「日本のガーシュイン」は知られざるCM作曲家だった
1979年 週刊新潮 7/19号「タウン」
 高名な音楽評論家の遠山一行氏も、「さあ、知りません」。芸大や桐朋の作曲科の大先生たちも「聞いたことがありませんな」と口をそろえるのだが、ニューヨーク・フィル室内管弦楽団のコンサートマスターであるオスカー・ラビーナ氏などは手放しのほめちぎりようなのである。
 「ヤスオの曲は素晴らしい。アメリカにも作曲の大先生はいるが、やたらに難解な曲を作るだけで誰の心もつかんではいない。そうした先生の曲は、演奏するはしから忘れていく。ところが、ヤスオの曲は、われわれがバイオリンをケースに収め、帰り支度をしている時でも、頭の中に鳴り響いている。ちょうどガーシュインの曲がそうであるようにね…」
 話題の新進作曲家は、これまでテレビのCM音楽などを手掛けてきた樋口康雄さん(27)。このほど東京・上のの文化会館小ホールで、来日中のニューヨーク・フィルのメンバーによる樋口作品の演奏会が開かれたのである。プログラムは「オリエンテーション」とバイオリン協奏曲「コマ(独楽)」。再びラビーナ氏がいう。「一つ一つの音、リズムが実に精妙に、あたかも精巧な時計のように組み立てられていて、演奏に1つのミスも許されない」
 樋口青年は東京生れ。麻布高校から上智大学経済学部卒。三歳のころからピアノを始めたが、「遊びに夢中になって」すぐやめたという。だが、小学生の高学年になると作曲に興味を持ち、「鼓笛隊マーチ」などをつくりはじめる。中学時代には慶応や立教のジャズバンドの編曲を手がけ、現在はパルコのコマーシャルやテレビドラマの作曲などで活躍中。コマーシャル音楽は一番短いもので13.5秒。「このなかにすべてを凝縮しないといけない」ので、「大変いい訓練になった」そうな。

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