拍手文シリーズ3




 ※拍手で回っていた同設定で続いたものをまとめました。




 ※原作設定リヴァエレ+リヴァイ班ギャグ。下品です(汗)。



第一話・皆に相談編


 その日、調査兵団の本部である古城を歩いていたエレンは、同じ調査兵団の先輩だと思われる女性兵士に声をかけられた。

「ねぇ、君、新しくリヴァイ班に入った子でしょ?」
「あ、はい、そうですが……何でしょうか?」

 エレンは何を言われるのかと身構えた――実績も何もない新兵である自分が精鋭ぞろいのリヴァイ班にいるのを快く思っていないものがいるのを少年は知っていたからだ。ましてや、自分は巨人に変身するという得体の知れない能力を持っている。この女性兵士も何か自分に不満をぶつけてくるのかもしれない。
 が、女性兵士の言葉はエレンが思いも寄らなかったもので。

「君とリヴァイ兵長がそういう関係って本当なのかしら?」
「は?」

 質問の意味が判らず首を傾げるエレンに、隠さなくてもいいから!と女性兵士は何故かキラキラと瞳を輝かせて迫ってきた。

「偏見ないから! むしろ、応援するから! 兵団には多いって聞いてたけど、本物は初めて見たわ!」

 で、やっぱり君が下なのよね?と訊いてくる女性兵士にエレンは完全にフリーズした。



「で、それのどこが問題なんだ?」

 古城の一室でエレンからの話を聞いたリヴァイは面倒臭そうな声でそう言うと、手にしたカップを口に運んだ。

「問題ありますよ! そういう関係だと思われてるんですよ!」
「根も葉もない噂話なんざ、そのうち消えるだろ。放っておけ」
「ダメですよ! ここで否定しなかったら、一生そうだと思われたままじゃないですか! というか、やっぱり君が下ってどうなんですか? オレ、そういう風に周りから思われてるってことですか!? そんな風に見えるんですか!?」

 エレンがキレ気味に叫ぶと、同席していたリヴァイ班の先輩達が宥めるように声をかけた。

「まあ、単に面白がってるだけだから気にするな。兵団にそういうのが多いってのはよく聞くからな」

 兵団には女の方が少ないからそういう流れになるんだろうが、と先輩達は女性兵士の言っていた言葉を裏付けるように話を続けた。その言葉にエレンはまさか、という疑いの目を先輩達に向けた。

「まさか……先輩達ってそういう……イヤ、エルドさんとグンタさんはちょっとあやしいとは思ってましたけど」
「イヤ、違うからな、エレン!」
「というか、お前、俺達があやしいって思ってたのか!?」

 慌てて否定する二人に疑いの目を向け続けるエレンに、これまた同席していたハンジがのんびりとした声をかけた。

「まあ、二人の関係はおいておいてさ、エレン」

 おいておかないでください、という男達の声をあっさりとスルーしてハンジは続けた。

「噂を消すには君が誰かと付き合えばいいんじゃないの? 同期の女の子とかさ。ほら、君には確か幼馴染みの女の子がいたじゃないか」
「ミカサのことですか? 有り得ません」

 そういう関係にはなり得ないときっぱりと断言するエレンに、ハンジは不思議そうに首を傾げた。

「なしなの? 仲良さそうだし、あの子美人じゃないか」
「ないです。ミカサをそういう風に見たことないですし……大体、あいつ、腹筋割れてるんですよ。自分より腹固い女と付き合うのってどうなのかと……」
「じゃあ、他の同期の子とかはどうなの? 気になる子いない?」

 言われて、エレンは自分の同期達を思い浮かべ――考えるのを放棄した。

「全員有り得ません」

 想像したのか、有り得ないとぶんぶん首を横に振るエレンに、ハンジは残念そうにいい考えだと思ったのに、と唇を尖らせた。

「オイ、クソメガネ。てめぇがそこまで勧める理由は何だ?」
「え? そりゃ、エレンに女の子とくっついてもらって、子供でも作ってもらえれば、巨人化の能力が遺伝するのかどうか判るじゃないか。もし、遺伝するなら実験対象が増えて万々歳!」

