ガトーショコラ




 ベッドの中で心地好いぬくもりに包まれながら少年は眼を覚ました。うっすらと瞳を開けると見慣れた恋人の顔がある。

(リヴァイさんの寝顔……)

 目つきが悪く、眉間に皺を寄せる癖がある恋人は周りから怖がられることが多いのだけれど、その顔立ちはとても整っているとエレンは思う。特にこうして眠っている姿はいつもの迫力が薄れるので、三割増しで格好良いと密かに思っている。

(どうするかな……)

 本日は休日なのでエレンは当然学校は休みだし、アルバイトのシフトにも入っていない。パティシエを目指す少年は休日となると、学校には持って行けない要冷蔵の生菓子を作っては幼馴染みの家に持参することが多かったのだが、男と恋人と呼ばれる関係になってからは男の家で過ごすことが多くなった。一日一緒にいられるのは男の仕事が休みのときしかなかったので、こうして過ごせる休日を二人とも楽しみにしていた。
 昨日は夕方から男の家に泊まりに来ていた少年は夕食の後、めいいっぱい男に愛されてしまって――次の日学校が休みのときは男は遠慮というものを知ってください、と言いたくなる程激しく少年を翻弄する。男に言わせると、これでも普段は学生の少年を気遣っているらしい――腰が今でも重い。男に全身で愛されていると感じる行為は嫌ではなかったが、未だに恥ずかしさが抜けないので、もうちょっと加減して欲しいというのが本音だ。エレンが本気で嫌がれば男は決して無茶はしないが、経験値のない少年はまだまだついていくのが精いっぱいなのだ。

(腰重いし……今日、休みだし、もうちょっとこうしていたいかも……)

 まだ朝と呼べる時間帯だが、平日ならもうとっくに起き出して支度をしている時刻だ。だが、本日は休みだし、もっとゆっくりしていたい。もう少しだけベッドの中で過ごして、遅めの朝食――ブランチにすればいいかな、と少年は思う。

(パンと卵と牛乳もあったし、フレンチトーストを作ろうかな)

 冷蔵庫の中身を考えて少年は本日のメニューを思案する。栄養のバランスを考えてサラダも作ろう――ちなみにドレッシングは少年の手製だ。菓子作り程ではないが、少年は料理するのもわりと好きなので、食事の支度をするのは苦ではない。誰かに自分の作ったものを食べてもらって、美味しいと喜んでもらえたらそれだけで嬉しい――菓子作りも手料理もエレンの根本にあるのはその想いだ。勿論、自分で食べることも好きなのだが。
 もうちょっと、もうちょっとだけ、とそう考えてエレンが再び微睡みの世界に入ろうとしたとき――。
 ブルルルル……ッ。
 よく知った振動音が少年の耳に伝わった。

(今の……携帯から……?)

 自分の携帯電話は鞄の中だから、ここまでは響かないだろうし、音が自分のものとは若干異なる。となると、この音の発生源はここにいるもう一人の男のものからに違いない。確か、男が寝る前に自分の携帯電話を充電器につないでいたのを見たような覚えがある。

「……………」

 先程から携帯は呼び出しを続けている。きっと何か男に急用でもあったに違いない。

「あの、リヴァイさん、起きてください。携帯が鳴ってます」
「無視しろ」

 エレンが声をかけると、すぐさま男から返事が返って来た。声がはっきりしているところをみると、男もしばらく前に起きていたのかもしれない。男は舌打ちして、寝る前に電源切っておくんだった、と呟いた。

「今日は休日だ。仕事はしない。お前とのいちゃいちゃを満喫する日だ」

 男の言葉にいちゃいちゃって、何をするんだ、昨日いっぱい色々したではないか、とつい変なことを考えてしまい赤くなるエレンにリヴァイは更に続けた。

「普段から足りないエレン成分を休日で補うんだ。それのどこが悪い」
「オレ成分って、何ですか、それ?」
「お前成分っていったらお前成分だ。いつも足りねぇ」

 そう言って少年を抱き寄せる男に少年は困ったように眉を寄せた。確かに会社勤めしている社会人の男と高校生の自分では平日はそう長く会うことは出来ない。男の仕事が遅くなったり、自分のアルバイトが入っていたりすると、数日は会えない日が続く。それを補うように休みになると長時間一緒にいるのだが、自分とは違って会社勤めをしている男には社会人としての立場があるわけで。

「あの、でも、緊急の用件かもしれませんし――大した用じゃなければこんなにかけてこないと思いますから」
「…………」
「リヴァイさん」
「……判った」

 少年に促され、男はベッドから降りると渋々電話を手に取った。

「クソメガネ、俺の休日を邪魔するなんていい度胸だ。ぶち殺すぞ、てめぇ……」

 子供だったらその怖さに大泣きしてしまうんじゃないかと思われる程の凄味のある声で一気に言った男にも、相手はまるで怯まなかったようで、応対をしている声が微かに届いてきた。

