愛の贈り物



 今日は自分の家に寄っていかないか、という幼馴染みの少年の言葉にエレンは首を横に振った。用があるから、と言うエレンに幼馴染みの少年はなら仕方ないね、と苦笑を浮かべる。クリスマスが終わってからどういうわけか少年の付き合いが悪くなったような気がする――少年の幼馴染みであるアルミンはひっそりとそう思っていたが、受験生である自分達に遊んでいる暇はないのは確かだったので、強く誘うことはしていなかった。

(それに、何だかエレンの機嫌いいみたいだし)

 クリスマスの後、顔を合わせた少年は喜びを隠し切れない、という様子でひどく嬉しそうな顔をしていた。その様子に思わず何かいいことでもあったのか、と訊いてみたが、少年は笑うばかりでその質問には答えてはくれなかった。少年が頑固な一面を持っていることは判っていたし、答えないと決めたことは何があっても話してはくれないだろう。アルミンは少年が話したくなるのを待つことに決め、その話はそこで終了させたのだけれど、何かあったことは間違いないと思っている。

(まあ、エレンにいいことがあったんならそれでいいんだけど)

 アルミンは同い年の幼馴染みを親友とももう一人の家族のようにも思っていたし、その彼が幸せになってくれるのなら嬉しいと思う。特に母親を亡くした後のエレンは見ている方も辛かったから――少年が無理をしているのが判っていて、けれど、何も出来ない自分が心底歯がゆかった。だが、ある日、エレンは何かをふっ切ったように以前の彼に戻ったのだ。いや、母親の死を乗り越え昇華させたというのが正しいのだろう。何が彼にそうさせたのかは判らなかったけれど。

(そういや、あのときもクリスマス後だったような……)

 そんなことを考えていると、丁度分かれ道に差し掛かったらしい。エレンに声をかけられ我に返ったアルミンはじゃあ、また明日と手を振って彼と別れたのだった。




 幼馴染みの少年と別れたエレンはとある場所に向かっていた。

(アルミンには悪いけど……話せないし)

 勿論、いずれは話そうと思っているが、どこからどう話したらいいのか判らない。正直に事実を話せば絶対に正気を疑われるだろう。当事者でなければ信じられない話であるし、エレンだって自分の身に起こったことでなければ信じはしなかっただろう。――いくら何でも。

(サンタクロースと恋人同士になりました、なんて)

 内心で溜息を吐きながら、目的の場所に辿り着いたエレンは、目の前の建物の中に足を踏み入れたのだった。

「リヴァイさん、こんにちは」
「エレン、来たのか」
「はい。来ちゃいました」

 カウンターの中にいた人影に声をかけると、相手は微笑とも苦笑とも取れるような笑みを口許に浮かべた。細いフレームの眼鏡を人差し指で押し上げるようにして、受験生が遊んでいるなと窘めるように言う。

「ちゃんと勉強してますよ?」
「わざわざここでやらなくてもいいだろう」
「ここだと落ち着いて勉強出来るんです」

 二人が現在いる場所――そこはエレンが住んでいるところから少し離れた場所にある図書館だ。蔵書数も多いし、規模的にはわりと大きなところではあるが、エレンが住んでいる地域にはここよりももっと近くて大きな図書館があるので今まで利用したことはなかった。なのに、ここまでわざわざ足を運んでいるのは――ここにリヴァイがいるからだ。

「すみません、お訊きしたいんですが――」

 丁度そのとき、リヴァイに声をかけるものがいたので、エレンはカウンターから離れた。男の仕事の邪魔はしたくなかったからだ。

(それにしても、まさか、ここで働いてるなんて思ってもみなかったな)

 そう、リヴァイはこの図書館で司書をしているのだ。少年がそれを知ったのはクリスマスの後――宣言通りにエレンの許を訪れた男は衝撃の事実を告げたのだ。

「は? 図書館の司書、ですか?」
「そうだ。まさか、お前、図書館の司書を知らないのか?」
「イヤ、それは知ってますけど……リヴァイさん、サンタなんですよね?」
「そうだ。お前だって知っているだろうが」
「なのに、何で普通に働いてるんですか? サンタランドにいるんじゃないんですか?」
「……お前、もしかして、サンタはサンタの国で暮らしていて、クリスマスだけやってくるとでも思っていたのか?」

