誓約



 リヴァイはいわゆる人間からは吸血鬼と呼ばれる生命体である。世間一般に言われている吸血鬼とはかなり異なる生態をしており、その存在がどんなものなのかは謎が多く、その生命体であるリヴァイでも一族の総てを把握してはいない。吸血鬼の起源――というか、その生の始まりは二つある。一つは気が付いたらこの世に存在していたもの。もう一つは吸血鬼の手によって一族に引き入れられたものだ。――吸血鬼は性行為をしても子を孕むことも孕ませることも出来ない。生殖能力が生まれながらに備わっていないのだ。吸血鬼によって一族に引き入れられたものも、肉体の変化によって繁殖能力を失うので、何度行為を繰り返しても子孫を残すことは出来ない。一族を増やすのは力のある吸血鬼が人間を引き入れた場合のみだ。
 リヴァイはいつの間にかこの世界に誕生していた。その始まりがいつだったのか、どのようにして生まれついたのかはっきりとした記憶はない。ただ、この世に存在したのだという意識があっただけだ。血を吸うのではなく、人から生命エネルギーを『喰らって』生きることも、攻撃を何度受けようが身体が再生することも、本能的に知っていた。動物が生まれてすぐに立ち上がり、母の乳を吸うことを誰に教えられずともするように、そういった知識がすでにリヴァイの中にはあった。
 自分はいったいどういった生き物なのか――調べようとしてもよく判らなかった。まずは絶対数が少なかったし、正体を知られると大抵の人間はリヴァイを抹殺しようとしてくる。そして、何があっても倒せないことを知ると絶望し、恐れ慄き、恐慌状態に陥ったりと、リヴァイにとっては面倒な真似をしてくる。リヴァイとしては殺すのは簡単だが、殺したら殺したでまた面倒なのが人間という生き物だった。
 なので、リヴァイは人間を装い、人間に紛れ、その能力や才能を活かして富を築いてみたりした。人間が余りにも面白そうに富や権力を使うから、リヴァイも人間が面白いと呼ぶものは一通りこなしてみた。
 ――最初はそれなりに面白かった。初めてやることといえば興味も湧くし、上手くいったりいかなかったりと、その成果がどうであれ楽しめるものだ。だが、同じことを幾度も繰り返していけばいずれは飽きてしまう。なまじ、自らの能力が高いため、何でもすぐに出来てしまうので、飽きるのも早かった。
 それに、リヴァイは年を取らない。吸血鬼によって外見年齢には差があるが、青年のまま外見が変わらぬものがいたら異端として狩られるだろう。無論、変装は可能だし、能力を使って操作することも可能だが、それでも限界はやって来る。ずっと同じ場所にいることは出来なかった。

(吸血鬼っていうのは何のための存在なんだ)

 そんなことを思いつつ、リヴァイは長年住んでいた町を離れ――ふと、ある人物を思い出した。いや、思い出したのは人とは呼べない存在であるのだけれど。

(そういや、あいつは今何をやっているんだろうな)

 思いつくまま、リヴァイはその存在に会いに出かけることにした。



「うわっ! 何か、煙出たよ! おかしいな、これを混ぜれば完璧だったはずなのに!」
「その薬品、混ぜるな危険!って注意書き貼っておいたやつでしょう!」
「え? そうだっけ? あははは、モブリットは記憶力いいなぁ」
「記憶力の問題じゃないでしょう! 注意不足なんです!」