「チッ、あのヅラ、また肝心なときにいやがらねぇのか……! 今度こそむしってやるか」

 何やら物騒な言葉を吐く男は悪態をついていたが、やがて諦めたように息を吐いた。

「判った、今から行く」

 電話を切ってこちらを向いた男に、エレンは微笑んで見せた。

「判ってます。何かトラブルがあったんでしょう? 早く行ってください」
「――エレン」

 起き上がってはいたが、まだベッドにいたエレンの腰に手を回すようにして男は抱き付いてきた。床に膝をつけた状態ですりすりと擦り寄ってくる。

「リヴァイさん、どうしたんですか?」
「エレン補給だ」

 これで補給になるのかと思ったのだが、男は本気のようでお前の匂いがする、と言うものだから少年は赤面した。

「――エレン、連絡したらちゃんと出ろ。シフトを変えるなよ。俺を避けるなよ――あれは本気で堪えるからな」

 ああ、とエレンはその言葉に思い当った。自分達が恋人同士となる前に少年は男を避けていたことがあった。少年が誤解したことから起きた事態だったが、思い返せば男が休日に会社から呼び出されたのがことの始まりだった。今がそのときとよく似た状況にあるので男は思い出したのだろう。

「あのときはすみませんでした。今回はそんなことありませんから、早く行ってあげてください」

 男の頭をくしゃりと撫ぜて、エレンは笑う。自分だって離れがたいが、男に仕事を放棄させるわけにはいかない。休日ならまた次があるが、会社は一回のトラブルがもとで経営に大きく響く場合があるのだ。仕事と私どっちが大事なの?とか言う気は更々エレンにはない。
 男は後ろ髪を引かれるようにして自宅を出て行った。エレンはそれを見送って、これからどうするか、と考えを巡らせた。明日は学校があるし、今日はここに泊まることが出来ない。リヴァイからもいつ帰れるかは判らないと告げられていたから、時間ギリギリまで待っていても会える確率は低い。となると、待たずに帰宅するのが無難だろう。会えればいいが、ギリギリまで待たしておいて会えなかったとなれば、男は気にするだろうから。

(帰って来たときに何か食べられるものを作っておいてもいいけど……食べて帰ってくるかもしれないしな)

 そうなると夜食か、次の日に温め直して食べられるものにしないといけない。冷蔵庫の中身を考え、後は足りないものでも買ってこようか、と玄関先を見たときに――そこに封筒が落ちているのを発見した。A4サイズのそれはどうみても書類が入っているとしか思えないもので、自分が落とした覚えはないので――そもそも、A4サイズの書類が入った封筒を持ち歩く習慣はない――こんなものが落ちているとしたら男しかいないわけで。

(リヴァイさんが落としていった?)

 珍しいこともあるものだ、とエレンは思う。男はそんなうっかりミスをするような人ではないのだが、先程の電話ではかなり怒っていたようだし、急いでもいたようだから、普段はしないことをしてしまったのかもしれない。

(どうしよう……)

 ついでに持っていこうとしていた、急ぎの書類ではないならいいが、本日使う重要書類の可能性もある。中を見たところで少年には判断はつかないし、勿論、勝手に書類を見るような真似は出来ない。
 確認のために男に電話をかけてみたが、つながらなかった。考えた末、少年は男に『書類を忘れているようですから、届けに行きますね』とメールを送り、その封筒を持って男のマンションを後にした。
 男の会社は有名だし、行ったことはないが所在地は知っていたから、何とかなるだろう。男と会えるか判らないが、受付にでも話して渡してもらえばいい。そう考えて少年は男の会社に向かったのだった。




(でかい……)

 知ってはいたが、実際に目の前に立つと、リヴァイの会社の自社ビルは大きかった。出かけてから今日は休日だし開いているのか不安に思ったのだが、会社は開いていて、受付にもちゃんと人がいたので安心した。受付に進んで、エレンが声をかけると相手は少し戸惑ったような顔をした気がした――確かに、わざわざ休日に高校生だと思われる年頃の自分が訪ねてくるのは不自然に感じるだろう。受付にいたのは知的な感じのする眼鏡の女性で、自分は彼女に不審がられているのかもしれない。
 だが、男が忘れていった書類を届けなければ、とエレンが受付の女性にリヴァイの名前を告げてその所在を訊ねると、今度は明らかに相手は怪訝そうな顔をした。

「副社長に面会をご希望ですか? 失礼ですが、お約束はされてますか?」

 受付の女性にそう言われてエレンは固まった。今、この女性は何と言ったのだろうか。

(リヴァイさんが副社長?)

