Le Velvets
「Shall We Sing? すべてを忘れる、内緒の時間」

サントリ-ホール 2013/03/02



ワインヤードに酔えなくて

サントリーホールは、音の良いホールとして知られてい.ます。「クラシックの殿堂」と呼ばれるサントリーホールでコンサートを開催することは、アーティストたちにとっては一種のステイタスでもあり、また、ファンが合唱に加わるという今回のLe Velvetsの公演のサプライズ演出は、ステージ真後ろに座席のあるサントリーホールだからこそ実現できた演出だといえるかもしれません。そういう意味では、今回のサントリーホールでの公演は、Le Velvetsにとって、たいへん意味のあることだったと思います。

ですが、サントリーホールはLe Velvetsがコンサートを行う会場として適当なのでしょうか? そもそもサントリーホールは、PAを使用することを前提として作られた会場ではありません。残響が多く、純粋なクラシックのコンサートを行う場合には、それがメリットとなりますが、PAを使う場合は残響が仇となって、人の声などは非常に聞き取りづらくなります。正面席で聴いた人のなかには、音が非常によかったと言っていた人もいるので、PAの使用が必ずしもダメだということではないのかもしれませんが、私は体験的に、もともと音響的に不利な座席は、PAを使用することによって、一層聞きづらくなると感じました。

どんなに音が良いといわれるホールでも、座る座席の位置によって音の良し悪しはがあるのはしかたのないことです。音響的に不利な座席は、チケット代も安価に抑えられているのですから、そもそもA席にS席並みの音響を期待するのは図々しいというものです(笑)。問題は、ワインヤード型のサントリーホールでは、演奏者より後方に位置する音響だけでなく視覚的にも不利な座席が、バックステージ側約200席、ステージ真横のRAブロックとLAブロックの220席の合計440席も発生してしまうことです。サントリーホールは、全部で2006席。440席といえば、その約2割にあたります。通常のオーケストラコンサートであれば、視覚はそれほど重視しなくてもよいと思いますが、Le Velvetsの場合は視覚もコンサートを楽しむうえで重要な要素です。8割の人がコンサートを楽しめればよしとするという考えもあるとは思いますが、5人に1人が音響的にも視覚的にもLe Velvetsを存分に堪能できないとしたら、それは誰よりもLe Velvetにとって損なことではないでしょうか?

もっとも、これはサントリーホールに限った問題ではありません。ワインヤード型の会場であれば、イケメンのメンバーの後ろ姿しか見えない座席ができてしまいます。そう考えるとホールは、やはりLe Velvetにはワインヤード型のホールは不向きに思えるのです。

また、ワインヤード型のホールを会場にするのなら、それにふさわしい工夫があってほしいものです。今回のコンサートに関して言うと、音響はホールの構造上、あれ以上どうにもならなかったのかもしれません。サウンドチェックは当然行われているはずですが、バックステージ側からのチェックは十分だったでしょうか? 音響そのものは変えられなくても、メンバーの顔を向ける方向や立ち位置を指示することで、多少なりともステージ後方の観客にも聴きやすい状態を作ることはできなかったものでしょうか?

衣装についても同様です。今回は第2部で衣装チェンジがありましたが、ステージ後方の座席からは、この衣装チェンジが非常にわかりにくいものでした。というのも第1部も第2部もパッと見は同じ黒のスーツだったから。確かによく見れば生地もデザインも違います。しかし、第2部で着用したスーツは、メンバーひとりひとり色違いのカマーベルトがデザインのポイントになっていて、肝心のこのカマーベルトがステージ後方の観客からは全く見えないのです。結局、衣装が変わったと気づいたのは第2部のステージがかなり進行して、メンバーが、後ろを振り返ったときでした。もし、ワインヤード型の会場であることをスタッフが考慮していたら、どの席の観客からも一目で衣装替えをしたとわかる効果的な衣装にすることもできたのではないのでしょうか?
これは、ワインヤード型のホールに限った事ではありませんが、コンサートを行う側に、常に「観客の視点」を忘れずにいてほしいものです。

さて、いろいろと文句を書きならべましたが(笑)、ワインヤード型のホールは悪いことばかりだったわけではありません。今回、私はひとつだけ、正面の座席では決して体験できない貴重な体験をすることができました。それはコンサートのあいだ中、客席にいる樋口さんの様子を観察できたことです(爆)。その話は、いずれ、また(笑)。