1)チェナ温泉のオーロラ写真
2008年9月アラスカのチェナ温泉でのオーロラです。
チェナ温泉はフエアバンクス近郊にありホテルの庭でオーロラの観測ができます。
フェアバンクスでは年間200日オーロラが観測でき、半分は色の付いたオーロラ、残りの半分は白いオーロラだそうです。
夏至の前後の各1ヶ月(計2ヶ月)白夜で空が明るくオーロラが発生しても見ることができません。3日のうち1日は色の付いたオーロラ、1日は白いオーロラが見え、1日はオーロラが見えない割合になります。フェアバンクスやチェナ温泉に3連泊すると90%以上の確率でオーロラが見えるとされています。
私は2008年9月3日から2連泊の1日目に「白いオーロラ」を見ることができましたが2日目は空が雲に覆われ見ることができませんでした。
目で見ると「白いオーロラ」であっても実際のオーロラには色が付いていますからカメラでそれなりの設定をすれば、ちゃんと色の付いた写真が撮れます。
私が見た時、写真1、2のようなオーロラから始まりました。オーロラを1枚のカーテンで例えると正面から見たことになります。
写真1 17mm/f2.8/20s/+1 |
写真2 17mm/f2.8/15s/+1 |
しばらく経つと写真3,4の松明のようなオーロラになりました。カーテンを横から見た形です
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写真3 17mm/f2.8/15s/ |
写真4 17mm/f2.8/8s |
さらに時間が経つとチェナ温泉がオーロラの真下に入り上を見上げると写真5,6になりました。これはカーテンを下から見上げた形です。
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写真5 19mm/f3/10s |
写真6 19mm/f3/10s |
さらに時間を経るとオーロラが消え始め、ホテルの広場側からは見えなくなったので部屋へ引き上げようとして移動するとホテルの中庭側にはオーロラが残っており写真7,8です。これは写真3,4とは逆側の斜め後ろからカーテンを見た形です。
「写真8のオーロラの中に北斗七星(大熊座)が写っています」
他の写真も白い点は、ノイズではなく星です。
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写真7 19mm/f3/10s |
写真8 24mm/f3.3/10s/+2 |
大きい写真は「旅のアルバムからアラスカの旅」で見られます。
カメラはニコンのD3:ノイズが少なく撮影後の大幅な補正にも耐えてくれています。「オーロラ撮るならD3]
レンズはシグマの17−35mm:f2.8−4
データは左から焦点距離/絞り/露出時間/パソコンでの露出補正処理となっています。
2)オーロラとは
2−1)オーロラの原理
オーロラは簡単に言うと天空にできた巨大なネオンサインです。街の夜を彩るネオンサインは、ガラス管の中に真空に近い極わずかのガスを封入して両端に高電圧をかけ放電させて発光させて,います。色はガラス管の中に封入されたガスの種類と真空度で決まります。空気と混ざらず真空を保つためにガラス管が使われています。
オーロラの場合にはガラス管に相当し真空を保っているのは地球の引力です。高い山に登ると空気(酸素)が薄くなるのは良く知られていますがオーロラは遥かに高い地上100km以上の非常に空気の薄い真空度の高い所で発生します。それより低い所では真空度が低すぎて放電できません。
放電させるための電源は地磁気と太陽から飛んできたプラズマの相互作用です。地球が大きな磁石になってN極とS極があることはご存知だと思います。太陽から飛んできたプラズマと地球の磁力線の向きや強度がちょうど良い組み合わせになったとき巨大な発電機になります。このちょうど良い組み合わせになるのが北極と南極近くのオーロラベルトといわれる地域で、アラスカのフェアバンクス、カナダのイエローナイフ、ノルウエーのラップランドなどに適当な観測施設があります。