 そんな話、少年は男から一度も聞かされたことがない。以前、リヴァイに勤めている会社の名前を教えてもらったときに、何をされているんですか?と訊ねたことがあったが、男は「総合職みてぇなもんだ。何でもやる」と言っていた。なので、てっきり総務部にでもいるのかと思っていた。彼は役職名も特に言わなかったから、そんな重要なポストに就いているなどとは夢にも思っていなかったのだ。

「あの、リヴァイさん、本当に副社長なんですか? 同じ名前の人とか総務部にいませんか?」
「いえ、総務に同じ名前の者はおりませんが……あの、どのようなご用件でしょうか? ご親戚の方ですか?」

 リヴァイが副社長と聞いて動揺するエレンを女性は不審に思ったようだ。確かに役職も知らない人間が訪ねてくるなんておかしいだろう。

(だって、教えてもらってない)

 詳しく訊かなかった自分も悪かったのかもしれないが、本人の口から聞きたかった。副社長と言ったら、会社で二番目くらいの地位ではないのか。どうして男は言わなかったのだろう。

「何だ? どうしたんだ?」

 エレンと受付の様子に気付いたのか、一人の男が近付いてきた。

「イヤ、この子が副社長に面会したいと――」
「副社長に? オイ、ガキ、お前副社長の親戚か?」
「え、いえ、親戚とかじゃないですけど――」
「なら、帰れ。副社長はお前みたいなガキに構ってる暇なんかねぇんだよ。社会科見学したいのなら他を当たれ。ここはガキの遊び場じゃねぇんだぞ」
「あの、でも、オレ――」
「どうしたんだい?」

 男に追い払われようとしたところにまた新たな人物が現れた。眼鏡をかけて髪を無造作にアップにしたスタイルの女性は、グレーのパンツスーツ姿でカツコツと軽快な足音を立てながらこちらへ近付いてきた。

「何をもめて――」

 エレンを見た瞬間、女性は眼を見開き言いかけた台詞を中断してエレンに突進してきた。

「うわーっ! エレンだ! 生エレンだ! 会いたかったよ、エレーン!」

 そう言ってがっしりとエレンの両手を握り、ぶんぶんと振る女性は何やらひどく興奮している様子だが、エレンは事態が飲み込めずに戸惑う。芸能人にでも会ったのならこの反応も頷けるが、自分はただの一般人だ。旧知の友人と久し振りに再会して感極まって、というのでもない――何せ、彼女とは初対面なのだから。というか、男の勤めている会社の人間とは会ったことがないので、誰一人としてここに知り合いはいないのだが。

「あれ? 君、エレンだよね? あのエレン君だよね?」
「あ、はい、オレはエレン・イェーガーですけど……」

 あのエレンとはいったい何なんだろうか。さっきから状況が判らな過ぎてエレンは頭を抱えたくなった。

「あの、ゾエ室長、彼は?」
「ああ、リコ、オルオ、彼はリヴァイの知り合いだから安心していいよ」

 女性はその場にいた二人に声をそうかけると、再びエレンに向き直った。

「はじめまして、エレン。私はハンジ・ゾエ。リヴァイとは同期っていうか、会社設立当時からの仲間なんだけど、この会社の研究開発室の室長をやってる。気軽にハンジちゃんって呼んでね!」
「……………」
「あれ? 今の笑うとこだったんだけどなぁ。リヴァイに会いに来たんだろ? でも、今、リヴァイ、出かけていていないんだよねー」

 どうやら、この女性は男とは同期で自分のことを知っているらしい。自分は全く彼女のことを知らないのだが、男から何か自分のことを聞いているのだろうか。そもそも、男は自分の会社のことを殆ど話さないから、男の会社関係のことはエレンにはさっぱり判らない。

「何かあったんですか?」

 そこへ、また新たな声がかけられ、そちらを向くと、若くて綺麗な女性が立っていた。

「ああ、ペトラ、リヴァイがいつ戻って来るか知らない?」
「後、二時間は戻られないと思いますけど、急用ならエルドに連絡を取りましょうか? エルドがついていきましたので」
「ああ、リヴァイ、めっちゃキレてたもんね。私からの電話だと絶対に出なそうだ」

 そのうち、着信拒否とかされそうで困るんだけど、とハンジは頭を掻いた。
 エレンはその会話も耳に入らず、食い入るように新たに現れた女性を見つめていた。

(この、人だ……)

 あの日、リヴァイに抱き付いていた綺麗な人。リヴァイはただの部下で転びかけたのを支えてやっただけだと言っていたが、まさか、こんな形であのときの女性と会うとは思わなかった。

「エレン、どうする? 急用だったら――って、エレン?」

 ハンジに声をかけられて、我に返ったエレンは首を慌てて横に振った。自分はリヴァイが忘れていった書類を届けにきただけだ。確かに届けに行ったついでに男に会えればいいな、とは考えなくもなかったが、忙しい男にわざわざ連絡を取って煩わせたくはない。

「エレン君って、あの、エレン君ですか?」
「そうだよ、あのエレン君。生で見られて感動したよ!」

 先程から飛び交っているあのエレン君とは何なのだろうか、訊きたいが怖くて出来ない――とにかく書類を渡して帰ってしまおう、とエレンは鞄から書類を取り出した。

「あの、これ、リヴァイさんに渡してもらえますか? 今日使うものかは判りませんが、忘れていったみたいなので……」
「副社長が忘れ物? そんなのする人なわけないだろうが、クソガキ。オイ、ペトラ、こいつ本当に副社長の知り合いか?」
「オルオ、彼は本当に知り合いよ。というか、いい加減副社長の真似するの止めてくれない? そのスーツ、副社長と同じブランドのだけど、全然似合ってないから。イヤ、まったく共通点とか感じられないけど……」
「フッ、俺の服装に口出しするなんて束縛するつもりか、ペトラ? 俺の女房を気取るにはまだ必要な手順をこなしてないぜ?」
「その舌噛み切って死ねばいいのに……」
「同期へ向ける冗談にしては笑えねぇな……」

