喫茶ロックジャンボリー

2002/07/21 日比谷野外音楽堂




[出演順]
1.センチメンタルシティ・ロマンス
2.青山陽一&鈴木茂
3.ココナッツ・バンク(伊藤銀次)
4.小西康陽WITH喫茶ロックス
花田裕之
ムッシュかまやつ
高遠彩子
石川セリ・樋口康雄(PICO)
大野真澄
5.シングアウト

[SET LIST]
石川セリ&樋口康雄(PICO)
1.私の宝物
2. I Love You
1.サタディ・イン・ザ・パーク
2.アクエリアス〜レット・ザ・サンシャイン・イン
3.グリーン・グリーン
4.比叡おろし(小林啓子)
5.涙をこえて
6.Going Out OF Head〜君の瞳に恋してる

[ORIGINAL MEMBER]
江崎和子(Vo)
ビル・クラッチフィールド(l.Vo)
向山照愛(Dr)
原田時芳(b)
樋口康雄(key)
石川セリ(Vo)*「涙をこえて」のみ参加

[SUPPORT]
若子内悦郎(g)
小林啓子(Vo)
ポプラ(vo)
HIROSHI(Vo)
安東佑季(Vo)
satuki(Vo)
テリー(tp)

ジャンルや時代にとらわれず、良質のポップスを紹介するというコンセプトで制作されたコンピレーションCD、それが「喫茶ロック・シリーズ」だ。「喫茶ロックジャンボリー」はそうした良質のポップスを作りつづけてきたアーティストたちによる、この夏のライブイベントである。「喫茶ロック」収録曲をオープニングSEに、ほぼ定刻どおりユキタツヤ氏の開会挨拶で「喫茶ロックジャンボリー」は幕を開けた。

【センチメンタル・シティ・ロマンス】
多くのアーティストが参加するイベントには、それまで接することの無かった、あるいは関心のなかったアーティストの意外なよさを発見できる場だ。長年音楽ファンをやっていても、思いがけない感動に出会えるチャンスというのはめったにあるものではない。たまたま観たライブでそんな感動に出会えたら、それは音楽ファンとしてとてもラッキーなことだと思う。

はっぴいえんどの影響を色濃く受けたセンチメンタル・シティ・ロマンスのデビューアルバムは発売当時、賛否両論あったと記憶している。実際に耳で聞いて音を確かめるにはレコードを買うことが唯一の手段だった時代、未知のバンドのアルバムに大枚はたくことは大きな賭けだった。そんな博打を打ってでる勇気のなかった私は、結局この日に至るまで彼らの音楽に接する機会を失っていた。センチメンタル・シティ・ロマンス=ウエストコースト系サウンド=ただ明るいだけ、という自分勝手な思い込みもあった。
初めて聴くセンチはゴキゲン(死語?)なバンドだった。彼らのステージには気負いが全く感じらない。自分たちの音楽スタイルを貫きつづける潔さとでも言ったらいいだろうか。それが聴く者に心地よい感覚として伝わってくる。
この日はリーダーの告井氏が欠席だったが、名ドラマー上原裕氏のサポートもあり、出演バンドの中で唯一活動を継続しているセンチならではのバンド・サウンドを聴かせてくれた。

【青山陽一&鈴木茂】
青山陽一氏に関して何の予備知識も持たない私は、彼の年齢を知らないが、おそらく鈴木茂氏とは20才位、年齢差があるのではないか。そんな年齢差のあるふたりがコンビを組んだのは比較的最近のことらしい。

実は私は「バンド・ワゴン」(鈴木茂のソロアルバム)をほとんど聴かずに中古屋に売り飛ばした不届き者である。鈴木氏は言わずと知れた元はっぴいえんどのギタリストだが、私が初めてはっぴいえんどのアルバムを手にしたのは1973年、「CITY」というベスト盤だった。実際買ったのは彼らの解散が発表された後だったから74年になっていたかもしれない。このアルバムですっかりはっぴいえんどに衝撃を受けた私だったが、解散したバンドのアルバムはもういいってことで(笑)、メンバーのソロアルバムを買うという行為に走った。で、買ったのが「バンドワゴン」。しかし、結果は前述のとおり。今にして思えばバンドとソロアルバムは別物だということを最初に教えてくれたのがこの鈴木茂だった(^^;

