ふなふなさんの「聴く会」レポート

「樋口康雄を聴く会」に参加して

実は少し不安だった。オフ会というものに参加するのは初めてのこと。
それに私が知っている樋口音楽は多分とても限られた分野なので、皆さんのお話についていけるかということ。ちょっと緊張しながら会は始まった。

まずは101絡みの音源から。ピコと呼ばれていた頃の樋口さんを、私は忘れたと思っていた。
でも聴いたとたん、ちゃんと思い出すから不思議。特に「アローンアゲイン」。ピアノ弾き語りの姿が甦る。
当時小学生だった私は、弾きながら歌うなんて芸当をする人間を初めて観てびっくりしたものだった。
甘くネバる独特の節まわし。切なげにいとおしむような歌い方。
樋口さんには洋楽のバラードがよく似合う・・・。

片やアイドルっぽい曲やCMソングは全く思い出せなかった。当時から興味なかったのか、自分?

曲の合間には、音源を持って来て下さった方からの説明あり、お宝写真や雑誌の切り抜きの回覧あり、物真似あり(お見事!)。
そうこうしてるうちにすっかり緊張が解けている私。

2部の映像鑑賞での圧巻は、やはり「アリナミンCM連発」だろう。
これらのCMに覚えはあったが、音楽が樋口さんだったとは当時気付いてなかった。何か損した気分(笑)。
最初のシベリア編(?)はまるで映画のワンシーンのように重厚な曲。
そのパターンが続くのかと思ったら、その後軽いのあり、リズミカルなのあり、民族音楽ぽいのありと、実に多様なアプローチがされていく。
中に、よく聴き馴染んだタイプの曲が出てきて、思わず「あ、これ『フワフワ・ワウワウ』!」と言ったら、女将さんがニコッと振り返った。
これで通じるところが嬉しい。

それから、特筆すべきは西武のCM「不思議大好き」。自由自在に展開しながら、しっかり起承転結があり、壮大に印象深く締めくくる。うーん、
天才。
この短い曲の中には、その後(?)の「オリエンテーション」に代表される劇伴・クラシック系に続くエッセンスが詰まっていると思われてならない。(いや、どちらが先なのかは分らないが。)

 3部は、楽しみにしてきた劇伴系。期待に違わぬ音に何度狂喜したことか。樋口さんらしい音が聞こえるたびに、思わず息を呑んでしまう。

音を言葉で表現するのはすごく難しいのだけど、書いてみよう。
無調性に激しいリズムで突っ込んだあとに、ふっと緊張を解く和音の広がり・深み。
たった1つか2つの布石をきっかけに、一瞬にしてとんでもなく転調してしまう自由さ。
ここぞとばかりに出てくるのは、チェロや低音系のうねりだったり、お馴染みのソプラノサキソフォンやオーボエの艶やかな絡みだったり。
これらはもう樋口音楽の「定石」ともいえよう。全て、私が心惹かれてやまない樋口さんの音なのだ。
(そうよ、そうよ、これが聴きたかったのよ。これが好きなのよ。)って、ここで叫んでしまおう。

さらに楽しかったのは皆さんの様子で、同じ箇所で反応してくれるのはすごく嬉しかった。
うんうん、これよねーって感じ。同じ感覚で音を共有できることも大きな喜びでした。

特に印象に残ったのは「さらばかぐわしき日々」。これぞ樋口音楽。
それから「四畳半」のエレピ。これはぜひとも音をとって自分でも弾いてみたいものだ。

 私の持ち込んだ「鶴吉」も、覚えていらっしゃる方ばかりで嬉しかった。
(私はドラマ自体のファンでもあったから、再びあの映像にも会えることを切に願っています。さあみんなでNHKにリクエストしましょう。)

 思えば私は「鶴吉」で樋口音楽にはまり、「幕末未来人」で御本人からピアノ譜を頂き、何度も曲を聴くうちにもっと知りたくなったのだ。
曲の中身がどうなっているのか。どんな楽器をどう鳴らせば、あんな音が出てくるのか。それを知りたい気持ちから耳コピを始めた。
 パート毎に何度も聴いて音をとり、キーボードや楽譜におとしていく。
そうして一曲仕上がった時には、もっとその曲に近付いたような、我が物になったような気がした。
 おかげで今も趣味で楽譜を見たり書いたりしてるし、アマチュア・オケもやってたりする。
「全て樋口さんが教えてくれたこと」と私は思っている。

「聴く会」は5時ぎりぎりまで続いた後、2次会・3次会へと流れていった。
本当はここからがファン同士の忌憚のないやりとりの本番だったらしい(?)が、日帰りの私はお先に失礼させていただいた。うーむ、残念。
それでも今回、ここに書き切れないほどの思い出や情報を抱えて帰ることができた。大満足だったことは、言うまでもない。

会の企画・開催に奔走してくださいました女将さま、感謝申し上げます。
参加された皆様、お会いできて本当に嬉しかったです。沢山の音源やお宝をご披露して下さいまして、有難うございました。

それから、樋口さん。御本人はどんなお気持ちなのでしょう。
今、活躍されている作曲家にとって、古い音源を聴かれることは嬉しいのかな?恥ずかしいのかな?
樋口さんのされてきたたくさんのお仕事の中には、おそらく自信作もあればそうでないのもあるのでしょう。
今回私達が聴いた曲が、樋口さんの自信作ばかりだったらいいな、と思います。
そしてまた、自信作を聴かせて下さい。「アトム」に続く最新作を。
樋口さんがこれからどんなことをやりたいのか、どんな方向性を目指すのか、ずっと追いかけて行きたいと思います。


P.S この機会に樋口さんにお尋ねさせて下さい。
     ・「オリエンテーション」のスコアは販売可能なのでしょうか? ぜひ見てみたいのですが。
     ・アマチュア・オケに曲を書いたりはなさらないのでしょうか?