夏の夜






 その話を聞いたのはエレンが訓練兵になってから三年目の夏の日のことだった。

「肝試し?」
「うん、肝試しというか、度胸試しというか、とにかくそういうのをやるらしいよ」

 幼馴染みの話によると、訓練兵になったものは誰しも必ずやる通過儀礼というか、行事みたいなもので、訓練兵の兵舎から少し歩いた場所にある、今は誰も住んでいない廃屋で毎回行われているという。同期同士の親睦を深めるためとか、思い出作りとか、たまには訓練のことを忘れて息抜きをさせることも必要だ、とか色々な意味があるらしいが、教官たちも知っていて、夜兵舎から抜け出すのも黙認されているらしい。

「息抜きみたいなもんか? でも、今更、親睦を深めるとか…意味ないんじゃねぇのか」

 これが訓練兵になりたての時期ならまだ判る。皆知り合ったばかりでお互いの性格も何も判らないときならお互いの親睦を深めるために一緒に行事を楽しむのも有効だろう。だが、三年目ともなると、同期の人となりはある程度判ってくるし、自然とお互いに気の合うもの同士のグループが形成されてしまっている。すでにいくつかのグループに分かれていて、違うグループ同士で話さないというわけではないが、グループが違えば深い交流があるわけでもない。団体訓練の班分けなど教官が決めるときはそれに従うが、食事や休憩などは仲の良いものと一緒に行動する。今更親睦を深めたところで、他のものと行動するようになるわけでもないだろう。仲の良いもの同士でいい思い出でも作っておけということなのか――エレンにはあまりぴんとこなかった。
 そんな少年に幼馴染み――アルミンは多分だけど、と前置きして話を続けた。

「一年目って訓練だけで精いっぱいで行事なんかやってる暇ないだろ? 二年目で余裕が出てくるからこういった行事は二年目以降にやるらしいよ。で、何で三年目なのかというと、既に仲の良いグループが決まっているからだと思う」
「? 意味が判らねぇんだが」
「三年目だともう、どの兵団に入るか決めないといけない時期だろ。成績上位者は憲兵団に行くものが多いみたいだけど、自分と仲の良いグループの人達が同じ兵団や班になるとは限らないわけだから、普段余り交流のない人達ともここで親睦を深めておくといいってことらしい。団体訓練時にいろんな組分けをしたりするのもそういう意味合いが入っているみたいだから」

 要するに卒業して兵団に入ったときに、一緒に行動する同期の得意技や性格を知っておけば、実践時に連携がしやすくなるから、今のうちに交流を深めておけ、ということらしい。仲の良い間柄というのは慣れ合いにも繋がるものだが、共闘時に相手との息が合わないと命を落とすことにもなり兼ねないから、なるべくそういう機会を与えておこうという意向らしい。
 勿論、卒業して正式に兵団に入ったときに班分けされて一緒に訓練を重ねるのだから、それからでも遅くはないが、交流しておいて損はないだろう。

「まあ、単純に息抜きさせようっていうのが一番だと思うけど。そういうわけで、三人一組で完全なくじ引き制だから、エレンもくじ引いてね」

 そう言って、アルミンが差し出したのは手が通るくらいの穴の空いた箱だった。この中に番号の書かれた紙が入っていて、番号が同じもの同士で組になるらしい。ちなみに、女子と男子は別にされている。暗がりの中で男女を一緒に行動させるのはまずいだろう、ということになって、女子は女子、男子は男子で組むらしい。エレンは促されて、くじを引き――自分のくじ運の悪さに盛大な溜息を吐いた。




「フランツ、あなたと離れるなんて……」
「僕だって辛いよ、ハンナ。でも、仕方ないんだ、今は我慢してくれ……」
「フランツ……」
「ハンナ……」

 ひしっと両手を握り合う二人にバカ夫婦がまた始まったかと、周りは笑っている。

「クリスタ、二人、一緒なんてやっぱり運命だな」
「ユミル、二人じゃなくて三人なんだけど……」
「私を忘れちゃ嫌です。置いてっていったりしないでくださいね!」
「チッ……」