 リヴァイの言葉にエレンは頷いた。何せ、サンタだ。普通にサンタの国で他のサンタ達と暮らしていると思うのが当然なのではないだろうか。

「それじゃあ、食っていけないだろうが。サンタは全員別に仕事を持っていて、普段はそこで働いている。サンタとして働くのはクリスマスの時期だけだ」

 あっさりと驚愕する言葉を告げられ、エレンはぽかんと口を開けてしまった。

「え? それじゃ、もしかして、普通に会社員とか、自営業とか、公務員のサンタがいるってことですか?」
「その通りだ」
「リーマンのサンタって……」

 エレンは職業に対する差別意識は全くないが、まさかサンタが普通の会社員をやっているとは思いも寄らず、少なからずショックを受けた。例えて言うならサンタクロースからプレゼントを贈ってもらっているのだと信じていたら、それが実は父親からだったと知ってしまった子供の気持ちに近いのかもしれない。

「まあ、サンタは半分はボランティアみたいなものだからな」

 報酬は出るがそれだけで生活が出来るというものではない。毎年クリスマスの夜は働かなければならないし、好きでなければ出来ない役目だ。更に言うと、誰もがなれるという訳ではなく、サンタの才能がないものはどうあってもなれないらしい。

「まあ、その辺も考えて、サンタはサンタ協会の企業に優先的に就職出来るようになっているが」
「企業って……リヴァイさんが働いている図書館も?」
「ああ。サンタ協会が運営している」
「…………」

 何か聞けば聞く程夢から遠ざかっていくような気がしたが、リヴァイが遠いサンタの国にいるわけではなく、同じ市内に住んでいると知ってそのことにはほっとしたエレンだった。


(近くにいるならもっと会えると思ったのに……)

 司書をしているというリヴァイには当然ながら仕事があった。この図書館の閉館時間は午後の七時まで。勤務は早番遅番の二交代制、午前中から夕方までと、閉館までいて片付け作業を終えてから帰る、ということになっていた。
 エレンは度々ここを訪れてはリヴァイの終業を待ち、その後二人で短い時間を過ごしてから帰宅していた。リヴァイは受験生の自分がわざわざここまで足を運ぶことに難色を示していたが、大人しくここで勉強すると主張して何とか納得してもらった。仕事中のリヴァイにはそうそう話しかけることは許されなかったが、年に一度しか会えなかったことを思えば今の状態は幸せと言えるだろう。だが……。

(……もうちょっと、恋人っぽいことをしたいっていうか……リヴァイさんはそういうこと思わないのかな)

 エレンは座った席からリヴァイの顔を盗み見しながらひっそりと溜息を吐いた。
 眼鏡をかけて、来館者に何やら説明しているその様子は様になっている。何でも目つきの悪さで子供を怖がらせないようにかけているという眼鏡は度の入っていない伊達であるらしい。サンタ時には着用はしていなかったが――そもそもサンタは本来は子供に姿を見せないので、必要がないらしい――似合っているとエレンは思う。感想を訊かれたので、強盗から悪徳弁護士になったみたいです、と言ったら頭を叩かれた。素直な感想だったのだが、男は自分の目つきの悪さを少々気にしているらしい――主に子供に怖がられるからという理由で。どうやら男はああ見えて子供好きであるらしかった。まあ、子供が好きでなければサンタクロースなどやってはいないだろうが。


(やっぱり、オレがまだ子供だからなのか?)