 人でなしだ、この人、本当に人でなしだ、と班員達が全員引いているのにハンジは自分の実験の夢をずっと語っている。リヴァイはうるせぇ、と一撃でハンジをその場に沈めた。

「えーと、じゃあ、本当に付き合うのじゃなくて、他の人と付き合ってるって噂を流したらどうかしら?」

 場をとりなすように発言したペトラにエレンは首を傾げた。

「噂を流すって言っても……そういう噂を流すにはその人と親しげにしてなきゃ信憑性がないんじゃないですか? 兵長とだっていつも一緒にいるからそう言われたんでしょうし。オレ、ここのところ皆さんとしかいませんし……」

 そう言いながらエレンは班員の顔を見回して、オルオのところで視線を止めた。

「あ、オルオさんは生理的に無理です」
「何だと、コルァ!」
「ああ、俺も無理だな」
「俺もオルオだけはないな」
「私も世界に二人っきりになっても無理だわ。……舌を噛み切って死ねばいいのに」
「戦友に向ける冗談にしては笑えねぇな、お前ら!」

 いじられる先輩を見ながらうーんと頭を悩ませていたエレンは、そうだ、と思い立ったように顔をリヴァイに向けた。

「オレじゃなくて兵長に誰かいればいいんじゃないですか?」
「却下だ」

 上官に決まった相手がいるとなれば自分との噂もただの噂だと判るはず――そう思ったエレンの提案を男はにべもなく切って捨てた。

「女と付き合うのなんて面倒臭え」
「あははーリヴァイには無理だよ!」

 いつの間にか復活したのか、ハンジが笑いながら言葉を続けた。

「リヴァイは処理出来ればいいんだから! 今まで関係してきたのって絶対玄人だけだと思うんだよね。あ、そうなるとリヴァイって素人童て……」

 ハンジが言い切る前に再び沈められたのは言うまでもない。

「オイ、エレンよ」

 今の発言で機嫌を損ねたのか、男は低い声で少年に呼びかけた。その迫力に少年ははいっと背筋を伸ばして返事をし、冷や汗を流した。男は何しろ人類最強なのである。理由もなく暴力を振るうような人間ではないと知っているが、躾されるのは避けたい。

「お前は根も葉もない噂を立てられんのが嫌なんだな?」
「はい!」
「なら、簡単だ。噂を本当にすればいいだけだ」
「は?」

 言われた言葉が呑み込めなかったエレンだが、その言葉が脳内を巡って答えに辿り着き、更に多くの冷や汗を流した。

「イヤ、待ってくださいよ。何でそういう話になるんですか!?」
「何を言っている。この上もない解決策じゃねぇか」
「いやいやいやいや、ないですから!」
「安心しろ。慣らしてから突っ込んでやる。これで問題解決だな」
「解決じゃありませんよ! むしろ、更に悪化してますから!」

 叫ぶ少年を無視して、男はひょいっと少年を担ぎ上げ、すたすたと歩き出した。どうやらベッドのある自室に向かうらしい。
 皆さん助けてください、と叫ぶ少年に班員達は首を振って両手を合わせた。
 二人が去って行った部屋にあ、これでリヴァイ卒業出来たね、と呑気に呟くハンジの声が響いたのだった――。



 2014.12.4up



 無性にくだらないギャグが書きたくて出来た作品。小話にしても短すぎですみません。勢い余ってその後のネタも出来たのですが、きっと需要はないでしょうね〜(笑)←ないのは判っていましたが、続きを書きました。





