※高校生リヴァイとちびっこエレンの現代パラレルシリーズと同設定です。シンゲキジャーシリーズを未読の方は読んでからどうぞ。




my birthday




 その日、いつものようにリヴァイが学校から帰宅すると、玄関先までとてとてと隣室の子供が出迎えてくれた。

「リバイさん、おかえりなさい!」
「ただいま、エレン。……その格好はどうした?」
「これはサンタさんとおそろいなのです!」

 いや、それは判っているとリヴァイは言いたかった。自分が訊きたいのは子供が何故そんな格好――赤い生地に白のファーのついたお馴染みのサンタ服を着ているのか、ということなのだが。三角帽ではなく、フードの付いたポンチョのようなものを白いポンポンのついたリボンで留める衣装は可愛らしいし、子供にはよく似合っているのだが、何故それを着る必要があるのだろうか。
 疑問符を浮かべながら子供を抱き上げてリビングにまで進むと、そこにいた二人の母親が子供がサンタ服を着ている理由を語ってくれた。

「クリスマス会?」
「そうなのです! そのときにきるのです!」

 確かにリヴァイも幼稚園児の頃にクリスマス会をやった覚えがあるが、そのときはこんな衣装など着なかったはずだ。せいぜい三角帽をかぶったくらいで、こんな本格的な衣装を着ていたのはサンタに扮した保育士くらいだったような気がする。詳細を訊いてみるとクリスマス会では園児達が覚えた歌を歌うらしく、そのときにサンタ服を着ようと父母会か何かで決まったと言うのだ。
 ハロウィンなら仮装するのは判るのだが、何故、クリスマス会でわざわざ衣装を着なくてはならないのだろうか。全く以って意図が判らず、二人の母親に訊ねたところ、だってその方が可愛いじゃない、という以前にも聞いたことのある台詞が耳に飛び込んできた。

「…………」
「リバイさん、リバイさん、クリスマスかいでうたううたをきいてください!」

 いいのか、世の中それでいいのか、と心の中で突っ込んでいると、子供がクリスマス会で歌う歌をここで披露したいとキラキラした顔で見つめてきたので、嫌な予感がひしひしとしたが子供の期待に満ちた目を裏切れずにリヴァイはそれを了承した。

「くちく、くちくしろ〜! きょじんはいっぴきのこらずくちくしろ! おまえらほんとうにクソやろうだよ!」

 やはりか、絶対にそうだとは思っていたがこの歌は必須なのか。もはや、あの番組にはあやしげな宗教団体とかがついていてももう驚かないとリヴァイは思う。子供のうちから洗脳してシンゲキジャー教にでも入信させたいのかと、あり得ないと判っていても言いたくなってしまう。どうやったらあの番組から子供を切り離せるのか真剣に悩むリヴァイだった。



 その後、子供は普通のクリスマスソングも歌い、リヴァイはよく歌えたな、とその頭を撫ぜながら誉めてやった。子供は誉められたのが嬉しいのか照れたように笑った。

「リバイさんのがっこうではクリスマスかいはいつですか?」
「高校ではクリスマス会はないな」

 子供の質問にリヴァイはそう答えた。普通、クリスマス会をやるのは幼稚園かせいぜい小学校くらいまでではないだろうか。地区や自治体などによっても違うだろうが、さすがに高校生になってまでも学校行事でクリスマス会をやっているという話は聞いたことがない。子供はそれを聞いて残念そうな顔をしていたが、リヴァイはこの年になっても学校でクリスマス会などやっても寒いだけだと思っているので問題はない。

「じゃあ、サンタさんのおたんじょうびはおいわいしないのですか?」
「サンタ? イヤ、クリスマスはイエス・キリストの降誕祭だから、サンタじゃないぞ?」
「サンタさんのおたんじょうびじゃないのですか? サンタさんは?」
「それはサンタによると思うが……確か、サンタ協会の公認サンタは百人以上いたと思うが、全員が同じ誕生日ってことはないだろうし……それに、クリスマスと誕生日が一緒でも特にいいことはないぞ。俺は特に得した覚えはないしな」