 男に辛辣な言葉を浴びせた女性は再びエレンに向き直り、柔らかな笑みを浮かべた。

「私は副社長の第一秘書のペトラ・ラルよ、はじめまして。その書類、良かったら、私から副社長に渡しておくけど、いいかしら?」
「あ、はい……」

 エレンへと差し出された手は指先まで綺麗に手入れされていて、派手すぎない色合いの薄紅に染められた爪をぼんやりと眺めながら、本当にどこまでも綺麗な人だな、とエレンは思った。受け取った書類を確認してわざわざありがとうと言う笑顔がまた綺麗だった。

「ねぇ、エレン、時間あったら、お茶していかないかい? リヴァイの話とか聞きたいし」
「室長、そんなお時間あるんですか? モブリットがさっき探していましたよ?」
「いいじゃないか、こんな機会滅多にないんだから。何ていったって生エレンだし!」

 女性二人は忙しいとは言いながら楽しそうに会話をしている。エレンはそれに入りこめない――この空間では自分は異物だ。居た堪れなさと居心地の悪さに走り出したくなるのを堪えて、エレンは声を出した。

「あの、オレ、これから友達と約束があるので、すみません」
「そうなのかい? 残念だなぁ」

 男との休日を過ごす予定でいたエレンにそんな約束はなかったが、一刻も早くここから逃げ出したかったエレンは咄嗟にそんな言葉を吐いていた。
 失礼しました、と頭を下げ、急いでビルから出るとエレンはその場から走り去った。




 走って、走って、走って――息が切れてきたのでエレンはようやく立ち止った。膝に手を当てて苦しくなっていた息を整える。

(……気持ち悪い)

 あんな大きな会社の副社長だというリヴァイ。――それを何も知らされていなかった自分。綺麗な女性の部下。親しげに男のことを話す古くからの仲間だという女性。自分を不審げに見た社員の女性と男性。
 今あった出来事がぐるぐると頭の中で回っている。

(教えて欲しかったな……)

 男が自分に会社関係の話をしなかったのは、プライベートな時間に仕事の話を持ち込みたくないのかと思っていた。男の話を聞いたところで社会人ではない自分がいいアドバイスが出来るとは思えなかったし、男が話したくなったらそのときに聞けばいいと思っていた。だが、副社長であることすら教えてもらえなかった自分は何なんだろう。まだ高校生の自分に会社の話をしても無駄だと思われていたのだろうか。
 いや、リヴァイは年齢や職業などで相手を差別する人間ではない。きちんとその人の人となりを知ってから判断する人間だ。

(単純にオレが何でも話せる相手じゃないってことなのかな……)

 勿論、恋人の全部を知っておきたいという気はない。話したくないことは誰にでもあるし、隠しておきたいことがあっても不思議ではないだろう。でも。

(きっと、あの人達には話すんだろうな……)

 仕事上の問題の相談や意見、愚痴、そういった自分では立ち入れない話題も、彼らには話すのだろう。リヴァイの部下だという綺麗な女性。リヴァイと親しげに呼び捨てにしている古くからの付き合いの女性。きっと、リヴァイの周りにはそんな人がいっぱいいて、彼らならリヴァイのことをもっとサポート出来て、力になってくれるのだろう。

(……オレでいいのかな。オレがリヴァイさんの時間を奪っていていいのかな)

 副社長という立場ならリヴァイは多忙であるだろうし、毎日疲れて帰ってきているはずだ。休日だってゆっくり休みたいだろう。それなのに、彼は自分のために時間を割いて、エレンの話を聞いてくれる。リヴァイもいろんな話をしてくれるけど――それはきっと自分を楽しませるためのものだ。

(恋人なのにな……)

 彼らのような立場になれないのは承知しているし、この先エレンが社会人となっても目指す職種の違う自分ではリヴァイをその面では支えてやることは出来ない。これは恋人でも、夫婦でも、家族でも言えることだ。だからこそ、その他の面で支え合うのが恋人なのだと思う。だが、自分にそれが出来ているのだろうか。
 ――自分は彼の役職すら知らなかったのに。

(気持ち悪くて、苦しい)

 感情がぐちゃぐちゃで自分が何にショックを受けているのか判らず、エレンはただ機械的に足を動かして帰宅したのだった。




「エレーン! おはよう……って、どうしたの?」

 エレンの顔を見ての幼馴染みの第一声がそれだった。明らかに顔色が悪く、眼も充血している。見るからに体調が悪そうに見えた。

「昨日、ちょっと寝られなかっただけだから。気にすんなよ」

 力ない笑みを見せる少年に幼馴染み――アルミンはむうと眉を寄せた。こういうときの少年には何か絶対にあったに決まっている。そして、こんなに憔悴しきった顔を見せるなら原因は絶対にあの男しかないわけで。