 舌打ちした、今、舌打ちしたと慄くサシャを慰めるクリスタとこの芋女をどうするか、と呟くユミル。

「エレン、大丈夫? 何かあったら大声で呼んで、私がすぐ行くから。私もあなたと一緒に行きたい……」
「ミカサ、男女は別だから、仕方ないよ。すぐ近くなんだし、心配ないって」

 いつものごとく自分を心配するミカサ――自分よりも、ミカサとアニと一緒になってしまった同期女子の方が心配だとエレンは思う――とそれを宥める幼馴染みもいつものことだ。問題はない。問題はといえば―――。

「ごめんね、エレン、人数の関係で、一つだけ二人一組になっちゃったんだ。……ジャンと喧嘩しちゃダメだよ?」

 そう、問題は―――自分の隣でさも嫌そうに顔を背けている男のことだ。ライナーとベルトルトと一緒の組になったアルミンに自分と代わってくれと言いたいところだが、公平を期すためにくじを引いたときに書かれた番号を皆読み上げており、交換してもすぐばれるためそれは出来ない。

「……別に喧嘩する気なんかねぇよ」
「なら、いいけど。ジャンも喧嘩はやめてね?」
「判ってる。……とっとと終わらせて帰ってくるさ。時間の無駄は少ない方がいいしな」
「…………」

 オレだって好きでお前と二人一組になったんじゃねぇっての、とエレンは言いたい。どういうわけかこの同期は最初から自分に絡んできた――以来、何かと突っかかってくるのだ。憲兵団を目指すジャンと調査兵団を目指す自分の意見が違うのは当たり前だし、世間一般から見たら、ジャンの意見の方が多数派なのだろう。だからって、あそこまで突っかかってくる意味が判らないのだが。まあ、自分も喧嘩を売ったことは多々あるから相手にもきっと同様に思われているかもしれない。

「組み分けした番号と同じ札を配るから、それを廃屋の一番奥ある部屋に置いてくること。一応通路順に目印がつけてあるし、迷わないとは思うけど、気をつけて。あ、後でちゃんと確認するから、ずるした組にはペナルティがあるのでしないようにね」
「ペナルティって?」
「教官によるみっちりとした一日指導」

 鬼教官と陰で呼ばれる男の名が挙げられて周りは一瞬にして水を打ったかのように静まり返った。

「ずるしなければいいんだから、大丈夫だよ」

 アルミンの言葉に皆がガクガクと頷いたのは言うまでもない。




 肝試しの会場という廃屋は兵舎からそれ程離れた場所ではなかった。以前に裕福だった商会のものの所有物だったらしいが、持ち主が亡くなってしまい、後継者もなく、そのまま捨て置かれたらしい。自宅というよりは別荘のような使われ方をしていたようだが、中々に広く、生前はかなり裕福だったのではないかと思わせる造りだった。
 全員一斉に向かっては肝試しにならないが、一組ずつ戻ってくるのを待っていたら時間がかかりすぎるので、数分おきに組を出発させる手はずになったが、何の因果かエレンとジャンの組の順番は最終だった。この順番もくじによって決められたものなので、エレンは自分のくじ運の悪さを呪った。ジャンの言葉ではないが、自分だってさっさと終わらせて帰りたかったのだ。だが、現実は不機嫌そうな顔をする男と一緒に全員が出発するまで待機しなければならない。
 待つことどれくらいだったのだろう――ようやく、自分達の組の番になり、二人は廃屋に向かって出発した。

(やっぱり、暗いな。周りに人家がないからか)

 各自にランプが手渡されてはいるが、それだけでは心もとない。今日は晴れたから月明かりもあるし、屋敷までも舗装されてないとはいえ道が出来ているからいいが、廃屋の中はさぞ暗いのではないだろうか。自分はさして暗闇を怖いとは思わないが、怖いと思うものもいるかもしれない。まあ、だからこその肝試しだと思うが。

「オイ、エレン、遅ぇぞ。さっさと済ませたいんだから急げ」

 ジャンはかなりの急ぎ足で歩いている。グズグズしてんじゃねよ、という言い方にちょっとエレンはむっとした。

「判ってるよ。でも、こんなに暗い中走ったりしたら却って危ないだろ。前の組に追いついちゃいけねぇし、オレは普通に歩いてるぜ?」
「オレだって普通に歩いてる。お前の足が遅いんだよ」