 ――足を踏み入れたらそこは混沌としていた。壁一面の本棚には書籍がところ狭しと並べられ、そこに入り切らなかったものは床に積み上げられている。何に使っているのか判らない薬品棚と器具。標本なのか剥製のようなものや、用途を考えたくない燻製にした両生類らしきもの、果ては訳の判らない民芸品まで転がっている。そして、中の一角にいるのは昔からの知り合いの女性と、見知らぬ青年であった。訪問相手がここにいるのは判っていたが、見知らぬ青年がいるのは想定外であった。来るタイミングがまずかっただろうか――この青年がどこまでこちらの事情を知っているかによるのだが、勝手に入ってきた自分を見て何か面倒臭い事態に陥る可能性はある。
 勿論、礼儀としてノックはした。呼び鈴も鳴らした。だが、自らやりたいことに夢中になっている間は何も見えない、聞こえない状態にしばしば陥る相手に、扉が開かれるのを待っていたら日が暮れるどころか数日くらい平気で経つことが予想されたので、リヴァイは返事を待たずに入ることにしたのだ。当然ながら鍵というものはリヴァイには効力を持たない。呆れたことに、この家の主は鍵をかけていないことが多いのだけれど。
 さて、どうしたものか、と思っていると、知り合いよりも早く青年の方がリヴァイに気付いた。

「ハンジさん、お客さんがいらしたようですよ」
「客――あれ? リヴァイ、久し振りー」

 よく来たね、と笑うハンジと呼ばれた女性――彼女がリヴァイが古くから知る相手である。
 青年はでは自分はここで、とハンジの家を出ていき、ハンジは彼にひらひらと手を振った。

「久し振りだね、リヴァイ。えーと、直に会うのは数十年……百年は経ってないよね?」
「数えるだけ無意味だろう、俺達には。……お前がここの場所を手紙で知らせてきたのは確か、十年くらい前になるが」
「あーもう、そのくらい経つのか。研究に夢中で忘れてたよ」

 ハンジはリヴァイと同族――吸血鬼だ。吸血鬼に引き入れられて吸血鬼となった二次吸血鬼ではなく、生まれながらにして吸血鬼の真正の吸血鬼だ。この世に産み落とされたのもリヴァイとは同時期だと判明している。
 同じだけの年月を過ごした吸血鬼と知り合うのは珍しい話だ――そもそも、吸血鬼は同族で群れは作らない。数人で共に行動するものはいるが、一族で集落を作ったりはしない。数が少ないというのもあるが、集落を作った場合、必ず、そこは人間に襲われるからだ。人間というものは異端者を嗅ぎ分ける能力だけは妙に長けている、とリヴァイは思う。年を取らない者達の集落などがあったら、必ず見つけて滅ぼそうとするに違いない。実際に過去に集落を作った結果がそうだったのだから。勿論、人間に吸血鬼を殺すことは不可能だが、何度も何度も大勢で押しかけてこられては煩わしい。それに、吸血鬼にも力の弱いものがいるから、殺せないまでも捕らえられて延々と拷問を繰り返される可能性がある。
 故に、吸血鬼達は情報を共有はしても、一定の人数以上で行動はしない。各地をバラバラに旅している一族と出逢うのは珍しいから、同じ程の年月を過ごしたものに出逢うことはまずない。
 ただ――この彼女、ハンジの場合は色々と規格外なのだが。

「さっきのは誰だ?」
「あ、モブリット? 近くの村の青年っていうか、私の助手? 何か、見ていられないからって色々と世話されてる」
「……知ってるのか?」
「うん、知ってるよ。私が吸血鬼だってことも、色々と研究してるってことも」

 ハンジは吸血鬼の間でも有名な研究マニアだ。世界や動物や昆虫や人間や社会やありとあらゆるものが研究の対象となる――無論、一族もその例外ではない。むしろ、彼女は色々なものを研究することで我々一族がどうして生まれてきたのか知りたいらしい。

「大丈夫なのか?」
「モブリットは私達に危害を加えたりしないよ? むしろ、心配されてるっていうか、ちゃんと食事摂ってるのとか、寝てるのとか、掃除してくださいとか、着替えとか洗濯とかもう色々言ってくるし、しまいには自分がやった方が早いってやってくれるんだけど」
「…………」