(昨日は休日で、一昨日から会いに行くって言ってたから、絶対に何かあったな)

 アルミンは可愛い幼馴染みをたぶらかした……もとい、掻っ攫った、いやいやその心を射止めた男に会ったことがある。アルミンには色々と話を聞いてもらってたし、と男と恋人になったことを幼馴染みから報告されたときに、自分にも会わせろ、と少年に頼んだのだ。仕事で忙しい男のことを思って渋っていたエレンだったが、幼馴染みがどうしてもというので、と二人を引き合わせることを承諾したのだ。
 そのときのことをエレンは今でも「あんな場には怖すぎて二度と立ち会いたくねぇよ」と言っている。別に取っ組み合いの喧嘩とかしなかったよ?とアルミンが返せば、「空気が怖かったんだよ! 何であんな凍った空気の中で笑顔で色々話せるんだ……」と涙目で訴えていたから、余程あの寒々とした空気が少年には耐え難かったらしい。
 アルミンとしては可愛い幼馴染みが選んだ相手を品定めするのは当然だと思う。リヴァイという男は色々と問題はあると思うが、エレンを本気で愛していて大事にしているのは伝わってきたので――アルミンは見守ることにしたのだ。だが。
 可愛い幼馴染みを泣かすのなら断じて許してはおけないわけで。

「コニ―、ちょっと頼まれてくれる?」
「え? 何だ、アルミン?」
「エレンの体調が悪いみたいだから、保健室に連れていくね。先生に言っといて」
「判った、言っとく」
「え、アルミン……ちょ……」

 有無を言わさずアルミンはエレンの手を取り、教室を後にしたのだ。



 無理矢理に連れてこられた保健室で、アルミンは適当に養護教諭と話をつけると、エレンをベッドに座らせてカーテンで周りと遮断し、さあ、吐いてもらうよ、と笑った。こうなった幼馴染みには何があっても勝てないと経験から判っているので、エレンは昨日あった出来事をアルミンに総て話した。

「……って、話なんだけど」
「…………」
「……オレ、リヴァイさんが副社長だってことも知らなかったんだ。そんなことも話してもらってなくて、特にリヴァイさんのために何かしているわけでもねぇし、それで恋人って言えるのかな。リヴァイさんの周りにはもっと支えてあげられる人がいっぱいいるのに、オレが傍にいていいのかな……」

 家に戻ってから考えまいとしてもそんなことを考えてしまって、結局、エレンは一睡も出来なかった。リヴァイのことが好きで一緒にいたいという気持ちは変わらずにあるけれど、本当にそれでいいのだろうかという想いが湧いてくる。自分はきっとリヴァイのことを支えてあげられていない。

(苦しい)

 昨日から針を飲み込んでしまったように、胸をちくりと何かが刺してくる。不意に泣きそうになってエレンはそれを何とか堪えた。不器用ながらも笑顔を作って幼馴染みに声をかける。

「悪いな、アルミン、変なこと話して」
「……あのクソ野郎……」
「アルミン?」
「先生、エレンの具合が悪いようなので早退します。で、僕も付き添いでついていきますから」
「は?」

 エレンの話を聞き終わったアルミンは突如、養護教諭にそんなふうに声をかけ、手続きを済ませると、エレンの手を引いて保健室を後にした。

「ちょっと待て、アルミン、どうしたんだよ?」
「大丈夫。今日は小テストとかもないし、ノートは後で借りればいいし、僕もエレンも真面目に授業出てるから出席日数とか心配ないし、何も問題ないよ」
「イヤ、あるだろ。だから、どうしたんだよ、お前。学校早退してまでして何するつもりなんだ」
「そんなの決まってるだろ?」

 アルミンはにっこりと笑顔で断言した。

「あのふざけた変態ショタコン親父の会社に乗り込んでやるんだよ」

 見事なまでの爽やかな笑顔を浮かべる幼馴染みに、エレンは背筋が凍るのを感じた。




 結局、怒れる幼馴染みを止めることは出来ず、エレンはリヴァイの会社に一緒についていくこととなった。――あれから、リヴァイからの電話には出ず、メールも一言だけ『書類を届けておきました』と送っただけで何も話していない。前回のことのような真似はしないと言っておきながら、男を避けている自分にエレンは溜息を吐きたくなったが、今の気持ちをどのように話したらいいのか判らなかったのだ。
 この状態で男に会うのは気まずいが、会いたいという気持ちもあるし、何より怒っている状態の幼馴染みを放っておくのも怖い。
 ぐるぐると思考を巡らせているうちに会社に辿り着いてしまい、幼馴染みはエレンの手を引いて受付に向かいリヴァイの所在を訊ねた。