第二話・グンタに相談編


 深刻な顔で、あの、ご相談したいことがあるんですけど、と今年度調査兵団に入ってきた後輩に言われて、グンタは内心で首を傾げながらも頷いた。後輩が余り人には聞かれたくない話なので、とまた深刻そうに言うので、グンタは休憩時間を利用して、自分達が滞在している古城の一角の人目のつかなそうな場所を選び、そこで相談を受けることにした。まるで、密会でもしているようだな、との考えが頭によぎり、グンタは慌ててその考えを振り払った。そんなことを考えたのが判ったら自分の上官に削がれかねない。
 先日、自分の後輩であるこの新兵、エレン・イェーガーと自分の上官である人類最強の兵士長、リヴァイがそういった関係であるという噂が流れているという話が噂されている当人の口から出された。後輩はその噂が事実無根だと証明する手段を探していて班員達に何か良い案はないかと相談してきたのだが、結局、上官の事実無根が嫌なら本当にしてしまえ、という乱暴な論法によって彼に食われ……いや、美味しく頂かれ…ではなくお持ち帰り…というか、めでたく結ばれたらしい。
 翌日、後輩は午前中の訓練を休み、午後になってから腰を押さえながら出てきて、それでもよろよろと掃除をしている姿が涙を誘った。その姿を目撃したハンジがいやあ、リヴァイ昨夜は随分張り切ったんだねー、やっぱりあっちの方も人類最強なの?と発言して、その人類最強に瞬殺されていた。その言葉に涙目になって顔を真っ赤にしていた後輩が可愛いと班員全員で思っていたが、自分の上官には決して言ってはいけないと悟ってもいた。
 大丈夫か、と後輩の腰というか尻を撫ぜる上官の手つきが妙にいやらしかったとか、それってセクハラじゃないのかとか、妙に艶っぽさが出ている後輩とか、周りの男達を牽制する上官とか、とにかく何も全部見なかったことにしよう、とグンタ達班員は決意していた。

 そんなことがあってからしばらく経つが、自分の上官とこの後輩は上手くいっているように思っていたし、班員達との仲も悪くはない。ハンジの実験の方はさほど進んでないようではあるが――巨人化のことに関しては自分に出来るアドバイスはないだろう。いったい何なのか、と思いつつ、グンタは人気のない場所に後輩とともに行き、彼が口を開くのを待った。

「あの、オレ、誰かに相談したくて……でも、誰に相談していいのか判らないし、ここはオレと同じ立場の人に訊くしかないと思って、グンタさんに聞いて頂こうと思ったんです」

 自分と同じ立場、と聞いてグンタは怪訝そうに眉を寄せた――自分と後輩の立場といって共通のものなど同じ調査兵団の班員くらいしか浮かばないのだが、訓練のアドバイスでも欲しいのだろうか。だが、それなら他の班員全員に共通することなので自分でなくてもいいだろう。彼らの中からグンタを選んだ理由が判らない。
 そんなグンタの心情を知らず、後輩は思ってもみなかった言葉を続けた。

「あの、グンタさん、その……予防というか、秘訣は何なんでしょうか?」
「予防? 秘訣? 何のだ?」

 突然の言葉に更にグンタの疑問は深まる。兵士の心得とか、身体の鍛え方とか、怪我をしないような秘訣とかそういう類の話だろうか。

「あの、その……に、ならないかと思って……」
「は? 何になるって?」
「だから……その、ああ、もう、判ってるんでしょう! 痔です!」

 キレたようにエレンが叫び、それからその場はしーんと静まり返った。

「…………」
「…………」
「……お前、痔だったのか?」
「違いますよ! そうなりたくないから訊いてるんですって!」

 どうやら、彼の相談事とは痔にどうしたらならないのか、という秘訣だったらしい。だが。

「……なあ、それってお前、俺が痔の予防法を知っているって前提で話していないか?」

 グンタは現役の兵士なので、当然身体は鍛えてあるし健康体である。日頃から病気にならないように気を付けてはいるし、民間療法程度でいいなら風邪などの予防法は知っている。だが、痔にはなったことがないし、痔にならない秘訣など知っているわけがない。もしも、そんな秘訣があるとすればの話だが。

「え? だって、エルドさんのって大きそうだし、でも、痔になった様子はないし、それなら秘訣があるのかなって」
「…………何でエルドのでかさが関係あるんだ」

 思い切り嫌な予感がして訊ねるグンタに、エレンはだって大きいと大変じゃないですか、とあっさり続けた。

「オレも、まさかあんなのがあんなところに入るなんて思ってもみなかったんですけど、人間、やれば出来るものなんですね。びっくりしました。慣れるまでが大変でしたけど」

 いや、びっくりしてるのはこっちだ!とグンタは叫びたくなった。考えたくもなかったが、自分の予想通りだとこの後輩はとんでもない勘違いをしている。

「イヤ、お前、何かとんでもない勘違いしてるだろう! この前、言ったよな! 俺達はそうじゃないって!」
「あ、大丈夫です。誰にも言いませんから。やっぱりそういう偏見持つものも多いですし、まあ、オレも有り得ないと最初は思ってましたし。同じ班員同士だと特にその辺はデリケートなものでしょうし……」
「イヤ、違うからな! 断固違うからな!」
「判ってます。オレ、口は堅いので心配しなくても大丈夫です!」

