テレビ音楽に若さ
「映画や歌にもマイペースで」
大学生作曲家・樋口康雄

1973年10月頃? 朝日or毎日新聞
 テレビ・ドラマのテーマや伴奏音楽に、二十一歳の若い作曲家が登場、新風を吹き込んでいる。ただいま大学二年生の樋口康雄で、かつて「ステージ101」(NHK)のメンバー。ピコの愛称で「あのとき」「ABC」というレコードを出したこともある。
 現在、音楽を担当しているのは「鬼警部アイアンサイド」のテーマ、「別れの午後」(以上TBS系)、「てんつくてん」(日本テレビ系)など。「−アイアンサイド」のテーマは、クインシー・ジョーンズの作品だが、彼の編曲で安田南が歌うという、新しい試み。このほどシングル盤にもなって発売されたばかり。
 テーマだけでなく、ドラマの中の音楽まで担当しているのが「別れの午後」。「毎週一回で追いかけられている状態。演出からの注文が毎度のようにあって、“この場面にはこの音がぴったり”と思っていても、まるで正反対のことを要求されたりする。音楽活動の中で特別好きなことではないが、ドラマづくりに直接参加しいる点ではいいと思う」「伴奏音楽は、どんなやり方をしても結構成り立つものだけど、だからといって手を抜いたりする気にはなれない」
 テレビだけでなく、映画音楽も手がけている。「赤い鳥逃げた」(東宝)「哀愁のサーキット」(日活)などだ。「赤い鳥…」は藤田敏八監督の作品。「愛情砂漠」「旅の最中に」など、この映画の作品を収めたサウンド・トラック盤も出た。
 ほかに、テレビコマーシャルを歌ったり、NHKドラマ「銀座わが町」に出演するなど多才ぶりを発揮しているが、どれといっておぼれてもいない。
 「バーンスタインのようになりたいなどと、だれかにあこがれをもつことはないし、そのようにある一点を目標にした行き方をとるつもりはない。やっている瞬間が楽しければ、それでいい。だから、歌でも作曲でも芝居でも、すべて同列。いずれ、脚本から演出、音楽などまで全部一人でミュージカル作品を作ってみたい気持ちはある」。何に対しても興味はなさそうな話しぶりで、その実なかなか意欲に燃えているようだ。当分は現状のまま、マイペースで仕事を続けていくそうだ。
 来年の一月には、アメリカのテレビ会社からの招きで渡米する。彼の音楽が耳にとまり「アメリカでも、このように若くておもしろい作曲家はいない」と興味を持たれたためだ。
 「具体的に何をやるかは、向こうに行ってからになるが、思い切ったことをやってみたい」

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