「副社長に面会の予定は入っておりませんが、失礼ですが、お約束は――」
「アルミン・アルレルトがエレンを連れてきたと言ってください。絶対に来ますから」
「あの、でも―――」
「とっとと、来ねぇと未成年略取で警察に駆け込むから、それでいいなら来るな、その代わり二度とエレンには会わせねぇからな、と伝えてください。副社長を犯罪者にしたいなら、取り次がなくても結構ですが」
「オイ、アルミン!?」

 アルミンの言葉に慌ててエレンがその服を引っ張るが、返って来たのはにっこりとした笑顔で。

「エレン、僕は彼に対してものすごーく、怒っているんだよ? 更に言うなら、未成年者と付き合うっていうのなら相応の覚悟と責任を取らなきゃいけないって、あの年で判っていないはずがないんだからね?」

 戸惑っていた受付だが、取りあえず確認の連絡をしたようで、今すぐに来るとの返事が来た。外出していなくて良かった、呼び戻すなら時間かかるもんね、とアルミンは呟いていたが、エレンの頭は事態についていけない。ここまで来たのなら男を呼び出すのだろうとは思っていたが、あんな脅し文句を使うとはさすがに思っていなかった。
 数分後、バタバタと足音が響き、急いで駆けつけてきたらしい恋人の前にエレンが出るよりも早く幼馴染みが進み出た。

「色々と言いたいことはあるけど、その前に一つ」
「アルミン・アルレルト」
「一発殴らせろや、クソ野郎。――理由はエレン見れば判るだろ」

 男はエレンから視線を外さずに頷き、アルミンは思い切りよく男を殴りつけた。男の左頬に入った右ストレートはいっそ気持ちいいと言える程見事だった。

「――――っ、グーパンか、遠慮ねぇな」
「僕は力ないから大したことないでしょう? というか、殴った手が痛いや。何か殴れるもの持ってきた方が良かったかな……」
「物騒だな。俺を殺す気か」
「それくらい怒ってるってことですよ。――僕の可愛い幼馴染みを泣かせるなよ」
「――――」
「不安になんかさせるな。未成年者と付き合うなら相応のリスクは覚悟して、責任もって守ってやるのが大人のあなたの役目でしょうが、何やってるんですか? それが出来ないなら即刻、別れてください」
「誰が別れるか! ……絶対に泣かさねぇ。約束する」
「――次はないですよ」

 周りが呆然として二人のやり取りを見る中――事態が判っていないものが殆どだと思うが――アルミンは、エレンへと向き直った。

「僕の用事は終わったから、後はエレンの番だ」
「は?」
「ちゃんと話し合って聞いてもらいなよ。――別れることを僕はお勧めするけどね」
「だから、誰が別れるか! エレン、ひとまず移動するぞ」
「え?」
「ちょっと、待ってくれ、リヴァイ。君にはまだ仕事が……」

 エレンの手を引いて会社を出て行こうとするリヴァイを、慌てて引き止めようとする声がかけられた。おそらくは騒ぎを聞いてやって来たのだろう。

「うるせぇ、邪魔すんな、このヅラ! これには俺の人生の総てがかかってるんだ!」
「だから、リヴァイ、社長はまだヅラじゃないからね? 薄毛気にしてるんだから、ヅラとか薄いとかハゲとか禁句だからね?」

 社長らしい男はヅラ呼ばわりにショックを受けているようで、追い打ちをかけた女性――確か、昨日ハンジ・ゾエと名乗った女性だ――は明るく笑っている。彼女に一切の悪気がなさそうなのが、却って傷を深めているようだ。

「行くぞ、エレン」

 このカオスと呼べる状況を放置して行ってしまっていいんだろうか、と思いつつエレンは恋人に連れられてその場を後にしたのだった。





 リヴァイがエレンを連れてきたのは彼の自宅だった。誰にも邪魔されずに落ち着いてゆっくり話せるところ、となると自宅以外の選択がなかったのだ。手近なホテルに飛び込んでもいいと男は思ったが、少年が嫌がるだろうと考慮した結果、自宅に落ち着いたのだ。

「…………」
「…………」

 帰宅後、ずっと無言が続いている。いや、男の自宅へ向かう間も無言が続いていたのだが。取りあえずは殴られたリヴァイの頬は冷やしていたが、幼馴染みは思い切りよく殴っていたから翌日には痣になっているかもしれない。

「あの……リヴァイさん、副社長って本当ですか?」

 黙っていてもただ時間が過ぎていくだけなので、エレンはそう切り出した。事実なのは判っていたが、確認すると男は頷いた。

「何で、黙っていたんですか?」
「それは……」
「オレ、恋人なのに、そんなことも知らなかった。オレ、頼りないですか? まだ未成年だし、リヴァイさんの立場とかよく判ってあげられないし、だから……」
「それは違う!」

 エレンの言葉を男は強く否定した。

「だって、知ったら、お前俺に遠慮するだろうが」

 今だって俺に気を使ってわがまま言わねぇのに、と男は続けた。

「忙しいから時間取らせちゃいけないとか、休日はゆっくり休みたいだろうから、出かけたりしない方がいいんじゃないかとか、電話とかメールかけるのも減らした方がいいんじゃないかとか、そういうの絶対考えるだろ」