 きっぱりといい笑顔で言い切られてしまって、グンタはもはやこの後輩には何を言っても無駄らしいと悟った。自分がそうなのだから他にもいても不思議ではない――実際に兵団にはそういう話はつきものだった――という思い込みと先入観がそうさせているのかもしれない。この誤解を解くとしたら相当な根気と努力が必要だろう。しかし。

「何で、俺に訊くんだ……」
「あ、エルドさんにも相談したんです。そうしたら、オレと立場が一緒なのはグンタさんだから、そっちに訊いてくれって言われました」

 グンタはエルドー!!!!!!と心の中で絶叫した。おそらくは、エルドもこの後輩の思い込みがちょっとやそっとでは解けないだろうと踏んだのだろう。結果、こっちに丸投げしたのだ。それに、どうせ思われるなら男相手に掘られてると思われるより、自分が男役の方がいいに決まっている。グンタは後で同僚を殴ってやることに決めたが、問題は目の前の後輩だ。果たして、痔にならない秘訣など知らないと言って納得してもらえるのだろうか。

「兵長のって本当にでかいんですよ! 自分でもあんなのがよく入ると思います。まあ、まじまじと他の男のものなんて見たことないですけど大体これくら……」
「いい! 示さなくていい!」

 自分の手で輪を作りサイズを教えようとする後輩にグンタは思い切り首に振った。尊敬する上官のもののサイズなど知りたくもないし、想像したくもない。

「入るだけでも奇跡だと思うのに、兵長色々してくるし……。いくら気持ち良くても身体がもちません。この前なんか一晩で七回もしたんですよ! 多すぎると思いませんか? 他を知らないから判りませんけど、多いですよね?」

 そうか、気持ちいいのか、お前、というか、そういう事情など知りたくもないから言うな、とかグンタは心の中で叫んでいるが、エレンの方はそんなグンタの気持ちなど気付かずにはあ、と溜息を吐いた。

「このままじゃオレ、確実に痔になると思うんです。痔になったら馬に乗れないじゃないですか! 馬なしでどうやって遠征に出るんですか! 巨人駆逐には乗馬は欠かせないんですよ!」
「あーそういうのはお前の回復能力で何とかならないのか?」

 グンタの言葉にエレンはうーん、と眉を寄せた。

「回復能力にはむらがあるし、限界もあるみたいなんですよね。傷や損傷したものの回復は早いんですけど、命に別状がないものは後回しになってるみたいな気がします。それに、体力は回復しないんですよ。さすがに毎晩とか無理があります」

 え?毎晩なのか?とは訊けない。詳しい話など語られたくはないからだ。

「兵長は平気そうなので、やっぱり基本体力の問題なんでしょうか。昨夜は本当に激しくて、何か、今日はまだ感触が残ってるような気がして……」

 言いかけて、エレンははっとして顔になってグンタを見つめた。

「まさか、もう、オレ、痔になってるってことはないですよね?」
「イヤ、俺に訊いてどうする」
「どうしよう…馬に乗れねぇなんてことになったら……」
「自覚症状はないのか? 確かめてみたらどうだ」

 グンタの言葉にエレンはそうですね、と頷いて、ベルトをはずし始めた。
 慌てたのはグンタである。

「オイ、何で今ここで脱ぐ! 部屋へ行ってやれ!」
「え? だって、位置的に自分じゃ見にくいじゃないですか。今、他に誰もいないし、グンタさんに確かめてもらおうと思いまして」
「鏡でも使えばいいだろうが! それか兵長に見せろ!」
「オレ、手鏡なんて持ってないですし、兵長に見せたらそのままやられるじゃないですか」
「だからって俺に見せるな!」
「だって、他にいないじゃないですか。人に見せたい場所でもないですし。グンタさんならオレと同じ立場だし、見せても大丈夫かなって」
「イヤ、俺でも無理だからな!」