 鈍足と言われ、更にむっとしたエレンはジャンに負けない速度で歩き出した。すると、ジャンも更に負けじと速度を上げて歩き出し、エレンを追い抜いていく。その勝ち誇った顔にかちんときたエレンもまた更に速度を上げた。お互いに追い抜き追い抜かれ、廃屋に着いたころにはむしろ全力疾走といえる程のスピードになっていた。
 同時に着いた家の扉の前で二人は乱れた呼吸を整え、力いっぱいに扉を開け、お互い睨み合った。

「よし、エレン、ここまでは同時だったが、これから先が勝負だ! 先に部屋に着いたもんが勝ち。いいな」
「ああ、やってやるぜ!」

 完全に趣旨が変わってしまっているのに、二人は気付かない。勢いよく中に駆けこんだ二人は重要なことを忘れていた。ここがずっと昔に放置されていた屋敷――廃屋だということを。つまりは古くところどころ傷んでいて全力疾走するのに全く以って適した場所ではなかったのだ。

(え?)

 ミシッと足元がいやな音を立てたのが判った。その音はミシミシからバキバキッという音に変わり、ヤバいとエレンが思ったときにはもう遅かった。足元がなくなったかと思うと、エレンは音を立てて、転がり落ちていった。

「いってぇー!」

 どうやら、疾走した結果、床を踏み抜いたらしい――いや、床ではなく、扉、というのが正しいだろう。

「ここは……地下室か」

 ランプの明かりで周りを確認してみると部屋というより、ちょっとした貯蔵庫のようだが、その地下への扉を踏み抜いて、階段を滑り落ちたらしい。咄嗟にランプを守ったので無事だったのは幸いだった。うっかり落として火事になどならなくて良かったと心底思う。
 階段の位置を確認して、エレンは立ち上がろうとしたが、足に走った痛みにまた座り込んだ。どうやら転がり落ちたときに捻ったらしい。最悪だ、と心の中で溜息を吐いたとき、上から声が聞こえた。

「オイ、エレン、どうした? すげぇ音がしたが――」

 ランプを掲げて姿を現したジャンが、落ちたエレンを発見し、呆れたような顔をした。何やってんだ、と階段を下りてこようとしたので、慌ててエレンは声を上げた。

「オイ、ジャン、待て! そこは――」
「へ………?」

 バキバキバキという破壊音と、ものが滑り落ちる音が盛大に辺りに響いた。いってぇ、というジャンの呻き声がそれに続き、エレンははあっと溜息を吐いた。

「……そこの階段、板が腐っていて落ちそうだったから、気をつけろって言いたかったんだよ」
「お前、そういうことはもっと早く言えよ!」
「言う前にお前が下りてきちゃったんだろ!」
「それが物音聞き付けて様子見に来てやった奴に言う言葉か!」
「………悪かったよ」

 エレンの謝罪の言葉を聞いて、ジャンは言葉に詰まった。素直に謝った相手にずっと怒りをぶつける程少年は狭量ではない。注意不足は自分も同じだし、今はここから出ることを考えなければ。

(階段はもう使えねぇ。何か、台になりそうなもんを探して上に飛び移るか)

 立体起動装置があれば簡単だが、生憎、訓練時でも戦闘時でもない今は身に付けていない。助走して飛び上がれば行けるか――そんなことを考えていると、エレンから声をかけられた。

「悪い、ジャン。お前、一人で上に行ってくれ」
「は? 何でだよ?」
「……さっき落ちたときに足を捻ったようなんだが、どんどん痛くなる。今の状態じゃ何か台があってもオレは飛び移れねぇ。お前なら、いけんだろ?」

 捻った足は熱を持っているようだ。これは戻ったら冷やして処置を施さないと腫れるかもしれない。

(熱くなると、注意力が落ちる。気を付けないと。これが実践だったら、怪我だけじゃすまない)

 エレンが一人内省していると、ジャンが近付いてきてガシッとエレンの足を掴んだ。

「いってぇえええ! お前、何すんだよ、いてぇじゃねぇか!」
「うるせぇよ! 怪我診てやってんだろ! ……応急処置しといた方がいいだろ」

 まあ、こんなとこじゃ、道具も何もないけどな、といって、それでも、持っていた布でテーピングすると、取りあえずは骨は大丈夫そうだから、平気だろうと少年は続けた。
 エレンは意外だ、とばかりにジャンを見つめた。それが伝わったのか、ジャンはバツが悪そうにオレだって怪我人放置するほど根性腐ってねぇよ、と呟いた。