 リヴァイの誕生日は12月25日だったので、いつもクリスマスと誕生日プレゼントは一緒にされた。昔から物欲はない方だったのでそれを惜しいとは思ってはいなかったが、同級生が誕生日とクリスマスは別にもらっているというのを聞いて兄弟でもいたら不公平に感じるのだろうな、と思った。
 更に言うと、誕生日会というものもほぼやった記憶がない。クリスマスと被る上に学校は冬休みに入るし、時期的にも慌ただしくやりにくい日だ。またリヴァイは友達を家に呼んで誕生日会を開くのなんて面倒だろうと考える子供だったのでやりたいとも思わなかった。
 振り返ってみて、自分でも全く可愛げのない子供だったな、と思うが、それが自分の性分なのだから仕方がない。


「エレン?」

 不意に気が付いて見ると、傍で子供が固まっていた。リヴァイが自分が子供の頃のことを回想している間にフリーズしていたらしい。

「クリスマスがリバイさんのおたんじょうびですか?」
「ああ、イヴではなくて、25日の方だが」

 リヴァイがそう告げると、子供はじゃあ、おたんじょうびかいをしましょう、と宣言した。

「おともだちをたくさんよんで、おたんじょうびかいをしたらとってもたのしいです!」

 子供の言い出した言葉に今度はリヴァイが固まった。この年になってもお誕生日会とやらをやらなくてはならないのだろうか。いや、友達の誕生日に友人達が集まってレストランや居酒屋でお祝いをする、などというシチュエーションは大人になってもあると思うが、お誕生日会というとどうしてもそれとは違うイメージになってしまうし、子供の思い描いているイメージはきっとお誕生日会と聞いてすぐに浮かぶ方なのだろう――いわゆる、自宅に友達を呼んで親が料理やケーキなどを提供するあれだ。

「ダメですか?」
「イヤ、ダメではないが――」

 子供がしゅん、とした感じで訊ねてきたのでリヴァイは首を横に振った。だが、そのお誕生日会とやらをやるにしても誰を呼ぶと言うのか。リヴァイにも一応付き合いのあるクラスメートはいるが、お誕生日会に呼ぶ程親しい間柄かというとそうでもないと思う――というか、高校生になっても自宅でお誕生日会を開くと言ったら普通に引かれそうである。
 すると、ああ、じゃあ、メンバーは私が集めるわね、とリヴァイの母親が手を挙げた。どうせあなたには呼ぶような付き合いの人はいないんだろうし、と言う母親にイラッときたが事実なので返す言葉はない。それより彼女の人選というのが物凄く不安なのだが。

「リバイさんのおたんじょうびかい、がんばっておいわいします!」

 子供はやる気満々のようで、リヴァイの誕生日兼クリスマスを25日に祝うことに決まってしまったのだった。




 25日は学校はもう冬休みに入っていたので、リヴァイは午前中に家から追い出された。何でも家の飾り付けや料理の準備をするのに邪魔だから出て行けということらしい。このところ体調のいいらしいエレンの母親も日頃お世話になっているのだから、ということで準備に参加することになり、何やら自分が思っていたよりも盛大なお誕生日会になっているようだ――いや、こうなるともうホームパーティと言った方がいいような気がする。
 更に言うと、リヴァイは今日誰が来るのか聞かされていないし、人数の把握が出来ていない。クリスマスプレゼントは昨日のうちに子供に渡してあるから問題はないのだが、誕生日プレゼントを渡されたらお返しはするべきなのだろうか。自分の誕生日も頓着しないリヴァイは人の誕生日など把握していない。さすがに親と隣室の子供の誕生日は知っているが、来た人間にいちいち訊ねるのも面倒だろう。
 いや、もらう前からもらう前提で考えるのも図々しいかとリヴァイは思い直し、とにかく誰が来るか判ってからだ、と当面の問題の誕生日会までの時間つぶしをどこでどうするかを考えた。ファーストフード店に入ってもいいが、誕生日会では料理を出されるだろうから飲食するのは避けたい。買いたいものは特にないし、リヴァイは買い物に出るときには何を買うか決めて出かけるタイプで、ウィンドウショッピングを楽しむという性質でもない。
 さて、どうしようかと考え込んでいたときにリヴァイは後ろから声をかけられた。