 とにかくやめとおけ、と下衣に手をかけたエレンの手を止めて、自分が下衣を掴む。そのまま元に戻してやろうとしたところで―――。

「……お前ら、何をしている」

 地を這うような低い声がしてグンタは固まった。

「何をしているのか、と訊いている」

 更に声が低くなって、グンタは冷や汗をだらだらと流した。今のこの状態は見様によっては自分がエレンの下衣を無理矢理脱がそうとしているように映るだろう。とにかく誤解を解かなければ自分の命がない、とグンタが気力を振り絞って口を開こうとした時、後輩の方が先に相手に声をかけていた。

「あ、兵長、グンタさんに確かめてもらうつもりでした」
「ほう。何をだ?」
「自分じゃ判らないので……俺の具合がどうなってるのか、グンタさんならよく判ると」

 グンタはエレェェン!!!!!と叫びたくなった。確かに間違ってはいない。間違ってはいないが、それは物凄く別の意味で誤解を受ける言葉ではないか。

「そうか、判った」

 恐る恐るグンタが振り返ると、そこには今までに見たことのない顔をした自分の上官が立っていた。

「取りあえず、エレン、お前は後でたっぷりお仕置きをしてやるとして……グンタ」

 蛇に睨まれた蛙のように動けないグンタにリヴァイは実にいい笑顔で告げた。

「お前がそんなに削がれてぇとは思わなかった。……覚悟はいいな?」


 ――その後、古城中に響き渡るような男の悲鳴が上がったのだった。



 2015.4.24up



 前に書いたくだらないギャグ話の続編です。短すぎるし、需要もないかなーとは思ったんですが、シリアス書いたら反動で無性にギャグ書きたくなって書いてしまいました。また書くかもです(笑)。





第三話・エルドに相談編


 深刻な顔で、あの、ご相談したいことがあるんですけど、と今年度調査兵団に入ってきた後輩に言われて、エルドは激しく嫌な予感がした。このシチュエーションには物凄く覚えがあったからだ。自分の後輩であるこの新兵、エレン・イェーガーが自分の上官である人類最強の兵士長、リヴァイに食われ……もとい、めでたく結ばれ交際を始めてしばらくした頃、今と同じように何やら深刻な顔で相談を受けて欲しいと言われた。あの時に受けた相談はとんでもないものだった――この後輩は自分と同じ班員の同僚がそういった関係であると思い込んでいて、対処に困ったエルドは受け身なのは同僚だからそちらに相談してくれ、と丸投げしてしまったのだ。どうせ思われるなら男相手に掘られてると思われるより、自分が男役の方がまだマシだったし、どうやら思い込みの激しいらしい後輩の誤解を解くのは面倒だと判断したからだ。
 その後、物凄い形相で現れたグンタに「お前のせいで俺は死ぬところだったんだぞ!」と詰め寄られることになったのだが、彼から詳しく話を聞いて同僚に丸投げして良かった、と思ったのは秘密である。
 今の状況はあの時と酷似している。出来ることなら受けたくはないが、こうして深刻そうな顔をして話しているところを自分の上官に目撃されたら削がれかねない。ここは相談を受けることにしてこの場から離れた方がいいだろう。エルドは仕方なしにエレンを連れて人目のつかなそうな場所へと移動した。

「あの、その、オレ、誰かに相談したくて……でも、誰に相談していいのか判らないし、そういった趣味のある人にどんなものか訊いてみようと思って、エルドさんに声をおかけしたんです」
「は? 趣味って……何のだ?」

 自分の趣味の話などエレンにしたことがあっただろうか。息抜きや気分転換のために趣味を持つのはいいと思うが、この巨人を駆逐することしか考えていなそうな後輩が果たして何かの趣味を始めたいなどと思うだろうか。

「あの、その……どんな感じなんですか?」
「イヤ、何の話なんだ?」
「だから、その、道具の話です。使用感というか……」
「道具って、何のだ?」
「だから、その夜の……ああ、もう、判ってるんでしょう! そういうことするときに使う大人用の玩具です!」