 もっと恋人らしい関係になるにはどうしたらいいのか。エレンは新たな悩みに再び深く溜息を吐いたのだった。





「恋人との仲を進展させるにはどうしたらいいかって?」

 和やかな昼休みの時間、突如、幼馴染みの少年にそんな質問をされたアルミンは弁当をつつく手を休めて眼を瞬かせた。
 思わず、恋人が出来たの?と訊ねたが、少年は視線を泳がせて知り合いの話だけど、と小さく言った。思い切りあやしいが、ここで無理に訊き出すのはやめておいた。何か話したくない事情があるのは察せられたし、幼馴染みはいつまでも自分に内緒にしておくということはしないだろう。

「その質問、僕にする方が間違っていると思うけど……」

 何しろ、彼女いない歴イコール年齢のアルミンである。ここは経験者に訊くのが一番ではないだろうか。

「それはそうなんだが、お前くらいしか思いつかなかったんだよ」

 二人してうんうんと悩んでいると、話を聞き付けたらしいクラスメートが彼女持ちの男子を呼んでくれた。エレンが率直に訊ねると、彼は逆に二人きりでいたら自然とそんな感じにならねぇ?と訊き返してきた。

「ならないから訊いてるんだろ?」
「じゃあ、気分変えてどっかに出かけてみるとか?」
「……出かけている時間がない」

 何しろ、リヴァイには仕事がある。エレンの学校が終わってから一緒にどこかに出かけるというのはまずあり得ない。男の仕事が終わるのを待って、それから一緒に過ごそうとしても子供は早く家に帰れと言って早々に自宅まで送られてしまうし、休日に出かけようと持ちかけてみても受験生なら勉強をしっかりやれと言われてしまう。これで本当に恋人同士になったと言えるのだろうか。別に遠出などしなくてもいい、家でのんびりと過ごすので構わないから、少しでも長く一緒にいたいと思っているのは自分だけなのかと疑問に思ってしまう。

「まあ、受験がすぐだしなー。そうそう出かけてる暇ないよな。あ、なら、イベントとかどうだ?」
「イベント?」
「女はそういうの気にするじゃん。誕生日とか。誕生日が無理ならもうすぐバレンタインがあるし、そこで一緒に過ごそうとか言ってみれば?」

 というか、恋人ならチョコくらい用意してるだろ、と告げる男子に、エレンはまさか相手が男で用意しているとは思えないとも言えず、かわいた笑いを浮かべるしかなかった。



 だが、イベントというのはいいかもしれない、とエレンは思った。中学生が遅くまで出歩くのは良くないと言って普段は早く帰されてしまうが、そういう日なら遅くまで一緒にいても大丈夫かもしれない。
 そわそわと落ち着かない様子でリヴァイの勤める図書館に現れたエレンは、男に2月14日のシフトを訊ねてみた――結果、見事に閉館までという答えが返ってきた。その後、少々、雑務があるらしく遅くなるかもしれないから、お前は早く帰れよ、もしくはここに来るのはやめておけ、と釘を刺されてしまった。
 その回答にどっぷりとへこんだ少年だった。

(ダメだ。このままじゃ、全然、恋人らしくなれねぇ……!)

 職場がダメならもうこの際、男の自宅に押し掛けてやる、とエレンは決意した。幸いにも男の自宅マンションの場所は知っていた。男にお願いして何度か中に入ったこともあるが、いつも早く帰るように促され今まで長居をしたことはなかった。
 リヴァイのマンションで彼の帰宅を待つ――恋人関係でなければ自分がストーカーのようで泣けてくるが、自分から行動しなければこのままの関係が続くだけだ。
 バレンタイン当日、エレンは一応手作りのチョコを用意し、男の自宅マンションまで向かった。男の帰宅時間を計算して少し早めに着くようにしたのだが、リヴァイは中々帰ってこなかった。合鍵は渡されていないので部屋で待つことは出来ないし、オートロックのこのマンションのエントランスでうろうろしていたら、不審者として通報されてしまうかもしれない――エレンの年齢を考慮すれば補導ということになるだろうが、受験前に警察の厄介になることは避けたい。
 考えた末、エレンはマンション前の植え込み辺りに人目を避けるように座り込み、リヴァイが帰宅するのを待つことにした。防寒対策はしっかりしてきたが、2月の冷たい空気が身体に刺さるように感じる。

