「私はルビィ」は、私にとって初めての樋口さんの舞台音楽。と同時に、初めて体験する国産ミュージカルでした。この舞台を見たのは、昭和50年。さすがに今では断片的な記憶しか残っておらず、インスト曲はまったくといっていいほど思い出せません。でも、劇中で歌われた歌はいまでも記憶に残っています。それは、ときどきパンフレットを取り出して、「忘れちゃいけない」と思って、歌っていたからかもしれません。
この舞台はラヴェルの「ボレロ」から始まりました。あのとき聞いた「ボレロ」ほど、私を興奮させた「ボレロ」はありません。「いよいよ舞台が始まるのだ」と思うと、もう、いてもたってもいられませんでした。そして、この曲に誘われるように、舞台の世界に引き込まれていったのでした。
今回掲載した4曲の楽譜は、すべて公演パンフレットに記載されたものを元に作成しています。楽譜があるのは、この4曲だけです。そして、フィナーレでお聞かせできる曲は、これが最後となります(涙)。
「私はルビィ」は、この舞台のメインテーマともいえる曲です。これは曲のイメージ通りの音が出ていると思います。ミヨ(ルビィ)役の山本与志恵さんは、特別歌がうまいとは思いませんでしたが、心に染みいるような歌声で、劇場を出たあとも、彼女の歌声が頭の中で響いていました。
「デュエット」は、ミノルとミヨのデュエット。実際はAメロを3回繰り返し、「♪ふねーは」から始まるフレーズは、1回目がソロ、2度めがユニゾンとなっています。この曲は後半「うまれた」の1小節だけが、4分の4拍子になっています。フィナーレでは無理やり8分の6拍子で表記しているので、ここのところのテンポ感がうまく表現できませんでした。フィナーレの演奏で聞くと、いかにも一本調子ですが、西田敏行さんが、ときに語りかけるように、ときにささやきかけるようにっていると想像して聞いていただくと、実際の曲の雰囲気に近くなるのではないかと思います。この曲は途中で転調していますが、実は、転調後の調号が間違っており、譜面の作成には大いに悩まされました(笑)。サビのあたりのメロディーは、いかにも樋口さんの作品らしいなと感じます。
「死刑囚の歌」は、うっかり「Voice」で作ってしまいましたが、「Tener」で作ればよかったと後悔。この歌は西田さんのソロで、全体に重く荘厳な雰囲気の曲です。この曲を聴くと、今でも、絞首台のシーンを思い出します。こういう曲は、樋口さんにしては非常に珍しいのではないかと思います。
「私はルビィ」、譜面はないのですが「私たち・・・うそっこだけど」という歌詞の曲、そしてこの「空き地がほしい」は、舞台の中で繰り返し歌われていたせいでしょう。この30数年間、そのメロディーを忘れたことはありません。
「空き地がほしい」を聴くと、なぜか私は樋口さんが編曲した「ワイト・イズ・ワイト」(ミッシェル・デルペッシュ)の日本語バージョンを思い出してしまいます。それは、歌詞の世界観が似ているからかもしれません。この曲は、メロディーラインだけでも、十分、樋口さんらしさが感じられると思うのですが、いかがでしょう。
今、日本では、毎日のようにミュージカルが上演されていますが、その大半は、海外の作品の翻訳ものです。国産ミュージカルも次々と生まれてはいますが、まだ、世界に通用するような作品はありません。「私はルビィ」には、実にたくさんの書き下ろしの曲が使われていました。ひとつひとつの曲をすべて思い出すことはできませんが、今でも十分通用する斬新な楽曲群であったことは確かです。そして、そう思っているのは決して私だけではない(KJさんの書き込み参照)のですから。
青年座の皆様、もし、このページをご覧になりましたら、ぜひ再演をご検討ください。よろしくお願いします。
|