 それは、むしろ、子供を心配する母親の図ではないのか――そう思ったが、母親を持たない自分達がその感覚を理解しているとは言い難いので、言わずにおいた。

「ハンジ、手紙は十年前だったな。ここに来てそれくらいか」
「うん、そうだね」

 だが、余りにもハンジの様子が楽しそうだったので、リヴァイは忠告だけはしておくことにした。

「限界は判っているな?」
「うん、判ってる。……もう長くはここにいられないって」

 吸血鬼は年を取らない。あちこちを移動しているならともかく、長く同じ場所に留まればその存在を嗅ぎつけられる可能性が高くなる。更に、ハンジは村の青年と交流がある。青年がしゃべらないとしても、ずっとここに住み続ければ怪しむものがいずれは出てくるだろう。異端者を見つければ迫害する――人がそういう生き物である限り、友好的な関係が築けるとは思えない。例え、こちらが命まではとらないと言ったところで結局は自分達は捕食者であり、相手は捕食される側だ。こちらの言うことなど信用しないだろう。先程の青年のように正体を知ってなお受け入れるという人間が稀有なのだ。

「……気に入ってるのなら、仲間にしたらどうだ?」

 リヴァイ程ではないが、ハンジも強い力を持った吸血鬼だ。人間の一人や二人くらい、一族に加えることが出来るだろう。
 リヴァイの提案にハンジはゆっくりと首を横に振った。

「モブリットはそれを望まないよ。それに、私は人間のモブリットを好きになったんだ。一族にしたら彼を歪めてしまうかもしれない」
「だが、このままでは――」
「いいんだよ、リヴァイ。――永遠に生きるっていうのは、それは寂しいことだから」

 永遠に生きる――それは孤独だ。だからこそ、仲間を作るのではないだろうか。
 だが、ハンジはだからこそ一族にはしないという。
 リヴァイはハンジの考えが判らなかったが、彼女の想いを優先してそれ以上は言わずに、しばらく彼女の家に滞在した後、再び旅に出た。



 その話を聞いたのはそれから、二、三年後だったと思う。ふらりと立ち寄った店内で酔客が酒の肴にといった感じで話していたのだ。リヴァイの聴覚は非常に鋭い。意識して集中すればどんなに小声で話しても店内にいる全員の声を聞き取れる程だ。うるさい場所では蓋をしているが、聞き逃せない単語があったため、リヴァイはその会話を聞き取ることにした。
 酔客が話していた内容はとある場所に隠れ住んでいた吸血鬼のことだった。村の外れに住みついていたのを発見した村人達が退治しに向かったが、生憎、吸血鬼には逃げられてしまった。だが、吸血鬼の家は焼き払われたし、これで心配はなくなった、と。吸血鬼を匿っていたらしい村の青年は襲撃の際に命を落としたが、吸血鬼に魅入られていたとはいえ、協力していたのだから仕方がないと。
 酒場や食堂で噂される、よくある世間話だといつものリヴァイなら聞き流していたかもしれない――その場所が、リヴァイの昔からの仲間がいたところと合致しなければ。リヴァイはことの真偽を確かめようとすぐさま店を出て、かつて訪れたことのあるその場所へと向かった。

「リヴァイ」

 彼女に会ったのはその旅路でのことだった。彼女――ハンジはとても静かな顔をしていて、それだけでリヴァイは噂話が事実であることを悟った。

「守れなかったよ、リヴァイ。私が持ち出せたのは彼の遺体と何冊かの研究の結果を書いたノートだけ。ねぇ、リヴァイ、彼を守れなかったんだ……私を守ろうとした彼を守れなかった」
「何故、滅ぼさなかった?」