(もっとカイロ持ってくるんだったな)

 今日は遅くなるかもしれない、と男は言っていたが、正確な時間を訊いておくべきだったかもしれない。リヴァイの携帯電話に連絡することも考えたが、仕事中かもしれないし、自宅の前にいると話したら帰るように言われそうな気がした。
 ――そうして、どのくらい待っていただろうか。人の気配がして顔を上げると、驚いた顔をした恋人が立っていた。

「リヴァイさん!」
「エレン!? どうしてこんなところにいるんだ、お前」
「あの、今日はバレンタインだから――」

 会いたくて、と少年が続ける前に男に腕を掴まれて立ち上がらせられる。少年の身体から伝わってくる冷気に男は眉を顰めた。

「わ……っ!」
「冷てぇ……お前、一体いつからここにいたんだ?」
「えーと、一時間半前くらい……?」

 携帯電話で時間を確認して少年が正直に伝えると、男に馬鹿か、と怒鳴られた。強いその声に少年の身体がびくりと竦む。

「受験前の大事なこの時期に風邪ひいたらどうする? 肺炎やインフルエンザにでもなったら、今までの努力が全部無駄になるんだぞ!」
「――――」
「すぐに家に送る。いや、その前に身体を温めてからの方がいいか」

 男はエレンの手を引いて歩き出そうとしたが、少年は立ち止まったまま歩き出そうとしない、俯いて地面を見つめるだけだ。

「エレン?」
「――今日はバレンタインなんです」
「知っているが、今はそんな話を――」
「バレンタインなんです。だから、今日くらい一緒にいてくれたっていいじゃないですか」

 ぽたり、ぽたり、と地面に丸い染みが出来ていく。

「リヴァイさん、いつも子供は早く帰れって言うし、一緒にいてくれないし、いつもオレの方が会いにいって、リヴァイさんから約束してくれたことないし、オレのこと、も、もらってくれるって言ったのに……っ!」

 ぽたり、ぽたり、と地面に落ちた染みは消えてもまた新しい染みがすぐに出来ていく。

「キ、キスしたのもあのとき一回だけだし、全然恋人らしいことしないし! オレばっか、オレばっかリヴァイさんのことす、好きで……っ! ずるいです!」
「エレン」

 ぼろぼろと涙を零す少年を男はぎゅうっと抱き締めた。宥めるように背中をぽんぽんと軽く叩くようにしてから、優しく頭を撫ぜる男に、少しずつエレンも落ち着いていく。そうすると今度は激しい羞恥に襲われて顔が上げられない。子供みたいに泣いて言いたいことだけ喚くなんて、優しいこの男でも呆れてしまったかもしれない。

「リヴァイさん……」
「取りあえず、部屋に行くぞ。――そこでちゃんと話すから」

 だが、返ってきたのはやわらかな声で。男に促されるまま、少年は恋人の部屋に向かったのだった。


 自宅に入ると男はまず暖房を入れ、風呂の支度をし、有無を言わさず少年を湯船に放り込んで身体を温めさせることに専念した。
 そして、充分に身体が温まったことを確認すると、丁寧に濡れた髪の毛を乾かしてやる。優しいその手つきに少年はうっかり眠りそうになってしまったくらいだ。
 その後、リビングのソファーに座らされ、温かい飲み物――ホットショコラだった――を渡されたエレンはそれを一口口に含んだ。甘さと温かさにホッとした気分になる。

