭の左側には箒川の本流があって、大きな落差を川水が滝のようにゴウゴウと大きな音を立てて勢いよく流れています。いわゆるホワイトウオーター white water ですね。

この場所はこのページトップの写真にある流域の上流部に位置していますが、数m河床の標高が高いため流れの勢いは強く、河川の浸食力(特に下方浸食)が強く働いている場所になります。
河川の流向方向に溝ができることは解釈が容易ですが、分断された岩塔が上流から下流に向かって並ぶのはなぜでしょうか。

ここで七つ岩の成因に関する、私の解釈を記します。
箒川の流れに斜交するように緑色凝灰岩の岩盤には一定方向の割れ目が平行に何本も認められます。これを節理 joint と言いますが、この節理方向にも河川の侵食作用が働いて溝や空洞ができ、年月とともにさらに広がったと考えられます。 つまり、大きく見れば岩盤が四角柱状にいくつも削り残しができたのです。もちろん岩は四角柱状のままではなく、風化作用 weathering も手伝って胴囲も頭部も丸まります。

塩原温泉域や箒川上流部には2019年の台風19号「令和元年台風19号」による豪雨があって、地元の人によれば、この七つ岩の岩塔の頂部が少し残るくらいに増水したといいます。 したがって、この七つ岩周辺の岩盤や岩塔の多くは砂を含んだ濁流のやすり掛け作用河床を転動するれきの衝突現象によってさらに磨かれました。 磨かれたばかりの濡れた緑色凝灰岩は薄い緑色をしていて、ふだんよりも一段と美しいことでしょう。

実際に右岸よりはずっと急な左岸の崖を踏み跡を頼りに降りてみました(図19)。
左岸側の岩場上部、言いかえると温泉水?下水?と思われる太い送水管の支持部には洪水時に流されて引っかかった漂着ゴミが今でも残り、当時の最高水位を推定する有効な材料となります。
この位置からは正確に数えられませんが、大小の岩塔は七つ以上ありそうです。

このように七つ岩周辺の箒川流域・谷底は小さな峡谷と言えます。



図19 左岸側の河床中央よりから見た七ツ岩 2019年の台風19号の豪雨後の濁流で磨かれています。この写真の右端中央付近が図18の写真の撮影位置です。

脚力と腕力に自信のある人は、急な斜面を伝ってこの河床まで道路から降りられます(ただし、自己責任で)。

Fig.19 Nanatsu-iwa view on nearly center of Hoki River in winter, where had been eroded by rapid and muddy flood water after the heavy rain on the Typhoon Hagibis, mid-Octorber, 2019.
Narrow white water means very rapid stream. It is very difficult for most people to climb down safely from the steep slope near a private house beside the road. Photo on February 21, 2020


【最後に、塩原温泉の宿の紹介です】
An introduction of Akasawa-onsen-ryokan; Japanese-style accomondation at Naka-Shiobara district



【写真】赤沢出会い、箒川河畔にたたずむ晩秋の赤沢温泉旅館


Photo above: Akasawa-onsen-ryokan, beside Hoki River in late autumn

 中塩原地区にある赤沢温泉旅館は、塩原の旅館街から離れた、箒川の左岸にある一軒宿です。国道や県道からずっと離れたロケーションにあり、大変静かです。 那須塩原市塩原総合支所の川向こうになります。

源泉の温度は45℃と高くはなく、ナトリウム・カルシウム・塩化物泉という泉質もありきたりですが、古代檜を使った浴槽や露天風呂は落ち着けるので、地質調査等の際の私の定宿となっています。
皆さまにも宿泊をぜひお勧めします。
※宿泊の際にこのホームページを見たとお伝えいただけますと、御主人から何らかのサービスが期待できることでしょう。(この件について御主人了解済み。)


【余談ですが・・・】
赤沢温泉旅館には、男女別に内風呂と露天風呂がそれぞれあります。下図は数人が一度に入れる大きさの内風呂浴槽です。 ある朝、内風呂浴槽にのんびりと浸かっていた際に気が付いた、心なごむ現象を紹介しましょう。




【写真】赤沢温泉旅館の内風呂


Photo above: Inner bath in Akasawa-onsen

温泉の注ぎ込みあたりに、大小の気泡が発生することはこの温泉に限ったことではありませんが、ふつう一瞬のうちに消えてしまいます。 中には、稀に約5mm径の泡が半分くらい沈んだ状態で数秒間浮かび続けることもあるでしょう。

しかし、径1〜2mmくらいの小さな気泡が水面下から現れたあと沈むことなく、また水面の上に飛び出て飛翔することなく、朝日に輝きながらバブルの底が水面と1点で接したまま約3〜4秒間サ〜と流れていくのです。
中には前を行く気泡をスイスイ〜と追い越していく“元気な気泡”もあって、見ていて飽きません。最後は、シャボン玉のようにパチンと割れるのではなく水面下にスッと没する姿はまるでボードに立ち上がって波に乗り、最後は波に揉まれて沈するサーファーのようです。
よく見ると泡は沈むのではなく実際には割れており、小ささのためにわかりにくいですね。


【写真】浴槽の水面に浮かぶマイクロバブル 左から右へバブルは移動しています(=“波乗り”しています)。

Photo above: On an early morning I found out that several bubbles were floating on the spa water, from the falling of spa to the opposite, from left to right in this photo, in the inner bath at Akasawa-onsen. So, I want to call this phenomena "Micro-bubble Surfing Phenomena". This best name has been come to my mind just in the bath. But, I am not able to consider why this phenomena happen in this spa water. Anyone help me!