ところでこの日、鈴木氏が披露してくれた曲の中で、もっとも人気があったのが彼の代表曲「砂の女」。実はこの曲「バンド・ワゴン」の1曲目に収められていた。過去のトラウマが測らずも甦った一瞬だった(笑)。
さて、一方の青山氏は、それと知らずに聴いたなら、70年代初頭に活躍したその手のアーティストの作品と思ってしまうような懐かしいサウンドだった。なるほど、これが「喫茶ロック」というものなのだろう。ヴォーカルもなかなか魅力的で、世代の違う鈴木氏とのコンビネーションもなかなか、真夏の野音の一服の清涼剤といった清々しいステージだった。

【ココナッツ・バンク】
はっぴいえんどの解散コンサートに出演を果たすもアルバム1枚も残さずに解散した幻のグループ、伊藤銀次率いるココナッツ・バンク。この日、会場に集まった人たちのなかには彼等の登場に期待して足を運んだ人も多かったのではなかろうか。
佐野元春やウルフルズのプロデュースを手がけた敏腕プロデューサーとして知られる伊藤銀次は、最近はもっぱらスタッフ・ワークが中心になっていると聞くが、この日はアーティスト伊藤銀次として熱のこもったステージを見せてくれた。アルバムこそ残さなかったが、ファンにはお馴染みの曲のタイトルが告げられるたびに会場から拍手がまきおこる。この日のために特別に用意した「喫茶ストラット」なる曲も披露してくれた。個人的には銀次さんのヴォーカルはちょっと・・・だったが(^^; 「デッドリィ・ドライヴ」や「ココナッツ・ホリディ」では、レスポールの音を堪能させてもらった(トラ目が見事でした)

【小西康陽WITH喫茶ロックス】
花田裕之
このイベントのために特別に結成されたスペシャル・バンド、それが小西康陽with喫茶ロックスだ。小西康陽と言えば現在のPICOブームの一翼を担った人物である。その彼がゲスト・プレイヤーを招き、「自分の好きな曲だけを演る」というコンセプトの下、最初のゲストとして登場したのが花田裕之氏だ。
この日集まったメンバーの中、唯一、私が過去にライブを観たことがあるのが花田氏だ。1984年5月、某大学の学園祭の野外ロックイベントに出演していた花田氏は、当時ルースターズのギタリストであった。博多出身のルースターズはデビュー当時、めんたいロックと呼ばれ、ビート・バンドのイメージが強かった。しかし、この時期にはすでにサウンドが激変、サイケデリックなフォーク・ロック寄りのバンドに変化していた。当時,ヴォーカルの大江慎二の精神状態が良くなく、MCもなく、黙々と歌いつづける一種異様な彼の印象だけが強烈に記憶に残り、傍らの花田氏の印象は薄い。それでも花田氏の存在を記憶に留めていたのは、ひとえに彼の端正なルックスによるものだった(^^;
ステージに現れた花田氏はその端正なルックスのまま年を重ねたという感じ。すでにソロになって久しいが、私のなかではいまだ花田裕之=ルースターズのイメージが強かったので、彼がBUZZや小坂忠のナンバーを歌うのは意外だった。しかし、これが実に彼にぴったりとハマっていて、特にBUZZのナンバー「愛と風のように」(ケンメリ)はオリジナルを聴いているかのような錯覚にとらわれた。

ムッシュかまやつ
続いてゲストとして登場したのは最近はソン・フィル・トルとしても精力的なライブ活動を行っているムッシュかまやつ。会場に登場した瞬間、客席全体を「ムッシュの世界」に塗り替えてしまうのは「動くJポップ史」かまやつ氏の存在感が成せる業だろう。往年の名曲「いつまでもどこまでも」に涙!

高遠彩子
超ベテランに続いて登場したのは細野ファミリーの女性ヴォーカリスト高遠彩子。おぢさんばかりを見続けた後の美女の登場には女の私ですらホッとしたのだから、会場の男性諸氏はさぞや大喜びしたに違いない。しかし、おばさんは同性には厳しいのだ(笑)。「白い森」「愛を育てる」といった選曲は個人的には大絶賛、彼女の澄んだ声質もとても魅力的だったのだが゜、いかんせん歌が一本どっこ。いや、一本調子。でも、まあいいことにしよう。このコーナーでそういうことをとやかく言うのは野暮ってもんだろうから。