「エレン」
「……はい」
「悪かったな」
「え?」

 突然の謝罪にエレンは眼を瞬かせ、それから男をまじまじと見つめてしまった。てっきり、怒られるかと思ったのに、まさか謝罪されるとは思ってもみなかった。

「いきなり怒鳴ったのは大人気なかった。それに誤解させてしまったようだが――俺がお前と余り二人きりの時間を作らなかったのは、理性を保つためだ」
「は?」

 リヴァイの言葉にぽかんとした顔をする少年に、男は溜息を吐いた。

「お前、惚れた相手と二人きりで、しかも大好きです、食べてくださいって顔をされたら、うっかり手を出しそうになるだろうが」

 大好きはともかく、食べてくださいってどんな顔だよ、と突っ込みを入れたくなったがそれよりも先に言いたいことが一つ。

「それって何か問題があるんですか?」

 ただの知り合いならともかく、自分達は恋人同士になったのだ。二人一緒にいてそういう雰囲気になったとしてもおかしくはないし、問題はないだろう。

「問題があるに決まってるだろう。俺はお前に手を出すつもりはまだない」
「――何でですか?」

 自分にはそういう気が起きないというのだろうか。いや、先程、手を出しそうになると言っていたし、何がいけないというのだろうか。

「お前にはまだ早い」

 きっぱりと言われてしまい、エレンはむうっと眉を寄せた。

「オレ、そんなに子供じゃないです!」
「義務教育中のガキが何言ってる」
「それは……でも、クラスの中にはもうしたっていう奴いるし!」

 確かにまだそういうことをするのには早い年齢かもしれないが、何にも知らない子供ではない。恋人同士ならそういうことをするのは当たり前だと思うし、もうちょっと進んだ関係になりたいと思うのはそんなにいけないことなのだろうか。

「人は人、自分は自分だろうが。大体、お前、男同士のセックスがどんなものか判って言ってるのか」
「それは……大体のことは……ネットで調べたので……」

 尻すぼみに消えていくエレンの言葉に、リヴァイは頭を押さえた。

「お前、それ、十八禁サイトとかじゃないのか? それに話に聞くのと実践ではえらい違いがあるんだぞ」
「そんなの、やってみないと判らないじゃないですか!」

 言い張る少年にリヴァイは溜息を吐いて、すうっと眼を細めた。

「――なら、試してみるか?」

 え、と思う暇もなく視界が反転した。天井が見えた後には至近距離に男の整った顔があって、ようやく自分がソファーの上に押し倒されたのだと知った。覆いかぶさるように自分の上に乗った男が自分の顎を掴むのをただ呆然とエレンは見ていた。

「リヴァイさ――」

 続きは男の口の中に飲み込まれた。ぴったりと合わせられた口の中にぬめりを帯びた柔らかいものが侵入してきて、思うままに口内を暴れ回る。
 本気で食われるんじゃないか、と思う程の激しい口付けだった。息継ぎもままならず、酸欠で頭がぼーっとしてきても、男は許してくれない。以前に一度だけされたキスも激しく熱いものであったが、今回のそれはもっと荒々しくて、この先に繋がる行為を予感させる肉欲を孕んだものだった。
 体勢のせいもあるだろうが、押さえ込まれた身体は少しも動いてくれなかった。リヴァイは小柄ではあるがきっちりとしなやかな筋肉に覆われていて、その力はこちらが驚く程強い。その気になれば自分を力で捩じ伏せることなどこの男には容易いのだ。

「エレン」

 ようやく口付けから解放された少年が咳き込んでいると、男は耳元で優しく名前を呼んだ。

「そこまで怖がらせるつもりはなかったんだが……これ以上はしないから、泣くな」

 そう言って頬を拭われて、エレンは自分が泣いていることに初めて気付いた。
 男はエレンの上から身を起こして下りると、エレンを再び座る体勢に戻し、その頭を優しく撫ぜた。

「あのな、お前が思っている程、こういうことは綺麗なもんじゃねぇんだよ。お前の頭は判っていても、心と身体は追いついていっていない。それで身体を繋げても意味がないだろう。俺はお前が大事だから、まだ手を出したくねぇんだよ」
「……でも、オレはちゃんと、リヴァイさんと恋人同士になりたいです」