 キレたエレンの声が響き、それからその場に沈黙が訪れた。

「…………」
「…………」
「……お前、そんな趣味があったのか?」
「違いますよ! ないから困ってるんです!」

 エレンは顔を真っ赤にしながらそう主張した。

「でも、その……この前、あんまり回数が多いので身がもたないって兵長に訴えたんです。痔も心配だし」

 イヤ、お前の夜の生活の事情なんて知りたくないから、と言いたいが、下手なことを言って詳細を語られたらたまらないのでエルドはつっこまないことにした。

「そうしたら、頷いてはくれたんですが、一回一回を濃いものにしたいって言って……その、そういうものを使ってみるのも面白いかもな、って言い出して……」
「…………」

 エルドは知りたくもない上官と後輩のやり取りを聞いて遠い目になったが、そこでふと気付いた。この後輩は使用感とかどんな感じかと訊いてきたのだ。それは即ち――。

「ちょっと待て! お前、それ、俺がそういう道具を使ってるって前提で話してないか?」
「え? だって、エルドさん、そういうのが趣味でいろんな道具を集めてるんでしょう?」
「イヤ、違うからな! 決してそんな趣味は俺にはないからな!」
「あ、大丈夫です。言いふらしたりしませんから。世の中にはいろんな趣味の人がいますから、何を好きでも個人の自由ですし」
「イヤ、だから、何でそんな話になってるんだ!」
「あ、グンタさんに聞いたんです。エルドはそういうのにはまっていて自分に道具を使ってもらわないともうダメなんだって」

 エルドはグンター!!!!!!と心の中で絶叫した。おそらくはこの前自分がエレンからの相談を丸投げしたことを根に持っての発言に違いない。確かに丸投げしたのは悪かったかもしれないが、何が悲しくて大人の玩具を使わなければもう役に立たない男などというレッテルを貼られなければならないのだ。エルドは後で同僚を見つけて殴ってやることに決めたが、問題は目の前の後輩だ。思い込みの激しいこの後輩に自分にそんな趣味がないとどうやったら納得してもらえるのだろうか。

「手枷なら慣れてるから使ってもいいんですけど、そういう道具はちょっと怖くて……」

 イヤ、手枷に慣れたらダメだろう、というか、それなら使ってもいいのか、とは訊けない。言い切られてしまったらそういう想像をしてしまいそうで怖い。

「なので、どんな感じか訊きたかったんです。あ、そうだ、見せてください」
「は?」
「エルドさん、いつも持ち歩いているんでしょう? 休憩中とか暇なときに使えるようにって。グンタさんがそう言ってました」

 エルドは再びグンタァアアア!!!!!と叫びたくなった。どれだけ自分を変態にすれば気が済むというのだ。

「お願いします! オレ、いきなりじゃ怖いし、どんな感じか実物を見せてもらいたいんです!」
「イヤ、持ってないからな! 俺はそんな変態じゃないからな!」
「エルドさん、お願いします! ちょっと見せてもらうだけでいいですから!」

 縋りつくようにエレンがエルドに手を伸ばした時―――。

「……お前ら、何をしている」

 地を這うような低い声がしてエルドは硬直した。

「何をしているのか、と訊いている」

 ああ、これは死亡フラグが立ったな、とエルドは冷や汗をダラダラと流した。決してそんな事実はないが、気分は人妻との逢瀬を旦那に見られてしまった間男である。

「あ、兵長、エルドさんのものを見せてもらうつもりでした」
「ほう、エルドのものをな……」

 エルドはエレェェン!!!!!と叫びたくなった。確かに間違ってはいない。間違ってはいないが、それは物凄く別の意味で誤解を受ける言葉ではないか。
 エルドは自分の死を覚悟したが、思いがけない助けは自分を窮地に陥れたエレンから入った。

「あの、兵長、オレ……(道具より)兵長がいいです」
「…………」
「やっぱり、怖いですし。兵長と普通に――」
「エレン」

 エレンの言葉は途中で途切れた。近付いてきたリヴァイにひょいっと抱え上げられからだ。

「よし、判った、エレン。今から充分に俺をやるからな」
「え? ちょ……兵長? どこへ――」

 物凄い速さで去っていく上官と抱えられた後輩の姿が見えなくなったところで、エルドは深い息を吐き、その場に座り込んだ。

「……助かった」
「あー、行っちゃったね。これじゃ、エレンに明日は実験に付き合ってもらえないかな」

 不意にそんな声をかけられて、エルドは驚いて肩を跳ねさせた。聞き覚えのある声に視線を向けると、そこには変人と名高い分隊長の姿があった。

「折角、作ってあげたのに、これも無駄になっちゃったかな」

 声の主――ハンジはそう呟くと、持っていた袋をエルドに差し出した。

「折角だし、あげるよ。あ、使ったら感想を聞きたいな」

 改良して、貴族の奥様方とかに売ったら研究費用を稼げるかな、となどと一人で頷いたハンジはじゃあね、と手を振りながら去っていった。
 戸惑いながらも袋を開けて中身を確認したエルドはその場で頭を抱えた。