何度も何度もこの小さな気泡が注ぎ口の反対側に浸かる私の方向に音もなく(当然)流れてくるのです。おそらくほとんどの人は見逃してしまいそうな、実にささやかなものです。 夜間の入浴では照明が暗いためほとんど気が付きませんでした。

湯に浸かりながら、このようすを何と命名しようかと思い悩んだ末に、小さな気泡の発生から消滅までの動きがボードに立ち上がって波の上に現れ、波に乗った後は波に飲み込まれるという「波と戯れるサーファー」に似ていることから、“マイクロバブル・サーフィン現象”という名称がひらめきました。

温泉水の表面張力の妙技(径1〜2mm以上、大きなものは発生しない点)、浮力と重力の微妙なバランスが働いており(サーフィンしている様にみえる点)、とてもとても不思議な物理現象だと思いました。

なお、この現象は露天風呂の温泉注ぎ口にも見られますが、飛沫も多いので少々分かりにくいです。

『疑問』
バブルの径が1mmなのはなぜでしょうか?
寿命が最長3秒程度なのはなぜでしょうか?
他の温泉旅館(ホテル)、その浴槽、異なる泉質でも起こる現象でしょうか?

どなたかに物理公式や数値を用いてこの物理現象を解明していただきたいものです。低めの湯温としても観察を続け、何だかんだと理屈を考えていると湯あたりしそうです・・・(笑い)

このマイクロバブル・サーフィン現象をご覧になりたい方はぜひ赤沢温泉旅館に御宿泊ください(日帰り入浴も可能です)。


【 追加記述 2020年4月29日。New sentences added on April 29, 2020 】
マイクロバブルはどのようにすれば安定的かつ大量に形成できるのか、ある日赤沢温泉に浸かりながら実験してみました。

○方法その1:温泉の落ち込みのように温泉水を桶に汲んで適度な高さから注いでみる。
○方法その2:湯船の温泉表面付近で、手のひらを開いたり閉じたりして(ジャンケンのグー・パーの繰り返し)波だててみる。

この二つの方法で、マイクロバブルが全くできないわけではありませんが、生成頻度や発生数は注ぎ口にはまったく及びませんでした。

あれこれ悩みながら、「泡」ができるプロセスやメカニズム自体を考えました。

そもそも泡ができるということは、水塊・水滴が水面〜水面下に落ちる際に空気をわずかに引き込み、その引きずり込まれた小さな空気塊が浮力によって水面(液体ー気体のインターフェース)に向かって上昇する勢いで水面の位置からやや上に飛び出す際に泡ができると考えられました。

そこで、小さな水滴(マイクロドロップと名付けましょう)を水面にたくさん落とせばよいと気が付いて、試行錯誤の結果たどり着いたのが次の方法でした。

「濡れた手のひらを、指を広げたままで浴槽の水面上で手首のスナップを生かして強く振り抜く」

→ このような状況から導かれる仮説
  マイクロバブルはマイクロドロップで形成される。赤沢温泉の温泉水がマイクロバブルの形成にちょうど良い物理的化学的な性質を持つ。

この方法で温泉の注ぎ口よりもたくさんのマイクロバブルができました。みなさんもぜひ赤沢温泉旅館のお風呂で試してみてください。
なお、我が家のお風呂では何度やってもできませんでした。我が家は水道水の沸かし湯ですから当然でしょう・・・

【補足説明】
インターネットでマイクロバブルについて検索したところ、“マイクロバブル microbubble ”自体は国際標準規格:ISOで規定されていることが分かりました。 ISOでは、直径が1マイクロメートル(μm)〜100マイクロメートル(=0.001mm〜0.1 mm)の泡を呼ぶそうです。

また、マイクロバブルは工業的にもさまざまな方面で利用されているほかに、温泉浴槽での活用例もあるそうです。企業のユーチューブ映像を見ると浴槽中の透明な温泉水がマイクロバブルでまるで何かの浴用剤を入れたように真っ白になっていました。

私のマイクロバブルでは、あくまでも他の大きな泡に対して「小さな」という意味で使用しており、このISOの定義とは全く関係ありません。もちろん物理量の単位(質量・長さ・時間)の一部として使われる「接頭辞:μ(マイクロ;10のマイナス6乗)」は意味していません。



○赤沢温泉旅館のホームページ → 
こちら

○塩原温泉郷公式ホームページ → 
こちら



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last update:April.29, 2020