石川セリ&樋口康雄
高遠さんのステージが終わり、セリ&ピコのツーショットが実現するらしいとの事前情報を掴んだ私たちは、あと数分後に目の前で繰り広げられるであろう光景を想像すると興奮を押さえらきれずにいた。セリとピコが21世紀になって同じステージに立つ日が来るなどといったい誰が想像しただろう。詳しい解説は省くが、樋口康雄ファンにとって石川セリという女性は特別の存在である。永遠のライバルであり、永遠の憧れ。「僕たちの永遠のアイドル、石川セリさんと今日、日比谷野音でポップス界にカムバックします。ピコ、樋口康雄さん!」アナウンスに続いてステージ向かって左手から墨色のデニム地にラインストーンをあしらった(ように見えた)華やかな衣裳で登場すると、一瞬会場がどよめく。その観客の歓声を背に受けながらステージを進むセリさんの影に隠れるように、まるで人目を避けるかのように登場したのが白のジャケットと黒いズボンに身を包んだピコだった。ステージ中央のキーボードの前に腰をおろしたピコの姿に若き日の彼の面影を見出すことはできなかったが、そこに居るのは紛れもなく私たちが30年間待ち望んだ樋口康雄その人であった。

小西さんの一番好きな曲「私の宝物」はスティックのカウントで始まった。セリさんのあの甘ったるい歌声は昔と全く変わらない。イントロのピコのキーボードもレコードそのままだ。久々のステージで緊張したのだろうか、途中、彼女は歌詞を間違えた。言わなきゃバレないものを、MCでそのことを正直に告白した。さらに小西さんの「セリさんのために(野音を)改装しました」という軽口に「結構いい感じ。ギュウギュウじゃなくて」(この日の観客動員は今ひとつだったので)と関係者が聞いたらひきつりそうな発言をサラっと言ってのける。これには場内大爆笑。そんなコケティッシュで、気取らず憎めないキャラが「石川セリって誰?」とちょっと構えていた観客の気持ちをも一挙に解きほぐしたかのようだった。

そしていよいよ本日のハイライト、この曲なくして今日のイベントはあり得ない。そう、ピコの「I LOVE YOU」だ!
Tututu・・・いったいこの30年間に何十回、いや何百回この曲を聴いたことだろう。多分、キーはオリジナル・キーのままだったと思う。この時点では私はピコがソロで歌うとは予想していなかった。しかし、私の予想に反し♪I LOVE YOU STILL I LOVE YOU・・・・とマイクから流れ出た歌声はピコひとりのものだった。この日のために彼はいったい何度この曲を練習したのだろうか。ふとそんなことが頭をよぎり、目の奥が熱くなった。

それは何百回となく聴いた「I LOVE YOU」のピコの声でも、最近ラジオで聴いたピコの声でもなく、初めて聴くピコの声だった。だが、声は違ってもブレスの位置も、音のひっぱり加減も、小節の入りも、何百回となく聴いた「abc/ピコ・ファースト」の「I LOVE YOU」そのものだった。椅子から腰を浮かし、やや前のめりになりながらキーボードを弾く姿!ああ、これぞピコ!忘れかけていたピコの当時の姿が鮮やかな映像として瞼に甦ってきた。10年経とうが20年経とうがやっぱりピコはピコ。樋口康雄は樋口康雄!少しも変わっちゃいなかった!!
はたしてこのステージが他の人たちの目にどう映ったかはわからない。「なんだ、これ」と思った人もいるだろう。しかし、30年待ったこの日のステージは、私にとって、いや、すべての樋口康雄ファンにとって生涯忘れられない、かけがえのないステージだったことは間違いない。

時というのは無情なものだ。30年間待ったステージは、わずか3分少々で終わってしまった。しかし、わたしたちピコファンは、30年分のエネルギーをその3分に注ぎ込んだが為、ステージが終わった時には全身汗まみれになっていた。極度の神経の集中と興奮からの解放され、すべての細胞は弛緩し、放心状態となっていた。その為、次に出演した元ガロの大野真澄氏のステージはほとんど記憶が無い(^^; 「地球はメリーゴーランド」をやっていたのは覚えているのだが・・・・というわけで、誠に申し訳ございませんが大野氏のステージの模様は割愛させていただきます(^^;。