「どうするんだ、これ……」

 渡された袋の中身――大量の大人の玩具を前に、エルドは途方に暮れたのだった。



 2015.11.27up



 前にも書いたくだらないギャグ話の第三弾です。短くてすみません。シリアス書くと反動で無性にギャグを書きたくなってしまいます。





第四話・オルオに相談編


 このところ、自分達の班にまだ入ってきたばかりの新兵の様子がおかしいとオルオは感じていた。誰かの視線を感じる、と思ってそちらを見ると、必ずあの新入り――エレン・イェーガーがいるのだ。用があるのか、と思って近付いていくとさっと眼を逸らせて逃げてしまう。かと思えばまたこちらを熱心に見ながら何やら手帳に書き付けているようなのだ。
 気になって、この前そっと少年の様子を観察していたら「まだまだあの域には到達しない」とか、「これは思い切って本人に言ってみるべきなんだろうか」とか、オルオには全く判らないことをブツブツと呟いていた。
 そうして、またオルオのことを見ては、はぁ、と深い溜息を漏らすのだ。

(じっと相手を見つめて深い溜息を吐くなんて、何だか恋でもしてる……)

 そう考えて、オルオはハッとした。もしやあの新兵は自分に恋患いでもしているというのだろうか。

(イヤ、そんなことはねぇ。あいつは兵長とそういう関係になったはずだ)

 入りたての新兵と憧れの存在がそんなことになるなんて考えたくもなかったが、実際少年が抱えられて彼の兵士長の私室に連れられて行くのをオルオは何度も目撃していた。尊敬する上官が新兵の尻を撫でまわしていたとか、涙目の新兵が妙に艶っぽさを振りまいていたとか、そういったものは全部見なかったことにしているが。

(そもそも、あいつは俺は生理的に無理だとか失礼なことをぬかして――)

 勿論、オルオにも男とどうにかなろうという気はなかったが、ああもきっぱりと言い切られるとそれはそれで腹が立つものだ。同僚もその後口々に同じことを言ったのが更に腹立たしい。

(……待てよ、あれはそう言って俺の気を引くとかそういうアレなのか?)

 好きな相手の気を引きたい一心で冷たく見せたということなのだろうか――上官のとのことも自分に妬かせたいとかそういう考えなのか。

「もてる男は辛いな……」

 ふっと息を吐きながらオルオがそんなことを呟いていると、どうした?というように傍にいたエルドが声をかけてきた。

「イヤ、大した話じゃねぇんだがな、あの新入りが、どうも俺を見てるようなんで――」

 言いかけたところで、がしっとオルオは両肩を同僚に掴まれた。

「オルオ、悪いことは言わん。エレンには充分に考えてから接しろ。特に何か相談事を持ちかけられたら全力で逃げろ。何があっても話を聞くんじゃないぞ」
「オイオイ、どうしたんだ? 新入りの悩み相談くらい聞いてやるのが先輩の務めってもん――」
「イヤ、それはやめておけ! 絶対にやめておけ!」

 近くで会話を聞いていたのか、グンタも駆け寄ってきてそう力説した。

「オイ、あの新入りに何かあるのか?」
「俺達は地獄を見たんだよ……」

 遠い目をしてそう言う二人にオルオはそれ以上の追及が出来ず、その会話はそこで打ち切られたのだった。


 それから数日後のこと――深刻な顔で、あの、ご相談したいことがあるんですけど、と今年度調査兵団に入ってきた後輩に言われて、オルオはエルド達に言われたことが頭をよぎった。あの様子はただならなかったが、具体的な話は聞いていないし、このところずっと見られていた意味も気になっていた。これはどうしてそんなことをしていたのか訊ねるいい機会でもある。
 もしや、告白されるなんてことになるのだろうか――そうなると必然的に上官との修羅場が待っていることになる。自分はそういう気はないし、ここは人目のない場所の方がいいだろう、とオルオは自分達が滞在している古城の一角の人目のつかなそうな場所を選び、そこで相談を受けることにした。

