火の鳥2772
  オリジナルサウンドトラック

    

1980年

アニメサントラ史に燦然と輝く永遠のマスタービース
火の鳥2772

COCC-72077 日本コロムビア(2004)

樋口氏にとって、アニメ音楽家としての第一歩を印したこの作品は、同時に、アニメサントラの概念を覆すエポック・メイキングな作品となりました。

樋口氏は、70年代から映像音楽を手がけるようになり、CMやテレビドラマ、映画の仕事を経て、この劇場用アニメ映画『火の鳥2772』を書きあげます。樋口氏と『火の鳥2772』との出会いは、原作者の手塚治虫氏がサンプルテープを聴き、そのなかの樋口氏の作品「KOMA」を大変気に入り、ぜひ「KOMA」を「ゴドーのテーマ」として使いたいというところから始まります。当初、『火の鳥2772』の音楽担当としてあげられていたゴダイゴが制作側との意識のズレから降板、それが幸運にも樋口氏と手塚氏との出会いとなったのです。

原作者の手塚治虫氏は、“火の鳥”を男性的なモンスターとして、宇宙エネルギーの象徴として捉えていたと同時に、ファンタジーを強調するために、この映画に純粋なクラシック音楽を求めていたといいます。
本作は、「プロローグ」から「旅立ち」に至るA面ではゴドーの青春の姿が、「愉快な仲間たち」から「復活」へと至るB面ではゴドーの運命が表されています。樋口氏は、当時、主流だったジョン・ウィリアム的なサウンドではなく、壮大でありながら気品に溢れ、淡い悲哀を繊細で色彩感豊かなオーケストラ・サウンドで、この物語の主人公であるゴドーの愛や苦悩を過不足なく表現しています。

そんな樋口氏のスコアをサウンドでみごとに具現化したのが、当時17歳の「天才少女」と謳われていた時期のバイオリニスト・千住真理子さんです。近年の演奏スタイルとは異なる、正確でシャープな演奏には、匂いたつような愛らしさや優しさといったナイーブな若い感性が息づいています。

樋口康雄、千住真理子というふたりの若き天才の、ほとばしる才能が惜しげもなく発揮された『火の鳥2772』は、数あるアニメサントラのなかでも出色の出来と言えます。アニメファン、サントラファンのみならず、すべての音楽ファンに聴いてほしい作品です。 なお、映画の冒頭約10分間は、セリフが一切なく、映像と音楽だけで見せる画期的な手法がとられています。音楽と映像が完全にシンクロした画面には、誰もが息を呑むことでしょう。機会があればDVDも併せて見ていただきたい作品です(ただし、DVDの音声はモノラル録音です)。