オーロラは北極と南極で同時に発生し、南極のオーロラベルトにはたとえば昭和基地などが含まれますが、一般人が行ける適当な観測施設がありません。
南極でのオーロラは下記でお楽しみください。オーロラの原理なども詳しく書いてあります。
南極におけるオーロラ研究
2−2)オーロラの見える季節
オーロラが発生するのは真冬の極寒季と思われている方が多く、私自身も誘われて昨年にアラスカ・チェナ温泉へ行くまではそのように思い込んでいました。しかし、原理で説明したように地磁気と太陽プラズマの関係ですから地球の季節には関係なく年中発生しています。オーロラ出現確立の高いオーロラベルト地帯が高緯度のため夏至を中心とする前後の各一月は白夜に近く空が明るいためオーロラが見えません。 さらに、上空に雲が無いことが絶対的に必要で、カナダのイエローナイフなどでは10月は雲が多く見えないことも多いそうです。それと、もうひとつ例えば東京から富士山が見えるのは冬季が圧倒的に多かったり、あるいは冬の方が遠くの山の稜線がはっきり見えるように、空気の澄み具合も影響していると思います。
アラスカの9月始めは紅葉の季節ですからそれほど寒くは無く、写真7,8のように紅葉とオーロラが同時に撮影できます。ただしアラスカでは紅葉よりは黄葉が多く、紅葉に関しては日本の方がきれいだと思いました。
2−3)オーロラの色
オーロラの色は緑、紫、ピンク、赤などがあります。緑は比較的低空(とは言っても100km以上)の酸素の放電色、紫・ピンクは窒素の放電色で、磁気嵐等の太陽の活動が盛んな時は500km以上の上空の更に真空度の高い酸素が放電しこれが赤いオーロラになります。オーロラの色は上記のように酸素・窒素の放電色ですから白いオーロラは原理的にありえません。白いオーロラとは白いようにみえるオーロラです。
人の目は明暗を感じる細胞と、色を感じる細胞が別で明暗には敏感ですが、色には鈍感です。光が弱いオーロラは人の目では色を識別できず、暗闇の中にオーロラが白く見えます。
目はどうして色がわかるの?
写真の場合は、デジタルでもフィルムでも明暗を感じる細胞と色を識別する細胞(画素や色素)が同じなので露光すれば色の付いた写真が撮れ、特にデジタルの場合は、ISO感度を上げられるので、白いオーロラの場合は有利です。
例えば黒い紙の上に緑やピンクの砂を少しずつ撒いて何らかのパターンを描く時、非常に薄く撒かれて何となくざらついて感じられる状態のときが白いオーロラです。人間の目は非常に弱い光では濃淡は分かるが色の識別ができなくなって白いオーロラとして観測されます。撒かれた砂がわずかずつであっても時間をかけて砂を集めると砂の色が見えてきます。カメラ露出時間を適当に長くすることによって弱いオーロラの光でも色の付いたオーロラの写真が撮れます。
色の付いたオーロラは明るいためコンデジのオートでも撮影できてネット上でもコンデジで撮ったオーロラの写真も多く見られます。しかし白いオーロラの撮影は非常に困難です。事実私が撮影している時もかなりの方がコンデジでのシャッタを押していましたが、すぐに撮影ができないことが分かりあきらめていました。
3)オーロラの撮り方
高級な一眼レフを使ってオーロラに向かってシャッターを押せば白く見えるオーロラでも、きれいな写真が撮れれば良いのですが、残念ながらそうはなりません。デジカメの「オート」モードは見た目に近いように撮ることを基本に設計されていますから「オート」モードでは白ではないですが非常に暗い写真しか撮れません。したがって焦点合わせを含めマニュアルモードで撮り、かなりのオーバー露光が必要です
3.1)必要な機材
・カメラ:フルマニュアルの設定が可能でISO感度1600以上なデジタル一眼レフカメラが望ましい
・レンズ:35mm換算で28mm以下の広角レンズ
・三脚:白いオーロラの場合には露出時間は数秒〜数10秒となるので三脚は必須です。
・レリース:シャッターをバルブにしてロックのできるレリースが便利です。
・ビニール袋:寒い撮影現場から暖房された部屋へ戻るとき結露を防ぐためカメラごとすっぽりビニール袋に包んで持ち込んでください。