「あ、リヴァイ! 丁度、これから行くとこだったんだよ」
「…………」

 偶然だね、という声に振り返りたくはなかったが、こんな街中で騒がれるのも面倒だったので、渋々リヴァイは声の主の方へと振り返った。
 果たして、そこには自分のよく知る変人と噂される同級生の少女がいた。

「お前は腐海にのまれろ。そして、二度と這い上がってくるな」
「酷っ! リヴァイ酷すぎ!」

 相変わらず酷いんだから、と唇を尖らせる少女の後ろには彼女の部の後輩もいてこちらにぺこり、と頭を下げてきたのでリヴァイは軽く会釈した。デートなのか、と一瞬考えたが、先程のハンジの言葉からすると―――。

「オイ、クソメガネ、絶対にそうであっては欲しくないんだが、お前、今日、俺の家に来るとか言うんじゃないんだろうな……?」
「大正解! 今日の誕生日会に招かれたというか、私が主に人選したんだけどね。あ、モブリットは自主的についてきたから」
「…………」
「すみません、ハンジ先輩は目を離すと何をするか判らないので」
「嫌だな、モブリット、私だって時と場合は選ぶよ? リヴァイや後輩の飲み物にこっそり薬入れて試してみたいなんてこれっぽっちも思っていないか……」

 ハンジが言い切るまでにリヴァイの回し蹴りが決まったのは言うまでもない。




 結局、ハンジが選んだのはリヴァイを慕う後輩達という無難な人選だったのでホッとした。母親とメル友だというハンジに彼女が相談した結果だったが、子供の運動会の時に何が何でも二人の接触を止めておくべきだったと今でもリヴァイは思う。
 ハンジ達と別れ、適当に時間を潰してから自宅に帰ると、とてとてとまた隣室の子供が出迎えてくれた。見ると、子供はこの前着ていたサンタ服を着用していた。

「リバイさん、おかえりなさい!」
「ただいま、エレン」
「きょうはおたんじょうびおめでとうございます! サンタだいりでがんばります!」

 どうやら、この服はサンタ代理のつもりで着ているらしい。

「エレンサンタか?」
「はい、リバイさんせんようサンタなのです!」

 そう言う子供を微笑ましく思いながら抱き上げてリビングに進むと、盛大なお誕生日おめでとうコールとクラッカーが舞った。部屋の中はクリスマスツリーや色鮮やかなモールで飾られ、「リヴァイ君お誕生日おめでとう」と書かれた横断幕まであった。
 何だかな、と思いながらそれを眺めていたが、祝いたいと言う気持ちは伝わって来たからそれは素直に嬉しいとリヴァイは思う。

「リヴァイさん、おたんじょうびおめでとうございます」
「……おめでとう」

 周りを眺めていると、おそらくはエレンが呼んだのであろう同じ幼稚園に通う園児――アルミンとミカサが祝いの言葉をリヴァイに述べた。後に聞いたところ、大勢でお祝いした方が楽しいだろうとアルミンに声をかけたら、ミカサがオプションで付いて来たらしい。

「あなたとのけっちゃくはいつかつける。エレンはかならずわたしのよめに……!」
「ミカサ、ダメだよ。きょうはリヴァイさんのおたんじょうびなんだから、なかよくやらなきゃ」
「わかってる。きょうはいちじきゅうせん。……エレンはとてもよろこんでいるから」

 でも、エレンをよめにするのはわたし、と宣言する女児をアルミンが宥めながら人の輪に戻っていく。リヴァイとエレンと二人の母親に他の園児二人と後輩達にハンジとその監視役で行われるお誕生日会――このカオスっぷりは何だろうとリヴァイは若干遠い目になりながら促されるまま席に着いたのだった。

「リバイさん、うたをみんなでうたいます!」

 特別に園児達三人は幼稚園で踊っているダンスも披露してくれるらしい。そこで既に嫌な予感はしたのだが、やはり流れてきた曲のイントロでリヴァイは頭を抱えたくなった。
 やはりこれか、誕生日までもこれなのか。子供の大好きな戦隊物『討伐戦隊シンゲキジャー』のオープニング曲の大合唱に、この番組は絶対に何とかしなければならないと改めて思うリヴァイだった。