 彼女の力なら出来ただろうに。彼を死に至らしめた者達を永遠の眠りにつかせることが。村人全員を消滅させ、復讐を果たすことが。

「それはモブリットが望まない。彼を守れなかったからこそ、彼の意志を尊重したかった」

 リヴァイにはそれは出来ないだろうと思った――仲間に引き入れたい程惹かれたものがいたのなら、その存在を消したものは同じように消し去らねばならない。

「ねぇ、リヴァイ、私は判っていたんだよ。永遠に生きるのは孤独だ。――ひとりは寂しいって。ちゃんと理解していたのに胸の穴が埋まらないんだ」
「ハンジ、お前――」

 そう言う彼女の指先がサラサラと崩れていく。まるで灰のようになって、身体が少しずつ消えていっているのが判った。

「研究成果はもう他の仲間に渡してきた。リヴァイにも会えた。もう思い残すことは何もない。――この身体の機能はもうすぐ止まる。そうしたら、この身体は総て灰になって消えるだろう。吸血鬼の心臓に杭を打つと死んで灰になるっていうのはこうして灰になった吸血鬼のことが元になっているのかもしれない。――リヴァイ、吸血鬼は死ぬんだよ。殺されるんじゃなくて、死ぬんだ。絶望が吸血鬼を殺す」
「ハンジ!」
「――ごめん、リヴァイ、目の前で消えられることは堪えるって判る。でも、ひとりで消えていくのは嫌だったんだ」
「なら、どうしてお前は――」

 彼を仲間にしなかったのか。それだけ愛していて――その死に絶望する程愛しているなら何故、共に生きる道を選ばなかったのか。そもそも、共に生きようと思える程の執着を誰にも抱けなかったリヴァイには理解出来ない。

「――もし、次に生きられるなら人がいいな。もう一度、彼に出逢って、そして、笑って、共に歩んで最後まで一緒にいられたら――」

 それが最後の言葉。総ての機能を止めた彼女はやがて灰になって飛んでいき、消えていった。まるで、最初からその存在など、なかったかのように――。



 総てが虚しくなったとか、自分の境遇に絶望したとか、そういうことは言わないし、悲劇の主人公を気取ろうとは思わない。ただ、もうどうでもよくなったのだ。何をしても退屈で、共に歩もうと思うものもいない自分は何のために在るのだろう。だから、リヴァイは小さな賭けをしてみることにした。
 洞窟に目くらましをかけ、誰にも認識されないようにする。そこに棺桶を運び込んで中で眠るのだ。一種の仮死状態になることで死にはしない――が、絶望に浸食されて中で灰になったとしても構わない。
 洞窟の中には仕掛けをして、もし、この目くらましを破り、中に入ることが出来るものがいたら自動的に取り付けた燭台に明かりが灯るようにしておく。棺桶の中にはいくらかの財産を入れておこう。灰になった自分を見つけたご褒美として持って行けばいい。灰にならずにまだ生きる気力があったなら、それはそれで使えばいい。

(次に俺が目覚めるのは数年、数十年、数百年? それとも永遠に目覚めないか?)

 もう長い間、面白いと思うことなんて何もなかった。これ以上存在し続けたとしても面白いことなど何も起きないだろう。なら、それもいいだろう、とリヴァイは眼を閉じた。
 ――それから数十年後、リヴァイを起こしたのは大きな金色の瞳の子供だった。



 潤んだ金色が自分を見つめてくるのを眺めながら、甘そうだな、とリヴァイは思う。実際に少年はどこもかしこも甘い味がすると男は思う。衝動を抑えきれず、べろり、と舐めると少年はうぎゃあ、と色気のない声を上げた。

「あ、あんた、今、な、舐め……っ」
「ああ、舐めたな」
「何のプレイだよ! 眼球舐めるとかそんなマニアックなことやめろよ! そういうときはせめて眼尻にキスするとかそこまでにしとけよ!」
「元気じゃないか、エレン」