 確かにそれは考えたことなので、エレンには返す言葉がなかった。

「普段からエレン不足なのにそんなこと考えられたらもっと不足するだろうが。――一番最初に言わなかったのは、副社長って言ったら身構えられて、親しくなれないと思ったからだ。付き合ってからはそういう遠慮をされたくなくて黙っていた。あのな、エレン、俺はお前といられるなら別にあの会社辞めたって構わねぇんだ」

 あっさりとそんなことを言われてエレンは固まった。

「将来、お前が海外にパティシエの修業に行くっていうなら俺も行くし、遠くで店を始めるっていうなら俺もそこに住む。スタッフが必要なら俺がやるし、いつも傍にいたい。お前と仲の良い人間には嫉妬するし、会社の話をして他の人間に興味を持たれるのも嫌だし、大人じゃないのは俺の方だ」

 そう言ってリヴァイはソファーに座るエレンの腰に手を回して自分は床に膝をつき、顔を埋めた。

「でも、そんなのお前は重いだろ? 言ったら、逃げられるんじゃないかって思って――これでも、我慢はしてるんだ、お前に嫌われたくはないからな。今回のことだって俺はお前を不安にさせて哀しませて謝って反省しなきゃいけねぇのに――嬉しいんだ」
「――――」
「お前が俺のことで頭いっぱいにして、悩んで、俺のことを考えて眠れないくらいになったのが嬉しい。お前を傷付けたのに、そんなこと思うなんて最低だろう。だが、お前を傷つけたくないし、大事にしたいのも本当なんだ」

 確かに男の想いは重いと呼べるものだろう。束縛されるのやべたべたされるのを嫌う人間だったら別れを切り出しているかもしれない。

「確かに、重いですね」
「――――」

 男が息を呑んだのが振動で伝わって来た。エレンは宥めるようにその頭に触れて微笑んだ。

「でも、そこまで想われるのは嬉しいです。オレのこと本気で好きなのが伝わってくるから。でも、会社を辞めるのは皆さんに迷惑がかかるからダメですよ?」

 後、いくら一緒にいたいといっても、監禁とかまでエスカレートしそうなら逃げますから、と少年は続け、そこまではしねぇよ、と男は苦笑した。

「それと、話せる範囲では話せることは話して欲しいです。仕事のこととか、オレは判らないし力にはなれないけど――支えるくらいはしたいんです。だって、恋人ってそういうものでしょう?」

 どちらかが一方的に倚りかかって、甘えて負担になる関係ではいつか破綻すると思うから。お互いを大事に想っているのなら尚更。
 男が頷いて顔を上げたので、エレンはその額に口付けを落とした。男は場所が不満だとばかりにエレンの頬を触れて柔らかな唇に自分のそれを重ねたのだった。



 男が休日にあった出来事の詳細を聞いて、書類を届けてくれたお礼も兼ねて何かしたいと言うから、エレンは一つだけ男に願いを申し出た。

「はい、リヴァイさん、どうぞ」

 男に差し出されたのは白い粉糖のかけられたガトーショコラだ。小さめの型で作ってあるので一人分にしては多いが、食べ切れない量ではない。
 エレンの願いは自分の作った菓子を一人で全部食べて欲しい、だった。パティシエを目指すエレンは自作の菓子をよく持ってくるし、今更という気がしたが、それくらい何でもないとリヴァイは頷いた。
 甘いショコラの香りが漂うケーキにフォークを刺して口に運んだ瞬間、男は固まった。

「――――!?」

 エレンは黙ってミネラルウォーターの入ったコップを差し出し、男は受け取ってそれを飲んだ。
 エレンが作ったのは見た目はごく普通のガトーショコラだが、甘さは通常の五倍にしてある。甘ったるすぎてとてもじゃないが、食べきるのは辛いだろう。他にもトウガラシやわさびを入れることも考えたが、パティシエを目指すものとしてそちらは断念した。無理をすれば食べられるものでないと材料が勿体ない。五倍の甘さのケーキを作るのに苦労したが、甘さ以外は普段と変わらず上手く出来たと思う。
 やっぱり、隠されていたことにはショックを受けたのは確かだったから――これは男に対する意趣返しで。どうやら、思っていた以上に効き目があったらしい。

「エレン……」
「全部、食べてくださいね」

 幼馴染みから伝授されたのかと思う程の笑みを向けられた男は決死の思いで、ケーキを食べきり、口直しとばかりに少年に口付けを求めたのだった。




 ――余談。
 会社帰りの男に呼び出されて向かった先には苦虫を噛み潰したかのような顔のリヴァイと、対照的に物凄く楽しそうな顔の女性がいた。彼女は確か、恋人の同期のハンジという女性だったと思うが、何故、彼女までここにいるのだろうか。