 想い合っているのに距離を置かれるのは辛い。もっと近くに行きたい。もっと一緒にいたい。

「もっと、一緒にいたいです。くっついたり、キ、キスしたり、ぎゅうってしたり、どこかに出かけたり、そういうの、したいです」

 近いのに、近くなったのに、遠いんです、とエレンは続けた。一年に一度、無愛想だけど本当は優しいサンタに会うのが楽しみだった。それだけで満足出来ていた――けれど、想いが通じ合ってしまったら、手を伸ばせば届く距離にいるのが判ってしまったらもうそれでは満足出来なくなってしまった。

「オレ、ちょっとずつでも頑張りますから。恋人なのに、今の方が遠いなんて、そんなの嫌です」

 リヴァイは少年の言葉に、そうだな、俺が間違っていたな、と苦笑した。

「俺がお前にちゃんと合わせてやるべきだったな。元々は成人するまで待つつもりだったのに、いざ手の届く距離に来られたら我慢がきかなくなりそうで、少々焦った。結果、泣かせちまったな……」
「リヴァイさん……」
「安心しろ、もう泣かせないと誓うから。サンタは子供の夢を叶えるものだからな」

 そう宣言するリヴァイにエレンは笑って、そこちょっと違いますよ、と訂正を求めた。

「オレは子供じゃなくて、リヴァイさんの恋人です」

 その言葉にリヴァイは眼を見開いて、それからくつくつと笑った。

「そうだな。じゃあ、俺は子供の夢と恋人の願いを叶える凄いサンタだ」
「ですね。スーパーサンタです。人類最強のサンタです」
「そうだな。それも悪くない」

 そう言い合って、二人はしばらくの間楽しそうに笑っていた。



 ――その後、エレンの手作りチョコを食べた人類最強サンタは、エレンに銀色に光る鍵をプレゼントしてくれた。今回のように少年が寒空の下で待つことのないように渡された恋人の自宅マンションの合鍵に、また泣きそうになってしまったのは言うまでもない。
 だが、男は結局まだ手を出すのは早いと言って少年には軽いキス程度のことしかしてくれない。それでもスキンシップは増え、前より一緒にいられるようになったのでよしとしている。実際、少年もまだ先に進むのは怖いような気もあったから、少しずつ進んでいけばいいかと思えるようになった。

「リヴァイさん、オレ、希望したらサンタになれますか? オレにサンタの才能ってありますか?」

 男のマンションでくつろぎながら、エレンは男にそう訊ねてみた。才能がないものはどんなになりたくてもサンタにはなれないらしい。では、どうやってその才能の見極めをしているのか――そもそもサンタにはどうやってなったのかと男に訊いてみたら、サンタとはスカウト制らしい。何でも人事担当がいるそうで、その人間がサンタになれそうな人間を見つけてきて、本人が承諾したら適性試験と訓練を受け、正式なサンタに任命されるらしい。現役のサンタからの推薦も受け付けているそうで、サンタにはサンタの才能があるものは直感で判るらしいので、自分がどうなのか訊いてみたかったのだ。
 期待に満ちたエレンの問いかけにリヴァイは首を横に振った。

「お前はダメだ」
「え……オレ、才能ありませんか?」

 がっかりするエレンに男はそういうことじゃないがダメだ、と少年には意味の判らない言葉を続けた。

「どういうことですか?」
「お前がクリスマスにプレゼントを贈るのは俺だけでいい。そういう話だ」

 きっぱりと告げた男に、エレンは眼を瞬かせた後、盛大に笑ったのだった――。





≪完≫


2014.3.9up




 ナツイ様からのリク。『冬の贈り物』設定でサンタ兵長とエレンの甘々。バレンタイン企画らしくチョコを贈るリヴァエレでも、エレンを食べちゃうサンタ兵長でも(笑)お任せしますので、くっついた後の後日談希望……とのことでその後の二人を書かせて頂きました。実は前作を書いたときは勢いで書いたので、まさか続編を読みたい方がいるとは思わずに設定細かく考えてなかったので、後付けだったりします(爆)。なので、どこかあらがあるかもしれませんが……スルーしてくださいませ。少しでも楽しめる作品になっているといいのですが。
 リクエストをくださった、ナツイ様、ありがとうございました〜!



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