 もう無理、とか言ってたのはどの口だと、そう言って、男が少年の中に入ったままの自身を動かすと、少年は鼻にかかった甘い声を上げた。

「あ、やだ……何で、また大きく……っ」
「言っただろう、エレン」

 甘い声で言いながら、容赦なく男は少年の奥を突いた。ひっと、身体をのけぞらせて声を上げる少年に腰を小刻みに揺らして打ち付けながら、男は言葉を続けた。

「お前の身体に印が完全に溶け込むまで、何度も俺と身体を繋げた方がいいと。その方がなじみやすくなるし、安定する」
「……あっ、だからって、もう、何回……っ」

 喘ぎで上手く言葉を紡げない少年に、男はさあ、数えてないからな、と笑った。少年の両足を大きく開かせて、抱え上げ、ガツガツと押し込んでは引き抜くのを繰り返す。少年の気持ちのいい場所は覚えているし、本人にも覚え込ませている。そこを突けば相変わらずいい声で鳴いてくれる。自身を動かす度にぐちゅぐちゅと熟れた果実を潰したような音が鼓膜を気持ちよく刺激するが、その音は少年には羞恥を呼び起こすものであるらしい。耳を塞ぎたがっているのは判るが、男はそれを許さない。耳を塞ぐことも、声を殺すことも、顔を隠すことも少年には禁じていて、それを破れば、快楽でより責められることは判っているから、少年には破ることは出来ない。
 どくん、と体内で熱く脈動した肉棒に少年はいやいやと首を振った。

「中、やだ……っ、も、出すな……ぁ」
「――出されるの好きなくせにか?」

 気持ちよすぎるから嫌なんだろう、と男の言葉と同時に熱い液体を注ぎ込まれて、エレンは甘い悲鳴を上げた。

 男のものがずるり、と抜けていき、繋がっていた場所からどろりとした白濁液が零れた。もう何度出したか覚えてないが、総て少年の体内に放出している。流れ落ちるその様子が淫猥で、男は指でその蕾をなぞった。刺激にエレンが甘い声を上げたが、そのまま指を三本程入れて軽く掻き回すと、入れられるのが嬉しいとでもいうように指を締め付けて中が蠢く。出来るならこのまま少年の気持ちのいいところを刺激して喘がせてやりたいが、今は別の目的があるので、掬い上げるようにして指を引き抜いた。引き抜くときにいいところを掠めたのか、エレンはまた声を上げ、指先にべっとりと絡みついた液体を見せつけるようにエレンの顔先にまで持っていって指を動かした。指先を伝って、液体が零れる――その前に男はエレンの口にそれを差し入れた。

「………んっ」

 口内に広がる苦い味にエレンが嫌そうな素振りをするが許さない。諦めたのか、エレンは舌を使ってリヴァイの指先についた液体を綺麗に舐め取った。ぴちゃぴちゃという舌を動かす音がその場に響いた。
 綺麗になった指に男がそれを抜くと、エレンは眉を顰めた。

「……さい、あく……っ」
「最高の間違いだろう?」

 少年に言われた通りに今度は眼尻に唇を落とす。少年がそれに不満そうな顔をしたのに気付いて――男は唇に自らのそれを重ねた。舌と舌を絡め合って柔らかい口内を堪能する。先程自分のものを舐め取らせたはずなのに、その口内はやはり、甘いな、と男は思う。吸血鬼には確かに味覚はあって、人間と同じように食事は出来るが、こんな風に甘いと思ったのは少年だけだ。
 少年は男との口付けが好きなのだと思う。何しろそれだけで射精できるくらいなのだから――それをさせたら機嫌を損ねるのは判っているので、そこまでの官能は呼び起こさない、気持ちのいいキスを少年が満足するまで与えてやる。

「……何か誤魔化された気がする」
「別に誤魔化してないが? 中に出されて気持ちいいだろうと言われたのが、そんなに嫌だったか?」

 突如、ぼすり、と枕で殴られ、見ると、エレンは真っ赤になって涙目でこちらを見ていた。

「そうじゃなくて! ほら、腹壊すし!」
「今のお前なら壊さないと思うが。それに、今までも回数を重ねれば平気になっていただろう」

 生まれ変わる度にエレンを迎えに行っていたリヴァイは、毎回身体を繋げていた。最初はエレンの言う通りに出したものを掻き出さないと悲惨なことになったが、回数を重ねるうちに大丈夫になっていった。リヴァイの体液を注ぎ込まれることによって、エレンの身体が変化したからだ。勿論、吸血鬼になった訳ではなく、能力を受け継いだとかそういうことでもなく、リヴァイを受け入れやすい身体になった、ということだ。
 吸血鬼の与える快楽は凄まじく、その気になればリヴァイは正気を失うまで人間を快楽の虜にさせることが出来る。実際にその方面に長けた吸血鬼が人間を虜にして下僕のように使うことがある。自分達を狙う人間から身を守る楯にするために。
 無論、エレンにはそんなことはしないし、リヴァイはそんな目的で誰かと寝たことはない。エレンと出逢うまでに全くの清らかな身体だった訳ではないが――リヴァイは吸血鬼の中でも強い力を持っていたから、僕のような人間を作る必要はなかった。
 エレンとはただ、快楽を分かち合いたいだけだ。悦がらせるのも好きだし、それを見るのも好きだ。どろどろになって理性も飛ばして、自ら腰を振ってもっともっととねだる姿が心底可愛いと思っている。