「……悪かったな。それで、上には上がれそうか?」
「それなんだが……さっきから、台になりそうなもんを探してるんだが、ここにはねぇみたいだな。飛び移るのは高さからいってギリギリな感じか……この際、誰かが探しに来るのを待つのが得策だと思う」

 自分達が戻らなければ、誰かが何かあったと思って探しに来るだろう、とジャンは言う。
 特にミカサやアルミンあたりはお前が戻ってこなかったら、絶対に騒ぐと思うぜ、と続ける少年にエレンは顔を曇らせた。

「……アルミンはともかく、ミカサに知られるのはまずいな。あいつ、絶対騒ぐから」
「……何だそれ、自慢かよ」

 むっとしたように言うジャンにエレンは何のことだ、と言いたげに首を傾げた。

「騒ぎになったら、教官達にもバレるだろ。ここで怪我したって。怪我人が出たってなったら、来年からこの行事が中止になっちゃうかもしれないだろ」

 折角、皆が楽しんでいる行事を自分の不注意で失くしてしまうのは避けたいから、騒ぎにならないようにしないと、とエレンは続けた。そのエレンの言葉にジャンはぽかんとした顔になった。まさか、この少年がそこまで考えているとは思わなかった。

「とにかく、誤魔化して、どっかでぶつけたとかにするかな……ジャン、どこがいいと思う?」

 エレンに問われ、、ジャンはようやく我に返った。そして、質問の答えを考えようとして――そこで逆にエレンに質問をし返した。

「何で、オレに訊くんだよ?」
「え、だって、ここにはオレとお前しかいねぇだろ。他に誰に訊くんだよ?」

 質問の意味が判らないという顔をする少年に、ジャンは判らないのはこっちだ、と言いたくなる。

「そうじゃなくて、アルミンにでも訊けばいいだろ」
「そりゃ、戻ったら、アルミンにも訊いてみるけど。お前だって頭回るだろ。色々と人に意見求めるのって普通じゃないのか?」

 やっぱり、アルミンにも訊くんだな、と思い、ジャンは胸の中に苛立ちが生まれるのを感じた。エレンが一番親しくしているのはアルミンなのだから、彼に助言を求めるのは当然だろう。なのに、どうして苛立つのか――自分の心の動きにジャンは戸惑う。それに少年の言うことは正論だ。何かを決めるときにいろんな意見を人から聞いてみるのも一つの手だろう。余り情報が多すぎると迷いや混乱を招くこともあるが、エレンの言葉は間違っていない。間違ってはいないのだが―――。

「お前、嫌いな奴の意見も参考にするのか?」
「は? 別にオレ、お前のこと嫌いじゃねぇけど?」

 その言葉にジャンは吃驚した。あれだけ反発しあって言い争いをしている自分のことを嫌いじゃないという言葉が返ってくるとは夢にも思ってなかったからだ。

「というか、オレのこと嫌ってんのお前だろ。何が気に食わねぇのか知らないが、いっつも突っかかってくるし」

 エレンにとって、人によって違う意見があるのは当たり前なのだから、それで相手のことを嫌いになったりはしないという。まあ、自分の意見を否定されればムカつくことは確かだが、自分の人生をどう生きようとその人の勝手だってお前も言ったじゃねぇか、と続けられ、ジャンは頷いた。

「まあ、もう卒業は見えてきてるんだし、それまでの付き合いなんだから、少しは突っかかんのやめてくれよな」

 唇を尖らせて言うエレンにジャンは考え込んだ。何で、自分はエレンに突っかかるのだろうか――初めての時は意見の対立だったと思うが、人の意見は人それぞれだと流したはずだ。それからは――ミカサがエレンばかりに構うのが気に食わなかった。自分はおそらく、ミカサに憧れのような気持ちを抱いているのだろう。だが、エレンは徹底してミカサを幼馴染み、家族のような扱いをしているし、到底恋愛感情を抱いているようには見えない。いや、そもそも、巨人を駆逐すること以外に考えがいっていないエレンには誰に対しても恋愛感情を抱くということはないように見える。
 ミカサだってそれを承知しているだろうし、どちらかというと彼女はエレンに対して母親や姉のような気持ちで接しているように見える。それが判っているのにムカつくのは何故だろう。

