シングアウトの研究

  第6回 真実を知る者 
一縷の望みを託して
CD「ザ・ベスト・オブ・シングアウト」の“健康的なヤング101に混じってヒゲ面で髪をビンビンに伸ばした汚いシングアウトにお茶の間からの抗議が殺到。番組を降板することになった”・・・・という記述に納得できないまま、あっというまに10年月日が流れた。いまさら、それを確かめたところで何がどうなるわけでもないのだが、私はそのことをどうしても確かめずにはいられなかった。だが、それを確かめようにも確かめる術がない。万策つきたと思われたとき、私は一縷の望みを託して、この疑問をA氏にぶつけてみることにした。

A氏のこと
「ステージ101」の番組初期からの視聴者・A氏とインターネットを通じて知り合ったのは、たしかステージ101復活コンサートの直後だったのではなかったかと思う。どういう事情で彼と知り合ったかを書くと人物が特定されてしまうので、ここに詳しく書くことはできないが、少なくとも私は、現時点で、A氏以上に番組初期のことを正確に記憶している人はいないと確信している。というのは、彼は当時、克明に番組の記録をつけていただけでなく、自宅にユーマチックビデオを所有しており、番組を録画して、繰り返し放送を見ていたのである。もっとも、テープ自体が高額であるため、テープは次々に上書きされていったようだし、いまとなっては、そのユーマチックビデオを見ることはできないので、彼の言うことが100パーセント正しいとは断言できない。実際、他の人が録音していたオープンリールのテープの曲順と彼が記録にとどめていた曲順のあいだに食い違いがあり、彼の記録とて、すべてか゜正しいわけではないことも十分承知している。それでも、たった一度、オンエア時にテレビで見ていただけの人間に比べたら、繰り返しビデオを見て、記録をつけていたA氏の記憶のほうが、はるかに正確である確率が高い。「はたして、A氏がどこまでシングアウトのことを記憶しているかわからないが、ダメもとで尋ねてみよう」私は、ようやくそう決心して、A氏にこの疑問をぶつけてみたのだった。

聞けなかったわけ
ここまで読んだ人の中には、「それなら、なぜ、もっと早くA氏のそのことを尋ねなかったのか?」と疑問に思った人もいるだろう。それには深いわけがある。
A氏は50代の会社経営者。私と同じ名前だったという妹さんは、母親とともに航空機事故で20年ほど前に他界したという。「ステージ101」放送当時、ユーマチックビデオがあったというのだから、A氏の生家がたいへん裕福な家庭であったことは想像に難くない。当時、A氏は自宅に近いNHK放送センターに学校帰りに立ち寄っては、しばしば番組の収録を見学していたという。しかし、彼の少年時代は必ずしも幸せではなかったようだ。彼には、ある身体的特徴があった。少年時代、A氏はそのことでずいぶん辛い思いをしたことがあったという。A氏にとって、「ステージ101」は懐かしい番組であると同時に、過去の暗い記憶を思い出させる番組でもあったのだ。その話を聞いた私は、自分から「シングアウトのことを思い出して」と言えなくなってしまったのだった。( ところで、いささかドラマチックに過ぎるA氏の経歴に、疑問を抱くむきもあるかもしれないが、おそらくA氏の話の大半は本当である。実は、このサイトの常連さんのなかに、放送センターで中学時代のA氏の姿を目撃していた人がいたのである)

さて、Aさんにつらい思いをさせるかもしれないと思いながらも、私はどうしても自分の疑問を晴らさずにはいられなかった。「真実を追究したい」ということにかけては、Aさんも私と共通の価値観をもっている人である。「彼なら、きっとわかってくれる…」そう信じてAさんに質問のメールを書いて送ったものの、果たして返事をもらえるか自信はなかった。すでにAさんと連絡が途絶えて久しく、メールが届くかどうかもわからなかった。だが、幸いなことにAさんから、すぐに丁寧なお返事をいただくことができた。そして、そこに書かれていたことは、私の疑問に明快な答えを出してくれたのである。



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