「……今、すげぇ、変なこと考えてるだろ?」
「イヤ、全然。――で、何が嫌なんだ?」

 こつん、と額と額をくっつけてリヴァイが訊くと、エレンは瞳を彷徨わせてからううーっと唸った。

「……だって、中気持ちいいとかそんなの……オレが、すっごくエロい奴みたいじゃん……」

 エレンの言葉に男は余り見せないぽかんとした表情をした。

「今更、何言ってる」

 やってるときのお前、見せたら男はきっとその気がなくても誰でもイクぞ、まあ、見せる気はないが、と言った直後、男はエレンに枕を投げつけられたのだった。



 さすがに少々苛め過ぎたかもしれないな、と思っていると、むすっとした顔で横を歩く少年がどこに行くのか訊ねてきた。

「ああ、この先にある大学だ」
「大学? 海外の大学に知り合いでもいるのか?」
「イヤ、この前、面白いものを見つけたから、研究費を寄付したんだ」
「寄付って……そういや、今って何やってんの?」
「青年実業家、経営コンサルタント、投資家……肩書きならたくさんあるから、状況に応じて使い分けている」
「……何かすげぇ胡散臭い」
「お互い様だ」
「じゃあ、オレは何を名乗ればいい?」

 そんなのは決まっているだろう、と男は笑った。

「お前は俺の伴侶だろう」
「――――」

 男の言葉を聞いて真っ赤になって俯いた少年は、それはずるいだろ、と呻くように言った。
 男はそんな少年の頭をするりを撫ぜて、足を進めた。


「ほらほら、モブリット! 急いで!」
「そんなに走らなくても研究室は逃げませんよ」
「何か、研究費が寄付されたんだって! 新しい実験器具とか買えるかもしれないんだよ! これが急がずにいられようか! イヤ、いられまい!」
「だから、転びますって! ハンジの面倒を見るのはお前の役目だって教授に言われてるんですからね!」
「いいじゃん、面倒見てよ。そうしたら、心置きなく研究出来るし!」
「イヤ、そういう問題じゃなくて――」

 言い合いながら大学内を進む二人をリヴァイは眺めていた。

「知り合い?」
「イヤ――話したこともねぇな」

 エレンの問いにリヴァイは首を横に振った。

「そっか。でも、良かった」

 その言葉にリヴァイは怪訝そうに少年を見た。視線を受けて少年は笑う。

「何か、あの人たちもあんたも幸せそうだ」
「ああ――そうだな」

 彼女のしたことはやはりリヴァイには理解し難い。けれど、こうしてまた幸せになってくれたらいい。
 きっと、今度は彼女の望んだように最後まで二人で笑って生きていけるだろうから。
 笑う少年の左手を取ってその薬指を眺める。まだその印は判別出来るが、やがて溶け込んで見えなくなる。
 けれど、その印は変わらずそこにあるのだ。自分が彼を愛した証。彼が自分を愛した証。
 まるで、誓うように、以前した時と同じにそこにリヴァイは口付けた。




《完》



2016.10.6up


 やっぱり思いついたから一気に書きました作品です。契約のリヴァイ視点というか過去話とその後です。エロは当初そんなに入れる予定なかったんですが、書かないとモブハン話だけになるーと思って入れました(爆)。二回目にして完全に敬語使わないエレンは書くのわりと楽かもと思いましたが、リヴァエレくささが抜けることに気付きました……(汗)。そして、薬指に口付けがやはり好きなようです……。


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