・予備の電池:気温が低いと電池の使用可能時間が短くなります。
3.2)撮影前の設定
・フォーカスは無限大で固定
オーロラを撮る前にどこか遠くの照明等にピントをあわせ、その位置でマニュアルに切り替えて、動かないように、フォーカスリングをビニールテ ー プなどで固定してください。
・液晶モニターは暗く:
暗闇でモニターを見るので暗く設定してください。私はこの設定がしてなかったので撮った直後に確認してOKだと思っても翌日明るい時に確認すると多くが露出アンダーでした。
・絞りは開放:
オーロラは形の変化があるのでできるだけ短い時間に必要な露光量を得るため絞りは開放(数値を小さく)してください
・露出はバルブ(B)
オーロラの明るさと設定したISO感度によりますが、白いオーロラの場合には露出時間は数秒から数10秒ですから、バルブに設定しておいてください
・ヒストグラム:
上記のように暗闇でモニターを見るので画像だけで確認するのは難しいです。同時にヒストグラムが見られるように設定してください。
・長時間ノイズ除去モードはON:
カメラによってはノイズ除去のために露出時間と同じ時間を要しその間次の撮影ができない機種もありますが、その犠牲を払ってでも長時間除去はONに設定してください。
・記録はRAW:
以上の設定を行っても最適の露出ができず後で画像補正が必要になることも多くあります。画像補正による劣化の少ないRAWでの撮影をお勧めします。
3.3)撮影
以上の設定ができれば後はオーロラの発生を待つだけです。
オーロラが発生したらまず露出時間を10秒位でためし撮りをして、露出が適正であったかどうか確認してください。この確認のためバックの液晶モニターでヒストグラムの確認ができることが望ましく不可能な場合は撮像直後の画像で確認しますが、真っ暗闇の中での確認ですから、モニターの明るさは暗くしておいてください。
確認して画像が暗くコントラストが小さければ次回は露出時間を長くし、逆に画像が明るすぎて飽和していれば次回は露出時間を短くしてください。
オーロラは形と位置だけでなく明るさもゆっくり変化していますから、露出が適正であったかどうか撮影毎に確認してその次の露出時間を決めることが必要です。
液晶モニターの明るさ以外は、以上のことを念頭において撮影しましたが、それでもかなりの露出アンダーの写真がありました。RAWで撮っているため補正をしても。劣化が少なく写真1〜写真8の写真が撮れました。
4)日本のオーロラ
日本でオーロラと推定される最古の記述は日本書紀に「赤気」として記録されていますし、近年においても赤いオーロラが見えたことがあります。例えば北方の上空に、上記写真1のようなオーロラが発生し、それが非常に強力で写っているオーロラの上に赤いオーロラが発生していると想定します。そのような場合、日本からは、写真に写っている緑や紫の部分は地平線の下になって見ることができませんが上空の赤い部分だけが見えることがあります。これが日本で見られるオーロラです。
またそこまでは、強力でなくても白く見えるオーロラや更に弱く北の空が何となく明るく感じられる時写真を撮ると、山の稜線に沿った赤いオーロラが撮れたことも有るようです。撮影に成功したのは天文台など常時観測をしている関係者が多いですが、デジカメが普及しISO感度の高いカメラが簡単に入手できるようになったので、日本でも目には見えないほど弱い、赤いオーロラの写真がアマチュアカメラマンでも撮れる機会が増えていると思います。
特に再来年(2011年)は太陽の活動周期のピークになり、その後の2〜3年間は強力なオーロラの発生機会が増えると予想されています。
北日本で、北方上空に街の明かりが無く暗い地域にお住まいの方は、特に新月の頃、時々北の空を見上げて見ませんか。北の空が何となくいつもとは違うなと感じたとき、上記のようにカメラをセットして赤いオーロラを撮ることにトライしてみませんか?。
日本でも赤いオーロラが見られた
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