*大野真澄さんはこの他「学生街の喫茶店」を演奏されたそうです。hirutanさん情報ありがとうございました。

【シングアウト】
機材セッティングの15分間の間に精神状態を建て直し、今や遅しとシングアウトの登場を待つ。しかし、「赤い鳥逃げた?」のBGMが会場に流れ始めると私たちピコファンはまたもや平常心を失いかけていた。その間に、次々と立てられていくマイクスタンドにいよいよシングアウトが登場することを実感する。午後7時30分、アナウンスに続いて続々とのメンバーが登場。ステージ右側にはギターのワカさんとベースのクマさん。中央後ろにはドラムのドンちゃん。ステージ左側に横向きにセットされたキーボードにはピコ。そしてステージ前方のマイクスタンドにはサポートのHIROSHI、ビル、小林啓子、エミさん(江崎和子)、サポートのユキちゃんともうひとり女性メンバーが並ぶ(名前わからず)。メンバーの衣裳はすべて黒で統一されていて、女性陣とリード・ヴォーカルのビルの衣裳に所々施されたラインストーンやスパンコールが華やかで上品な大人の雰囲気を醸しだしていた。

さあ、いよいよシングアウトのステージの開幕だ!
1曲目はchicagoのヒットナンバー、saturday in the parkだ。イントロが始まると、一挙にあの時代にタイムスリップする。野音の空もそろそろ夕闇に包まれてきた頃、aquariusのおなじみのイントロが始まると場内からは拍手が巻き起こった。ビルのヴォーカルに一瞬、外タレのステージを観ているような錯覚にとらわれる。ミック・テイラーのバックを務めたこともあり、現在もイギリスでスタジオ・ミュージシャンとして活動するクマさんのベースはさすがで、きっちりとリスームをキープする。ビルのMCをはさんで3曲目に演奏されたのは、101のコーラスの手本にもなったニュー・クリスティー・ミンストレルスのgreen green。文字通りシングアウト(みんなで歌う)な曲だ。声を合わせて歌うことが忘れられて久しいこんな時代だからこそ、この曲が新鮮に聴こえる。

ドンちゃんからメンバー紹介があったあと、サポート・メンバーの小林啓子さんのギターの弾き語りによる「比叡おろし」が始まると会場は水を打ったように静まり返った。30年前と少しも変わらぬ美しさと素晴らしい歌声は圧巻で、個人的にはこの日の出演者のなかでも彼女は出色の出来だったと言っていいと思う。しかし、一部観客には「比叡おろし」は演歌としか聴こえなかったようで、洋楽から演歌までやるシングアウトとっていったいなに?といった戸惑いもみられた。

そしていよいよ、シングアウトといえばこの曲「涙をこえて」である。再びステージに現れたメンバーは当時の衣裳のレプリカの紫のサテン地のシャツを羽織っている。「あの衣裳の意味、わかる人いるかしら?」「わかる人にしかわからないよねぇ・・・」とささやきあった私たちだったが、そこまでこだわるメンバーの心意気が嬉しかった。セリさんもみんなと一緒にシャツを羽織り、元シングアウトのメンバーとしてコーラスに加わった。

♪ミドファドミドレド ミドファドミドレド・・・・この日仕事の為、出席できなかった惣領さんの代理、ワカさんのギターが響き渡る。ああ、このイントロが生で聴けるなんて・・・(嬉涙) 。やはり名曲はいつどこで聴いても名曲であることに変わりない。しかし、30年以上の長いブランクを短期間の練習で埋めるのは自ずと限界がある。CDと寸分たがわぬ音を期待していたむきには期待はずれだったかもしれない。しかし、ライブの醍醐味はCDの音の再現にあるわけではない。歌や演奏テクニックはもちろん重要な要素だが、それだけではないメンバーのステージへの意気込みや観客の熱気、あるいは会場全体の雰囲気、それら全てがライブの感動の対象であり、それがライブの醍醐味だ。
曲が終わると、期せずして隣のブロックの男性から「アンコール!」の声があがった。その声に応えるかのように、この日最後の曲going out of my headが演奏された。32年前にスリップしたかのような活き活きとしたメンバーの表情がまぶしかった。世界中に散ったメンバーがこの日のために集まり、このステージに全力で臨んだシングアウトの姿は、この日会場に集まった心ある音楽ファンに、きっと何かを残してくれたはずだ。NO MUSIC NO LIFE。今も昔も変わらずに音楽を愛し続けるシングアウトの姿に、音楽の本当の素晴らしさを教えられた真夏の一夜だった。