Le Velvets
「Shall We Sing? すべてを忘れる、内緒の時間」
サントリ-ホール 2013/03/02
今回のコンサートで唯一残念なことは、Le Velvets Stringsの演奏機会が減ってしまったことだった。まずロビー演奏がなくなった。前回はロビー演奏があると知らず、ろくに演奏を聴く暇がなかったので、今回は勇んで出かけたのに演奏がないと知ってガックリ。ロビー演奏は開演前の気分を盛り上げてくれるだけでなく、コンサートという非日常の空間を、より演出する効果も担っている。また、コンサート中、観客の大半はストリングスのメンバーの顔すら判別できない距離から観賞しているわけなので、彼らを身近に感じることのできる機会を提供するという意味でも、ぜひ、またロビー演奏の機会を作ってほしい。 第2部のLe Velvets Stringsのオープニング演奏も、前回の2曲から1曲に減ってボロディンの「ノクターン」のみとなった。Le Velvets Strings版では、チェロが原曲より1オクターブ下で、あの有名な名旋律を奏でる。破綻なく完奏できればよしとするなら、Le Velvets Stringsの演奏は、もちろん合格点の演奏だ。ただ演奏レベルは必ずしも高いとは思えない。特に「ノクターン」冒頭のソロパートは残念の極み。肝心のチェロの音が痩せた感じで音色に艶がない。旋律を引き継いだバイオリンの出だしの音程にも、一瞬、気持ち悪さを感じてしまった。思うに、ソロから始まる曲は、うまくいけば大きな効果を生むが、ポロの出るリスクも高い。それにソロは、会場が広くなればなるほど音量の面でも不利がある。アンサンブルにはアンサンブルの難しさがあると思うが、ソリストの技量が露骨に表れる曲よりは、「弦楽セレナード」のようにアンサンブルで聴かせる曲の方が観客は高い満足度が得られたのではないだろうか。 もっとも、気になったのはそこだけで、それ以降は特に気になるような点はなかった。欲をいえば、もっと優しく、ゆったりと夢幻的な雰囲気があってもいいかなとは思ったが、そうは言っても、これもまたボロディンの作品へのアプローチの一つには違いない。これが樋口さんが感じる「ノクターン」なのであり、この曲の美しさは少しも損なわれていないのだから。この曲を妻に贈ったボロディンに思いをはせながら、私は私なりに楽しんで聴かせてもらった。そして、この曲に限らず、Le Velvets Stringsは全曲を通じて、どこか一つのパートが突出して聴こえるということがなく、アンサンブルとしてのバランスはとても良いと感じた。 「ノクターン」に続いてストリングスの演奏をバックに「グラナダ」と「乾杯の歌」が歌われた。「グラナダ」は、ダイナミックなピアノと弦のコントラストが鮮やかで、強く印象に残った。 「乾杯の歌」は演奏が軽やかでテンポが良く、心浮き立つよう。楽しい演出ともよくマッチしていた。しかし、前回あったクラシックメドレーはなくなり、結局、ストリングスのみの演奏は、この2曲だけ。CD発売の話はどうなったんだ?というくらいのみごとなストリングスの後退ぶりである。いろいろ制約のある中で、あれもこれもと欲張るのは無理なのかもしれないが、ネット上のファンの書き込みを見る限り、クラシック系の曲を支持する人が多いのに、なんでストリングスの演奏を減らすかなぁと、その意図を測りかねる。 さらに私を憂鬱にさせたのは、そのあとの樋口さんの紹介である。またしても「大河ドラマ」と「ボストンフィル」とやったのである。これって、言ってみれば「“涙の太陽ト”の作詞や“アメリカントップ40”のDJで活躍された湯川れい子さん」と紹介しなくてはいけないところを「“涙のリクエスト”の作詞や“ベストヒットUSA”のDJで活躍された湯川れい子さん」と紹介してるようなもんでしょ? そう考えれば、どれだけ失礼で恥ずかしい間違いかわかると思うが、おそらくスタッフからして樋口さんの経歴を正しく把握していないから2度も、このような間違いが起こるのだろう。所詮、樋口さんに対する認識はその程度なのかと思うと、ファンとしては暗澹たる気分になるのだった(-_-;)。 さて、その後のプログラムはバンド演奏が続いた。たしか「VIVERE」には弦が加わっていたと記憶しているが、再び私がLe Velvets Stringsの存在を強く意識したのは、アンコールの「Queen Must Go On」だった。ストリングスのメンバーがそろって激しく弓を動かすその姿のなんとカッコいいこと!!ボーカル、バンド、ストリングスが三位一体となったパフォーマンスはまさに圧巻。ストリングスとバンドが互角に渡り合うこのシーンを見たとき、私は自分がLe Velvets Stringsに何を期待していたのか、ようやくわかった気がした。それはストリングスとバンド絡み! ポピュラー曲はバンドが、クラシック曲はストリングスが伴奏を務める…当然、それはあっていいのだが、それだけでは1+1=2の足し算の効果しかない。ストリングスとバンド、両方いるのに一緒に演奏しないのは、48人もいてユニゾンでしか歌わないAKB48を聴いてるようなもんである(ちょっと違うか(^_^;))。ストリングスの生音とエレクトリック楽器の音量差など、クリアしなければならない問題はあると思ったが、この曲のように、もっと双方が絡み、掛け算の効果を生みだす演奏があっていい。 今、C-POPのグループの中で、Le Velvetsが頭ひとつ抜け出た感があるのは、膨大な宣伝と戦略のうまさにあると思う。メジャーデビューから半年ほどであるにもかかわらず、あえてサントリーホールで公演を行うのも、新人であるにもかかわらず破格の料金設定となっているのも戦略のうちだろう。もちろん、そうした話題作りや広告宣伝活動も重要だと思うが、それだけでは長くは続かない。しょせん、オバサンは飛びつくのも早いが見切るのも早いのだ。今後、彼らと同様のグループが次々と出てくる可能性は高い。だからこそ、Le Velvetsに付加価値をつける意味でも、他のグループと差別化を図る意味でも、バックバンドやストリングスをも含めたLe Velvetsファミリー(勝手に命名)全体として、一朝一夕には真似のできない、エンターテイメント性の高いステージを構築していく必要があるのではないだろうか。 と私は勝手に思ってるわけだが、ロビーさんを始め、スタッフは当然プロの立場で、Le Velvetsの今後について考えているだろうと思う。私はそのひとつの答えが次のサントリーホールの公演で出るのではないかと考えている。クラシックの殿堂と言われる最高峰のホールを舞台に、果たしてどんなステージが展開されるのか…今から楽しみでたまらない。 END |
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