「社の人間、特にこのクソメガネには絶対に会わせたくなかったんだが、どうしても会わせろってうるせぇから連れてきた」
「久々の生エレーン! 会いたかったよー」

 ハンジは初めて会ったときと同じようにエレンの両手を握ってぶんぶんと振った。

「お久し振りです、ハンジさん、ですよね?」
「うん、そう、覚えててくれたんだ?」
「そいつはクソメガネで充分だ」
「酷いな、リヴァイは。エレンと会えたのは私のおかげでしょ?」
「チッ、だから連れて来てやったんだろうが」

 お茶したかったんだよねーと笑うハンジは近くのカフェへとエレンの手を取って進んだ。カフェ・グリーンリーフが一番だと思っているがここのデザートも美味しくて有名なのでエレンも入ったことがある。ハンジは早速とばかりにパンケーキとドリンクのセットを注文し、エレンにも勧めてきた。

「カフェ・グリーンリーフもいいけど、ここのスイーツも美味しいからさ。あ、君なら知ってるかな?」
「カフェ・グリーンリーフをご存知なんですか?」
「勿論! あそこのミルフィーユ絶品だもの! ここのとこ忙しくて食べに行けてないけど、あそこのケーキはどれも美味しいから、私はファンなんだよ」

 ハンネスの作るケーキが大好きらしく、リヴァイがカフェ・グリーンリーフに行ったのは彼女に頼まれたかららしい。それが再会につながったのだから、世の中にはどんな縁が落ちているのか判らない。彼女はリヴァイとエレンの出会いの経緯は知らないようだが、エレンがカフェ・グリーンリーフでアルバイトをしていて、そこで男と知り合ったことは判っているようだった。
 そう言えば、とエレンはあの日のことを思い返して、何故自分を知っていたのかと不思議に思う。あのエレン君とか生エレンとかどういう意味なのだろうか。

「あの、この前、オレが会社に行ったとき、オレのことをあのエレン君って呼んでましたけど、それってどういう意味ですか?」
「ああ、リヴァイの周りの社員は全員君の顔知ってるんだ。リヴァイ、デスクにエレン君の写真飾ってるし」

 ハンジの言葉にエレンは固まった。男を見るとしまった、という顔をしているのでそれは事実なのだろう。

「デスクには写真三つかな? 後、携帯の待受けもエレンだし。さすがに会社のPCの壁紙とスクリーンセイバーをエレンにするって言い出した時は全力で社長が止めてたけど。間違ってデータ流出したらどうするんだって言ってさ」
「…………」
「後、俺のエレンに会う時間減らしたらただじゃおかねぇとか色々言ってるから、一度生のエレンに会ってみたかったんだ。イヤ、リヴァイがあそこまでになるなんてどんな子なのかな―って。写真より可愛かったし、ハンジちゃんは満足しました! うん、私は止めないよ、というか、もうリヴァイは誰にも止められないから、こんな変態に捕まったことはもう諦めてね!」
「……リヴァイさん」
「嫌だ」

 何を言われるのか想像ついたのか、リヴァイは即答した。

「嫌じゃないですよ! 何、恥ずかしいことしてくれちゃってるんですか!」
「会社にいるときはお前に会えないんだから、仕方ないだろうが! お前の写真見て癒されてて何が悪い!」
「……ちなみに、会社ではオレのことをリヴァイさんはどんなふうに言ってるんですか、ハンジさん」
「え? 俺の可愛いエレン、料理上手で将来はパティシエ目指していて、家事得意だから嫁にぴったり、というか、結婚するからそのつもりで、とか? リヴァイ、自慢するくせに会わせてくれないから、ケチくさいよねー。心狭いと嫌われるよ?」
「余計なお世話だ、クソメガネ」

 ハンジの頭を叩くリヴァイが目に映るがそんなことはもうどうでもよく。あのエレン君の意味が判った現在ではもう二度とリヴァイの会社には行けない――というか、行ってしまった過去をマリアナ海溝の底に沈めたい。

「……リヴァイさん」
「絶対に嫌だ」

 言い合いを繰り広げる二人を眺めながら、やっぱりここのスイーツも美味しいなーとハンジはパンケーキを口に運んだのだった。





≪完≫




2013.11.23up



 まあ様からのリク、「ショコラ」の設定で、リヴァイの部下としてリヴァイ班の面々が登場。美人で可愛いペトラにエレンがヤキモチ妬いてしまい、それを知ったリヴァイ嬉しすぎて暴走してしまう、二人のイチャラブ話。それと「ショコラ」設定で(エレンが)嫉妬→喧嘩→甘々とか(裏があってもw)…♪というリクを頂きまして、同じような内容だったので一つにまとめさせて頂きました。
 で、考えたのですが、ショコラ設定のエレンってリヴァイの周りの人間に絶対に嫉妬しないと思うんですよね(汗)。どちらかというと、落ち込むか、自分より相応しい人がいるんじゃないかって、考えるタイプなのでこういう話になりました。もっとリヴァイ班の面々を出したかったのですが、リヴァイは副社長設定なので直属の部下って秘書くらいしかいないのです。秘書何人もいないだろう……ということでペトラとエルドの二人が秘書に。ちなみにオルオは営業部で、グンタがエルヴィンの秘書をやってます。
 リクエストくださってありがとうございました〜!





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