 その後、普通の誕生日を祝う歌も歌われ、和やかな雰囲気でお誕生日会は進んだ。ストッパーの後輩がいるせいか、ハンジも暴走はしていないようだし、リヴァイは胸を撫で下ろした。すると、子供がおずおずと、リヴァイにリボンで束ねられたカードのようなものを差し出してきた。

「リバイさん、これ、おたんじょうびプレゼントです!」

 リヴァイはそれを受け取ると、リボンを解きそのカードを眺めてみた。見ると『リバイさんせんよう。なんでもしますけん。エレン』と書かれている。更に真ん中には何か文字を書き入れられるようにスペースが作られていた。

「エレン、これは?」
「なんでもしますけんです。おてつだいとか、かたたたきとか、おつかいとかなんでもするけんです」
「………そうか。ありがとう」

 肩叩き券やお手伝い券というのは普通母の日のときなどに自分の親に渡すものだと思うのだが、子供が自力で渡せるプレゼントというとこういうものしか考えられなかったのだろう。しかし、これをもらったといってもリヴァイに子供に何かしてもらいたいことはない。だが。
 子供はキラキラとした目でリヴァイにこの券を何かに使ってもらうのを待っている。ここで子供に特にしてもらいたいことはないから、と言ってこの券をしまうような真似は出来ない。
 悩んだ末、リヴァイはその券に一言だけ書いて子供に渡した。受け取った子供はそれを見てきょとんとした顔をしている。

「リバイさん、これでいいのですか?」
「ああ」

 そう言って、リヴァイがぽんぽん、と膝を叩くと、子供はその上に飛び乗った。リヴァイが書いたのは『ひざのうえにすわる』という一文。
 こうして子供がリヴァイの膝に座ることはよくあったし、抱っこなども会う度にしてやっていた。特にやってもらいたいことのなかったリヴァイが思いついたのは普段やっていることで、別にどっちでも良かったのだが、丁度座っていたのでそうしただけだった。
 それを見てハンジは大爆笑し、ミカサは大いに悔しがりアルミンに宥められ、二人の母親はそんな二人を微笑ましく眺めていたのだった。




 楽しいお誕生日会は終了し、それぞれが家路にと向かう。母親は園児二人を送って行くからと言って出かけ、家にはリヴァイとエレンの二人が残された。

「リバイさん、たのしかったですか?」
「ああ、楽しかった」

 子供達だけではなく、後輩達もそれぞれ隠し芸を披露し、ハンジが私も芸を見せるよと、あやしげな化学薬品を取り出して実験しようとして後輩に押さえられる一幕もあったが、皆が楽しそうに笑っていた。美味しい料理を前にペトラが主婦二人に調理法を聞いたり、ミカサがカードゲームでエレンを嫁にする権利を賭けようと言い出してアルミンに窘められたり、オルオが園児達に顔が怖いと指摘されて地味に落ち込んでいたり――色々とめちゃくちゃなこともあったが、こんな誕生日会はしたことがなかったし、普通は経験出来ないだろうと思う。

「エレンサンタのおかげだな」

 そう言うと、子供は嬉しそうに笑う。子供は自分の願いはサンタに叶えてもらったから、お手伝いがしたかったのだとリヴァイに告げた。

「何を叶えてもらったんだ?」
「はい。リバイさんとみんなでクリスマスをしたいってねがいました!」

 いっしょにたんじょうびかいもできてうれしいです、と言う子供をリヴァイは抱き上げてそうだな、俺も嬉しいな、と笑った。

「リバイさん、だぁいすきです」
「ああ………………俺も大好きだぞ」

 この小さな子供はいつだって優しくてあたたかいものをくれるから。一緒にいてくれるだけで何にも要らないのだと言っても、子供には伝わらないだろうから。
 せめてもの気持ちを言葉にすると、子供は目を瞬かせた後、本当に嬉しそうに顔を輝かせて笑った。


 ―――ハッピーバースデイ&メリークリスマス。





≪完≫

2013.12.30up




 兵長の誕生日を過ぎてしまいましたが、シンゲキジャーシリーズのクリスマス編です。初めてリヴァイからも好きだと言わせてみせましたが、勿論恋愛感情ではないです(笑)。リヴァイは、そうそう好きだとは言えないので今後も言えずに特別な日とかだけになりそうです。



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