「あの、その、オレ、誰かに相談したくて……でも、誰に相談していいのか判らないし、悩んでいたところにオルオさんが眼についてひらめいたんです! だから、このところずっとオルオさんを観察していたんです」

 どうやら、オルオが思っていたような告白ではないらしい。何か悩みがあって、それを解決するために自分を観察していたというのが判らないが、これで上官との修羅場もないし、困ってこうして自分に相談してくるとはまあ、可愛げがあるか、とオルオは思った。

「オレ、頑張って試してみたんです。でも、どうしても出来ないんです……オルオさん、どうやったら、オルオさんみたいになれるんですか?」

 エレンの言葉にオルオは成程、自分を観察していたのは尊敬する先輩に近付くためだったのか、と納得した。あの呟きもまだまだ自分の領域には辿り着けないという意味だったのに違いない。

「フッ、俺に憧れるのは判らねぇでもないが、お前はまだまだだ。俺の領域に達するには――」
「どうしたら兵長にオルオさんみたいにうざいって思ってもらえるのか、それを知りたいんです!」

 エレンの言葉にオルオはぽかんとして、それから誰がうざがられてるんだコルァ、と大声を上げた。

「え? 普通にうざがられてますよ? もう、面倒臭いから放置に入ったみたいですけど、オルオさんが兵長の真似してるのを見て眉間の皺増えたりするし」
「イヤ、俺は断じて兵長からうざがられたことはねぇ!」
「まあ、兵長は部下を大切にするからあからさまじゃないですけど。というか、兵長よりもペトラさんの方がうざがってるというか、気持ち悪がってますけど」
「フッ、ガキだな、ペトラのあれは照れているだけだ。お前にはまだ早すぎる話だな」
「まあ、それはどうでもいいんです。問題は兵長がオレを構いすぎだってことなんですよ。この前の玩具のあれもまだ何か諦めてない節があるし、訓練あるっていうのに、したい放題するし……そりゃあ、オレだって兵長のことは好きだし、その……正直気持ちいいから流されちゃうのも悪いんですけど」

 でも、オレだって一人になりたいときとかあるんですよ、とエレンは唇を尖らせた。

「だから、オレにそのうざさを伝授してください! オレだってたまには一人で風呂に入りたいんです!」
「お前、兵長と一緒に風呂に入ってるのか!? というか、俺はうざくねぇ!」
「イヤ、完璧です! どうか伝授してください!」
「出来るか! お前の勘違いだ!」

 そう言ってオルオがエレンの肩をがっしりと掴んだところで――オルオの身体が吹っ飛んでいた。
 余りの綺麗な吹っ飛び方にエレンは思わず感心してしまったくらいだ。

「兵長、現場は押さえました。エレンは無事です」
「そうか、ならよかった」

 オルオに綺麗な飛び蹴りを食らわせたペトラがにっこりと笑い、その後にはリヴァイが歩いてくる。

「全く、エレンをこんな人気のない場所に連れ込んでどうする気だったのかしら? きっちり話し合う必要があるわね」

 そう笑いながら言うペトラだが眼が全然笑っていない――話し合いをする気がかけらも感じられないのは気のせいだろうか。

「え、イヤ、そうじゃなくてですね、オレが話したいことがあってオルオさんに言ったんであって、オルオさんが呼び出したとかじゃないんです」
「庇わなくていいのよ、エレン。オルオが連れて行くのを見た人がいるから」
「イヤ、確かにここを選んだのはオルオさんですけど、そうじゃなくて――」
「いいのよ、エレン、判っているから」

 じゃあ、兵長はエレンをお願いします、とペトラが言うと、男はひょいっとエレンを担ぎ上げた。

「え? 兵長? ペトラさん」
「大丈夫よ、処理は任せて」

 そうまたいい笑顔でペトラはオルオを引きずっていき――その後、古城中に響き渡るような男の悲鳴が上がったのだった。



 2016.10.3.up



 前に書いたくだらないギャグ話の第四弾です。オルオの扱いが酷いうえに短くてすみません。これでこのシリーズは終了です。





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