(それに、ミカサだけではなくて、アルミンと仲良くしてるのを見てもなんかイラッとくるときがあるし……)

 明確な理由が判らず、きっともう、自分はエレンという存在自体が気に食わないのだろう、とジャンが結論づけたとき―――。

「オイ、ジャン、どうかしたのか?」

 至近距離で大きな金色の瞳に顔を覗きこまれ、ジャンは思わずうひゃあ、と変な叫び声を上げて、その場から飛び退いた。その様子にエレンは瞳を瞬かせた。

「お、お前、急に接近してくんなよ! 驚いたじゃねぇか」
「お前が急に黙り込むから、具合でも悪いのかと思ったんだよ。お前だって、滑り落ちたんだし……打ち身とかないのか?」

 背中とか、打ったんじゃないか、とエレンが手を伸ばしてきたのを、慌ててジャンは避けた。

「お前と違って、オレは反射神経がいいから、怪我なんてしてねぇ! いいから、お前はそこに座って休んでろ!」

 何だよ、人が心配してるのに、お前は、とエレンは不機嫌そうな顔になったが、ここで喧嘩しても何にもならないとは判っていたので、ぷいっとジャンから顔を背けるようにして黙り込んでしまった。
 一方のジャンはまだ鼓動の早い心臓を宥めるように胸に手を当てた。

(近かった…今のはすげぇ近かった)

 至近距離にあったエレンの顔は瞳が大きくて、よくよく見ればわりと綺麗な顔立ちなのだと思った。今までエレンの顔のことなんて考えたこともなかったが――あの距離はまるで恋人同士のようで、キスできそうな程近かった―――。

 ゴンっと物凄い音が聞こえて、エレンは思わず振り向くと、壁に思い切り頭をぶつけているジャンの姿が目に入った。

「オイ、ジャン、お前何してんだ」
「消せ……」
「は?」
「消せ、今の! 今、考えたこと総て消せ! オレ!」

 何やらエレンには判らないことを叫び、頭をガリガリと掻いている。ひょっとして、こいつは落ちたときに頭でもぶつけていたんだろうか、医者に診せた方がいいんだろうか、とエレンが不安に思っていると、微かな声が上から聞こえてきた。

「……レン、エレーン、ジャン、どこー?」
「アルミン!? ここだ!」

 幼馴染みの呼び掛けに気付き、エレンが声を上げると、アルミンは地下室の存在に気付いたのか、上からひょっこりと覗き込んできた。

「こんなとこにいたんだ。帰りが遅いから何かあったのかと思って見に来たんだ。……階段、腐って落ちてるみたいだね。ロープか梯子を持ってくる。怪我はない?」
「オレはちょっと、足を捻ったけど、大丈夫だ。ジャンは……オイ、ジャン、平気か?」
「オレは正常だ! さっきのは、気の迷いだ!」
「……………」
「……………」
「……えーと、とにかく、準備してくるから。ライナーとベルトルトも来てるから、何とかなると思う。待っててね」



 その後、やって来た三人に引き上げられて二人は無事に戻ることが出来た。三人に迅速に救出されたおかげか騒ぎにもなっておらず、エレンはほっと胸を撫で下ろした。ミカサの方はアルミンが上手く誤魔化してくれたようで、エレンの足の怪我が伝わることはなかった。
 そのエレンの足だが応急処置が良かったらしくすぐに完治し、エレンはジャンに笑顔でお礼を言いにいったが、その際に目を逸らされ、気のせいだ、気のせいなんだーと何故か叫ばれたのが不思議だった。
 ――そして、札の存在をすっかり忘れていた二人はペナルティとして鬼教官にしごかれることとなったのだった。






≪完≫




2013.9.3up





 思いついたから書いておこう作品←そればっか。ジャンエレ風味ですが、ジャンは書くのが難しいキャラです。言葉遣いがあやしいですが、スルーして頂けると有り難いです(汗)。




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